Episode1ー1.どうやら俺に彼女ができたらしい。
スタート♪
「えーっと、山田有真人、通称アルくん、16歳、高2、小学生の妹がひとり……だったけど、最近高校生の妹と姉が増えた、身長は185センチ、体型はガッシリ、イケメンだけど目つきが鋭くて、仏頂面を超えた表情筋が死んでるレベルだから誰も寄って来ない、成績は上の上、運動は超得意、部活は帰宅部、家事万能、交友関係は僕と他は数名の女子のみ、彼女がタマちゃん、趣味は……」
ってお前もかよ、レオ。
ただ、この”レオ”こと『由比 怜央成人』は別に隠れてこちらを見ている訳では無い。
単に俺の後ろの席で俺の背中を観察しながらメモを片手に呟くだけで、アンやチコのように悪気は全くなさそうだ。
いや、あの2人も特に悪気がある訳ではないけれど。
ちなみにこのレオ、名前の由来はとある『偉大なサッカー選手』。
母親が茨城県の鹿嶋市出身で、その選手のファンだった事からこの名前になったんだとか。
でも名前が長いって事で、周りのみんなからはレオって呼ばれ、結局親からもそう呼ばれている。
やっぱ長くて面倒なんじゃん。
ちなみに俺の名前も似たような由来だ。
レオの母親と同じく父親が鹿嶋市出身で、我が父曰わく『偉大なサッカー選手』から名前を貰ったって事らしい。
でも名前が長くてちょっとかわいそうって事で、隣に住む『プリンセスキリハラ』って名前で活動している占い師のおばさんが、アルってあだ名をつけてくれた。
するとそのあだ名が世間一般、特に俺の周りの大人が妙な憐れみの目でそう呼ぶようになり、俺の親もアルって呼ぶようになった。
やっぱかわいそうって思ってたんじゃん。
ちなみにその俺にアルって名前を授けてくれたプリンセスキリハラこと、山田 妃は何を隠そうアンとチコ、姉妹の母親だったりする。
「レオくん!アルくん!何してんのかな?」
「あっ、委員長!僕はアルくんの調査だよ?」
机や椅子を薙ぎ倒しながら笑顔で俺達に話し掛けてきたのは委員長。身長は普通、体型はスレンダー。笑顔が素敵ないわゆるパワー系女子だ。
本名は……知らない。まあ委員長で済むからそれで良いのだろう。
俺の顔を見ても全然怯む事の無い、なかなか骨のある女子だったりする。
そんな委員長はレオのつけてたメモを奪い取り、一通り目を通す。
「むー、レオくん、もっと踏み込んだ情報って無いのかな?ほら?性癖とかアルくんとレオくん、2人の関係とか……!」
何だか委員長の目、怪しく光ってるぞ?
「レオはわからんが、あいにく俺の性癖はノーマルだぞ?一応彼女だっているしな」
そう、俺にはまだ付き合い始めて1ヶ月しか経ってないけど彼女がいる。
「酷いよアルくん!僕だってちゃんと女の子が好きなんだからね!」
レオが俺に抗議の目を向ける。
わかってるよ、そんな事は。
問題があるとすればそれはお前が男に見えない事と、周りの腐女子どもが俺達を見て興奮している事だ。
本当にこいつってチ○コついてるんだろうか?
たまにその辺りが疑問に思えてくる。
「何言ってんの!去年の学祭でベストカップルに選ばれた2人なのに!ちなみにウチの学校で初めてらしいよ?男子同士がベストカップルに選ばれるのって!」
そうなのだ。
俺とレオは何故か去年、学祭でベストカップルに選ばれている。
って言うか、この学校ではそんなファンタジーなイベントが割と本気で開催されてるんだから困ったもんだ。
まあ、でも今年は彼女もできた事だし、去年みたいな事にはならないだろう。
「アルくーん!」
教室の出口付近で俺を呼ぶ声。
タマが俺を迎えに来たらしい。
「あっ、タマちゃん、やっほー!」
レオが出入口のタマに向かって手を振る。
「あっ!レオちゃん!今日もお元気ですか?」
タマがレオに向かって手を振る。タマがここまで愛想良く振る舞える男子を俺は他には知らない。
いや、むしろ彼氏である俺に対してより愛想が良い。……まあ良いけどさ。
「じゃ、迎えが来たから帰るわ。じゃあな、レオ、委員長。あ、委員長は散らかした机と椅子、ちゃんと元に戻しとけよ」
委員長に釘を刺す事を忘れずに、俺はタマと並んで帰路につく。
そう、それは今日からちょうど1ヶ月前、4月8日。
ちょうど妹のひとり、チコが入学をした当日の事だった。
まだ少しひんやりとした空気が感じられる午前の校舎裏。
俺は手紙で呼び出しを食らい、この校舎裏の記念樹でその差出人を待っていた。
今日は入学式。
おそらく体育館では今頃入学式の最中か、終わった頃だろうか?
そんな華やかな空気が漂う表舞台と、この校舎裏では同じ学校内でも別世界なのだろう。
辺りは静まり返り、同じ敷地内で入学式が行われているなんて嘘のように感じられる。
呼び出した相手。それが誰かは知らない。
手紙を見ると差出人の名前が『鏑木玉三郎』と書いてある。
まるで歌舞伎役者のような、変わった名前の男だ。
まあ、俺も人の事は言えないか……。
それにしても誰も現れないな。
一方的な呼び出しだし、もう帰っても良いのではないだろうか?
ちょうどそう考えていたときだった。
こんなところにひとりの女生徒が歩いてくる。
制服のリボンの色でわかる。同じ学年だ。
「あの…………や……山田 有真人くん!」
まさか声を掛けられるとは思わなかった。
「え?」
「あ、あの、山田くん?」
このメガネを掛けた長身の女生徒が少し訝しんだような表情で、もう一度俺の名前を呼ぶ。
「あ、ああ、久々にフルネームを呼ばれて反応できなくてな。もし良かったら俺の事はアルって呼んでくれ。みんなにもそう呼ばれてる」
俺はこの顔のおかげで知らない人から声を掛けられる事なんて殆どない。
そのせいか、つい反応が遅れてしまったんだ。
「う、うん。あ、アル……くん、こ、これで良いでしょうか?」
少女は素直に俺の願いを聞き入れる。なかなか聞き分けが良くて好印象だ。
「ああ、それでえーっと?もしかしてこの鏑木って人の代理の人?」
「えっ!?」
代理人さんは何だか驚いたような声を上げる。
なんだ?この反応。
ああ、俺はもしかしてたまたま通りかかった女子を代理人だと勘違いしていたんだな。
あれ?でもこの人は俺の名前を知っていた。
それは何でだろう?
俺はこの人を知らない。
いや、完全に知らないなんて事は無い。
多分廊下などですれ違った事はあるんだろうけど、話した事はない。だから印象にも残ってない。
「あ、あの私、本人です」
ああ、そうか、予想が外れていなくて良かった。
代理人本人だったのか。
勘違いじゃなかった。
『放課後、校舎裏の記念樹の下でお待ちしています。鏑木玉三郎』
今日、俺が登校したら、こんな手紙が下駄箱に入っていた。
この校舎裏の記念樹っていうのはこの学校でも有名な愛の告白スポット。
こんな場所に男から呼び出されるなんて、果たし状以外に思い付かない。
いや、それ以外なんてあまり考えたくない。
俺は基本的に喧嘩はからっきし。いや、それ以前に喧嘩なんてしたことも無い。
身長は185センチ。自分でもわかる、俺って結構背が高い方だ。
体型も結構がっしりしている方だと思う。
そしてこれは自覚がないんだけど、俺は目つきがかなり鋭いらしい。
そのお陰かどうかは知らないけど俺は喧嘩を売られた事なんて無いし、それ以前にそんな度胸さえもない。
ただ、俺を一流のサッカー選手に育てようとしてくれた父親には感謝だ。
サッカーには全く興味は無いし、詳しくは無いけれど、基礎体力と運動神経には自信がある。
「で、代理人さん。その鏑木玉三郎さんはいったいなんで俺をこんなところまで呼んだんだ?」
こういう場面でありがちなのがまずは悪戯。
呼び出されて待ちぼうけを食らった俺を遠くから見てほくそ笑むんだ。
おのれ、鏑木玉三郎!
こんな大人しそうな女の子に代理をさせておいて、本人は隠れて俺の姿を観察か!?
男の風上にも置けん!
ん?
でも普通、悪戯で代理人に来させるか?
って事は悪戯の線は消えたな。
となると、次に考えられるのは、俺を呼び出した本人の都合が悪くなって来られなくなったと。
それなら代理人が来た事にも納得がいく。
なんだ、案外常識的な奴じゃないか、鏑木玉三郎。
「あ、あの……私、代理人なんかじゃありません!私が、鏑木玉三郎本人です!そしてアルくん!大っ嫌いです!付き合ってくださいっ!!」
まだ少し冷たい空気が漂う2021年4月8日。
俺は会話もしたこともない男のような名前の女の子に、大嫌いと言われ、そして告白をされたのだった。
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