103 マイホーム5
引っ越しの荷造りを手伝ってるとルカがふいに聞いてきた。
「エクス、本当の事を話して」
「え?全部、本当だけど。なんで?」
疑惑の視線は僕のリュックサックへ。
「だって、その荷物。まるで旅に出掛けるみたいだから」
「あぁっ!これはここに来る途中に街中に出たオークを倒したらお礼で店の人達に押し付けられたんだ」
不思議な顔をされた。
「そう…なの?」
「仕方なかったんだよ。みんな親切心で言ってくるから断れなかったし、沢山あるからルカ達も食べる?」
リュックサックから、次々と出てくる食料品に引かれる。熊ですらやれやれのポーズ。
「相棒、半端ないぜ。主は少食だし、それに俺っちは食べられねぇぞ」
「こんなに、どうするの?」
「どうしよう」
実は、ちょっと困ってる。
声を上げたのはウサギちゃん。
「そんな事より、あなた達。さっさとしないと日が暮れるわよ」
「「あっ!」」
うさぎちゃんに急かされて僕の家へ出発。うさぎちゃん達はお留守番するみたい。僕の虚ろと追いかけっこしてるみたいだし、あいつも置いていこう。
外出したルカが夕暮れに染まった空を眩しそうに見上げて呟く。
「まだいるんだ」
「ルカ、そういえば注文された品は渡したの?」
空の上にはアミン女王の飛行船がキラキラと光を反射している。
「渡した。たぶん大喜び」
「そっか」
なんだろうね、この自信。
可愛いからいいんだけど。
てくてくと僕達は新居に向かって歩き出した。伸びた影で身長が高くなった気分になるから僕は夕暮れが好きだ。
「相棒、それでどんな家なんでい?」
「秘密」
おっと虚ろが体の中に戻ってきた。距離が離れると分離出来ないらしい。
「クレイジーベアー楽しみね」
「おぅよ」
ふふっとご機嫌なルカ達を連れて、僕の家まで歩く。ルーラ姫から金貨1枚で買った屋敷は庭もやたらと広いため、ショートカットする事にしよう。
「ここが近道なんだ」
「ねぇエクス。勝手に入ったら怒られる」
ふふふ、これは僕の豪邸なんです。ネタバラシは後のお楽しみ。
制止する声を無視して、どうにかよじよじと石垣に登り、下にいるルカに手をのばすと心配そうに見上げてくる。
「大丈夫だよ、おいで」
「ひゃっ」
ルカの細くて冷たい滑らかな手を掴み強引に引っ張りあげると、ふわりと妖精のように舞い上がった。
たんっという小気味のいい音が聞こえて、重みを全く感じなかった。
たぶん、壁を蹴って上の推進力に変換し乗り越えたものと思われる。そうやって登れば格好良く決められたのか。
「僕の助けは要らなかったかな」
「ううん。いるっ! それに…その(強引なのも悪くないかも)」
ぼーっとしたルカは珍しい。
「ルカ?」
「な、なんでもない」
大丈夫かな。
「よっと」
両手と片膝を着いて着地して、豪邸のお庭に侵入。パンパンと泥を払うと、ふわりと着地したルカが続く。
造られたばかりの庭を通り抜けて玄関を目指す。
「相棒、この家の警備に見つかったらどうするんでぃ?」
「警備なんていないよ。くま吉」
等間隔に並んだ茂みのような低木と疎らに植えられた木に芝の生え揃っていない庭。人がいないからかルカの足取りは軽い。
「どうだか?ふふっ。なんだか悪いことしてるみたい。ねーエクス」
悪戯っぽく笑うルカの声が、チチチと鳴く鳥の声に溶けた。
確かにこれが他人の家だとドキドキするよな。間違ってないよね?ちょっと不安になってきた。
ガサッと木の葉が揺れて、何者かが茂みからひょっこり顔を出した。
「あれ?お兄さん?」
「はわっ。なんだ、ニトラかびっくりした。いったい何してるの?」
「パトロールしてた。こんどはアジトを取られないように」
「そっか、偉いな」
「うん。ごほうびは串焼きでいいよ」
てててー。とニトラが走り去ると固まってたルカが動き出した。
「エクス、あの幼女はなに?」
「え?前に話したスラム街の子だよ。訳あって保護してる」
「ふーん。可愛いね」
「うん。凄く良い子なんだ。ルカ?」
なんだかご機嫌斜めに。
「相棒はやれやれなんだぜ」
「はぁ?」
「まぁいいわ。それより、もしかしてこの敷地はエクスの家?」
うぐっ、もうバレた。
「はぁ〜。そうだよ。門は遠かったから」
「へぇ〜やるじゃない」
「相棒、もしかして主の家より広ぇのかい?」
自分の事のように誇らしげなルカと戸惑うくま吉に、ふふって笑ってご案内。
「まぁ、入口はもうすぐだから。あれ?」
玄関には見覚えのある馬車が2台。
「エクス、誰か来てる?」
「ルーラ姫かなぁ」
またご機嫌の悪い様子に。
今日のルカはよく分からない。
「ふーん」
馬車の近くに怪しい男の人がいた。
うわっ!
「エクス大魔導師、お久しぶりですね。いやーこんな大豪邸を手に入れられるとは流石で御座います。はい」
「案内人!」
僕を隠れ家に連れて行って置き去りにしたヤツだ。
「何か怒ってらっしゃる?」
「ええ」
今度は何の用だろう。また会食かな?
「そうですか。しかし、これを見れば笑顔になる事間違いなし! 今日は、ご注文頂いた馬車をお届けにきました。こちらになります」
「はあ?」
ブフフン。
強そうな馬に挨拶されたのだが。
「確かにお届けしました。では」
「ちょっちょっと!」
案内人はランクの低い方の馬車に乗って帰って行った。あの人とは会話が通じない気がする。
「エクス。これ実家の馬車より凄い」
「相棒、見直したぜ」
「……王家仕様だからね」
2人が楽しそうなら良いか。
僕は馬主になった。