101 人形使いルカ10
ふよふよと浮いたまま、ルカの家に到着っと。びっくりしてくれるかな?
ウィンドをキャンセルして、玄関で呼び鈴を鳴らす。
どうせ出ないと思っていたら、今日は待ってたらしくなんと扉が開いてルカが出てきた。
「エクス!遅い」
怒りながらも嬉しそうなルカは笑ったまま、凍りついた。おおっ良い反応するな。
今日イチかも。
「エクス、貴方。それ」
「どう?凄いでしょ。ちゃんと後でルカのも作ってあげるからね」
顔面蒼白なルカに、ドヤァと見せつける。
「違う。ステージ3!」
「ん?」
そっちなんだ。
虚ろと顔を合わすと、こてんと首を傾げた。
「なんで、そんなにのんびりしてるの!ここに来るまでに誰かに見られた?覚醒した魔導師は危険かもしれないから、排除されてもおかしくないのよ」
「えっと、それなら大丈夫だと思う。なんてったって姫様のお墨付きだし」
そう答えると、なぜかルカの心配がすっと消えて無表情に。まるで嵐の前の夜のような静けさになり、綺麗な眉がぴくりと動いた。
もしかして、怒ってらっしゃる?どこが地雷だったのか。
「エクスぅ。その話を詳しく教えて貰おうかしら?」
「えっと・・」
「相棒は、やれやれなんだぜ」
「はぁ、英雄色を好むというけど程々にしときなさいな」
「イエー!」
ハーレム容疑をかけられて連行される僕をおいて、無邪気な虚ろは楽しそうにウサギ部隊を追いかけながらルカの家の探検に出掛けて行った。
裏切り者〜。こうなったのは君のせいかもしれないのに。
コポコポと紅茶を注がれて、緊張した雰囲気でお茶会(査問会)は開廷。容疑者は僕。裁判長はルカ。肝心の罪状は不明。
審議の行方が気になるところ。
紅茶を持ってきてくれたウサギちゃんがそのまま僕にふわっと抱きついてきて温かさと勇気をくれる。どうやら僕の弁護士になってくれるみたい。
「ありがとう」
「いいわ、気にしないで」
喋りだすのは、今の所はこのクイーンだけだけど興味なさそうにちくちくと運針してる傍聴席のウサギ部隊も覚醒すると賑やかになったりするのかな。
ルカの透き通った瞳に見つめられて、ぞくぞくする。
「だいたい帰りたいとか怪しいと思ったの」
「うっ」
もしかしてスライム枕がバレたのか?ルカは持たざる者だから。
「ねぇ、エクス。失礼な事を考えてない?」
「いや」
怖っ。
ん?何?うさぎちゃん。クッキーをくれるの?気持ちは有り難いけど、今はそういう空気じゃないから。
ほら、むっとしたルカに問い詰められる。
「それで、そのお姫様って?」
「第三王女ルーラ姫、です」
ぺしぺしと、うさぎちゃんがクッキーを食べてと猛烈にアピールしてくるけど無視だ。困った。困難な案件なのに、弁護士とまるで息が合わない。
「へー、そう」
「姫様は僕を大魔導師さまと呼ぶ夢見るお子様だから、ルカが気にするようなもがっ」
やり手弁護士の手が伸びてクッキーをむりやり口にねじ込まれた!?
甘ーい。これは上品な甘さ!緊迫した空気を、上品な甘さが上書きしていく。
んん!?
もしかして・・・新作?
うさぎちゃんを見るとこくんと頷いた。やるじゃないか。ドライフルーツみたいなのが口の中でぷちぷち弾けて、美味い!
「やっぱり、あのエックスって」
「もぐもぐ。あの時は信じてなかったけど名探偵ルカの言った通りだったみたい」
喉が渇いたので紅茶を飲むと、砕けたクッキーが口の中で消えて複雑な味わいをみせた後、紅茶の香りの余韻に包まれた。幸せな気分が広がっていく。
「真面目に答えて。それで、王家とどんな契約を結んだの?」
「契約?そういえば・・結んでないかも」
ルカが不安そうな顔で見つめてくる。僕の事を心配してくれてるようで胸が痛い。
「何か貰った?」
「そうだ!家を格安で売ってくれたんだ。それがね、ギルドより大きくて、最近保護したスラム街の子達と家の中で隠れんぼしたら、これがなかなか見つけらなくてさ。ニトラなんか天井に貼りついて・・」
当初の予定を思い出し興奮気味に喋りたてた僕の言葉が、空中分解して泡のように消えていった。
そんな顔させたかったんじゃない。
ルカが寂しそうな顔をして目を逸らす。
「そう・・・」
ルカなら一緒に喜んでくれると思ったのに。なんで?
うっ、もしかしてルカには僕以外に友達がいなかったのか。・・・それでハブられたと思ったのかも。ごめん気がつかなくて。
「ルカも来る?一緒に家の中で隠れんぼしよう」
恐る恐る誘ってみたら正解だったらしく、絶望の氷塊がみるみる溶けて、満面の笑顔で食いついてきた。
「行く!」
無罪!
「ふぅー」
「もぅ。それを早く言いなさいよ〜」
査問会はこれにて閉廷。
良かった。
鼻歌を歌いだして凄くご機嫌みたい。
ふふっ。やっぱり初めての友達の家に遊びに行くのはわくわくするよね。
「主、良かったじゃねえか」
「ふふふ、少し予定が変わったけど楽しみねクレイジーベアー」
ルカはクッキーにも手を付けないで待ち切れないのか、何かいそいそと準備を始めた。
トランクに服を詰めて、あれは何の道具だろうか?ピアノも荷造り。んー。ちょっとハリキリすぎてない?
浮かれる気持ちは分かるけど、一日遊ぶのにそこまで準備はいらないと思う。
「え?ルカ。そこまでしなくても」
「そうかしら?」
「何言ってんでい相棒。全部持っていきてぇよ」
んん?全部?
首を捻ってると、ウサギが耳元で囁いた。
「はぁ・・分かってなさそうだから教えてあげる。ルカはエクスさんの家に引っ越しする気よ」
「ん?」
そうなの?
年頃の女の子と同じ屋根の下とか、ちょっとドギマギする。
でも、そんなの駄目だろ。僕は軽い男じゃないし、ここはビシッと言わないと。
「ルカ、」
「なぁに貴方?はぅ。これは、まだ少し恥ずかしいよぅ」
「主、く苦しい」
有頂天なルカは、蕩けるような笑みを浮かべた後、真っ赤な顔して、くま吉をギュッと抱き締めて走り去った。
う、うん。
喜んでくれて嬉しいよ。
釘を打っては駄目な場所もある。
「ところで、うさぎちゃんは荷造り手伝わないの?」
「いやよ」
自由だな。
「あっそうですか」
「私には優秀な部下がいるから」
正確には、優秀な部下もでしょ。いつも遊んでる駄目な奴もいる。
「イエーー!」
ほら、とてとてと僕の虚ろと楽しそうに追っかけっこをしていた手下うさぎが、せっかく詰めたトランクケースに体当たりして中身をぶちまけた。
ジトッとした目で見ると、ウサギちゃんは黙って動かなくなりただの人形のフリをした。
「ちょっと、それはズルくない?」
「エクスー手伝ってー」
「はい、はーい」
少しわくわくする。
ルカ達が新しく僕の家に来る事になった。







