Episode18-2.どうやら彼女の勝ちらしい。
「俺さ、はっきりとは覚えて無いんだけど、多分幼稚園児の頃さ、クリスと……タマ、2人に会った事あるって言ってたじゃん?」
俺は誤魔化さずに正直に伝える事にした。
だけどまさかいきなり昔話が始まるとは思わなかったのだろう。
俺の話を聞くタマは不思議そうな表情で俺の顔を見る。
「は、はい、ママから聞いた話ですよね?私、アルくんに名前をもらったって聞いた時は、びっくりしましたけど、すごく嬉しかったです!」
クリスだけでなくタマも俺の名付けが嬉しかったようだ。
そう考えると、幼稚園の頃の俺、グッジョブだ。
「その俺が幼稚園児の頃によく遊んでもらっていた女の子がいたんだけど、その女の子がタマの素顔に似ててさ……多分今考えると、その女の子はタマかクリスのどちらかなんだろうけどさ。それで何か繋がりがあるんじゃないかって思って付き合ったんだ。タマにとっては失礼な話だよな」
それを聞いてタマはどう思うんだろう?呆れてしまったり、愛想を尽かされたりするんだろうか?
付き合い始めた時、俺はタマの事なんて何も考えてなかった。
それどころか付き合い始めた頃は厄介な奴と付き合ってしまったなんて思ったし。
しかしタマはそれを聞いて、呆れる事もなく、何故か焦ったような表情で俺を見上げる。
「あ、あのっ、私だってアルくんを選んだ理由が『わたしの一番苦手なタイプ』でしたから!全然失礼なんかじゃないです!むしろ私の方が失礼極まりないって言いましょうか……」
そう言えばそうだったな。
最初はタマの男性恐怖症が治るまでの関係だと思ってたら、お互いいつの間にか好き同士になっていた。
「私は……アルくんに出会う前までは誰かを好きになった事なんてありませんでしたけど……それでも私は……アルくんに出会って、恋というものを知りました。確かにマユミさんみたいな恋愛も素敵だなって思います。けど、私はアルくんが近くにいてくれる今が何よりも幸せなんです」
そしてタマは少し冷静になったのか、照れて俯いてしまった。
言われた方の俺も照れてしまう。
だけどタマはそれでも頑張って続きを話しだす。
「あの、私、今、アルくんに恋してます。アルくんが好きって部分では、マユミさんのレオちゃんへの想いにも全然負けてないです」
うわっ、何だかそんな事を真っ正面から言われると、ちょっと照れるな。
どうやら俺はマユミの片思いを見て、自分の恋愛がこれで良かったのかって不安になったらしい。
恋愛は人それぞれ。
そして俺の隣には俺を想ってくれるタマがいるんだ。
これほどの幸せって無いよな。
「あ、あの……アルくん……。手、繋いでも良いですか?」
タマが手を差し出す。
今まで他の生徒に見られる事を心配をして、駅までは手とか繋がなかった俺達だけど、まあもう俺達が付き合ってる事なんて周知されてるだろう……マユミは体育祭まで知らなかったみたいだけど。
俺はタマの差し出した右手を掴み、そして駅までゆっくりめに歩いていったのだった。
そして翌日の放課後。
「アルくーん!」
今日もタマは俺を迎えに来た。
「あ、アルくん、タマちゃんが迎えに来たよ!やっほぅ、タマちゃん!」
レオがタマに元気に挨拶をする。
今日はレオも部活は休み。3人で一緒に帰ろうって話しになっていた。
「ああ、ちょっと待ってくれ」
俺も帰りの準備を済ませる。それにしても、レオってなんでいつも俺より帰る準備が早いんだろうか?もしや置き勉でもしてんのか?
まあ華奢なレオの場合、重い教科書を毎回持って帰るのも大変だろうけど……。
そんな疑問を持ちつつ、俺達は学校を後にしたのだった。
「あのさ、何だか視線を感じね?」
以前、アンとチコが、タマのストーキングをしていたせいだろうか?
どうも視線に敏感になっているような気がする。
「僕は何も感じないけど……?」
「私も何も……」
うーん、気のせいだろうか?でもちょっと気になるな。
「あのさ、レオ、タマ。ちょっと聞いてくれないか?」
俺はとある作戦を思いつき、2人に伝えたのだった。
駅に真っ直ぐに向かう通学路から少し外れた路地。
そこは道幅があまり広くなく、そして住宅が建ち並んでいる。
俺達3人はそこを駅から反対側に曲がり、住宅街の壁に隠れる。
この住宅街は比較的小さな碁盤の目のような形状をした場所なんだけど、この区画だけは堤防が近くて三角形の区画になっている。曲がってすぐに走り出した俺達はその区画を1周し、そして追跡者の後ろに回り込んだ。
「よう、マユミ。駅はこっちじゃねえぞ」
「な……何であんたがここに!?」
いや、それはこっちのセリフなんだがな。俺はだいたい予想がついてたんだけど、追跡者はマユミだった。
「はぁ……ふぅ……。もう、アルくん足早すぎるよ……」
「あ、汗……かいちゃいました」
遅れてレオとタマも追い付く。
2人ともたった200メートル足らずの距離なのに息を切らしすぎだろう。
「で、何の用だ?学校からずっとつけてきただろう?」
俺に問い詰められたマユミはすごくばつの悪そうな表情で俺から目を逸らす。
まあマユミの事だからレオ絡みではあるんだろうけど……。
「や、山田くんが……」
いや、もうマジでその呼び方やめてくれ。ゾクッとするんだ。
「山田くんがレオくんを毒牙に掛けないか、見張ってたの……」
「ええっ!?僕ってアルくんの毒牙に掛けられるのっ!?」
だからレオもそんな戯れ言信じるんじゃねえよ!
「ええっ!?アルくん、レオちゃんを毒牙に掛けるつもりなんですかっ!?って毒牙っていったい何なんです?」
いや、だからタマまで信じるなよ!って言うか、そんなの俺に聞くなよ!
「あのさぁ、俺が言っても信じてもらえないのはわかるけど、俺はマユミが思ってるような奴じゃないぞ?」
目を逸らしていたマユミは今度は俺を見上げている。多分あの目は全く信じてないようだな。
「あのさ、俺の事を疑ってんならそんなコソコソ後つけないで、俺らと一緒に帰ったら良いじゃないか」
「あ、それ良いですね!私、もっとマユミさんの色んなとこ、知りたいです!」
俺の提案にタマものってくる。
「うん、マユミちゃんが何を言ってるのかよくわからなかったけど、僕も賛成だよ。あ、それと部活のある日も一緒に帰ろうよ!」
レオも乗り気だ。
同じ部活、同じ通学路。もしかするとレオとマユミはそのうち付き合いを始めるかもしれないな。
「え……そんな……良いの?」
まるで信じられないというふうな表情でマユミは俺達を見る。
いや、一緒に帰ろうってだけなんだけどな。
もうちょい気楽に考えられないもんか……。
これってあれだな。思い込みの激しいマユミの事だから、こんな幸運なんて有り得ないって思ってたんだと思う。
難儀な性格だな、本当に。
こうして俺達はいつもの帰り道にマユミも加わって帰る事になったのだった。
「あ、そう言えばさ……アルくんの毒牙ってなんの事?」
「知らねえよ」
そして俺はレオの疑問には知らない振りをしておいたのだった。
《今日はありがと》
その日の晩、部屋で勉強をしていたら、マユミからメッセージが届く。
《いや、俺に対する誤解を解く為だ。ずっと言ってるだろ?俺は別にレオもハルも狙ってない。去年のベストカップルもどうせ誰かの悪戯だろう。だいたいマユミだってガセネタ信じてたじゃないか》
《ああ、確かに》
おっ?マユミにしては素直だな。
これはあれか?多少は誤解が解けてきたか?
《だから私はこれからは私の見たものを信じる事にするわ!私の目で見極めてあげる!覚悟なさい!》
どうやら完全に信頼を得たわけでは無いらしい。
でも1歩前進だな。
俺は妙な達成感を得つつ、スマホを充電コードに繋ぎ、勉強を再開したのだった。
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