10 リィナのお店2
でも、この人はおばちゃんだった。
見た目はお姉さんだけど僕は心の中でおばちゃん認定してたのを思い出した。
「あら〜そうなの?なら、これは依頼じゃなくて友人としてのお願いでどうかな。お礼にそのスライム極上まくらもプレゼントするし」
忘れてたけど、彼女は厚かましいのだ。
「いえ、お金ならありますから」
ノータイムでお断りした後に、スライム極上まくらの値札をちらりと見たら結構いいお値段だったようで、ぎょっとした。
お持ち帰りするのは決定だけど、こんなにするのこの枕!?
5分で終わる仕事で、これが無料になるのか。とても魅力的な提案だった。
だけど、僕は悩まない。
なぜなら働かないと決めたのだから。
ドヤァ。
僕は無職。つまりは無敵。
どうよ?
「ううーん。エクス君がお風呂を使えるようにしてくれないと、さっきの商品確認の話をうっかりお客さんに話してしまいそう。それに、その商品は人気で予約待ちなんだよね。友達のためになら順番をずらせるんだけどな〜」
ちっくしょう駄目だ。
全然勝てる気がしない。
極上のおっぱいを人質にとるとか、なんて卑劣な!いや、違った。僕のスライムまくらちゃん、今助けてあげるからね。
これは仕事じゃない。
友達のために魔法を2発放つだけだから。スライムまくらを助けるための聖戦だから。
・・・ぐぬう。
「し、仕方ないですね。友人のお願いならば」
「きゃーっ。エクス君、素敵!あなた本当にお婿に来ない?娘も貴方の事が好きなのよ。なんなら今お腹にいる子もつけるから」
結局流されてしまったけど、こんなに感謝されたならいいか。
こんな高待遇なら冒険者を続けていく未来もあったかもしれない。
喜ぶおばちゃんの冗談をはいはいと聞き流しつつ、居住スペースに移動して給水装置にウォーターボールとファイヤーボールを打ち込む。
ぽひゅ、ぽひゅっ。
カンカンカンカンと金属音をたてて沸騰し始める。
「はいっこれで完了。出しっぱなしにしても1年くらいなら保つと思います」
「い、1年っ!?また延びたのね」
そういえば、だいぶ延びたかも。
驚いてるおばちゃんの顔を見ると、あの人達の無茶ぶりに付き合わされて鍛えられたのも悪く無かったのかもしれない。
もう二度とごめんですけど。
なぜか労働をしたはずなのに心がぽかぽかしたような気がする。変なの?
「だれか、きたの〜?」
大きなリアクションを聞きつけて、とてとてと子供が二階から降りてきた。
「あら、リィナ。エクス君が来てくれたのよ。だから今日からお風呂入り放題だよ〜。あんた、ずっと入りたいなら、エクス君を落としなさい」
「エクス兄、ありがとーー。リィナのことすきにしてもいいよ?」
ビシッとチョップを入れる。
こんな小さな子に、なんて教育をしてるんだと信じられない目でおばちゃんを見るとテヘッとされた。イラァ。
「リィナちゃん。そういうのは、もっと大きくなってから言うんだよ」
「ええー。リィナ、おおきいのに」
両手で胸をゆさゆさされた。
うん。巨乳の血は凄いね。
僕が言いたいのは年齢のことだから。
きっと、エルフのエリーゼの目の前でそれをやったらオーガに種族進化すると思うんだけど。
「エクス君、冒険者を辞めたのならさっきの魔法でおばちゃんとひと稼ぎしないかい?」
ふと気軽に言われた。
おばちゃんに、悪気が無かったのは分かってる。
でも体が怯えた。
「すみません。もう・・・・働きたく無いんです」
「あぁ、ごめんよ。さっきのは悪かった。もう言わないから安心おし」
おばちゃんの顔が同情に歪むと不意にぎゅっと豊満な胸に抱きしめられた。
それはスライムまくらよりリアルな弾力があって、不思議と心の底から落ち着いた。
「あんしん おしー」
リィナちゃんも真似して抱きついてきた。
ふっと思わず笑ってしまう。
ドキドキはしない。惜しいことに、二人とも守備範囲外なんだな。
かわりにポカポカと暖かかった。
「ありがとう、二人とも。僕はもう大丈夫だから」
「困った事があったら一人で悩まず相談するんだよ、私達は友達なんだから」
「ともだちー」
二人の優しさに、ふっと表情が緩む。
あと、予約待ちのスライム極上まくらを無料で手に入れた。
友達って素晴らしい。
「また来ます。そういえば氷室って知ってますか?」
「ああ、たしか貴族さまが持ってるお高い魔道具だったかしらね」
ゴトン。
嬉しくなった僕は1年溶けないアイスボールをおまけでつけた。
「さてお嬢様方、貴族生活始めませんか?」
「エクス君んーー!」
「めっ!エクス兄はリィナのーー」