153 連撃のマーラ VS 魔王フール2
「ヘクスバリア」
また声が聞こえ、フールの回りに透明なバリアが張られた。
たぶん空から?
アリエスは無意識に唱える。
「ブラストストーン!」
「ピギャ」
直感が当たり、ばら撒かれた石礫が、透明化していた羽の生えた悪魔ゼノを顕に。
「マーラさん。·····虚ろが隠れてました」
「くっ、実体化した虚ろも、魔法を使ってくるのか」
ゼノはパタパタと羽音を立てた。
「腹立つぅぅ。たかが魔法使いのくせにいい。僕ちんのハイドを見破るなんて」
マーラの顔が曇る。
「頼めるか?」
「はいっ頑張りますっ」
連撃のマーラ VS 魔王フール
魔法使いアリエス VS 虚ろゼノ
魔王フールが体勢を立て直し、黒い影が空中へと再び逃げる。
ボッボッボッボッ!
詠唱破棄されたマーラの雷球が、その黒い影を追い、空へぐちゃぐちゃの線を描き、
「ファイヤーホーミング」
アリエスちゃんもそれに続く。
蜂のように飛び回るゼノを、3つの火球が小さくなりながら追従。
人類側は先手を取った!
「「やっちまえー!」」
冒険者達が空を見ながら吠える。
空を飛ぶ敵との戦いは単純で、落としてタコ殴りがセオリー。
だって届かないし。
「当たれ!」
「ストーンバレット。ファイヤーホーミング。アイスジャベリン」
2人の攻撃を間一髪で、躱していく敵。
速い。
「「んあっ惜しいっ!」」
「「くそっ耐えやがった」」
石礫が掠ったが堕ちず、ギャラリーが不満を垂らす。
「「早く降りて来いよ。タコ殴りにしてやる」」
「「そうだ!魔王が飛ぶなんて聞いてねーぞ」」
逃げ惑う敵を追い詰めているため緩い空気が漂う中、攻撃している2人はどんどん辛そうな顔に。
ついに懸念していた事が。
「ううっ」
「どうしたアリエス?」
「魔力が·····尽きそうです」
「これを飲め」
「ありがとうございます!」
ノールックで投げられた瓢箪のマナポーションをアリエスが受け取りぐびぐびと飲む。
「うぷぷ、お返しだ~」
マーラへ、自由になったゼノの石弾が迫るが、
「はッ」
これを華麗に回避。
「「おお~っ」」
これには、ゼノも含めてびっくり。
もちろんアリエスちゃんも。
マーラが青筋を立てた。
「い そ げ」
「は、はいっ。ファイヤーホーミング!」
「んぁぁ、こいつ鬱陶しいよー」
しかしながら、攻撃はあと一歩届かない。
「ファイヤーホーミング、アイシクルランス」
マーラの眉間に皺が寄る。
アリエスの残り回復回数は推定4~5回といったところか。
「くっ、時間が無い。早く堕ちろ」
フールの癖を掴んだ!と思わずニヤリと笑ったマーラに、思いも寄らぬ声が。
「マーラさん、私。もぅ飲めません」
「なんでだ?頑張れよ!」
無理しない女、アリエス。
無理して飲んで吐くぐらいなら死ぬ。
そこは、まあ価値観の違い?
「「おおーっ!」」
「良しッ」
マーラの魔弾がようやくフールに着弾ッ、燃えながら墜落していく。
後はゼノの攻撃に耐えながら、削り殺すだけなのだが。
「人間って愚かだよね。僕ちん知ってるんだ」
「残念だったな。私は死んでも攻撃は緩めない」
ゼノは不気味に笑う。
「うぷぷ、安心して。君は攻撃しないよ。攻撃するのはアリエス。ほら、助けないとアリエスが君のせいで死んじゃうよ~」
魔力切れでしゃがむアリエスを狙い、ゼノの火球が膨れていく。
アリエスちゃんは、微笑む。
「私の事は気にしないでください」
本当にそうなのだが、マーラは迷った。
「ここは、任せなさい。君はトドメを」
迷いを消すかのようにカバーに入ったイゼルの声が聞こえた。
信用ならない男。
心が揺れる。
「うぷぷ、見殺しにするのかな~」
イゼルを信じて良いのか?
効率的に考えろ。
たとえイゼルが裏切っても愚かなアリエスが1人死ぬだけで、魔王を倒し多くの人が助かる。
実に合理的な判断。
「君が見殺しにしたんだよ~。えいっ」
「くそっ!」
だが、湧き上がる感情は、時として理性を上回るらしい。
バンッ!!!
魔法弾がゼノの巨大な火球を掻き消した。·····コンボが切れて、アリエスを救って討伐に失敗。
「うあっ」
信じきれなかった。
アリエスの覚悟を。
イゼルとの口約束を。
「何をやっているんだ·····私は」
そして、己の命題さえも。
「うぷぷ、おいちぃぃぃ」
ゼノが失意のマーラの感情を食らう。
静かな焼け野原に、パタパタと耳障りな音だけが響いた。