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第二話 天才と公爵

「あれほどスムーズに入れるとは……。なぜニーダ様の推薦状を持っていることを隠してらっしゃったのですか! 教えてくださってもよかったのに……」


 アルメザーク公爵の家につくと、俺は門番にニーダからもらった推薦状を突きつけ、何らいちゃもんを付けられることもなく敷地内を案内されることとなった。


「すまなかったな、セーラ君。もらったものがものだけに、あまり公言したくなかったのだ。君を信頼していないわけではないが、人間である俺がニーダからお墨付きをもらっていることが世間に知られると面倒なのでな」


「それはそうですが……もう少し私を信頼してくださっても……」


 セーラは少し落ち込んでしまったが、今のところ門前払いを食らうことがなくなっただけで結果オーライである。

 俺たちはエルフの門番にアルメザーク公爵の敷地を案内されているが、一つ気にかかることがあった。


「……おい、メルル君。俺は家を大きく作りすぎてしまったのではないか?」


 俺がそう感じてしまったのも無理もない。アルメザーク公爵の家は普通の民家よりかは大きいものの、俺の家の半分しかなかった。


「えー! もっと大きくていいぐらいですよ!!」


「いやいや、ここは公爵の家だぞ? これよりも大きい家を建てた俺って相当目立つことをしたのではないか……?」


「いいんですよ、正当な商売で得た、正当な権利です!! 胸を張ってください!!」


 公爵家よりも大きな家を建ててしまったことをいまさら後悔してしまう。

 パレッタの大工に仕事を与えたかったので多少奮発したのだが、ちょっと目立ちすぎてしまわないか心配だ。実際王家に目をつけられていることもあり、世間の目を割と気にしてしまう今日この頃である。


「おお、来たか。ようこそ来たのう」


 門番に案内され、敷地内の庭園についた俺たちは女性のエルフと対面した。

 色とりどりの花に水をあげている最中であった。


「あんたがアルメザーク公爵か。俺はリュウ、そしてこの二人がパレッタから来たメルルとセーラだ」


「よろしくおねがいします!!」


「宜しくお願いいたします……」


 メルルは相変わらず元気な様子だが、セーラは少しおびえた様子で挨拶をした。


「わざわざパレッタから来るとは、長旅じゃったのう。あまり大きくはないが、ここでしばしゆっくりしていくとよい。門番から聞いておるが、ニーダからの推薦状を確認してもよいかのう」


「承知した。……これがニーダからの推薦状だ」


 俺は胸ポケットにしまってあったニーダからの推薦状手渡す。

 アルメザーク公爵はそれを一読すると、頷いた。


「なるほど、確かにニーダの字に間違いないのう。パレッタではおぬしらにお世話になったとも書いてある。わしからも礼を言うぞ」


 俺はセーラの耳元でこっそり囁く。


「セーラ、副族長って女性だったのか? 聞いていないぞ」


 身長はそれほど高くないが、とにかく若い。


 流石にメルルのほうが若く見えるが、それにしても何百年も生きているとは思えないほど若い。人間の年齢にしたら二十歳だと間違われても可笑しくないほど、幼く見え、話し言葉とのギャップが感じられた。


「ええ、お伝えしてませんでしたか? アルメザーク公爵は女性公爵でございます。ニーダ様とは同期だそうですよ。あれほど若作りなのもエルフ族七不思議のひとつとなっております。まあマナには年齢独特の匂いがしますので、エルフには大体の年齢はわかりますが……」


 この世界に魔法がある以上、奇々怪々なことにはある程度慣れてきたつもりではあったが、これほどまでに外見を維持できるとは、全世界の女性がうらやんでも仕方あるまい。


「セーラ……といったかのう」


 アルメザークは鋭い眼光でセーラを睨みつける。 

 魔力らしき闇がアルメザークの全身を包み込んでいた。


「おぬし、再びマナの匂いの話をしたら、その舌を根こそぎ引っ張り出してやる……覚悟しておくのじゃ」


「た、たたたた、大変失礼いたしましたああああ!!」


 それはそれは美しい土下座だった。恐らく彼女は権力に弱いタイプの人間なのだろう。


「……おぬしら、この世界のものではないな?」


「……っ!?」


「おやおや、そんなに怖がるではない。わしも無駄に長く生きていないということじゃ。エルフはただでさえ魔力の察知能力が高い。この世界ならざるものの匂いなぞ、すぐにわかる。……まあ経験の差じゃ」


 セーラは不思議そうに俺の顔を覗き込む。


「……異世界人、とはどういうことでしょうか、リュウ様」


 俺はしばし考え、回答を用意した。


「……アルメザーク公爵の言う通りだ。俺はこの世界から来ていない」 


 アルメザークがはったりをかけているようには見えないし、この世界に魔法やマナなどがある以上、今後隠し通すこと自体が困難だ。別に知られたからといって、俺がこの世界では単なる人間であることには変わりはない。


「死ぬときにこの世界に転生したのだ。前世は日本という国で経済学者をやっていた。……ただそれだけだ。転生したからといって特別な何かになっているわけでもない」


「……そ、そうなんですか? なんかすごい魔法が使えるようになったとか、そういうのはないんですか?」


「特にないな。アルメザーク、どうなんだ?」


「……うむ、そういうのはとくになさそうじゃのう。魔力も平凡な人間のそれ、またはそれ以下じゃ」


「そうなんですね……アルメザーク公爵が仰られるのであれば、間違いありませんね……」


 アルメザークからの評価もあり、セーラは驚きつつも納得した様子だった。

 ふと、思い出したかのようにアルメザークは俺へ話しかける。


「そうじゃ、おぬし、本は好きか?」


 本という単語を聞いたのは何カ月ぶりだろうか。最後にまともに本を開いたのは魔術書の読み方をメルルに教えてもらって以来である。


「……ああ、人並み以上にはな」


「散歩でもしようではないか。おぬしらもそれほど帰路を急いでなかろう? おぬしらにわしの書庫を見せてやろう」


 俺は内心、高揚していた。久しぶりに本に出合うことが出来る。前世では本を読まない日がなかったので、突然本が読めなくなった途端、やることがなくなってしまった。昔の友人にで出会えたような心境である。


「……書庫とは何でしょうか?」


「ああ、セーラはパレッタから出たことがなかったな。本というものは知っているだろう? 文章が書かれた複数の紙がまとめられたものを本と読んでいるが、書庫とはその本が沢山保管されている部屋のことだ」


「なるほど……勉強になります、リュウ様」


 一応パレッタの新居にも書庫は用意しているのだが、本がないのでただ棚が敷き詰められた空っぽの部屋になっている。


 俺はアルメザークへ返答をする。


「アルメザーク公爵、本題は書庫で話そう。案内してくれ」


「……そうじゃな。積もる話もあるじゃろう。書庫で聞かせておくれ」


 アルメザークは大きく頷くと、俺らを書庫まで先導するのだった。

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