150 幕間
数日後。
活気と不穏な空気の入り混ざる街中で、冒険者風の男が、顔見知りの職人風の男へ声を掛けているようだ。
「よお、こんな時期に仕事か?」
「ああ、森林警備隊が私財を投げ売って外壁を補強するんだとよ。今日で完成予定だ」
「森林警備隊もやりゃ出来るじゃねえか!」
「そっちはどうだ?早く魔王を倒してくれないか」
「それが、1人先走ったリョグが突っ込んで秒殺されてからは誰も近づけねえ。マーラ様の回復待ちよ」
「頼むぜ。せっかく稼いでも使えなくなったら困るからな。後で一杯やろうや」
ニカッと笑った気のいい職人はそう言い残して姿を消した。
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一方エクスはというと。
「お兄さん、遊びにいこう。カモフリみせて」
ぐいぐい引っ張ってくるニトラを眠たげに見ながら、マッサージチェア(改)を堪能中だったりする。
「また今度ね」
「う〜」
うぁぁ、気持ちいい~。
ごめんね、ニトラ。
なんだ?動きが止まって、耳をぴくぴく動かして期待の瞳で見てきたけど。
「明日はニトラもいく!」
「なんの事??」
嫌な予感がして耳を澄ますと、なにやら街道で、領軍がお知らせしているようだ。
「こちらは領軍です!永らく我々を不安にさせていた魔王フールですが、ご安心ください! 明日、魔導師マーラ様とエクス大魔導師が討って出ます!!」
「「おおーっ!」」
なんで僕の名前が?
またブラックな生活が始まるのか。
「ニトラに黙って行くのずるい」
「行かないよ!行きたくない」
期待を振り切るように首を横に振る。
あの生活には戻りたくない。
外の声がまた聞こえた。
「ちなみに大魔導師様は今回も後方支援です」
「えー、なんだよそれ」
あぁ。なんだ、そういう事か。
マーラのよく分からない気配りのせいで、ちょっと緊張しちゃった。
「残念だったね。ニトラ。明日もお休みんぁぁ」
「つまんない」
ごりごりと回転する温熱もみ玉が気持ちいい。
セーラさんに相談して良かったなぁ。「それなら自動車の技術転用で開発できるぞ」なんて言われて、あっという間に試作品が。
「うう〜」
低く唸るニトラがソファーをガタガタ揺らしてきたけど動きません。
「耐久試験中だから、また今度ね」
「あそんであそんで!」
揺れが激しくなっても、ごめんね。僕は無敵の無職だから!
バキッ。
座っていた椅子が壊れる音がして、視界が揺れて転げ落ちた。
「痛てて」
くすん。
さようなら、マッサージチェア改。
耐久試験は不合格。
犯人のニトラが、なぜか嬉しそうな顔で何かを渡してきた。
「ぶるぶる椅子こわれたね。これあげる」
お詫びのつもりだろうか。
「布?」
「カモフリみせて」
そういえば、友達の少ないルカが何度も「エクスが私のために頑張ってくれて格好良かったの」って自慢してたんだっけ。
それで今日はいつもよりうるさかったんだ。
「はいはい、カモフラージュ」
「すごい!!」
ふふふ。満足してくれたみたい。
ちょっと良い気分で、再びマッサージチェアに。
「よっと」
んんぅ、気持ちいいよ〜。
ニトラの目が光った!
こいつ、また壊す気だ。気づいた時には、ベキベキッという音がしたけど今度は変化が無い。
直り続けてる!!
この魔法凄いのでは?
「んんんんー!」
ムキになったニトラの猫百裂拳を食らっても、ソファーはびくともしないぞ。
これ良いかも!
後で家の中に掛けて回ろうかな。
ふふん。
今度は回し蹴りかな?
お可愛い事、効かないん
「んあっ!」
べキャッという音ともに体が少し沈み込み、お尻が食べられたかのような妙な一体感がして、背筋がゾワゾワ。
どうやら、呪いの装備「マッサージチェア改」を装備したようだ。
装備 全身鎧
名称 マッサージチェア改
効果 按摩+7、防御+1
状態 呪い(外れない、移動不可)
HP 残り29日
「お兄さん?」
少しパニックになりながら、ひ弱な腕に力を込めて足をばたばた。
「嘘だろ、動けっ」
ウィン。ウィィン。
意思に反して、手の代わりにもみ玉が動く。
足に力を入れると体がぶるぶる振動。
違うっ!
「あはは」
このまま効果切れまでこの姿に?
笑うニトラに焦燥感が。
「そうだ! 解除」
あっぶない。
ステージ3で解禁された解除が無かったらと思うと、ぞっとした。
「お兄さん、それより今日はスライム狩りに行きたい」
ぼーぜんとしてたら、ニトラに手を引っ張られた。
「仕方ないな」
粉々になったチェアはカモフラージュが効かない程に、原型を留めてないので別れを告げる。
「やった!あれ?椅子は治さないの?」
「もう無理なんだ」
この状態から復元するには、リペアの上の何だっけ?上級魔法がいるはず。
ニトラが悲しそうな顔。
「ごめん」
「気にしないで、試作品だから」
「しさくひん?」
疑わしそうな顔に僕は笑った。
「うん。完成品は、ドワーフの職人さんを仲間にして作って貰う予定なんだ」
「捕まえにいく?」
わくわくした顔をしたけど。
「ドワーフは、モンスターじゃないよ」
「んーつまんない」
さぁて、どんな人を雇おうか。
子爵様みたいにならないように雇用方法に気をつけないと。
自分からスカウトするのは初めてだから、ちょっとドキドキ。
「今日こそはスライムたおす~」
「ほどほどにね」
ニトラに手を引っ張られながら町に出かけると、通行人の楽しそうな声が耳に入ってくる。
特に酔っ払いのおじさん達の声が大きい。
「いやー、明日はマーラ様のお陰で祝杯だな」
「逃げて行った奴らは大馬鹿者よ!」
「そうだ!イゼルの像を倒してマーラ様の像を建てないか?」
「いいな、名案だ!」
思わず駆け寄った。
「ダメです!」
腕まくりしてハンマーを担いだ人に、両手を広げて割って入ると変な顔で見られた。
「あぁ?どうした坊主」
「あれ?お前はイゼル像をぶっ壊した奴じゃねえか」
思わぬブーメラン。
「本当に壊すのはダメです」
怪訝な表情。
無理もない。僕だってあの魔法が欠陥じゃなきゃこんな事しないし。
「確かにイゼルの報復は怖いしな」
「ガハハ、ありがとな少年」
セーフ。
「いえ、どういたしまして」
待たせてたニトラと合流。
「お待たせ」
「いいよ。今日こそスライムたおすから見てて!」
僕は曖昧に笑った。
あの強化スライムには僕のバフ魔法が掛かってるから無理だと思う。
「ほどほどにね」