Episode19-5.どうやら文化祭らしい。
「おはよう、アルちゃん、奈緒ちゃん。チコちゃんももうすぐ降りて来るよ」
「おはよう、アン」
朝食を作っている俺の後ろからアンが挨拶してくる。
特に生徒会長の任期が終わってからは、平日限定だけど毎日朝食を一緒に取る事が出来る。
考えてみたら3年生って3学期は自由登校だから、アンが学校に行く期間ってあと1ヶ月ちょっとか。
ちなみに今日は文化祭が開催される。
「私にとっての最後の文化祭かぁ……なんだか感慨深いなぁ」
「良い思い出になったら良いな」
アンの席に味噌汁と焼き魚を置きつつアンの独り言を拾い上げる。
「そうだねぇ。のど自慢の出場さえなければ最高の思い出になったんだろうけどね……」
アンにチクリと嫌みを言われる。
もう先週の事なのに、まさかまだ根に持っているとは……。
ちなみにアンがのど自慢に出場が決まった後、美咲に報告したらめっちゃ喜んでくれた。
それは良かったんだけど逆にアンの機嫌が悪くなったのは言うまでもない。
「あーあ、私もタマさんとマユミちゃんの歌、聴きたかったなぁ」
奈緒が溜め息を吐く。
奈緒は残念だけど、うちの高校の文化祭があるのはド平日だし、外部の人間は入れないようになっている。
「そうだな。今度奈緒も一緒にカラオケでも行ってみるか?タマの歌って感動もんだぞ?」
「うん、行きたい!」
タマだけでなくて美咲を呼ぶのも良いかもな。ついでにレオも呼んだら自動的にマユミも来るだろう。
チコは来るかどうかわからないけど、アンは呼んでも来ないだろう。いや、それ以前にアンって受験生だし。
「おはよー」
チコが2階から降りてきた。
チコにとっては今日が初めての文化祭になる。
「えーっと、のど自慢は体育館だっけ?お姉、私、応援に行くから優勝してね」
朝っぱらからいきなりハードルを上げてきたな、チコ。
「まあ頑張るけど、あんまり期待しないでね、チコちゃん」
まあ何だかんだでアンも少しはやる気が出てきたらしい。
アンもそれなりに歌が上手いし、何より生徒会長の経験もあるからステージ慣れしている。
恥をかくとかそんな事は無いだろう。
のど自慢、盛り上がれば良いな。
機材のテストは昨日済ませた。
ちなみに今回の参加者は40人程。
「去年の倍以上集まったね。まあこれもポスターやチラシを作ってくれたレオくんや、ビッグネームを2人もスカウトしてくれたアルくんのお陰!」
美咲もかなり気合いが入っているようだ。
現生徒会長のタマが出るっていう確定情報と、おそらく誰かが意図的に流したのであろう前生徒会長のアンも出場するって噂が広まりそのお陰で参加者が増えたのだろう。
タマとアンに感謝だな。
文化祭は特に開会式とかそういった物はなく、時間が来たら始めて、時間が来たら終わるってだけだ。
ちなみにうちのクラスが開催するのど自慢は午前に体育館で開催される。
空き教室となった俺達のクラスはB組に更衣室として貸している。
そしてのど自慢の参加者は9時に体育館に集合だ。
「おはようございます、アルくん!」
タマが朝の挨拶を……ってあれ?タマの恰好が違う。
うちの女子の制服はブレザーにスカート、もしくはスラックスで、女子生徒はほぼ全員スカート姿だったりする。
だけど今日のタマは何故かセーラー服姿。
今日は毛先も遊ばせていない。
「どうですか?似合いますか?」
タマが俺を上目遣いで見る。
「お、おう、似合ってるんだけどそれって……」
「言ったじゃん、ウチはコスプレ喫茶だって」
戸惑う俺に横からマユミが話しかけてきた。
ちなみにマユミの格好は……ああ、某ゲームで毎度性懲りもなく凶暴な亀にさらわれては、怪しいイタリア人っぽい配管工に救出されているお姫様の格好だ。
毎度思うけど、もうちょっと護衛とか警備とか厳重にしとけって。
「ちなみにタマの恰好はね……えっと、タマ、例のセリフを言ってみて」
「あ、はい。えっと……」
タマは咳払いすると、両手で拳を握り、俺の顔を真っ直ぐに見る」
「私、気になります!」
うーん、俺はいったいどういったリアクションをとれば良いのだろう?
タマがいったいどんなキャラクターを演じているのか、俺には全くわからない。
そんな頭に『?』を載せた俺を見て、マユミが溜め息を吐く。
「あんたねぇ、彼女がこんなかわいい仕草で『百反田あーる』を演じてるんだから、何か言いなさいよ」
「んな事言われても元ネタがわかんねぇもん」
俺は漫画とかスマホで読む事はあるけど、それ程詳しいかって聞かれたらそうでもない。
「はぁ……ダメだねぇ。そんなんじゃハルくんに振り向いてもらえないよ?まあそんな事したら私が許さないんだけど」
いや、元々ハルを振り向かせようなんて思ってねぇよ。
取りあえず俺はタマの言ったセリフをスマホで検索してみる。
するとタマの着ているセーラー服姿で黒髪ロングの女の子がたくさん検索に引っかかった。
多分このキャラクターかな?
タマほど背は高そうじゃないけど、髪型は確かに似ている。
「そっか、悪いな、タマ。取り敢えずどんなキャラなのかはわかった」
「いえ、私もマユミさんからブルーレイを借りて初めて知りましたし……」
すげえなマユミ。わざわざ買ってるんだ。
「まあ、コスプレをするならなりきらないといけないからね。タマの演技指導はもちろん私」
やはりマユミはコスプレに関して妥協が無い。
こうして2人と話していたらいつの間にやら9時前。
アンもギリギリの時間にやってきた。
俺は参加者リストで来ている人達を確認し、段取りの説明をした。
のど自慢の開始は9時半から。
やはり話題性があるのか、続々と人が集まってきた。
今回の司会は美咲。そしてチューブラーベルを鳴らすのは審査員の1人、音楽の先生にお願いした。
まあそこらへんは俺達生徒が鳴らすと下手したら遺恨が残るからな。
これも美咲にノウハウがあったからこそだ。
久々に実感した。やはり出来る女。
まず最初は3年生の男子生徒が歌う。
うーん。やはり自らのど自慢に出場するだけあって、レベルが高い。
かなり練習をしたのか、それとも鉄板の曲なのか、カラオケ用のモニターは設置されてるんだけど見ている様子は殆ど無い。
その先輩は1番を歌い終えた時点で合格の鐘が鳴らされた。
トップバッター、そしていきなり合格した事で、すかさず美咲が先輩にマイクを向ける。
「合格おめでとうございます!」
「ありがとうございます!」
「今の喜びを一言!」
「そうですね、この喜びを桐原さんに贈りたいと思います!」
うーん、こんな所で名前が出るなんて、アンってやっぱり人気者だな。
「ではその桐原先輩に一言!」
するとその先輩は俺や出場者のいる舞台上手側に視線を向ける。
「桐原さんっ!」
あれ?この流れって……。
「あと、学校に来るのも1ヶ月ちょっとだけど、良かったら僕とお付き合いしてください!お願いします!」
うわっ、これって普通に公開告白じゃん!
ちなみに告白されたアンは俺のすぐ隣にいる。
するとアンは出番はまだだけど舞台に歩いていき、頭を下げて「ごめんなさい」をした。
それを見た告白した先輩は、肩を落とし舞台下手側に去っていった。
「すげえな、一刀両断じゃないか」
「実はあの人からの告白ってもう5回目だからね。私も断り慣れてるの」
アンが小さく笑う。
そうか、アンってやっぱりモテるんだな。
でも4回振られてもまた告白してくるなんて、そんな不屈の精神は見習うべきか。
「アルちゃんからの告白だったら何時でもOKなんだけどねぇ」
おいおい、周りに聞こえるだろ。
アンは冗談っぽく俺を見て笑う。
俺はそんなアンの一言が周りの出演者、特にタマに聞かれてないかを特に気にしたのだった。
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