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第五話 鉱山の採掘権

「私がこちらに出向いた理由は他でもありません。あの鉱山の採掘権が欲しいのです」


 俺が単刀直入に話をすると、バルマンテは驚いたようだった。

 奇怪な提案を受けたかのような表情で、俺へ返答をする。


「鉱山の採掘権……? あれが欲しいのですか? ……公爵の命令ということ、かな?」


 ここで公爵の名前が出るということは公爵命令は恐らくかなり政治的な強制力があるということなのだろう。


 だが、実際俺は公爵の息子ではない。日本人の家計で生まれた単なる日本人である。並以上の学歴はあるが別に爵位は持っていない。政治的影響力を行使できるのは、実際に政治力を持っているものであり、俺のようなはったりでは意味がない。


「いえ、公爵命令ではございません。あくまでも私が、自分の経験として鉱山の採掘事業に携わってみたいのです。我が国は山々に囲まれ、鉱山らしきものもあるのですが、それを事業として行うためには経験が必要……。ドルー家の名を上げるためにも鉱山事業をどうしても成功させたいのです! そこでもし可能であれば鉱山の利用権を私に譲って頂けないかと思い、はせ参じたのでございます」


 俺は全力で力説した。なるべく大げさに演技しているが、内心慣れないものである。


「なるほど、貴殿の愛国心痛み入る。しかし、あの鉱山事業は我が軍の大事な収入源であってな、そうそう安く手放すわけには……」


「そこを何とか! 私には確かにまだ扱える金は多くありません。しかし、適切な価格で利用権を購入することは約束できます!」


「そういわれてもだな……ここで鉱山を手放すのは我が軍にとって単なる損失なのだ。あの鉱山からは水の魔石であるアニミストが取れる。川や池のないここら一帯の水の供給を担っていると過言ではない。ドルー公爵に恩を売るのであればまだしも、貴殿はまだ爵位も持っていない。貴殿のために我が軍が損失を被っても、何の利益もないだろう」


 その通りだ、バルマンテ。お前はこの鉱山を手放すメリットは全くない。


 ここのエルフは採掘技術しか持っておらず、お前の鉱山に低賃金で雇われる以外に生活するすべがない。しかも、ここ近辺の村や町はこの鉱山地帯で採掘できるアニミストに頼っており、寡占状態だ。


 当たり前だが、水がないと生き物は死ぬ。

 農業などをやっていても水はないとやっていけない。実際俺も今までアニミストの魔石の水を飲み、その水でシャワーを浴びてきた。アニミストがこの地域一帯のライフラインになっていることぐらい把握している。


 高値で売ってもどんどん売れる、こんな金の生る木を手放すのはバカだけがすることだ。


「しかし……!」


 俺はわざとらしく引き下がらない。


 メルルは憐れんだ顔で俺の顔を見つめながら手を握るが、恐らくこのエルフは俺が演技をしていると認識していない。身内を騙せているのであれば、上出来だ。


「確かにこの地域で鉱山といえば、ここしかない。だからといって、鉱物の利用権を安々と手放すわけにはいかんのだ。……まあリュウ殿、興奮せず茶でも飲んで落ち着きたまえ」


 紅茶とクッキーがテーブルに置かれる。


 メルルはよだれを垂らすのをなんとか踏ん張っている。いつか限界が来そうだったので、メルルの手の平に『ライ麦パン』と指でなぞってやるとメルルはキリっとした顔立ちになった。まあ、俺は遠慮なく食べさせてもらうのだがな。


 うむ、ライ麦パンの百倍は美味しい。


「そうだな……。大金貨100枚だ。それぐらいあれば利用権を手放すことを検討してやろう」


「ひゃく……っ!」


 メルルは驚きのあまり言葉を発するところだったが、ギリギリのところで口を手でふさぐことに成功したようだ。


 当たり前だが、俺に大金貨100枚をポンと出すほどの資金力は持っていない。

 あってもその10分の1程度である。


「……バルマンテ殿のお気持ち、十分理解いたしました。良い旅の経験になりましたが、私はあきらめません」


 俺は紙とペンを取り出し、契約書を書く。


「――私のディールはこうです」


 契約書に記載した内容を指でなぞりながら、バルマンテへ説明する。


「パレッタの町にまたがる鉱山の利用権の全てをを大金貨10枚で譲っていただきたい。中の従業員も含めた全てをお譲りください。それと引き換えに軍を傭兵として雇わせて頂きますので軍の収入をなくすことはいたしません」


「大金貨10枚!! そんな安い価格で売れるか、この世間知らずの貴族が!!」


 俺はメルルと席と立ち、体温が急上昇しているバルマンテに話しかける。


「バルマンテ殿、また3か月後、こちらに来ます。契約書はここに置いておきますので、ぜひ検討してください。……申し訳ございませんが、出口の門まで誰か私を案内して頂けないでしょうか。外の風景は全てテントで迷子になりそうなので」


「は、はい! ただいま!」


 兵士に連れられ、俺とメルルは司令官テントを後にした。

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