第三話 「エイジ。逃げた方がいいぜよ」
※この小説はほぼ会話文にて構成されております。
登場人物
エイジ / 出席番号12番
カナ / 出席番号17番
「うっす。カナ」
「あ、おはようございます。先輩。朝早いですね。まだ、八時前ですよ」
「あー、俺は今日委員の当番だからな。月一くらいで早起きしないと」
「へえ。先輩って何委員なんですか?」
「図書委員だけど」
「………………………すいません。よく聞こえなかったので、もう一度お願いできますか?」
「いや、だから図書委員」
「ウソですね」
「決めつけやがった!?」
「先輩。図書委員ってなにするのか分かってますか? 本読むんですよ。缶けりやドッヂボールはできないんですよ」
「俺、小学生?」
「……あ、もしかして先輩の中では、缶けりやドッヂボールやけん玉をすることを『図書委員』というんですか?」
「違うし! なにその色んな意味で悲しそうな設定! 俺だって本くらい読むよ」
「缶けりのルールブックとかですか? それとも、けん玉のテクニック全集?」
「いい加減、その小学生の設定から離れろおおおおお!」
「……ということは、せせせせせせせ先輩はホントに図書委員なんですか?」
「真剣に動揺しすぎな点が腹立つが、まあそうだな」
「あたし。もう図書室行くのは止めますね。カウンターで本読みながら、本の貸し出しをしている先輩を見ちゃった日には、貧血と眩暈と吐き気を催しそうなんで」
「催しすぎだよお前。せめて、どれかひとつにしてくれ。まだ納得ができるから」
「世界の……終わりです」
「やかましいわっ! ……あれ? 全く疑問に思っていなかったんだか、カナはなんでこんな朝早くに学校にいるんだ?」
「あー、それはですね」
「――はっ!? ま、まさかカナ。俺を待っていてくれたのか!」
「はあ? そんなわけ……いえ、そうかもしれません。あたしは先輩と会う運命に導かれて朝早く家を出て学校に来たんですよ」
「……………………」
「……………………」
「……カナ。熱でもあるのか?」
「あなた。自分から言っておいてなんて言い草ですか」
「いや、今なんか俺の本能が『エイジ。逃げた方がいいぜよ』となぜか土佐弁で叫ぶんだが」
「酷い……せっかく、早起きしてお弁当も作ったのに。あたし悲しいです」
「す、すまん。カナ。悪気はなかったんだ。でも、そんなに俺のことを……」
「いいえ。いいんです。先輩と会えて良かった」
「カナ――ありがとう」
「先輩……どういたしまして。じゃあ、ここにサインお願いしますね」
「ああ。分かった…………ん?」
「一昨日、桜の木の下に罠を仕掛けたので反省文です。今日の放課後までに、職員室に提出しに行ってください。なんなら付き添いに行きますので」
「………………(汗)」
「先輩。あたし風紀委員なんですよ。昨日委員に選ばれまして」
「………………(滝汗)」
「いやー、就任早々こんな手柄を挙げられるなんて思っていませんでしたよ。あ、ちなみにお弁当作りましたけど、これ自分のお弁当なんで」
「……………………」
「……………………?」
「……カナのバッキャロー! でも好きだ! 結婚してくれえええええ!」」
「嫌です。……あ、泣きながらもの凄い勢いで走っていっちゃった。先輩、くれぐれも反省文忘れないでくださいねー」
騙されてもふたりは仲良し。
第三話 「エイジ。逃げた方がいいぜよ」 終わり
というわけで第三話でした。楽しんでいただけたなら幸いです。