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121 俺たち森林警備隊9


 森林警備隊の本部の円卓で、イゼルが集まった隊員達に重い口を開く。


「それでエクスの情報は?」

「情報屋に調べさせた結果、豪華な屋敷に知り合いのデザイナーと住みスラムの少女にメイドの真似事をさせて年金生活をしているようです」


 聞き捨てならない報告の1言にイゼルの目が光る。


「年金?」

「はい、ホワイトニング王国から大魔導師年金が支給されています」


 イゼルは落胆し眉根を寄せた。


「ふぅー。エクス採用計画は中止します」

「何故でしょうか?」


 イゼルは常識的な男であり、姫様の子供心を理解出来なかったのは誰が責められようか。


「よく考えなさい、年金ですよ!年金!少しばかり期待していたエクス君がまさか戦闘不能になっているなんて。まったく貴方達はなぜこんな簡単な事も分からないのですか?」

「すみません。その通りでした」


 ワンマンの悪い部分。

 ここに、違うかも?と思っても異論を挟む部下はいない。部下は、船の沈没を防ぐことよりも船長の怒りを買う事のほうが怖い。

 そのまま沈めっ。

 エクスの実状を誤解したまま次の対策へ。


「儂は王国へ救援を依頼してきました」

「「おおっ、さすがは隊長!魔人は王国が倒してくれるぞーー!!」」


 暗かった隊員達の表情に希望が宿る。


「我々は、救援が来るまでの間スタンピードの発生を遅らせる必要があります。首尾はどうなっていますか?」

「はい、最新型結界エレキ箱を必要数確保に成功しました。予算が底をついたものの2週間後に全台揃う予定です」


 スタンピードは魔物の総攻撃力が閾値を超えることで起こる。


「遅い!半分の1週間にしなさい」

「はい。分かりました。それよりも問題が」


 言いにくそうに副長が口を開いた。


「問題?」

「隊員をフル稼働してもエレキ箱の運用人員が足りません。冒険者ギルドに依頼をかけましたが、参加者はまだ現れていません」


 イゼルがニヤリと笑いとんでもない計画をぶち上げた。


「人員については、儂がなんとかすると言ったでしょう」

「言われましたが、どんな手を使うのですか?もうあてはありません」


 隊員達が不信げに見守る中、カイゼルひげが自信満々にぴくりと上がる。


「もっと街を隅々まで見なさい。人員には、スラム民を充てます」

「おおっ!そんな手が!素晴らしい。要員確保、社会貢献活動、ゴミの浄化とまさに一石三鳥のアイデアです」


 社会的弱者を消耗品として使うというサイコパスらしいアイデアを部下が絶賛する。


「幸運にも子爵さまが病に伏せていて、とても仕事が回りやすくなっていました。あのまま治らねばいいのに」

「さすがは豪運をお持ちですね。子爵さまに『良い思いつき』をされると我々に先頭に立てとか言われかねませんから」


 それは一見、幸運にも見えたが違う。


「我々はいつものように後方支援で、魔人フールとの対決を避けますよ」


 自らの手で愚かにも、生命を賭けて街を防衛したという免罪符を捨てた。


「隊長、よろしいですか?1つ懸念が」

「懸念?」


 手をあげた隊員の1人が続ける。


「スラム民の意識は低く、我々の崇高な職務を放棄する恐れがあります」

「何かアイデアは?」


 そりゃそうだろう。

 危険な大森林でモンスターに怯えながらぐるぐる発電機を一日中回せなんて言われたら逃げて当然。

 イゼルの宿題に副長が手を上げた。

 彼もまたサイコパス。


「個牢はどうでしょうか?小さな牢屋に2人閉じ込めて、エレキ箱を2交替で休みなくぐるぐる回させれば懸念をクリア出来るのでは?」


 ぎょっとするクソみたいな提案に、


「駄目だ」

「す、すみません」


 意外にも強く反論するイゼル。

 萎縮する副長に、優しげに目を細めた。


「副長。儂は言い方が駄目だと言ったのです。シェルターと言い直しなさい」

「シェルターですか?それはどのくらい追加予算が必要でしょうか?」


 金庫はカラですよと訴えかける。


「追加予算は不要です。言葉を変えるだけでイメージが違います。閉じ込めてるわけではない、魔獣からの防護拠点といえば違うでしょう」

「おおっ!さすがは隊長。その通りでした」


 クソみたいな提案がそのまま美辞麗句でコーティングされて決定。


「次の議題に入りましょう。逆侵攻計画の留守中に事務所に入り魔石を盗んだこそ泥は見つかりましたか?」

「いえ、手がかりは掴めていません。現在、魔術師ギルドへ依頼中です」


 このあと長いイメージアップ計画について議論が交わされるが、種銭も尽きており有効な解決策は何も出なかった。

 疲れた顔のイゼルが締めくくる。


「いいですか、我々への信頼は失墜しました。各自、生活は自粛するように。事が片付くまでは移動は馬車を用い、一般人とは一切接点を持ってはなりません」

「「はい」」


 荒らされた部屋を見るイゼル。


「こそ泥め。このタイミングで無ければ全力で捕縛してやるものを」


 その棚にはあったはずの魔石が無い。

 森林警備隊は追い詰められていた。



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