14 没落の足音(子爵4)
時同じくして、夜会から帰ってきたラードリッヒ子爵は、すこぶる機嫌が良かったが、玄関の灯りが少し暗い松明に変わってるのに気が付いた。
「くふふ。おや、イエスマン。玄関の灯りを変えたのか?」
「ええ。お気付きになられましたか。少し模様替えをしてみました。それはそうと、随分とご機嫌でありますな、子爵さま」
少し怪訝な顔をしたものの話題となった筒を顔に当てて涼みながら笑う。話したい話題を振られて饒舌になる。
「私の考案で、あの欠陥魔導師に氷と風の初級魔法を付与させた道具だが、なんと夜会で偶然にも姫様がご興味を持たれてな、一つ献上するとたいそうお喜ばれになった」
「それは慧眼であります、子爵さま」
執事イエスマンはピンチをギリギリ乗り切った事にそっと胸を撫でおろした。現在、屋敷内ではエクスのぶっ壊れ性能の遺産が次々と使えなくなっていっており、今後も模様替えは進んでいくものと思われる。
まずは玄関ライトの効果時間が切れたため、松明への模様替えを余儀なくされていた。
「姫様におかれては随分と私のアイデアをお褒め頂き、次にお会いする時はお友達の分もプレゼントすると約束しておる。これで王室への思わぬ足掛かりが出来た」
「さすが子爵さま。しかしながら、それには一つ問題が御座いましてエクスは冒険者を辞めております」
子爵の顔が些か不機嫌なものへと変わるが、自称、機転の利く子爵さまは執事に無茶ぶりを開始する。
「おおっ、そうだ!良い事を思い付いたぞ。ならば我が家に取り立てればいい。失業して困窮している欠陥魔導師が、泣いて喜ぶだろう。まずは、初仕事として同じ物を200個作らせるか」
「はっ、良い考えに御座います。さっそく打診してみます」
困っていた執事イエスマンは、餌に飛びついた。エクスさえ帰って来てくれれば無茶ぶりが自分に及ばないからだ。
「くふふ。上級貴族が見えてきたぞ」
「さすがは子爵さま」
このデッカイ疑似餌が食べられないとは思いもよらない二人は、エクスを犠牲にしたありもしない幸せな未来図を夢想する。
子爵が就寝した頃、メイド長が困った顔で執事に声をかけてきた。
「執事さま。困った事になりまして」
「どうしたのですメイド長」
報連相の行き届いた職場。
エクスの残したオーバースペックの魔道具(仮)に頼りきっていたのを除けば、彼らはそれなりに優秀である。
「1番大きい7番氷室の氷が溶けました。つきましては新しく作って欲しいのですが、何時頃になりますでしょうか」
「分かりました。・・・7番氷室の中身は全て廃棄しなさい。永遠氷はしばらく用意出来ません」
メイド長が困惑した顔になる。
「そんな、勿体無い。魔法使い様を呼んで頂ければ良いのでは?」
「魔法使いのアイスボールでは1時間も保たないでしょう。永遠氷の復活は検討中ですが、それまでは同じ処理をしてください」
執事イエスマンは学習していた。
エクスの代わりは、魔法使いには務まらないことを。魔道具も役に立たないことを。
「分かりました。執事さま、早期復活をお願いします。全部廃棄しますと、家格を落としてしまいますのでご留意ください」
「分かっておりますよメイド長。それまでに私がなんとかしてみせます」
貯め込んだ金庫へと足早に向かった。
ようやく不当に搾取していたエクスの価値を認めさせられて、行動に出る。
だが、少し遅い。
遅すぎた!
執事イエスマンの顔には希望と使命感が宿っていたが、実に惜しいっ。そこに反省が宿っていればワンチャンあったかもしれないのに。
ブクマ・評価ありがとうございます。
夢の日間100位に押し上げて頂き、1,000Pになり震えました。感謝申し上げます。