110 変化
ルカに抱きつかれていたら、お邪魔虫に引き離された!
「離れるうさーー!」
2人の真ん中で宙にふわふわと浮いたうさぎの縫いぐるみのクイーンが、長い耳をぶんぶんと振り回してご乱心の様子。
「クイーン、なにが不満なの?」
引き離されたルカもこくこくと頷いて同意したけど。うぇっ、怒りのクイーンにロックオンされた。
「エクスさん!私をイチャラブ☆プレスしないで」
おっと。それは、されたら…嫌かも。
指摘されたルカも、ちょっと恥ずかしそうに目を逸らしたし。
「ごめんね、クイーン」
「はぁ。エクスさんがそう言うなら許してあげるわ」
ほっ良かった。
ぴょんとまた抱きついてきたので受け止めるとめちゃくちゃすりすりされる。やれやれ、どうやら主人に似て独占欲の強いうさぎみたい。
ざわっと首元に悪寒を感じると、今度はむっとしたルカを発見。全くこの2人ときたら。
「クイーン、ルカが何か言いたそうだから離れて貰っていい?」
「嫌よ。それにそれは自分の口で言うべきだわ。変わるべきよ」
ルカの人見知りは犠牲だから治らない。だからこれは禁句なので、つい口調が荒くなる。
「意地悪言うなら、落とすよ」
「待って!エクスさん。まだ話の途中!」
「どういう事?」
「いいから見てなさい。ねえ?ルカさん。ドールを出して」
ドール?
ルカがこくりと頷くと、ぷるぷると震えて何かに乗っ取られたように変な低めの声で喋りだした。はあ???
「くくく、何用だい?女王」
「あら?馬鹿ね、用件ぐらい察しなさい」
ルカの表情はまるで別人。
完全に支配権が奪われてる。こんな芸当が出来るのは、ルカが契約した虚ろだけだろう。嘘だろ…
「犠牲か?」
「ええ、ドール。一人はどこかに行っちゃったけど、私はニトラとライ姉を友人と認めるわ」
「俺っちも同意だぜ」
これではルカの契約した虚ろは、見た事も無いドールということになる。なら、くま吉とクイーンは誰の虚ろだ?そもそも魔導師1人につき、虚ろは1体のはず。
ライ姉の興奮した声が思考を遮る。
「御主人さま。うさぎちゃんと熊さんが心を開いてくれました!」
「んあ? 良かったね、ライ姉」
「はいっ」
緊迫した空気なんてなんのその、目を丸くして喜んでて微笑ましい。
「くくく、クイーンの頼みならいいよ」
また変な声で喋るルカを見ると、ピカッと光り苦しそうに胸を押さえて蹲った。
「認めてあげる。ううっ」
「ルカ!」
「奥様!」
慌てて駆け出して、小さく震える背中を擦る。
手に温もりを感じながら少し心配な反面、全然別の事が気になっている。そういえばルカと初めて話した日もこんな感じに光ったんだっけ。
やがて震えが止まり正気に戻ったルカは顔を上げて微笑んだ。
「ありがとう、エクス。それにライちゃん」
あぁ、その表情は2人っきりでいる時のように自然で、まるで天使のよう。あの日のルカだ。
「奥様が言葉を返してくれました!」
嬉しそうにライ姉がはしゃぐ。やはり、そういうことなのだろう。
「もしかして?」
「ええ、そうよ。彼女達は条件をクリアしたわ」
クイーンが何をやったのかは分からないけど、ニトラとライ姉は、ルカの犠牲『対人恐怖症』の対象から外れたらしい。
「良かったねルカ」
「うん」
「よろしくお願いします、奥様」
ライ姉から差し出された手をルカが恐る恐る握る。
「いいの?」
「ひゃん、奥様可愛いです!」
ライ姉がルカを襲った。
抱きつかれて耳を真っ赤にするルカを見て、嬉しくもあり特別を奪われたみたいで少し寂しくもある。
これが親心か。
「こんちわー。エクスさーんお手紙ですー」
コンコン!
という突然のノックの音でルカがびくっと震えて僕の背中にさっと隠れた。いつものルカだ。
短い無敵タイムだったねとルカを見ると、不満げな顔。
「何よぅ?」
「何でも。いてっ!」
くすっと笑うと背中をつねられた。
メイド魂なのか扉に駆けつけて応対するライ姉を見習って欲しい。
「はーい。どちらさまですか?」
「えっと、配達人です。メイドさん、エクスさんはどちらにいますか?」
配達人がライ姉に誘導されるように僕を見つけて、それからどこかにいる凄いエクスさんを探し始めた。またか。
「あのー、僕がエクスですが」
「こ、これは失礼しました。おめでとうございます!森林警備隊から採用通知書が届いてますよ」
思わず嫌な顔に。
「それ、いりません」
「えっ!?ちょっと、何でですか?あの森林警備隊ですよ。厳しい試験に勝ち抜いたのでは?」
おそらく少し前なら喜んでいたと思う。でも今はその紙に価値を見い出せない。
「いえ、試験なんて受けてませんし」
「無試験での採用通知。……貴方はいったい?」
ただの欠陥魔法使いですが?いや、今は大魔導師さまと呼ばれてるんだっけ。胸を張って答えた。
「大魔導師らしいです」
怪訝な顔で見られた。
あー、うん。ですよね。
「御主人さまは凄いんですから!」
なぜかライ姉はドヤ顔だ。
ルカもそうだ!と背中をつんつんして応援してくれるけど、僕以外には伝わらないよ、それ?
「あのー失礼ですが、なにか証明書は?」
ですよねー。少女と僕の証言だけでは。でもそもそも証明する必要もないし証明書も部屋にあるわけで。面倒くさがっていたら、熊と兎が吠えた!
「いい加減にしやがれ!このトーヘンボクがっ。相棒の凄さが分からねぇなんて、てめえの目玉はついてんのか!」
「そうだわ、小物ではお話にならないから社長を呼びなさい」
「ぬ、縫いぐるみが喋った!?」
配達人が尻もちをつく。
くま吉、それにクイーン。
泣けてきた。
「相棒、どんなもんでい」
「お礼はいいわよ。言ってやったわ」
「…お願いだから、話をややこしくしないで。本当に社長が来たらどうするの?」
びくっと震えるくま吉とそっぽを向くクイーン。
「そ、そん時はそん時でい」
「知らないわよ!あっ、それよりもエクスさん。誰か来たみたいよ」
さらには、ガラガラという馬車の音まで近付いてきた。誰だろうか?
どうやら、今日は千客万来みたい。
注目の中、馬車から降りてきたのは、案内人だった。つかつかと歩み寄ると知り合いなのか配達人が萎縮している。
「エクスさま!ご機嫌麗しゅう」
「社長!?なんでここに」
「ん?元気そうだな。それより、お客様の家の前でなんで座ってる。もしや、エクスさまに失礼はしてないよね君?」
「えっと、これはその」
配達人の僕を見る目が、嘘つきボーイから大魔導師さまへと激変した。さっきの失言に気付いて青くなってる。
「青くならなくても大丈夫ですよ、この人も帰りの案内を忘れるような人なので」
「エクスさま?それは手厳しいですね。失敗は誰にもあるものです。部下を庇って頂き有難う御座います。しかし、今日は良いお便りをお持ちしました!きっと、お喜び頂けるかと」
ちくりと刺したら笑って流された。
尻もちをついたままの配達人の瞳に、感謝が浮かぶ。
「はい…」
「そんなっ警戒なさらないで!王家の手紙ですよ。他にお渡しするものがあるので、受け取りのサインも頂けますか?」
渡されたのは、見た事も無い上質な封筒。
達筆な文字で大魔導師さまと書かれている。ルカが背中をトントントンと叩く。これは警戒の合図だ。
「えっと、それは確認してから決めます」
「え?」
「駄目なら中も見ません」
「どうぞ!どうぞ!ごゆっくりご確認くださいっ!いやー確認は重要です」
ごめんね。
ルカのためなので。
ぺこりとお辞儀をして扉を締めてプライベート空間を確保すると、参謀のルカが息を吹き返した。
「エクス、変なのだったら断りなさい。判断してあげる」
「なんだろう?」
ルカが太ももの隠しホルダーから出したお洒落なナイフを借りて、蜜蝋で封じられた封書を切り開くと高級そうな香りがした。
『大魔導師さま。
ルーラです!
遅くなりましたが、手続きが完了したので、契約書をしたためました。
役職 大魔導師
貢献 1,000,000pt
条件 ホワイトニング王国の在席
特記 国外へ旅行時は連絡してください
特記 働かなくていい
エクスさまは他国に行くと国益を損ねると財務長を説得しましたの!報酬は毎月、金貨1枚ですわ。
ふっふふー』
悪戯好きのルーラが笑ってる顔がありありと見える。
「な、なんだって!?」
「おぉぅ、相棒ホワイトニング王国は半端ないぜ。この契約書には何も仕掛けがねえ」
「こんな条件。いったい何をしたの?エクスさん。凄いわ」
意見が割れた。喜んでくれたのは縫いぐるみ2名、違う反応を示したのも2名。
「御主人さま。何て書いてあるんですか?私は字が読めなくて」
「んー!エクスは私が養うのに」
ぽかぽかとルカが叩いてくる。
「甘いよ、ルカ。へへへ。ライ姉、お金持ちになっちゃった」
「んんんー!私の計画がー」
「流石は御主人さまです!」
何を企んでたのかは知らないけど、気持ち良くサインと引き換えに金貨をゲットだ!
後でルカに言わなきゃ。引越し代金はお祝いとして払っておいたから気にしなくていいよと。
漫画公開まであと、11日。
アニメ放映中の漫画家である村上メイシ先生の絵は可愛いさを極めていますので、とても楽しみですヾ(。>﹏<。)ノ゛✧*。!
ツギクル様が書籍PVを作ってくれました。格好良い(≧∇≦)b 良ければ下のリンク画像から見てください。インタビューにも答えてますので興味がある方はどうぞ。
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