100 俺たち森林警備隊6
森林警備隊の事務所に、意気揚々と魔物退治のお使いに出掛けたはずの新人が、壊れた鎧で泣きそうに敗走してきた。新人は、険しい表情をしたカイゼル髭の老人に失敗を報告する。
「す、すみません、イゼル隊長。鎧の秘密がバレました」
「…それで、現場にオークは何匹残っている?」
これだから新人は。
あれは、一撃も食らってはいけない鎧だから、レプリカと本物をうまく使い分けねばならんというのに。…そういえば、新人の本物の鎧はまだ完成してなかったか。
「それが現場に着いた時には、エクスとかいう奴に全て倒されていました」
「このっ馬鹿もん!」
思わず張り飛ばす。
そして、踏みつける。
無能め、死ね。死んで詫びよ!
「ぐえっ、うぐっ」
「それにしても、またしてもエクスか。子爵も先日、異例の強制召喚を取り下げたし…いったいどんな奴なのだ」
被害にあった町人どもが暴徒となって押し寄せたのかガヤガヤと外が煩い。全く仕事を増やしおって。
「イゼルー!出てこい。そいつのフザけた紙鎧について説明しろ!」
「お前らが来るのが遅いから、オークは平民が倒したぞ」
「「そうだ!そうだ!」」
ヤジから状況を把握して、新人の最悪すぎる失態に怒りが納まらない。
ボロ雑巾のようになった新人の首元を引きずりながら外へ転がして、暴徒達をギロリと威圧してから一喝する。
「儂は勇者イゼル。逃げも隠れもせん!諸君、今日は揃いも揃って何の用かの?」
「うっ…それは。その」
「お前…行けよ」
暴徒を調子づかせては駄目だ。しかし、抑え込みすぎるのも悪手。その辺をこの老獪な男は分かっている。
「ただし、この愚かな新人がお前達を騙しておった事に、儂が全く気付かなかった事についてならば、深く謝罪しよう」
「お、おう。それなら良いんだが」
「あぁ。話が分かるじゃねーか」
あっさりと問題をおこした新人を売り渡し、怒りをコントロールする。さらに、マニュアルを作った男は続ける。
「この裏切り者に代わって街を救ってくれた者がいるそうだが?」
「欠陥魔法使いのエクスだ」
儂は勝ち馬に乗り、その馬肉を食べるつもりだ。
「儂は、その者を森林警備隊の同志として讃えたい。この裏切り者の代わりに正式な隊員として迎えたいと思っておる」
「「おおっ!それは凄い。エクスの奴、上手くやりやがって」」
森林警備隊は憧れの職業であり、これは破格の申し出のため、愚民共は良いニュースだと受け止めた。
くくく、エクスよ。儂の下で働かせてやる。
「もう一度、チャンスをくださいっ」
新人が食い下がってきた。
しらーっとした空気が流れる。こんなのに関わっては駄目だが、少しばかり判断が悩ましいので判断を投げるか。
「騙されし無垢なる民よ。儂はどうすればいい?」
「チャンスとか無理だろ」
「信じられない」
「お願いですっ!チャンスをチャンスを!」
良し、解雇しよう。そう思った矢先、一人の冒険者が要らぬ事を口走った。
「最近、新型結界も止まってるし、警備が弛んでるんじゃないか?おちおち冒険にも行けねーよ!」
ん?おっと、何を言い出した?危険を冒すから冒険なのだろう。しかし、どうも多数派の意見のようで雲行きが怪しい。
「分かった。諸君らの不安は尤もである。3日後に我々、森林警備隊は森に打って出る。守るだけの時代は終わった。この勇者イゼルに期待するがよい」
「「おおーっ!さすが、森林警備隊」」
新人を無視して事務所に戻り、連絡担当に指示を出す。
「新型結界が止まってるらしいぞ、明日までに稼働させなさい」
「はいっ伝えておきます」
「ふむ、頼んだぞ」
隊長室に入り、ふかふかの椅子へ腰を沈める。外では儂を讃える声が聞こえる。
「全く、儂を讃える像の記念式典も近いというのに苦労が絶えんわい。そうだ、とっておきの茶葉があったな」
魔導ポットに屑魔石を入れて湯を沸かす。これは1杯1ゴブリンの庶民には出来ぬ贅沢。
「ふんふーん♪」
お湯が沸くまで10分待って、お気に入りのカップで紅茶を飲もうと魔導ポットからお湯を注いだら、カップにヒビが入った。
「ぬぅ」
さらにイライラを高めるようなタイミングで、扉をノックする者がいる。
「いったい何だ?入れ」
「はい、失礼します。先程、指示された新型結界なのですが、『エクスくんが居ないので無理』だそうです」
「またエクスだと…」
湧き上がる怒りを鎮めようと、紅茶を一口飲んだら取っ手が折れた。
「熱っ!?」
「だ、大丈夫ですか?隊長!」
鎧の中に、お湯が。
く、くそう。エクスめ。
儂の下でこき使ってやるからのー。
「見てわからんのか!大丈夫ではないに決まっておろうが。早く鎧を脱がすのを手伝いなさい」







