Episode2-2.どうやら俺には血の繋がってない姉と妹がいるらしい。
「チコー、今良いかー?」
「既読スルーするアルなんて知りませーん」
そんな事を言いながらも部屋の扉を開けてくれるチコ。
俺の幼なじみであり今は妹でもある。
チコとそして姉のアンは2人とも桐原姓を選んだ。
別に妃さんと別れた自分の父親の姓に固執している訳ではなく、今更姓が変わるのは面倒ってだけの理由だ。
チコって見た目は結構女の子らしい。
肩まで伸ばした少しウェーブ掛かったフワフワの薄い色の髪を緩めのおさげにしている。
確かに見た目はすごく女の子らしいし、かなりの美少女って言えるんだけど、口を開くとその真逆。結構口が悪い。
身長は桐原家の人間はみんな低いんだけど、その中でも一番低い、身長138センチ。
何気に小学生の奈緒よりも低い。
「で、何の用?」
扉を開けてくれたのは良いんだけど、機嫌は悪いみたいだ。
だいたいそっちが部屋に行って良いか聞いてきたからこっちから出向いただけだし。
「いや、何の用なのかな?って思ってさ。もしかして今日のストーキングの事か?」
するとチコは真っ赤な顔をしてそっぽを向く。
「す、ストーキングなんかじゃねーし!全然違ーし!これは調査だし!幼なじみとして、そして妹として、アルの彼女がどんな人なのか、調査しないといけねーし!」
うん、それなら俺の目を見て話そうな。
「でさー、なんでアルってあんなアホ女と付き合ってんのさー?」
実はチコがちゃんと調査できてない部分に、たまに顔を出すタマの良いところがあるんだがな。
案外聞き分けが良いとことか、思ったより素直なとことかな。
それに案外美人さんなんだぞ?
メガネがちょっぴり瓶底気味だけど。
何だかんだでバックグラウンドが薄っぺらい女だから、裏を作ろうと頑張ってるけどなかなか上手く行かなくて、逆に裏表のない女なんだぞ、あいつは。
それに……。
「アホって部分ではチコも人の事言えないしな」
そう、この俺の幼なじみにして妹のチコ。
こいつも実はかなりアホの子だったりする。
今から約2ヶ月前に起きた『西浦町ニュータウンの奇跡part2』の主役がこいつだ。
ちなみに今から2年と2ヶ月前に起きたpart1の主役は姉のアンだったりする。
よその地区では去年、『桜台団地の奇跡』と呼ばれる事件が起こったらしいけど、その時の主役が誰だったかのは、まあだいたい察しがつく。
あんまり奇跡を激安で叩き売りすんなよな。
「ま、別に。あいつの男性恐怖症が治ったらどうせ別れるだろうしな」
実際にその事は俺と仲の良い人には言ってある。
アン、チコ、レオ、委員長の4人だ。
「でもさ……それって本当にそれだけで済むのかな?だってアル、そのまま好きになっちゃったりしそうじゃん?」
たまにチコはこういった鋭い事を言う。
しかもこいつの場合は格好をつけてるだけのタマと違って本質をついてくるからちょっと怖い。
その能力をもうちょっと勉強に活かせればな。
「別に。それにお前が心配する事でもないだろ?」
俺がそう言うと身長差が50センチ近くある俺を見上げていたチコはまた目を逸らす。
「べ、別に心配なんてしてねーし!身内だからしゃーなしだし!」
うん、それなら俺の目を見て話そうな。
昔はもうちょい素直だったのに、今は絶賛反抗期中か。
「ま、良いか。今日の夕食はアジフライな」
そう言って俺は踵を返す。
「それまでちゃんと勉強しとけよ~」
そして俺は右手を振って、まるで捨て台詞を吐くように階段にさしかかると、背後から投げられたクッションがポコッと俺の背中に当たったのだった。
うん、これはすごく良い鯵だ。
頭が小さくて身が分厚い。
尻もしっかり窄まって、ヒレの裏もしっかり赤い
何だかアジフライにするのも勿体ない気がしてきた。
まあでもキャベツも買ってきた事だしな。
今日はアジフライとお味噌汁。そこに山田家の家宝、ぬか床に入れておいた、今が旬の長芋だ。
鯵を開いて骨と身に分けて塩を振って生姜汁を垂らす。そして冷蔵庫に入れてしばらく寝かせると身が締まって臭みも取れる。
「ただいまぁ」
おっ、アンが帰ってきた。
ちなみにこの家は旧桐原邸にも玄関があるけど、そちらは閉め切って山田家の玄関1本で出入りしている。
ちなみにその案を出したのはアンだ。
何でもそっちの方が家族っぽく思えるからって事らしい。
さすがはこの家で最年長ってだけあって考えがしっかりしている。あとはそのしっかりした性格をもうちょっと勉強に向けてくれれば……。
そうだな。そう言えばアンも後で部屋に来たいって言ってた。
鯵の下処理も出来た事だし、玄関まで迎えに行ってご機嫌を取りに行っとこう。
「おかえり、アン」
「えーっと、どなたですか?私、既読スルーをするような冷たい弟を持った覚えは無いなぁ」
ダメだ。アンもご機嫌斜めだし。
でも完全に無視される程不機嫌ではないらしい。
ちなみにこのアン。
勉強は出来ないのに何故か全生徒から人気があり、現在は我が『県立八方台高等学校』の生徒会長をしている。
最近は生徒会が忙しいのだろう。俺達4人の中では一番遅く帰る事が多い。
見た目は背中まで伸びた少しウェーブ掛かったフワフワの薄い色の髪を、ふんわりと後ろで縛っている。
確かに見た目だけならタマに負けず劣らず理知的に見える。
それに加えて妹同様の美少女っぷり。いや、メイクの技術がチコよりもしっかりしてる分、チコよりも目鼻立ちがしっかりして見える。
まあさっきのチコはすっぴんだったしな。
身長はチコよりもほんの少し高い141センチ。
それでもやっぱり小学生の奈緒よりも背が低い。
「で、アルちゃんが玄関まで来てくれるなんて珍しいじゃない。どうしたの?」
いや、どうしたの?ってそっちが部屋に行って良いか聞いてきたんじゃん!
「いや、だからrineで部屋来るって……何の用事だよ?もしかして今日のストーキングの事とかか?」
するとアンは真っ赤な顔をしてそっぽを向く。
ここらへん、やっぱりチコと血を分けた姉妹ってだけある。
「す、ストーキングなんかじゃないし!全然違うし!これは調査だし!幼なじみとして、そしてお姉ちゃんとして、アルちゃんの彼女がどんな人なのかを調査しないといけないし!」
うん、それならアンも俺の目を見て話そうな。
「あの、アルちゃんにあの子はあまり相応しくないと思うの。アルちゃん、賢いんだから、もっと成績の良い子の方がお互いの為って言うか…………」
そんな事を『西浦町ニュータウンの奇跡part1』の主役が仰る。
いや、心配してくれてるのはわかるけどさ。
そして俺は先月起きた事件を思い出す。
そう、タマに告白をされ、メガネパンチを食らったその日だ。
俺は失神したタマをお姫様抱っこして保健室に連れて行く途中、一番見られてはいけない2人にその場面を見られてしまった。
「ぁあ──────!!アル!?何女の人を拉致してんの!?」
って、チコ、言い方ぁ!
「ちょっ!アルちゃん!それだけはダメ!!こ、これ以上罪を重ねないで!」
って、アン、俺がいつ罪を犯したんだよ!?
下校途中の2人は取りあえず無視をして、俺は保健室に駆け込み、養護教師に事情を説明したのだった。
「ふぅ……」
一仕事終えた俺は保健室を出る。
「帰るか……」
なんて独り言を言いつつ帰ろうとすると、両側からガシッと腕を掴まれる。
「あのね、アルちゃん。さっきから保健室の出口に立って待ってたって言うのに無視するなんて、お姉ちゃん、悲しいわぁ」
「アルっ!あんた今わかってて無視したっしょ!?」
両腕を掴まれた俺は、かの有名なロズウェル事件の写真が脳裏に浮かんだのだった。
学校からの帰り道、アン、俺、チコの3人は商店街へ向かっていた。
その道すがら俺は今日の出来事を、恥ずかしいから記憶の少女の事は言わずに説明した。
「で、それでどうして付き合う事になるって言うのよ!?」
チコが尋ねてくる。
ま、そうくるよな。
俺は付き合う理由とか、完全に端折って説明したんだ。
さて、どうやって誤魔化そうか……?
「え、えっと……顔?」
嘘は言ってない。実際にタマの素顔を見て、記憶の少女の面影を感じたんだ。
しかしそれを聞いたアンとチコが今までの10年間の付き合いで、一度も見た事のないような、そんな表情をする。
「私、まさかアルちゃんがそんな面食いだなんて思ってなかったわ」
アンは呆れたような表情で俺の顔を見るのだった。
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