126 冒険者ギルドと変わる関係
森林キノコが欲しい。
欲しいけど、実は実物を見た事がない。
そういえば5年間も冒険者だったはずなのに、変な依頼ばかりされてたせいか冒険者の基本と言われる採取クエストはやった事がないぞ。
どうしよう?
普通の冒険者なら楽勝なのに。
そうだ! ふと名案が閃いた。
「依頼すればいいんだ」
もう僕は冒険者じゃない。
むしろ冒険者に依頼する側の人間。
おおっ!これは大魔導師らしいよね?我ながらナイスアイデア!
少し歩くとギルドが見えてきた。
大魔導師エクスさまが来ましたよ~と。
「うっ.......」
変だな。いざ元職場の前に到着するとなぜか足がすくむ。
緊張してるのか心臓がバクバクする。
元同僚の視線を恐れてるのか?
でも、逃げない。
「行くぞ」
僕は変わったんだ!それを証明するためにも、ここに行く意味があると、小さな手をぎゅっと握ってきりっと前を向いて突撃っ。
「あれ?」
出迎えたのは、いつもと違ってガランとした室内。
静かな室内に自分の足音だけが響く。
依頼票が山積みになったクエストボードが目につくが、たむろしているはずの冒険者はどこかに消えたらしい。
「あのー?誰かいませんかー?」
ガタッという物音がして、カウンターの奥で人影が動いた。良かった~。
職員さんと目が合うと、驚愕した顔で寝ている誰かを揺さぶりだした。
「起きて!エ、エクスくんが来てくれた」
「むにゃ?エクスさんが??」
聞きなれた声がして、むくりと起き上がった人影は寝癖のついた受付嬢。
「エクスさんだ!夢みたい」
受付嬢が現れた!
戦う
魔法
逃げる
どうしよう?寝不足の受付嬢は目がギラギラしてて、怖い!
迷っていたら、ロックオンされたのか嬉しそうに迫ってきた。
戦う
魔法
▷逃げる
なにがナイスアイデアだよ、ぎこちなく回れ右!
さっきのは虫の知らせだったんだ。
ひぃぃぃ。お邪魔しまし、
しかし、回り込まれてしまった。くうう。
「エクスさん!!来てくれるって信じてましたよ」
「お、お久しぶりです」
こっ怖えー。
熱烈な歓迎に早くも後悔している。
これは恋じゃないタイプのドキドキ。
「また復帰してくれるんですね!実はエクスさんにしか出来ない依頼がもりもりに溜まってるんですよ。極秘で特別斡旋しちゃいますから」
「いえ、その.......」
期待の篭った目が痛い。
でも、もう流されないぞ。
「その?」
「…違います」
絞り出すような声でお断りしたら、希望に満ちた瞳から光が失われていきみるみる泣きそうな表情に。悪くないよね?
「えええ???嘘ですよね」
「いいえ。今日は、依頼人として来ました」
ごめんなさい。
「またまた~そんな~言い間違え」
「本当です。依頼者として採取クエストを出しにきたんです」
ここは心を鬼に。
「え?エクスさんが依頼を出す?」
「はい!簡単な依頼ですが、お金はしっかり払います。そうだ、誰か指名しますよ」
ふふふ。
冒険者は指名依頼は断れない。ですよね?
依頼者デビューだ。
ドヤ顔で追い詰めると、困った表情のまま首を横に振って。んん?横に!?
「受けられません」
「ふええ?お、お金はちゃんと持ってきましたよ。ほ、ほら。本当です」
あっやば。変な声が出た。
必死に袋から金貨を出してアピール。
「受けられません」
「そ、そんな」
なのに、断られた。
ちょっと、指名依頼を断るなんて冒険者失格だよ。そんな奴。
うわっ、ブーメランされるとすごく困る。
「エクスさん。残念ですが、今は新たな依頼は受けてないんです」
「え?どうしてですか?」
まさか?みんなも辞めたのだろうか?
たしかに僕のやらされてた指名依頼はブラックすぎたし。
「いいですか。今は、森林警備隊からの緊急クエストが出ていて、冒険者とスラム民の混成チームで、新型結界の防御拠点が運ばれてます」
「緊急クエスト?」
違った。
あと耳慣れないワードに戸惑う。
何を言われたのか分からない。
「はい。その名もスラム浄化作戦。スラム民に仕事を与えて社会復帰。冒険者とスラム民が手を取り魔人を防衛する素晴らしい緊急クエストです」
「それは、凄いですね」
あぁ!消えたスラム民、出払ってる冒険者!すべてが繋がった。
つまり.......消えたスラム民と路地裏でうっかり強化したスライムは、無関係です。はわわわ、心が軽くなってほっとするぅ。
「嬉しそうですね?」
「はいっ」
真剣な表情で見つめられた。
「それでですね。エクスさんも」
断る雰囲気を感じたのかうるっとされたけど、決意は揺るがない。
「残念ですが、もう冒険者は辞めたので」
泣き落としは美人に耐性があるせいで効かないんですよと言外に伝えると、やつれた顔で深いため息をついた。
「はぁ.......。ごめんなさい。無理を言ってしまって。数年ぶりに冒険者さん達に不幸があって手続きで忙しくてみんな家に帰れてないんです。もうフラフラで」
儚げに笑う姿が痛くて、気付いたら魔法を唱えていた。
「サポートワン」
「エクスさん!」
疲労が軽くなり嬉しそうに見つめられたから、照れ隠しに少し格好つけてウインクして答えた。
「これは仕事では無いので安心してください」
「はわっ。ありがとう、ございます。少し元気がでました」
やってみて分かったけど少し恥ずかしいぞ。
「頑張ってくださいね」
「ふふっ、エクスさんもお金に困ったらいつでも冒険者を再開しても良いんですからね。席を空けていつまでも待ってますっ」
目を逸らした。
「えっと」
「え?そういえばあんな大金をどうしたんですか?まさか、大魔導師エックスってエクスさんの事ですか。それで、お金持ちに?」
うっ、さっき勢いでうっかり見せるんじゃなかった。
「アイスボール」
「ひゃっ冷た!?」
心を閉ざした僕は彼女との間に氷の壁を作る。
「失礼します」
すたすたすたと、脱出!
「エクスさん?待ってください!私、実はお料理も得意なんですよ。こんな氷、私の愛で溶かしてみせますからーー」
ここには、もう来れないな。
疲れたので家に帰ろう。
ルカとライ姉の料理がちょっと楽しみだ。







