13 落日のギルド1
夕方、冒険者ギルドはいつものように活気に満ちていた。
今月もギルド最強クランの《ゾンビーズ》というタフなクランが大金星をあげたからだ。
これが最後の栄光の日になるとは誰も思わなかった。
エクスを馬鹿にしていた先輩冒険者達の笑い声が買取カウンターに響く。
「ぎゃっはは!今回も大漁だったなぁ!しっかしボーナスタイムは美味いわ」
「全くその通りだ。知恵のある者でないと冒険者は務まらん」
「がはは、いい事を言った」
彼らが特別大事にしている秘密の狩場には、誰が呼んだか毎月ボーナスタイムという期間が存在する。
不思議な事に、
魔石が拾い放題なのだ。
神の祝福なのか、危険な森へと誘惑する罠なのか、詳しい事は分からないが確実に存在する薄い期間。
それを彼らは今回も引き当てた。
買取カウンターに置かれたのは巨大な魔石だった。恐らくはネームドと思われる代物だ。
「さあ、鑑定してくれや」
男の持ってきた魔石を同業者は羨ましそうに見に集まってきた。
鑑定した受付嬢が、目を丸くする。
「ええっと…わぁ!ゾンビーズさんっ、今月も凄いです!! やはりネームドでした。『貪る肉欲の王』のキングオークです」
「ぎゃっはは。どーだ!これが俺らの実力よっ」
「弱者は去るべし」
「これが実力者の務めよ」
鑑定の結果。
上々の内容だった。
キングオーク1、シャドウウルフ8、オーク15。
割れんばかりの歓声が上がる!
今日ばかりは、他の冒険者達も彼らを英雄のごとく賛美する。悪く言うヤツなんて一人もいない。だって、
「今夜は俺らの奢りだ!ついて来いっ」
「全くその通りだ」
「がはは、酒だ酒っ」
「「さすがっゾンビーズさん。どこまでも付いていきます!!」」
疲れ知らずのゾンビーズは英雄だ。
お酒を奢ってくれる英雄だ。
2次会、3次会。
ただ酒なら何処までも付いていく気持ちがある。まるでゾンビーズに噛まれたゾンビだ。
腐敗の元締めのギルマスがにんまりと笑いゾンビーズの面々を激励する。
「良くやったな。バッツ、エルフマン、ドワーフ。私も鼻が高いぞ。しっかりと合同ミーティングで喝を入れたかいがあったわ」
「あざっす」
「ああ、ギルマスには感謝している」
「がはは」
皆の目がお酒で曇る中、ギルマスだけがゾンビーズのちょっとした不調に気付いた。
「どーした、疲れ知らずのゾンビーズ。なんか顔色が悪いぞ、これは私が気合い入れ直さないといかんか?」
リーダーの戦士バッツがバツが悪そうに頭をかいた。名も無きドワーフがさっさと酒場に行くぞとその背中を押し込み、魔法使いエルフマンは酷く疲れた様子で首を振る。
「やはりギルマスの目は誤魔化せねーな。そーなんだよ。なんか急に調子が悪くなってよ。また合同の定例ミーティングは頼んます」
「がはは、今月はすでに稼ぎすぎた。早く酒が飲みたいからさっさといくぞ」
「全くその通りだ。疲れているので遠慮する」
ゾンビーズのやる気の無さにギルマスはため息をつくが、冒険者は結果さえ残せば何をやってもいい。
「休息も大切だ、しっかり飲んでこい」
「「うえーい」」
ぞろぞろと大勢を引き連れて酒場へ消えていくのを見送る。
このギルドも安泰だと満足げな顔をしていたギルマスだったが、受付嬢が困った顔で報告してきて破滅の足音が聞こえてきた。
「すみません。やはり、エクスさんに断られました」
ギルマスはその言葉で、便利な奴隷が脱走した事を思い出し、苦い顔をする。
「ちっ、欠陥品め。まぁ策はある。早く帰って来ないと仕事が溜まってあいつも困るというのにそれも分からないとは底辺冒険者は意識が低くて困る」