第三章20 魔術女王③
唸る雷鳴。動き回る影と光。空気がひりつくような緊張感。
サニアを守る雷獣と、ギデオンたちの攻防は続く。
「らぁっ!」
ギデオンは剣を振り下ろす。
万物を斬るその力は、雷獣を容易く一刀両断にした。だが――
「キリがねぇ!」
サニアが杖を振る。
それだけで、再び雷獣は万全の姿で現れるのだ。
玉座に腰掛けたままのサニア。
彼女をその場から動かすことさえ、未だできていない。
「いや、いくらなんでも無尽蔵なはずがない! ギデオン、君の力が頼りだ!」
言いつつ、ジャックは雷獣を土の槍で貫いた。
もちろん、すぐに新たな雷獣が生み出される。
「私たちは魔力が保たない。でも、アンタならできるでしょ!」
リズは防御魔法を展開している。
ジャックもリズもフランも、戦うためには魔力が必要だ。
対してギデオンは体力のみ。勝機があるとすればそこしかない。
だが――
「ほう? では、これでどうだ?」
サニアは頬を歪め、さらに杖を一振り。
新たに三体の雷獣が産み落とされ、数は一気に倍だ。
「なっ……」
「コイツ、本当に限界がないの……?」
これは絶句するしかない。
いくらギデオンが体力バカとは言え、これじゃ先に他の三人がやられちまう。
「うおらあああっ!」
しかしギデオンは怯まない。
魔剣の盾に飛び乗ると水平に飛行し、そのまま辻斬りの如く雷獣を次々に斬り捨てた。
「んなもん知るか! こんな奴らいくらでも斬ってやるってんだ!」
「勇ましいこと。でも、残念ね」
サニアは杖を振っていた。そこから生み出されていたのは、
「お返しよ」
――鳥。
雷獣よりも素早い鳥の群れが、ギデオンたちそれぞれに一斉に襲いかかった。
「がっ!」
「くぅっ!」
「つっ!」
ギデオン、ジャック、リズは避けきれずに少しダメージを食らう。
唯一フランのみが、杖を振って全ての鳥を散らしていた。
「『ヘラ』!」
即座にリズの回復が飛び、三人も傷はなくなる。だが――
「これじゃマジでジリ貧だぞ……何とかなんねぇのか、おい」
『うー、もどかしい! アイツが四天王じゃなかったら斬れるのに!』
ギデオンみたいに魔法を斬ることはできない代わりに、本体を直接狙えるのが俺の強み。
だが、相手が四天王ではそれも無意味だ。
何か。何か隙は、弱点は。希望はねぇのか。
全員の顔に焦りが見える、そのなかで――
「――見つけた」
小さく呟いたその声は、まさに一筋の希望だった。
「フラン!? 見つけたって、」
「やっぱり、個人が無限のマナを持つなんてあり得ません。その種は――」
と、サニアの頬がピクリと跳ねる。
同時、振られた杖から雷がフランに向けて放たれる。
フランはそれと相対し、雷の壁で真っ向受け止めて。
「――マナの供給。あなたは、外部からマナの供給を受けています!」
雷鳴の余韻を切り裂いて、堂々と言い放った。
忌々し気な舌打ちが、それが正解だと告げている。
「空気中にマナが散っててわかりづらいですけど、あの人に続くマナの流れがあります」
何らかの魔術か魔術器だろう。
それを用いて、サニアはマナの供給を受けていたということだ。
敵の本拠地、それくらいの仕掛けがあっても不思議はないが――
「でも、そんなマナどこから――あ」
言っていてリズは気づいたようだ。
ここまでのやりたい放題加減を見るに、『供給源』はそれこそ無限とも言えるマナを持っている。
この城にあって、そんな大量のマナを有するものと言えば――
「『楔』か!」
俺もジャックと同意見だ。
大地からマナを吸い取る『楔』。
そこに集まるマナを流せば、それは無限に近い『供給源』になり得る。
「ってことは『楔』を壊しゃ……って、アレ?」
「順番が逆になったね。先に『楔』を見つけないと」
「マナの流れは下に続いています。でも……」
「行かせるわけがなかろう?」
立て続けに三回。
サニアの鳴らす杖から、雷獣と雷の鳥が何体も現れる。
「私に背を向けたらどうなるか。その身を持って知るか?」
そうだ。
そもそも簡単に近づいたり離れたりできるなら、こんな苦労はしていない。
「でも、やるしかない。ギデオン、リズ、ここは任せていいかい? フランはマナの追跡に集中。僕がフランを守るよ」
「いや待て、それは――」
ジャックの指示に、俺は思わず声を上げる。
だがそれは当然聞こえず、ギデオンたちはもう頷きを返してしまった。
「3、2、1――」
ジャックのカウントダウン。
ゼロと口にした瞬間、ジャックとフランはサニアに背を向けて走り出した。
当然、雷の獣と鳥が一斉に動き出す。
「『白銀の巨盾』!」
「『プリクトーション』!」
それらは、ギデオンとリズの防御が食い止めた。
その隙に来た道を引き返し、扉から階段へ転げ出るジャックとフラン。
だが――一筋縄でいかないのが、四天王って連中だ。
「ちっ――まぁ、いいでしょう」
サニアはそう吐き捨てると杖を高く掲げた。
「――魔術の奥深さを見せてあげる。光栄に思いなさい? これを見た者は、魔王様以外では初めてよ」
杖の先端で、天に向けてゆっくりと円を描くサニア。
光の軌跡が文様を描き、複雑な陣形を形作る。
そして、そこから短く雷が落ちた。
「な――」
「何よ、それ……」
ギデオンとリズが絶句する。
無理もない。俺だって目を疑ってる。
雷が落ちたところに、現れたそれ。
「サニアが……」
『二人……?』
空中を優雅に漂う、サニアと全く同じ見た目をした何か。
「マナで構成したもう一人の私」
「御伽噺で聞いたことがあるでしょう?」
「分身、というものよ」
交互に喋る二人のサニアは、見た目には全く見分けがつかない。
これまで見た魔術とは比べ物にならない。
一体どれだけ複雑な術式を組んだら、こんなことができるんだ。
「さあ――」
そして、生み出されたもう一人のサニアは空中に飛び立つ。
そのまま開けた天井から外へ出て、おそらくジャックたちを追い始めた。
ギデオンたちは本体に睨まれた状態、当然それを止める余裕などない。
「二人ずつ。確実に仕留めてあげましょう」
サニアの無慈悲な宣言が、甘やかな声で響いた。




