Episode12-3.どうやら知られてしまったらしい。
取り敢えず鰻の注文を終えた俺は、クリスとタマをプリンセスキリハラの部屋に案内した後、タマを連れてリビングに戻った。
取りあえず夏休み中も暇があったら勉強するようにとは言ってあったんだけど、その成果を見たかったってのもある。
そうだな。例えば2年3学期の学年末テスト。
それで良い成績を取れば、大学進学への道が開けるかもしれない。
俺自身の志望校はまだ決まってないけど、取りあえず学年約300人中、50位以内を目標としよう。前回、1学期の期末でのタマの順位は200位ほど。まだ平均には届いてないけど、段階的に無理せずだいたい50位ずつ順位を上げていけたら良いと思う。まあ理想はもっと上げられたら良いんだけど、まあ高望みは出来ないしな。
夏休み中の成果は上々だったようだ。
タマ自身、勉強方法がわからなかっただけで、1学期にそれを身に付けてからはぐんぐん伸びてきているのがわかる。
何気に集中力はある方みたいだし、そこに素直な性格も相俟って言われた事はちゃんと実行出来るって事だな。
それにしても、なんでこれだけ出来るのに勉強について行けなかったんだろうか?
俺がそれを尋ねると、いつも4月頃にインフルエンザに罹っていたらしい。そりゃ基本が抜け落ちる訳だ。
俺は経験した事無いけど、レオ曰わく一度勉強についていけない項目が出来てしまうと、そこに固執してしまって他が疎かになってしまう。そうなると全然勉強についていけなくなって、そのうちやる気をなくしてしまうんだそうだ。
確かにレオも砂浜で大きなお城を作っている間、俺達の存在に気付かない程集中してたもんな。
その集中力が仇になる事もあるって事か。
タマ自身は学習意欲が高く、わかる事自体に喜びを覚えるようだ。
これならもしかすると、微妙な確率だけど、本当に卒業後、俺と同じ大学に行けるかもしれないな。
「へぇ……。アルが勉強出来るってのは知ってたけど、タマもすごく頑張ってるんだね」
クリスがアイスを食べながら俺達が勉強してるところを覗き込む。
「そう言えばさ、クリスは大学とか興味無いのか?」
俺は気になってた事を尋ねてみた。
クリスはあくまで自己申告ではあるんだけど、成績は良かったらしいし。
「そうだねぇ。例えばこの先売れなくなってきたら、大検受けて女子大生デビューってのも良いかもね」
そう言ってクリスは笑うけど、売れなくなったらそれはそれで大変じゃないのか?
まあクリスの場合、売れなくなるとこなんて、想像つかないけど……。
って考えてみれば、既に社会人とは言え、まだ17歳のクリスがこんな男の家に出入りしている事自体が世間一般に知れ渡ったら大変じゃないか?
例えば週刊誌に写真付きで掲載されるとか……。
「クリスってパパラッチみたいなのは大丈夫なのか?もしウチに出入りしてる事が週刊誌みたいなのに掲載されたら大変じゃね?」
するとクリスはアイスを食べ終わり、何か自信あり気にドヤ顔を見せる。
「そこらへんは抜かりないよ。普段からここは親戚の家って事務所には言ってあるしね!それに私、アイドルでも無いんだから、そこまで清純なイメージっていらないでしょ」
そんなもんなのか?芸能界の事はよくわからないな。
「でも俺が例えばクリスのファンだったとしたら、クリスが恋愛系のスキャンダル起こすのは嫌だろうな……」
「んー……そんなもん?」
クリスが不思議そうな表情をして俺を見てくる。俺ってそんな変な事言ったか?
「あっ、あのっ、私は相手によるかと思います!例えばクリスちゃんのお相手がスッゴく素敵な人なら、逆に好感度が上がります!」
タマ、勉強してたかと思ってたけど、聞いてたのかよ。
そうか。ファンが納得さえしたらスキャンダルもスキャンダルでなくなるんだな。
っとなると、一介の高校生である俺が相手だと、絶対にスキャンダルになるんだろうな……なんて、何考えてんだよ、俺は。
その後も勉強は順調に進んでいき、魚正に鰻を頼んでおいた時間になった。
「タマ、ちょっと俺、夕食の買い物してくるわ。取りあえず俺がいないからってサボるなよ?」
「あ、はい」
タマはいまだに集中力が持続しているみたいで、こちらを見ずに返事をする。
まあタマなら言われた通りするだろう。
「あ、アル。私もついてくー」
クリスは何か買うものがあるのだろうか?買い物について来た。
「どうだ、クリス。タマって気付きそうか?」
商店街への道の途中、俺は一緒に歩くクリスに尋ねる。
クリス本人は長期戦を覚悟しているみたいだけど、クリスがこっちに足繁く通う第一の目的は、妹のタマに会う為だ。
だけど肝心のタマが姉の存在に気付かない。
姉には会いたくないって言ったタマに対する気遣いで、自然に気付いて貰おうって作戦なんだけど、タマの元々の察しの悪さと、クリスに対する崇拝具合でどうも進展している様子はない。
って言うか、クリスも多分遠慮してるんだろうな。
クリスってモデルもしてるから結構大胆な性格をしてそうなんだけど、肝心なところでヘタレだ。
クリスとタマが初めて会った時、クリスが目の前にいるタマに話し掛けられないでいたところを見てそう思った。
「もう、全然。そんな雰囲気さえもない。でも、最近はそれでも良いかなって思えるようになってきたって言うか……」
何だかクリスが珍しく弱気になってるように思える。
「あのさ、今、私、普通にタマと友達してんじゃん?もしタマが気付いたら、この関係が壊れるかもしれないって考えるとちょっと怖くなってきちゃって……」
ああ、確かに漫画とかでありがちな話ではあるな。って言ってもそれって男女の関係にありがちな話だけど。
「ま、クリスが別にそれでも良いのなら別に何も言わないけどな。ああ、それと明日、タマが母親と会って話をするって事になってるんだけど、クリスは母親に会いたいって思わないのか?」
そう言えば、クリスの口から母親の話が出た事はない。もしかして会いたくないのだろうか?
「ママには……会いたい気持ちと会いたくない気持ちが半々かな?言うなれば、私を残していった人だしね。まあ事情はあるんだろうけど、そう簡単には割り切れないんだよね」
確かに子供の立場では窺い知れ無い事情があるんだろうな。
クリスはそれを理解してるけど、それでも感情的にはまだしっくりとはきてないんだろう。
ウチの母親みたいに近くに住んでいて気軽に会えるような存在だったらもうちょっとすんなりいくんだろうけどな。
「もしかしたら、タマには言ってないだけで、ママは私がモデルをしてる事に気付いてるかもしれないけどね」
かもな。髪色が違ったりはしてるけど、タマと良く似た女の子が『橋田』姓を名乗ってメディアにちょこちょこ出ていて活躍してるんだ。
気付いていても全然おかしくはないか。
そんな事を話しているうちに俺達は商店街に到着し、夕食の食材を手に入れて、家に帰ったのだった。
家に帰るとリビングでは俺に言われた通り、タマが1人で勉強を続けていた。進み具合を見てみると、たいした躓きなどもなく、順調だったようだ。
「タマ。結構頑張ったな。ほら、ご褒美のアイス」
そう言って、俺は買ってきたバニラアイスとスプーンをタマに渡した。何だかペットにおやつを与えるような、そんな気分になるな。名前もタマだし。
「ねえ、タマ。明日ってタマのママと、いつ頃、どこで会うの?」
ちょうど良い塩梅に柔らかくなった食べ頃のアイスクリームを食べているタマにクリスが尋ねる。
「えっと、14時に駅前のヨネダコーヒーで待ち合わせです」
タマは正直に答える。クリスが何か企んでいる事に全く気付いていないようだ。
そしてそれを聞いてクリスはまるでドラマの悪役のように、ニヤリとした表情に変わるのだった。
「あのさ、タマ。私、タマのママを見てみたい!一緒に行って良い?もちろんアルも一緒に!」
タマにそんな提案をするクリスの表情はまるで悪戯っ子のような、そんなふうに見えたのだった。
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