112 俺たち森林警備隊7
それから3日。
ルカの歓迎会が終わり、のんびりと過ごすエクス達。
森林警備隊から届いた開封されることもなく無造作に保管されていた封筒に、ニトラが興味を示して開けた。
『森林警備隊採用通知書
本書を受け取った後に速やかに入隊すること。準備期間として3日間の猶予を与える』
「……よめない」
難しい文字が多くてニトラの耳がへんにょりした。
おや?机が汚れているのを発見して耳がぴくんと動く。手には綺麗な紙。
ごしごしと採用通知書で拭くとぺいっ、とゴミ箱へ丸めて棄てた。ニトラの表情はむふーっと満足げ。
「ニトラきれい好き」
あの日から3日が経ち、エクスの採用通知書がゴミ箱に送られた頃、勝手にイゼルが指定していた期限が切れてしまったようだ。プロの冒険者は必ず期限を守るが、エクスはプロではなく無職!ゆえに一般常識など通じない。
◇◆◇◆◇
森林警備隊の隊長室で、待ちきれなくなった老害の怒りが爆発して、副隊長が無言で身を竦める。
「遅い!今日が入隊指定日の最終日だぞ。エクスとやらはプロ意識が欠けているのか?これだから三流冒険者は!」
こんなに怒ってるのは、今日が民衆へ大森林へと攻勢をかけると約束した日であり大型モンスターの討伐と合わせて、新型結界の復活もしたかったからだ。まさか、エクスが書類を読んでいないなんて露ほどにも思わなかったのだろう。
「副隊長、知っているか?全ての職種で一流と呼ばれる者は仕事のレベルが高く恐ろしく速い。それなのにエクスときたら誰が新型結界の維持をするか、己の重要度を全く理解しておらんとは嘆かわしい」
「は、はいっ」
隊長イゼルは舌打ちしたが、喋っていてふと新たな可能性に気付き眉がぴくりと動いた。
「まさか、これは己の価値を知ってるからこその吊り上げ要求か?」
そうだ!オンリーワンなら事情が異なる。皮肉にも、期限を守らない事で『超一流』だと示してきたのではと勘違い。
部下がイゼルの思考を読み取りはっとした。
「隊長、迂闊でした。エクスにしか新型結界の保守が出来ないなら新人スタートに不満を持つ可能性を考慮し、何らかのポストを用意するべきでした」
「ふむ。エクスが超一流だったとはな。しかし森林警備隊といえばA級冒険者に匹敵するぐらいの人気職だから、断らないだろうという慢心が儂にもあった」
彼らは知らない、エクスがそのA級をお断りしていた事実を。
「まだ時間はあります!今から条件を上げて再交渉をさせてください」
「悪くないな」
エクスは断るのに。
二人は条件アップについて話を進めだした。姫様の出した条件を上回れる可能性は低いが。
「遊撃副長はどうでしょうか?」
「いや、もっと上げよう」
その指示に副長の顔が曇る。ポストを奪われる部下は良い顔はしないだろうから。
「…はい」
「早とちりをするな。現在のポストを奪うのではなく新たにポストを作ればいい」
部下がイゼルの冴えたアイデアに感激し、またギルマスの勧誘作戦の二の舞になるかと思われたその時、イゼルのスキル『豪運』が発動。
どんな糞野郎にも褒めるべき点がある。
イゼルは民衆を騙して民衆から愛されて、神からも愛されているのか『豪運』を持っている。
ムカつく事にタイミング良くこの問題を解決できる客を引き寄せた。
「勇者イゼル、お客様です」
「おおっ、すぐに通しなさい」
期待とは少し違い、現れたのはエクスではなく、やつれた美女だった。
「失礼します、お告げを受けてきました」
「君は誰かな?」
ファンだろうか。
それか教会のシスターか。
若いが、目の下に隈がありやつれているのは減点だなとイゼルは思う。
「学者のセーラです。本日は買い取って頂きたいものがあります」
「ふむ。何ですかな?」
いささかガッカリした様子のイゼルに、美女が出したのは怪しいカラクリ箱。
「新型結界を、魔石を使わず稼働させる魔道具エレキテル」
「ほう。詳しく話しなさい」
エクスの代わりになるだと?やはり儂は持っておる。
「ええ、人力で箱の中の雷光石を回転させ磁界を切ることによりフレミングの左手の法則より雷エネルギーが発生し・・」
「理論は良いので実演してみせなさい」
美女が汗を流しながら取っ手をぐるぐる回すと、バチバチと雷光が音を立てる。
「ふうふう。このように回している間、スタンを人為的に起こせるんです」
「・・・」
イゼルは微妙な顔をした。
「あのっ。それで何百個購入して頂けますか?研究資金が底をついて借金をしていて」
「一つ教えて欲しいが、それはずっと回す必要があるのですかな?」
美女は良い笑顔で応えた!
「はい」
「では試運転用に一つ貰おう。おい、払ってやりなさい」
しぶい反応に美女の笑顔が翳る。
「あの……一つだけですか?」
「そんな落ち込まないでくれ。まずは試験をしてからですよ」
セーラを優しく追い返すと部下が聞いてきた。
「隊長、たくさん買われるおつもりなんですか?」
「それは彼女の献身しだいだな。抱き心地の良さそうな体だったから献身しだいでは数個なら買ってやっても良い」
「はい、では予算を確保しておきます」
この老人。
色香に釣られていたが、これもまた豪運である。新型結界の代案を立てたという言い逃れを獲得。
「しかし、随分と外が騒がしいな」
「はい。私達の活躍を期待しているのでしょう」
さて、出撃演説に行くか。
この辺りのパフォーマンスは心得てる。
「まぁ、いい。保険も手に入れたし、エクスの勧誘は保留だ。勝利は約束されている」
「凄い自信ですね。隊長」
的はずれな発言をした副長をイゼルは叱責する。
「馬鹿ものが。これは自信ではない。本日、森林警備隊は大森林でギガントオークを狩るのは、確定事項なのだ!」
絶対的な確信を持って、定年間際の老人はターゲットまで宣言。
部下が空気に飲まれる。
この英雄は腐っているが、有言実行の男なのだ。必ずやり遂げてきた。
「さて、本物の方の鎧を着て出撃するぞ。間違えるな」
「「はいっ」」
民衆の前にイゼル達が重い本物の鎧を纏って現れた。
「諸君!儂は森林警備隊隊長、勇者イゼルである」
「「イゼルー!」」
ドラゴンソードを抜き放ち宣言。
「これより、森のボスを討伐し再び平和を取り戻す事をお約束しよう」
最高潮の盛り上がりをみせて出撃。
「おおーっ!」
「流石は森林警備隊だぜ」
「紙鎧のインチキ新人に、心配したが無駄だったようだ」
ぞろぞろと、部下を引き連れてやってきたのは、森林警備隊の詰め所。
「あー諸君ら、日頃はご苦労。少なくないか?」
「お疲れ様です、勇者イゼル。隊長と副長は故郷へ帰ったもんで、俺が今日から隊長です!」
ちょっとしたトラブルに眉を顰めたがあまり気にしても仕方がないか。
「まぁいい。今回は特別に、指導を兼ねて森林警ら業務に同行させてもらう。よりいっそう励みたまえ」
「ハッ」
態度は悪くないが、少し実力が疑わしいな。
「しかし、貧相な装備だな?それで大丈夫なのか?」
「はあ?それはあんたがいつも経費削減ばかりするから」
痛い所をついてきおったが、そのために手をつけていない資源はある。
「成果報酬の魔石があるだろう?」
「は?そっちの担当が取るなって指示してきたんだろが」
横領か?ギロリと連絡担当を睨むと首をぶんぶんと振った。ふむ。このような小物にそれは無いか。
「そ、そんな。森なんて入った事がありませんよ」
森林警備隊失格のセリフを吐きながら、若い担当者は弁明してきて頭が痛い。
「だ、そうだが?」
「いや、彼の前の担当にそう指示されたんだが」
なんだと!あの糞野郎め。身内の横領が発覚したが罪を問おうにもそれは出来ない。
「4年前に変死体になった?」
「あぁ、そうだ」
ならば、その担当者を殺して利益を掠めとっているヤツがいるのか?
「少し調べる必要がありそうだな。来月からは期待しなさい」
「そうですか!」
来月からは自分で倒した魔石は拾っても良いぞという言葉をつけ忘れたが、喜んでおるし良いだろう。
(さて、いつものように請負達に魔物を倒させるか。これで安全マージンは確保した)
(俺たちの実力ではどうにもならんから、森林警備隊の本隊にお任せしよう)
両者、自分に都合よく誤解したまま魔の森へと突入。







