120 来客2
「今度はどの女?」
「知らないよ」
ヤンデレルカと肩を並べながら確認に行く。
モテ期が来たのだろうか?でも、誰だか見当がつかない。マーラ、受付嬢、リィナ、姫様、まさかのシロンさま?
「やれやれ。相棒、火遊びは程々にしときな」
「遊んでないから」
そうこうしているうちに玄関前に。
ルカが脅迫してくる。
「今度はちゃんと追い返してね」
「それは分からないけど」
痛っ蹴られた。
でも目的も分からないのに、そんなの約束出来ないし。
くま吉がシャドーボクシングするのを視界の端に納めながら、少しドキドキして扉を開く。
「あっ!」
そこには見知った顔があった。
というかさっきまで一緒だった少年が気まずそうに立っていた。
「アニキー、いつになったら終わるんだ?」
「ごめん。忘れてた」
扉をバタンと閉めて仕切り直し。
「ほらね。ルカの思い過ごし」
「ごめんなさい。だって…不安なんだもん」
この子は愛情に飢えている。
僕は承認欲求に飢えていて、優しさに飢えた魔人は空腹に耐えられなくて負の感情を食べてしまいおかしくなってしまった。
「大丈夫だよ」
頭をポンと叩くと、ぐいっと頭を胸に預けてきた。高い体温と速い鼓動が聴こえる。
そっとそのまま頭を撫でると、手入れされた銀の髪は絹のようにさらさらとして白銀に輝く。
しばらくすると、ルカが満足したみたいで身動ぎし。
「分かった。貴方のこと信じてるから」
ぐいっと胸を押されるように離れるとニコッと笑ってくま吉と消えていった。
食堂に戻り、食べ残しボックスを持って少年のもとへ。
「アニキ!」
「ごめん。待たせたね」
ボックスの中身を見た少年が、正気か?って顔で見てくる。
「え?綺麗なままなんだけど?」
「当然でしょ」
残飯処理だとでも思ってたのだろうか。
んー、そういえば貴族にはそんなイメージしかないや。
「ありがとうございます!」
「う、うん」
急に敬語になられてビビる。
「それで、あの」
「何?」
なんか言いにくそうにもじもじしだした。
「あの美人は?」
「ルカの事?」
手をぶんぶん振ってくる。
「ち、違う!アニキの人形姫じゃなくて。もう1人の」
「ライ姉?」
目が点になった。
「は?」
「ライ姉だけど」
化粧で女性の見た目は変わるよね。まぁハイエルフを見慣れた僕は美人に耐性があるけれど。
「ええ?そうなのか。あ、あのっ」
「何?」
顔を真っ赤にして言ってきた。
「仲良くなれないかな?」
「娘はやれん!」
おおー。まさかこんなセリフを使う日がくるなんて。
「そんなっ」
「というかアジトを奪ったのに無理だよ。まずはごめんなさいからでしょ」
しょげた顔に。
でも、孤児だった僕は限界の意味を知っているから彼らの事情は分かる。
「そうだな。謝らないと」
「欲しいモノがあるなら、僕みたいに強くなるといいよ」
怪訝な目で見てきた。
失礼な。こんな形をしてるけど、僕は強いよ?
「へっ。すぐにアニキより強くなるから」
「頑張って。ちなみに僕はドラゴンスレイヤーだから」
ちょっと自慢してみた。
目を白黒させてる。
騙されやすそうだけど大丈夫かな?
ちなみに、非公式だけど今言った事は本当だったりする。
「ど、ドラゴンぐらい倒せるようになる!」
「そうそう、その意気で」
うん。
ちょっと今後に期待かも。
「へぶぁっ!」
「え!?」
宣言するなり何者かに顔面を蹴られて地面に倒れこんだ。誰だ?
「アジトドロボーをやっつけた!」
「お、おかえり」
心臓に悪い登場をしたのはニトラ。
髪がさらさらしてお洒落な洋服を着させられて劇的ビフォーアフターした獣人幼女は屈託なく笑いながら、
「はい、朝食!」
丸ごと果実を渡してきた。
ドキドキする。
だってだって、いきなり飛び蹴りで登場するんだもん。
「ありがとうニトラ。でも今日から朝食はお肉になります」
「お肉はニトラにはまだむり」
採れたて果実を受け取りポケットに。
「大丈夫。ここに倒れてる少年が買ってきてくれる」
「はわわ、もしかして倒しちゃった?お肉の人」
慌てるニトラにふふっと笑う。
「問題ないよ、彼は強くなりたいらしいから。このくらい平気」
「そうなんだ。だいじょうぶ?」
ニトラが、倒れた少年に手を差し伸べる。
「くっいきなりなんなんだよ!誰かに蹴られ…… うっ!?天使だ」
「てんし?」
「問題です。さて、この子は誰でしょう?」
少年は、よく分かってなさそうな顔をしたけど、蹴られどころは悪くないよね?
「は?……」
「タイムアップ!それでは答えをどうぞ」
おっと、これだと誰に蹴られたのかも分かってなさそう。
「知らないよ。こんな可愛い子なら1度見たら忘れねえって」
「ぶぶー。ニトラです」
おおー、良い顔するなぁ。
「はあっ?あの悪魔猫?」
「あくまじゃない!ひっかく」
逃げるように離れた少年が、お辞儀をして帰っていくのを見送る。
「ありがとう、アニキー」
「ふふっ、明日もよろしく」
その奥にある大森林を見ると、空がざわめいていた。
ワイバーンが群れてスタンピードの予兆だろうか、フェイクニュースの勇者新聞の記事が現実味を帯びてきたかも。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。お肉食べよっか?」
いけない、いけない。もう僕の仕事じゃなかった。頑張ってください、森林警備隊さん。
幼女と仲良く手を繋ぎUターン。
歌なんか歌ってご機嫌そう。
「お肉お肉おにくー。串焼き?」
「違うけど?」
むって怒られた。
甘いなー。照り焼きだから数分後には尻尾を振って喜ぶと思うけどね。
新しい世界を君に見せてあげよう。