119 来客1
ニトラのお肉を選んで残りを全てボックスへ。
たくさん残ったから、報酬の食料に少年達は喜んでくれそう。
「「ご馳走さまでした!」」
はー満腹。
ルカも苦しそう。ちょっと食べすぎたから昼飯はいらないかも。
カランカラン。
来客を告げるベルが鳴りライ姉が反応。
「見てきます!」
元気に走っていく。
ルカは優雅に勇者新聞の号外をバサっと開きだして、悩ましげな声を出した。
「この町は大丈夫かしら?」
「どうしたの?」
興味の無かった新聞のタイトルを覗くと『魔人フール来襲!森林警備隊、名誉の負傷』の文字が踊る。
「魔人が現れたって」
「そうなんだ」
魔人は魔導師の成れの果てだ。
魔導師は必ず一体の虚ろと契約していて、浸食度が上がるほど力を手に入れる代わりに人間性を失っていく。
ルカがステージ2、僕がステージ3、最終のステージ4になると、魔人、魔王、仙人。といった人とは言えない存在になる。
僕も気をつけないと。
「エクス!まさか働いた?」
「うえっ・・・」
ルカの怒ったような声に尋問され現実に引き戻される。どうやら働いた疑惑が。って働いても別に良くない?
でも、圧力に圧されてぶんぶんと首を振る。
「働いてません」
「ほんとに?ほら見て!ここに新型結界の再起動に成功したって書いてある。増やしていくとも。あんなの貴方以外に出来ないでしょ」
そ、そうなのかな?
照れる。
最近みんなに凄いと言われてそんな気もしてきたんだけど、どうなんだろう。
「それは分からないけどやってない。だいたい森に入ったのなんて1ヶ月も前の話だよ」
「そういえばそうね」
ルカは僕を勇者のように見てる気がする。僕が救えるのはせいぜい1人か2人なのに。
「何もやってないよ!それに僕がいなくても世界は回るんでしょ?」
「ふふっ。そうだった。安心なさい。変な依頼がきても私が全部断ってあげるんだから」
「頼ってくれよな相棒!」
気持ちは嬉しいけど、ルカだからなぁ。返事に困る。
「何よぅ?」
「何も言ってませんけど?」
メンチを切っていた2人の視線は、ドタバタした音に誘導されて扉の方へ。
だんだんと言い争う声も聞こえてきたので、なんだ?と耳を澄ます。
「ちょっと困ります!勝手に入らないでください。ご主人様は不在です」
「いや、学者たる者、自分の目で見ないと信じられない。会うまでは帰れない」
どうやら僕を探して招かれざる客が来たようでって、フラグ回収が早すぎない?
「だから、不法侵入です」
「少年と私は仲良しだから大丈夫!」
うぇっ。あの声は、学者セーラか。たしか何かを研究してた人だけど。
「誰か来た?」
「はぁー、ルカが変なフラグ立てるから」
カチンときたのかルカが燃えた。
「安心してエクス。護ってあげる。撃退しましょう、クレイジーベア」
「がってんでい」
その横顔はキリリとしてヴァルキリーのように凄く凛々しい。
いずれにせよ、悩む時間なんて残ってないか。
「だから、不審者は帰ってください!」
「断る。私は学者のセーラで不審者ではない 」
中毒患者(女学者セーラ)が、腰にひしっとしがみついたライ姉を引きずって現れた!
目が合うと満面の笑顔に。
怖っ。セーラさんは、寝てないのか目にくまがガッツリあって、まるでゾンビのよう。
「少年~!!」
助けてくれるらしいルカをちらりと見ると、そこには凛々しい彫像と、彫像に縋りつく熊の縫いぐるみ。
「主~!」
・・・まぁ、知ってたけど。
うがぁとせまってくるセーラさんに、くま吉ミサイルが涙を拭くような動作をして飛び出す。
「ちくしょう。主の仇!ゾンビ女ァ落とし前つけてやらあ」
熊は、美女の顔面を躊躇なく殴った。
さらにもう一発。
強化されたもふパンチがぺちぺちと顔面に連打されるが、ゾンビ女の勢いは止まらない。
うっ。
あー。・・・どうも僕のバフ魔法のせいで無敵らしい。
誰だよゾンビを生み出したのは?
やり返されると凶悪だな。
だが、そもそも戦う必要なんてなくて話し合えば分かるよね?
「セーラさん。落ち着いて。バフはまだ切れてないはずですよ!」
「少年~」
くっ言語機能を失ってるのか?
うわぁー。がばぁと抱きつかれて、中毒患者の手に堕ちた。
「少年、私はやったぞ!ついにっ認められた」
「えっと?」
震えながら、耳元に熱い吐息を吐き喜びを表現してくる。
「新型結界をカガクの力で再現に成功したんだ!魔道具ではない。カラクリ箱で」
「それは、良かったですね」
でも、なんで僕のところに?
「ついさっき、森林警備隊の巨大金庫をカラにしてやった。これで少年に未払いの報酬が払える。ありがとう少年!」
「う、うん」
喜ばしいが、コミュニケーションが全く取れなくて怖い。おそらく僕のサポートワンで相当な無理をして、ほとんど寝ていないせいだろう。
「サポートワンのおかげで、新型結界は完成した!君に出会えて私の人生は変わったんだ」
「分かりましたから離れてください」
どんっと突き放すと、セーラさんは寂しそうに笑った。ごめんね。
「そうか・・・支払いは金では無く命か。だけど夢を叶えてくれて悔いはない」
「ちょ、何を。違います!冷静に」
目のクマがヤバイ。まるで過去の自分を見ているようだ。限界を越えて心が壊れた時、人には自殺という隠しコマンドが出てくるのを僕は体験から知っている。
「ありがとう。冷静になったら後悔が1つあったな。願わくば男を知りたい。私では無理だろうか?」
んん?全然冷静じゃないぞ。
そんなコマンドは知らない。潤んだ瞳で見つめられても。やはり睡眠不足は駄目だ。
「ごめんなさい。そこまで追い詰める手助けをしてしまって」
「ねぇ、少年。お姉さんに慈悲を」
見ていられなくなり目を逸らした。
旅立ちの日に、師匠にそうしたように悪い魔法使いになるべく片手を突きつけた。
「眠れ、スリープ」
「そんなっ優しくし・・・」
彼女の暴走した色欲と思考回路は、睡眠へと正しく変換されて、瞼が閉じて意識を喪った体がグラリと崩れだす。
床に頭をぶつけないようさっと支えると、寝食を忘れて研究してたのか思ったよりも軽かった。
「おっと危ない。よく頑張りましたね。偉いですよ」
疲れた顔ですやすや幸せそうに眠るセーラさんを見守る。良かったですね。延長は3日ぐらいで。
「エクス、うわき?」
はっと声に振り返るとヤンデレルカが。
「違うよ!?」
セーラを行動不能にしたことにより、ルカの行動が回復したらしくなにか理不尽な事を言ってきた。
「だって寝てる女を抱きしめてる」
「これは仕方なくない?誤解だよ」
意識のない女を抱いてるけど違う。
たとえ意識を奪ったのは僕だとしても。
違う!
「それに、やっぱり新型結界はエクスが原因だったじゃない」
「うっ、それはその」
その通り!
な、何も悪くないのに、なぜか不倫相手が家に突撃してきたような状況に。
あー、うー、あー。
駄目だ、活路が見えないから話を切り替えよう。
「とにかく、セーラさんを休ませて」
ルカが溜め息をつき、ライ姉に上級バフを放つ。
「仕方ないわ、フルパワー」
「奥さまありがとうございます!」
10分間マッスルになったライ姉が、お客さまを寝室に。
気まずい。
「相棒、何か言いてえ事は」
「僕は無実だ」
ルカが、じっと見つめてきたので、じっと見返す。疚しいところなんてないっ。
「分かった。信じる」
「良かった」
そして縋るような目で見上げてきた。
「でも、もう女の子を増やさないでね」
「だからっ変なフラグを立てないで」
カランカラン。
来客を告げるベルが再び鳴り、僕は目を逸らした。







