Episode9-5.どうやら俺は間違ってしまったらしい。
モニターに映っていたのはクリスで間違いはなかった。
服装を見ると最初に入ってきたメガネ姿のクリスで間違いない。って事は、もう1人、委員長にしがみついているのは……。
「深呼吸して。タマ……だよな?」
おそらくタマだと思われる人物は委員長に寄りかかってないとまともに歩けないのか、深呼吸の後、そのままの姿勢で俺の事を目を細めてジーッと見てくる。
「あ、アルくん……ですか?」
やっぱりこのクリスの正体はタマだった。
でも何でこんな姿なんだ?って言うか、その髪型って……それに髪色までクリスと似たような色になってる。
「タマ、もしかして、夏休みデビューか?」
「違いますっ!」
俺の疑問にタマは即座に答える。
「びっくりした?アルくん。タマちゃん、めっちゃきれいじゃない?」
悪戯っぽい表情で委員長が尋ねてきた。
あれ?委員長も何だかいつもより垢抜けた雰囲気になってるぞ?
そしてクリスもクリスで委員長と同じような表情をしている。
「ああ、びっくりした。タマ、すごくきれいだ」
遅れてアンとチコ、奈緒の3人もタマの姿を見て驚いている。
まあアンはクリスとタマが双子だって事を知っているから一応驚きはしていたけど、チコと奈緒程ではなかった。
驚かれたタマの方は恥ずかしいのか俯いてしまう。
「それにしてもなんでこんな恰好をしてるんだ?」
俺の質問には委員長が答えてくれた。
「最初はね、私の一言からだったんだけど……」
なんでもクリス、委員長、タマの3人は駅前のレストランでランチしながらお喋りをしていたらしい。
すると委員長がメガネ姿のクリスを見て、タマとクリスって結構似てるねって話から、タマの変身計画を思い付いたとの事だ。
「でね、食事が終わったらすぐにヘアカラースプレーを買いに行って、私の家でタマちゃんを変身させてきたの」
最後まで委員長がしっかりと説明してくれた。
同じメイク、同じ髪型にしたらそりゃ双子だもんな。同じように見えるよ。
「でさ、アルに少しでも早く見せてあげようって事で、ちょっと早かったけど帰ってきたの。どうよ!?カリスマさんのメイク術!」
クリスがドヤ顔になる。
でも残念ながら、それでもタマにはクリスが生き別れの姉だって気付かれて無さそうだ。
俺はそんなクリスがちょっと不憫に思えてきた。
そしてタマはさすがに不便さが勝ったのか、メガネを掛ける。
うん、確かにメガネ姿もクリスにそっくりだ。
「で、ついでに私もクリスと同じメイクしてもらったの!どう?アルくん」
委員長はいつもより目がくっきりしていてその周りが明るく見える。
「うん、委員長もいつもよりちょっと大人っぽく見える。すごいな、メイクって」
委員長って元々目が大きくて童顔だけど、このカリスマメイクで少し格好良くなった。
委員長もご機嫌だ。
「あー、もう、今からでもレオを呼ばない?あの子を一番変身させたいのに!」
俺はそんな悔しそうにするクリスを見て、レオがクリスの毒牙にかからなくて本当に良かったと思ったのだった。
「タマ、あと委員長。今から買い物行くけど夕食は食ってくか?」
「私は良いよ。アルくんの料理は惜しいけど、夕食は家で食べるってママに伝えちゃったし」
「あの、私も今日は母がいるので……」
2人に振られてしまった。
まあ夕食が用意されてるんなら仕方ないよな。
ちなみにタマはさすがに不便なので、今はメガネを掛けている。
「あ、アル。私、ついてく」
珍しくチコが買い物についてくる。ああ、そう言えば、アイスを買ってやる約束だったな。
こうして俺とチコは2人で夕食の買い物に出たのだった。
時刻は16時過ぎ。
少し日が傾いて来たとはいえ、まだまだ日差しは鋭く、アスファルトの照り返しは俺達を蒸し料理にでもするかのように思えてくる。
「あのさ、アル。タマ先輩だけど、スッゴくきれいになってたよな……」
「そうだな」
「でさ、クリスちゃんそっくりだったよな」
「そうだな」
「アルってやっぱりクリスちゃんが好きなんだよな?」
「そうだな……って、何言ってんだよ!?」
ボーッと答えてたらとんでもない質問をされていた。
「ふーん、やっぱりアルってそんな不誠実な奴だったんだな」
「ってちょっと待て。暑くて適当に答えてただけだって」
チコの表情を見てみると、悪戯っぽい笑顔で俺を見上げていた。
こ、こいつ……からかいやがったな!?
焦る俺を見てそんなに面白いのか、チコは。
「じゃあさ、昨日の続き、今、ここで聞かせて!」
チコの表情が真剣なものに変わる。
「私、アルの事、信じて良いんだよね?」
チコの俺を見つめるその瞳は、何だか俺に縋るような、そんなふうに見えた。
「ああ、大丈夫だ」
タマももちろんそうだけど、そんな目で見てくる妹を裏切る事なんてできない。
俺は見上げてくるチコの顔を真っ直ぐに見据えて誓ったのだった。
するとチコは先ほどの表情とはうって変わり一気に上機嫌になる。
「うん、やっぱりアルだ!あのさ、私、アルのそういうとこ、大好きだぜっ!」
「暑いのにしがみつくんじゃねぇよ」
こうして俺はこんな暑苦しい中、左腕にしがみついてくるチコの振り払いながら商店街へ歩いていったのだった。
「ただいまぁ」
結局チコに押し切られる形でダッツを人数分、7つ購入する事となってしまった。
まあみんなも喜ぶだろうから良いか……。
「おかえりー」
奈緒が出迎えてくれた。
ってもしかして化粧してる?
「えへへ、クリスちゃんにお化粧教えてもらってたの」
さすがに普段化粧をしていない奈緒が化粧をするとちょっと違和感があるな。
「ちょうど今ね、アンちゃんがお化粧してるとこ。高校生になったら毎朝これするのって、面倒だよね」
いや、別に必ずしもしなきゃいけないって事は無いけれどな。
うちのクラスにも多分何人かはノーメイクの女子だっているし、だいたい校則であんまり派手なメイクは禁止されてたはず。一部守ってない人もいるみたいだけど
まあクリスのメイクは特別な日用だな。
「あ、アルちゃん、チコちゃん、おかえりー」
アンと委員長、それにタマの3人も奈緒に遅れて出迎えてくれた。
おお!いつもナチュラルメイクのアンが今は何だかそのままモデルができそうなメイクになってるぞ。
「チコちゃんもクリスちゃんにメイクしてもらったら?良い勉強になるよ?」
「うん、でもその前に顔だけ洗ってくる」
結局チコもモデルメイクをしてもらうみたいだ。
取りあえず俺は買って来たものを冷蔵庫に入れたのだった。
「あ、アル……どうかな?」
珍しくチコがもじもじしながら尋ねてくる。
おお、何だかチコの見た目が女の子っぽい。
いや、普段から見た目はしっかり女の子、いや、可憐な少女なんだけど、口を開いたら一気に印象が変わるんだもんな、チコって。
それが今回のメイクでさらにその特徴が際だったって感じだ。
「うん、チコも結構大人っぽく見えるな」
チコって背も140センチいってないし、下手したら小学生と間違われるレベルなんだけど、これなら何とか中学生に見えるかな?ってレベルにはなってる。
「あ~、楽しかった。これでレオがいたらなぁ~」
まだそんな事言ってるし。
「お疲れ、クリス」
そう言ってクリスにアイスを渡す。
「お!さんきぅ」
クリスはアイスを受け取って笑顔になる。
「タマも、ほら」
「あ、ありがとうございます」
タマのその顔を見るとメガネを掛けていてもドキッとしてしまう。
やっぱりタマって本当、きれいなんだよな。
本人は自覚あるんだろうか?
俺は美味しそうにアイスを食べるタマを見ながらそう考えたのだった。
「じゃ、2人を送ってくわ」
「うん。2人とも、気を付けてね。アルちゃん、ちゃんと送ってくのよ」
「じゃあね、タマ。美咲はまた明日、ラジオ体操でね!」
いつも通りタマと委員長は俺が送っていく事になった。
みんなに見送られながら家を出る。
さすがに先ほどよりは気温が低く感じられた。
「じゃあ2人とも、行くか」
こうして俺とタマ、委員長の3人は駅へ向かったのだった。
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