Episode8-2.どうやら今が正念場らしい。
「悪い。この後俺、買い物して夕食作らないといけないんだ」
ああ、すごく惜しかったな。タマの家ってどうなってるのか、実際に興味があったのに。
「……すみません。そうですよね。そりゃ入りたくはないですよね、私の家なんかに……」
あれ?もしかすると誤解してないか?
タマの様子を見ると何だか自嘲気味に笑っている。
「あのさ。別にタマの家に入りたくない訳じゃない。いや、むしろものすごい興味がある。それこそ例えば今日、何もなければ是非タマの家にはお邪魔したかった」
するとタマはそんな俺のフォローが効いたのか、笑顔が戻る。
「じゃ、じゃあ、また母が夜勤の日にアルくんを招待しますね」
「ああ、是非そうしてくれ。よろしく頼む」
そうして俺は後ろ髪を引かれながらも今日は帰る事にしたのだった。
《誕生日おめでとう。誰かに祝ってもらえたのか?》
家に帰り、夕食後にクリスに祝福のメッセージを入れる。
《ありがと。同じ事務所のモデル仲間から祝ってもらえたよ!あと、ファンからプレゼントがいっぱい届いた。ちなみにその中にタマのもあったし》
そういった逸話を聞くとクリスってやっぱり芸能人なんだなって事を思ってしまう。
まあ実際に芸能人なんだけど。
《あと、タマのSNSで2人の写真、見たよ。何だか普通にカップルしてんじゃん!良いね。私も恋したくなったよ》
やっぱりクリスには、今そういう関係の人っていないのかな?
《クリスだったらどれだけでも相手になってくれる人っているんじゃないか?》
これは率直な感想だった。クリスってやっぱりそこらの一般人とは全然違うんだよな。
《まあねぇ。そりゃ選ばなければ誰だって相手してくれるとは思うけどさ。でも私は安売りしないのさ》
《そうか。いわゆる行き遅れるパターンだな》
《んな事言うなよぅ。私の彼氏になる人は漏れなく美味しいぬか漬けを食べる事ができるんだからね。それなりのベネフィットはあると思うんだよね》
まあそれでもクリスを選ぶ人ってぬか漬けで選ぶ訳じゃないと思うけどな。
《いや、さすがにクリスはぬか漬けなんてなくても充分魅力的だと思うぞ?》
すると既読がつくのは早かったけど、返事が少し遅れる。
まあ一人暮らしだし、色々する事もあるだろうしな。洗濯とか?
《まあ、私も最近はぬか床抜きでも、アルの事、結構良いなって思ってたりするわよ?》
クリス、時間掛けての返事がそんな反応に困るようなメッセージかよ。
さて、どう返すか……。よし。
《クリス、そんなに俺のハーレムに参加したいなら、いつでも入れてやるからな》
取りあえずここは冗談を返しとこう。
多分そうする事で、クリスも冗談で返してくる筈だ。
《おっ!?彼女持ちだからって調子乗りすぎ。ま、今度そっちへ行ったら、そんなアルの性根を叩き直してあげるよ。じゃ、私、明日早いから。また相手してね》
そうして俺とクリスとのチャットが終わる。
うーんやっぱり女心がわからんのは変わらないな。
どうもクリスの思わせぶりな態度は俺の心をかき乱す。
まあ悪い気はしないんだけど、タマの顔が思い浮かんでは胸がチクリとするんだよな。
いや、こんな事を考える事自体タマに失礼だ。
あまり考えないようにしておこう。
「アルくんアルくん、今年の夏休みって何か予定ある?」
委員長がまた直線上にある机と椅子を蹴散らしながら俺の席に来る。
委員長には急がば回れって言葉は一切通じないらしい。
「そうだなぁ、食事を作って、勉強して、ぬか床攪拌して、アンとチコの勉強を見て……ああ、そう言えば、タマの治療、夏休み中どうするか決めてなかった」
すると委員長は明らかに落胆の表情を浮かべる。
「アルくんが”おかん系男子”なのは知ってたけど、高2の夏なんだからさ、もうちょっとアクティブになろうよぉ。やっぱり夏って言ったらキャンプ!海!そしてひと夏のアバンチュールじゃない?」
何だか委員長がうっとりとした表情を浮かべている。
そうなのか。委員長はそんな展開を求めていると……。
「あ、アバンチュール……」
俺と委員長との会話を聞いていた後ろの席のレオが顔を赤くしている。
基本的にレオはこういった色恋沙汰の話にはあまり耐性がない。
「お?レオもそういうのが気になるお年頃か?」
「も、もうっ!アルくん、からかわないでよっ!」
レオが顔を真っ赤にして俺に抗議してくる。
「うん!じゃあ、レオくんもタマちゃんも赤点回避したしさ、せっかくだから4人でどこか行こうよ!」
そうだな。確かに2人のお祝いだってしてやりたい。
「ああ、多分ぬか床の攪拌はアンに頼んでおけばしてくれるだろうから俺は大丈夫だ」
「僕も部活の無い日だったら大丈夫だよ!」
こうして俺達は夏休み、一緒にどこかへ行く事になった。
日程や行き先などは後日相談って事になったんだけど、すごく楽しみだな。
「アルくーん」
今日もタマは俺の事を迎えに来てくれる。
タマの誕生日からちょうど1週間。
今日もレオが部活って事で、2人っきりで帰る事になった。
「あのさ、タマ。男性恐怖症だけど、どんな感じだ?ほら、例えばクラスの男子とか……」
だいたい俺やレオとだけなら大丈夫って言われても意味ないもんな。
タマのB組での様子が見られないのがすごくもどかしい。
「あ……私、実はクラスではあまり話す人がいないんです」
ああ、そう言えば、アンとチコがタマのストーキングをしてた時、交友関係は狭くて浅いって言ってたよな。
「じゃあさ、男性教師とかは?B組担任の藤田先生とかさ……」
「私、2年になってからまだ1度も話した事ないです」
えーっと、これはどうしたものか……?
だいたい俺の男友達だって、レオしかいないし、レオなんてちょっとした性別が迷子になってるような存在だ。
全く男友達としては男をしていない。
まあ、こればっかりはしょうがないか。この先、試す機会もあるだろう。
だいたい元々からしてタマとの付き合いは、長い目で考えていたことだしな。
「あ、あの、実は今日、母が夜勤でして、もしよろしければ私の家に寄ってきますか?」
またタマは先週と同じようにおずおずと尋ねてくる。
「ああ、じゃあお邪魔させてもらうわ」
って事で、先週のリベンジって訳ではないけど、俺はタマの家にお邪魔する事になった。
いつもは駅の前で別れるところを今日は一緒の電車で隣り合って座る。
隣のタマは駅に近付く毎に緊張が高まってきたのか、あまり話をしなかった。
だけど15分の道のりはあまり長いものではなく、気分的には待ち遠しさから少し長く感じたけど、実際の到着時間が変わる筈なんて事は全くない。
定刻通りに到着した電車から降りた俺達は駅前に出る。
いつも遅めの時間に送って行く事が多かった俺は、この駅の昼間の姿を初めて見る。
夕方もかなり寂れた印象だけど、この時間帯は地元の中学生だろうか?それなりの人数が駅を利用している印象だった。
「じゃ、行こうか?」
「はい、ふふっ、アルくんを我が家に迎え入れる事ができて嬉しいわ」
「タマ、深呼吸」
この時点で緊張してどうするんだよ?って思ったけど、やっぱり緊張するなって言う方が無理だよな。
そんなこんなで家に近付く度に緊張の度合いを増していくタマに深呼吸を促しつつ、俺達は家に向かったのだった。
既に見慣れたタマの家は2階建て。周りの家と見比べてもそれほど大きくも小さくもない家で、2人暮らしにはちょっと大き過ぎるんじゃないかって思えるような家だった。
玄関前に立ち、タマが鍵を取り出す。
ああ、でもその前に確認だけはしとかなきゃいけないよな。
「タマ。一応確認しとくわ。男の俺を家に招き入れるって事の意味、ちゃんと理解してるんだろうな?」
そんな俺の問い掛けにタマは何も言わず、玄関の扉に向かって真剣な表情で頷き、そして鍵を開ける。
「どうぞ、アルくん」
こうしてタマは自宅に俺を招き入れたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
ブックマークやご感想などはお気軽にどうぞ。
それではまた次回♪




