17 人形使いルカ1
受付嬢はエクスに会うためスタートしたが、もっと早くスタートし既にゴールの宿屋に到着した女がいた。
ふりふりしたゴスロリ調の服を着て、小さな熊の縫いぐるみを抱き締めておっかなびっくり歩く少女。
人見知りな彼女は、エクスの泊まってる宿屋に入ろうとして宿屋の入口をうろうろして諦めた。
声をかけられて逃げるように建物の間に。
どうやら、じっとそこでエクスが出てくるのを待つことに決めたようだ。
宿屋の2階でゆっくりしていたエクスは、薄い壁から聞こえてくる他の宿泊客の会話で、その存在にようやく気付いた。
「おい。あそこを見ろよ。なんか知らんがこっちを凝視してる女がいるぞ!」
「うっひゃー可愛いな。どこかの令嬢か?」
「それより、あの子が持ってる小さい熊生きてないか?」
生きてる熊?
気になるワードに窓から下を覗くと、建物の間に挟まってもじもじしている熊を抱いた怪しい黒ゴスロリ女がいた。
おうっ!僕の関係者だった。
おそらく人見知りの彼女は僕に会いに来たものの宿に入れなかったのだろう。通行人の視線に耐えかねて逃げるように建物の間に挟まった。そんな所か。
ふうっ。頭が痛い。
僕を訪ねて来たのは、知り合いの魔導師人形使いのルカだった。
急かされるように、とんとんと階段を降りて外に飛びだしたら、建物の隙間から怒られた。
「エクス、遅い!」
ええーっ、これでも急いだのに。
人見知りとはいえ、いったい何時からここにこの子は挟まっていたのだろう。
ルカの怒りを代行するように慎ましい胸から、小さな熊の縫いぐるみが飛びだしてぺしぺし僕の頬を叩いてきた。
これには温厚な僕もぶすっとする。
「僕は、仕事受けてませんよ」
そう言うと、長い睫毛のルカは驚いて泣きそうな顔になった。
「え!?ごめんなさい。自動契約が切れてるなんて知らなくて。ギルドは・・人多いし」
そういやこういう子だったな。
泣かせるのは趣味じゃないので、ため息をついてルカの望みを叶える。
聞かなくても分かる。
お前はこれが欲しいんだろ?
「サポート1。積もる話は落ち着いた所でしませんか」
筋力+1
生命+1
敏捷+1
知力+1
MP+1
AP+1
望みの魔法をかけて貰って、ふんわりと笑ったルカは、小さく聞こえないくらいの声でお礼を言った。
「おうっ!さっきは殴って悪かったな。ありがとよ相棒」
あっ、
今喋ったのは熊の縫いぐるみの方だからね。念の為。
ルカは、ぎゅっと裾を持ったまま恥ずかしそうに、てこてこと歩いて後ろを付いてくる。
僕たちは、静かな個室のある喫茶店に向かってるようだ。
ちなみにどこにあるかは僕は知らない。
というのも、いつの間にか僕の肩に乗った熊の偉そうな指示に任せてるからだ。
「相棒、その先を右だ!」
「はいはい」
着いたのは地下にある喫茶店だった。
流れるように個室に案内されると珈琲の香りがした。メニューの値段を見ずにオーダー。
内弁慶なルカが安心して喋りだした。
さっきまでの人形のような大人しさは何処かにいったようだ。
「どうして私の自動契約を解除したの?貴方がいないと私達は困るのに」
「仕事やめたんだ。ごめん」
そう言うと、とても悲しそうな顔をした。
「遠くに行くの?」
「いや、街から出るつもりは無いけど?」
ずずっとジュースを飲む。
ルカが疑問いっぱいの表情を浮かべた後、勘違いに気付いてわたわたとしだす。
「なら いいけど。貴方がいないと、クレイジーベアーが知性を失うのよ!貴方がいてくれないといけないの」
ルカがふうっと安心して、ようやくパフェに手をのばすと甘味に頬を弛ませた。
肩からテーブルにジャンプして移動した小さな縫いぐるみの熊には、クレイジーベアーとかいう大層な名前があるらしい。
「そうだぜ、頼りにしてんだぞ相棒」
この馴れ馴れしい熊は、もともと意思のありそうな動きをしていたけど、依頼でサポート1というバフ魔法を長時間掛け続けていたらその中に知力+1が含まれていたせいか、ある日いきなり言葉を話し出したのだ。
もっともバフ魔法が切れたら話せなくなるみたいだけど。
「こいつが口が悪いのは絶対その変な名前のせいだよね」
「いいのよ、別に」
「そうだぜ、そんなだから相棒は大きくなれないんだ」
やれやれと両手を広げるジェスチャーで馬鹿にしてくる熊。
気にしてるのに。
ジュースをストローに含みピュッと熊へ攻撃っ!
僕に汚された熊が泣きそうな仕草をしてルカに泣きついた。
「あ、主〜」
「もう、クレイジーベアーを虐めないで!」
「悪は滅ぼされるのだ」
しみ抜きをされてる熊を見つめる。
魔法で一発綺麗なのに、ルカいわく愛情をかけてるらしい。
ルカは内弁慶だけど、僕も一緒にいるとルカの豹変に釣られてついそうなってしまう。
結局、魔法で完璧なしみ抜きをしたルカに、ギルドであった解雇話をしたら、すっごい怒ってくれたのがなぜか嬉しかった。
私がぼこぼこにしてやるっ!て言ってくれたけどルカだからなあ。だから僕は気持ちだけお礼を言って受け取ったんだ。







