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137 スタンピード1


 エクスが目覚めると、ぼやけた思考の先で誘うようにリトルスライム枕が揺れていた。


「ふああ。このスライム枕小さいような。んんんん!危なっ!!!!リィナちゃん」


 出しかけた手を直前で止めると眠気はバッチリ消えた。

 ふーっセーフ。

 なんてトラップを。

 絶対に言えないがルカのより大きいトラップが上下に揺れている。

 ちょっと焦ったけど、気持ち良さそうに涎を垂らして寝ているのを見ると年相応だねと和んだ。

 布団を掛けて口元をハンカチで拭いてあげてると幸せそうに、にへへと笑うから僕まで笑顔に。

 そんな平和を切り裂くかのように、


 ドンドンドンドンドン!!


 遠くで連続する破裂音がかすかに聴こえた。

 スタンピード?

 顔が緊張していくのが分かる。


「サポートワン」


 キラキラとリィナちゃんを光らせ、おばちゃんのいる階下へと飛ぶように駆け下りると、料理を作ってるおばちゃんを発見。


「異変が!大丈夫ですか!」

「おはよう、エクス君?あらあら寝癖がついてるよ」


 とりあえず保険だ。


「サポートワン!」

「え、エクス君???あ痛っ」


 おばちゃんの腹だけがパァァァと光り、お腹を押さえて蹲る。


 !?


 これは初めてのパターン。


「…あれ?」


 失敗した。

 嘘だろと、震える。

 ふうふうと苦しそうなのでとりあえず何も分からないまま背中をさする。

 困った。ハイヒールは今の僕には使えないのに、どうしよう。


「あ、ありがとうね」

「いえ。ごめんなさい」


 僕のサポートワンが効かない?

 なんで?

 パニックになりそうな僕に、おばちゃんが大丈夫よとお腹をさすりながら笑った。


「そんな心配しないで。触ってみるかいエクス君。なぜかこの子、すごく元気になって」

「ああっ! サポートワン」


 今度こそ、おばちゃんの体が光った。

 お腹の子供に掛かってたのか。

 さっきのは赤ちゃんキック+1で、攻撃力0が1になったらそれは痛いだろう。


「あれ?なんか楽になったよ。痛みと疲れが消えたみたいな」

「いえいえ、気にしないでください」


 ごめんなさい。

 良かったあ。

 これで何の心配もなんて思った時、またさっきの爆発音がかすかに聞こえた。

 いや、全然良くない!


「どうしたんだい?そんな顔して」

「それよりも今、遠くで爆発音が。スタンピードの予兆かも」


 こっちは真剣なのに、笑われた!?


「あはは」

「真面目に聞いてください!外壁の辺りで異変が起きてますっ」


 笑いすぎて涙を拭きながら暢気なおばちゃんは続ける。


「ふふふ、あの音はエクス君がすやすや寝ていた随分前から聞こえてたんだよ。安心おし。その内、音の意味が分かるから」

「え?」


 何が?と耳を澄まし待ってると、答えを教える声が外から近づいてきた。


「フォレストエンドの皆様、領軍です!こちらは領軍です。落ち着いて聞いてください。先程の爆発音は到着した援軍の戦闘音です。援軍が到着しました!もう大丈夫です。繰り返します、フォレスト……」


 歩きながら拡散しているのか、声が離れていく。

 どっ…と力が抜けた。


「ほらね。フールなんて王国に任せときゃいいんだよ。ところで、さっきは世界を救う勇者みたいな顔してたけど」

「ふぁっ」

「格好良いじゃないかエクス君」

「やめてください」


 わしゃわしゃと撫でられる。


「あの人の次に男前だったよ」

「僕は…非力です」


 揶揄うのやめたのか、そっと頬に手をあて見つめられる。困ったな、この人は喋らないと美人だから。


「良いかい、エクス君。男は筋肉じゃないよ。ハートなのさ。さっきのはトキメクほどに格好良かったよ!」

「ありがとうございます。でも、強くなりたいんです」


 僕も剣の似合う男に。

 ふふっと笑われた。


「でも、エクス君は小さいからねえ」

「方法はあるはずです」


 シークレットブーツとか。

 パワーグローブとか。


「そんなに大きくなりたいなら、作り過ぎた手料理を食べていきな。特製親子丼だよ!」

「いえ。僕は少食なので」


 そこはノーサンキュー。

 逃げるように手を振って飛び出した。


「そういう所だよ、エクス君!」

「また来ます」


 仕方ないじゃん。

 僕は代償で縦には成長しないのだ。

 横はちょっと嫌だ。


 店を飛び出すと、街はざわめき、すれ違う人々は勇者新聞の号外を手に希望に溢れた顔をしていた。

 だいぶ配り終えたのか、号外を持った人が近づいてくる。


「はい、少年。どうぞ」

「ありがとうございます」


 無料で配られた小さな紙には、援軍到着のデカデカと文字が踊る。

 そうか、もう頑張らなくていいんだ。

 ルカに伝えたら「ほら、言った通りでしょ」とか偉そうに言うのだろうか。

 最近の閉塞された空気が嘘のように、活気に満ちた街は陽気な酔っ払っいの声が響く。


「これで安泰だな」

「あぁ、逃げた奴らめ。残念だったな」

「何がスタンピードだ! フールなんて関係無いぜ!」


 なんだか僕も楽しい気分になって、スキップした。




【御礼と報告】


 お陰様で、


 書籍の2巻の話が来ました。

 ありがとうございます。

 2022/3月(予定)


 小説をお買い上げ戴いた方は、背表紙に番号が無いよ。なんて疑問に思われたかもしれません。


 これには理由があり白状すると、村上メイシ先生の漫画を主軸になろうだけ続けていき、小説の方は記念に1巻だけで良いかな?と思ってスタートした為です。

 まさか挿絵を、アニメ『ゼロの使い魔』の、兎塚エイジ先生が担当されるなんて想定外だったので。

 冗談だよなと流してたら、え?本当に受けられるんですか?とぎょっとした記憶が蘇ります。


 書籍1巻は笑いは十分詰め込めたものの、巻末でエクスの過去話を書いて欲しいという要望がありまして、これが136話の詳しい傷心の話になるため少し切ない終わり方になっております。

 こういうラストが好きな方もおられますが、予定外の2巻ではハッピーエンドで区切れそうで心残りを解消出来そうです。



 とんでもない2大先生方を呼んで頂いた読者様のお陰で2巻の話になりました。


 来年の話をすると鬼が笑うなんて言いますが、本作はコメディなので笑って頂けると幸いです。

 これからも応援よろしくお願い致します。

 

 

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