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127/207

127 開発


 少し早めに屋敷に帰るといつものお出迎えはなく静かだった。不審に思いながら食堂に向かうと、散らかった調理場で呆然と震えている少女が1人。


「どうしたの?ライ姉」

「ご主人様ごめんなさい。泥棒に入られました」


 泣きそうな自称メイドの少女が振り返る。


「え?別にライ姉は悪くないよ」

「でもメイド失格です」


 部屋の間違い探しをすると、開け放たれた氷室から液体が溢れて、竈の火も消えているぐらいか。

 もしかして盗まれたのは魔法?


「とりあえずアイスボール、ファイヤーボール。他には?」

「わあっありがとうございます!これで全て元通りです」


 両手をブンッと振って補完すると、ライ姉が笑顔になった。

 だけど、わざわざこんなしょぼい魔法が盗まれるのだろうか。まさか!


「ライ姉、ちょっと他を見てくる」

「あっ、はい」


 泥棒が入ったとすると、あんな物より他に盗むものがあるはず。お金か、スライム枕!そう考えるとしっくりくる。

 自室に入り引き出しを開けると金貨があった。次にびくびくしながら、クローゼットを開けると。


「よ、良かった」


 ずらりと並ぶスライム枕コレクション!

 ふぅー。びっくりしたあ。


「ご主人様?どうされました」


 追いかけてきたライ姉に怪訝に問う。


「本当に泥棒に入られたの?」

「本当です。2つの大魔法が盗まれたのは見られましたよね」

「ううーん。でもただの初級魔法だよ?」

「ご主人様はご自分の価値を分かってません。スラム帝国のウラカルさんだってあんな凄いの持ってませんでした!」


 なら犯人はウラカルさんなのでは?

 容疑者が急浮上して頭を振った。あの人は怪しいけどすぐに疑うのは良くないし。


「でも、なんで?」

「それはきっとご主人様だけの大魔法の凄さに魅了されて魔が差したんです。そこは少しだけ泥棒さんの気持ちが分かります」


 熱弁するライ姉にドン引きしてると、今度はニトラが耳をへんにょりさせて現れた。


「ううっ見つからない、ごえい失格。知らない匂いどこにも無かった」

「いや、別に良いけど」


 おっと、2人に睨まれた。

 別に被害は無いんだけど、このまま見逃しては教育に良くないか。


「分かった。泥棒を捕まえよう」

「できるの?」

「さすがはご主人様です」


 キラキラした視線がくすぐったい。


「僕に任せて、魔導師からは逃れられない」

「すごそう」

「カッコイイです」


 切り札は、過去映像が浮かぶ上級魔法のメモリー。ただし僕は使えないのでルカ任せになる。


「まずは聞きこみ調査をしよう」

「「おお〜!」」


 最初に訪れたのは、事件現場から1番近いセーラさんの部屋。何か犯人の音を聞いてるかもしれないしね。

 ノックしたけど反応無し。部屋の奥からはガチャガチャと作業音が聞こえるせいで聞こえないのだろうか。大声で呼びかけてリトライ。


「セーラさ~ん!」

「あっカギ空いてる」


 …ニトラが勝手に扉を開けてしまった。

 金属音が大きくなる。

 もういいやと、ニトラの背中を追って部屋に入ると急停止したニトラにぶつかった。


「痛っ、何?」


 視線の先を追うと、奥では白衣のセーラさんが懸命に何かの機械を組み立てようと悪戦苦闘しているようだ。

 想像もつかないけどあれは何を作っているのだろうか?構成材料は、パイプに金属に炎と氷。んん?あの魔法は。

 泥棒が見つかった。

 まさかのスピード解決。


「·····」

「お兄さん、すごい」

「ご主人様はやはり全知全能です!」


 ニトラ達がめちゃくちゃ尊敬の目で見てくけど、ただの偶然だよ?まさか身内が泥棒だとは思いたくもないし。

 気まずくなって、作業に夢中な泥棒の背中に指を突きつけた。


「泥棒を確保〜!」

「まかせて」

「ご主人様を裏切るなんて許せません」


 ニトラとライ姉が飛びかかり、セーラさんが長い髪を振り乱して地面に顔を押さえつけられて、ごちんという音がした。


「きゃあ! 痛っあ!何!?賊が!しょ、しょーねーんっ、賊に犯されるううう。助けてええ」

「うるさい」

「罪を償いなさい」

「ほどほどにね」


 ゆっくりと近付くと地面に押さえつけられて恐怖に引きつったセーラさんの顔が、僕に気付いて安堵に染まった。


「しょ少年ーー。良かった! 私の王子様。ピンチに助けに来てくれると信じてた」

「違いますよ。セーラさん」


 言い方が悪かったのか、絶望に変わり唇をかちかちしだした。


「もしかして、他国に売り渡すつもりなのか?」

「そんな事しません。他に言うことは?」


 汚れた顔の美女は困惑した顔をして目を閉じて悩むと、はっと何かに気付いたようだ。


「こういうプレイ?お姉さんは経験ないのに 痛いいい」


 残念。

 不正解なので、ライ姉が髪を引っ張った。


「やめろ、ライ姉」 

「はい、ご主人様」

「ニトラも解放してあげて」

「わかった」


 泣きたいのはこっちなのだけど、ぐすっと泣きながら白衣のセーラさんは座ったまま駄々を捏ねる。


「いったい何なの? お姉さんは何も悪いことしてないのに。頑張って少年のために研究してたのに」

「泥棒はちょっと駄目ですよね」


 氷と火の玉を指さしたら、ようやく理解してくれたようで非難から反省の色に変わった。


「ご、ごめん。つい。でもあれはスターリングエンジンの心臓で、あの2つの魔法が無いと自動車は作れないから仕方がなく」


 全くダメな大人ですね。


「ちゃんと言えば用意してあげるので、次からは勝手に盗んではダメですよ」

「はい」


 しゅーんとさせてしまったので少し優しくしよう。


「だから困った事があったら、これからは何でも相談してください」

「しょ、少年っ。出来れば有能な技術者を紹介して欲しい。自動車は、エレキ箱より大型になるから私だけではどうしても試作が難しいんだ」


 ううっ、さっそく僕の領分を超える相談をされてしまったんだが。


「考えておきます」

「ありがとう!少年」


 嬉しそうに笑ってくれたので、一件落着かな。

 

「頑張ってください。期待してます」

「お姉さんに任せてくれ」


 自動車はちょっと乗ってみたいし。

 いい感じの空気だったのにライ姉がぶち壊しにきた。


「ご主人様、それでこの泥棒に罰は?」

「えっ」


 ど、どうしよう。

 ニトラを見ると震えてるし、セーラさんも困った顔。たしかにノーペナルティでは教育に悪いかもしれないけど。


「内容は僕が決めるよ。ライ姉とニトラはご飯の準備を」

「はい」

「わかった」


 とりあえず邪魔者を排除して時間を稼ぐ。


「少年、どうしよう?」

「セーラさん。落ち着いてください」


 必死に2人で考えてると、セーラさんが、はっ!と閃いた顔。


「反省レポート10枚はどうだろうか?」

「·····微妙ですね。それではライ姉は納得しないでしょう。それよりも皆の役に立つような内容がいいんですが」


 喋っていて脳裏に閃きが。


「くっ良いと思ったのだが」

「そうだ!スタンの魔法を活かした雷武器の開発は出来ませんか?」


 ニトラ達の戦力アップになるし、なかなかの名案では?と思ったのだけど、今度はセーラさんが口ごもった。

 駄目だったかあ。

 たしかに見せてくれたエレキ箱は大きかった気が。


「そんな簡単な事で良いのか?」

「え?」

「雷剣は遺失魔道具になるが、少年のチート魔法を使って良ければ、絶縁体の鞘を作るだけでいい」

「絶縁体とは?」

「雷を通さない素材で、湿地帯にいるラバーケロッグの皮とかが手に入りやすい」

「そんなものが」

「つまり1日あれば出来る簡単なお仕事になる」

「さすがセーラさん、凄いです!これは世紀の発明です」


 興奮して、絶賛したら微妙な顔をされた。あれれ?褒めたのに。

 セーラさんは、スパナを握りしめて俯いた。


「ぜったいに、この自動車であっと言わすんだから!」

「き、期待してますね。では」


 胸が揺れて、キイーンと投げたスパナの音にびくっとしながらそそくさと退散。

 凄いと思ったのに。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] セーラ、いる?
[一言] ライト⚪イバーを想像してしまった!(笑) 大量生産して大儲けですね(笑)
[一言] まぁ、少なくとも「技術者」を自認してる奴からしたら、素材もらって包むだけで出来る(機構も何もない)モノで褒められたら、やるせなさの方が先立つわな。
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