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プロローグ
ある異世界では学校の教科書に必ずや出てくる一人の商人がいた。
知らぬものがいない、偉人。
建国の父と称えられ、種族を超えたこの世界の全ての市民に愛される、一人の人間。
その名は「リュウ」。
その人間は魔法も使えなければ、剣も操れなかったという。
武力を捨て、知力だけでこの世界をたたき上げた、平和主義者。
君主的な風習を咎め、新たな社会システムをゼロから作り上げた、革命児。
数々の発明を生み出し、自ら普及に取り組んだ、発明家。
数ある彼の武勇伝は長く語り継がれ、老若男女知らざるものがいない。
あるエルフの国に彼の墓がある。
その墓石には一言、こう記されていた。
――『神の見えざる手に導かれた』、と。