123 目覚めたセーラ
それから3日が経ち、ニトラが照り焼きの歌をレパートリーに追加したぐらいで、エクスの周りは平和なものでなぜか森林警備隊は尋ねてこなかった。
ん〜清々しい朝だ。
いつものようにニトラは寝てるため、ルカとライ姉と朝食バイキング。
そこに今朝だけは眠りから覚めたセーラが加わる予定。
「エクス。ちゃんと言うのよ」
「はいはい」
ルカから釘を刺されて、セーラを待つ。
久しぶりに見るセーラさんは、目のくまが消えて大人の女性らしさを取り戻したみたいで良かった。
「おはよう少年!朝風呂なんて貴族さまみたいだ」
「いえいえ、元気になったようで安心しました」
凄く笑顔で、出ていけとは言い出しづらい。
「それにしてもこの家は素晴らしい。まるで転生者が遺した話にあるニホン街にきたみたい」
「実は転生者の伝記から少しヒントを貰いました」
ルカが無言でくいっと裾を引っ張ってきた。
「やはりそうか。気が合うね」
「そうですね」
くいくいっと引っ張ってくる。
もー、大丈夫だよ。
今度はちゃんと言うから。
しっかり隣りで見てて、僕は君の騎士だと証明してみせる。
セーラの先制攻撃。髪の毛を弄りながらお願いされた。
「それで〜その〜お姉さんも、ずっとここに住みたいな、なんて・・」
覚悟はあるか?
困ってる人を、縋ってくる人を、善良な人を、守るべき者のためだけに見捨てる覚悟は。
心に鬼を飼う。
ぶんっと頭を下げた。
「ごめんなさい。ルカが人見知りなのでお断りします!」
鋼鉄のガードで拒絶する。
恐る恐る顔をあげると予想通りとても悲しい顔をされたが、ルカがぎゅっと抱きついて頭をすりすりしてきたから、僕は選択を誤らなかったのだと思う。
ごめんなさい。僕の手は小さいから、大切な人しか助けれません。
大人のお姉さん。
大人ならこの気持ち分かってくれま、
「嫌だ」
「え?」
なんだって?
「嫌だ嫌だ嫌だ。私はここに住むもん!」
「こ、困りますっ」
この人、全然大人じゃないぞ!!
ニホン好きなら、すっとぼけのお約束文化は守ってよ。
「私を追い出すなら、エレキ箱を壊すもん」
「ちょちょっと」
街の平和を天秤に掛けてきた。
というか自分の人生までオールインしてきたんだけど、そこまで?
「少年、私は幼い頃から夢を見ている。転生者が語った御伽の国、ニホン。そこは、水道、扇風機、電球、マッサージ機、ジューサー、デンシレンジ、蓄音機、自動車?、飛行機?、テレビ?、スマホ? 理解を超えたカガクの世界」
「はい」
大人なのに夢見る少女のよう。
「この家には全てがある。他でカガクを見たことはあるか?」
「ない・・・です」
うぐっなんという罪悪感。
何も悪くないのに。
「ここは私が夢に見た世界なんだ!だから」
「で、でも。くま吉!?」
目の前にくま吉が飛び出した。
ふわふわした背中がとても頼もしい。
「おうおう。さっきから聞いてりゃ、大の大人が情けないったらありゃしねえ。お嬢さんよ、相棒に頼ってばかりで恥ずかしくねえのかい?」
突き出された指に、マッドサイエンティストは笑う。
「熊くん、君は縫いぐるみなのに凄いね」
「へへっ照れるぜい」
その目が獲物を見るようにギラつく。
「これは私のカンだが、熊くんも少年がいなければ生きられない?違うかな?」
「うっ」
その通り!
わたわたして戻ってきた。お疲れ様でしたパイセンッ!!
うわっ!?セーラさんに両手で頬をロックされて、切なげにじっと見つめられたんだけど?ちょっとドキドキしてしまう。
「私も少年なしでは生きられない」
「い、生きられると思いますけど〜」
いやん。睨まれた。
別の方向でドキドキしちゃう。
もぞもぞとフードが動き、頭の上から声がした。
「やれやれ、仕方ない子」
クイーン?
「なんだ?兎ちゃん」
「ねえ、貴女。子供みたいに欲しい欲しいじゃなくて、釣り合う何が差し出せるのか。もう少し考えなさいね」
意外だった。
断るのではなくて、対話。
この懐の広さが女王。
マッドサイエンティストに知性が戻り解放された。
「確かに、そうだ。ええと・・・」
「後は任せるわ、エクスさん」
ぴょんと再び僕のフードの中に。
自由すぎる。
学者セーラのプレゼンスタート。
「例えば、少年の火と氷の魔法があれば、スターリングエンジンが再現出来るかも」
「ううん、スターク?」
初めて聞く名前。
そこまでは詳しくないから、専門用語はやめて欲しいかな。
「スターリングエンジン。これがあれば高速船。いや、待って!自動車も再現出来る。動く鉄の塊に乗ってみたくはない?」
「うっ、それはその」
ちょっと興味がある。
それなら、たしかあの本に載っていた。
ルカにつねられて見ると裏切り者って無言で訴えてくる。大丈夫、断るから。
「それに開発すれば、名誉を貰える」
「それは、いりませんけど」
おっと今度はターゲットをルカに変更するみたい。
「ルカちゃん。少年の凄さを国に認めさせたくはない?私はそれが手伝える」
「・・・」
ん?ルカの顔に迷いが。
これは、賛成1、反対9くらい?
「自動車でのドライブデート。初めて自動車に乗った恋人達の名前は、ずっと歴史に残るのだろうな」
「・・・」
くいくいっと裾を引っ張ってきた。
この顔は、反対0賛成10。
え?受けてあげろ?
くいくいっ。
「はぁ、分かりました」
「ありがとう!」
両手を広げて襲ってきたため、ルカがびくっと震えてガバッと2人まとめて抱きつかれた。
ルカがガクガク震えてるから、ドンッと突き放す。
「ただし、ルカが怖がるので、なるべく干渉しないでください」
「安心して。私は引きこもりだから迷惑かけない自信がある」
ぐいっと親指をあげて笑顔で笑う駄目な大人がそこにいた。
引きこもりが、増えたんですけど。
ルカには敵わないんだけどね。
「それでは、セーラさん。お席にご案内します」
「ありがとう。メイドさん」
え?さらっとライ姉がセーラを別室に連れていったんだけど。
それでいいの?
扉が閉まると、ルカが息を吹き返す。
「エクス。約束して。初めて車に乗るのは私だから」
「え、いいけど」
ルカも意外と車に興味があったんだね。
ぱああとこの世の春のように笑顔になってくれて何時間でも見てれそうだ。照れルカがふにゃけながら見上げてきた。
「あ、ありがと」
「気にしないで!ルカになら喜んで1番を譲るよ」
うっ、なんだ?
さっきまでご機嫌だったのに、ぷんぷんルカに。
「一緒に乗るの!…バカ」







