表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/171

第一章20 天命の戦士①

 そこから応接室らしき部屋に通され、先輩の凄まじい追及が始まった。

 せっかく座り心地の良さそうなソファがあるのに、先輩も立ったまま、俺も立たされたままだ。


「ははははは! こんな幽霊は初めて見た! 何故そんなにはっきりと像を保てている? どうして普通に会話ができる? どうやって幽霊になったんだ?」

「いや、そんないっぺんに聞かれても……」

「なら、一から順に聞かせてもらおうか。魔族と戦って真っ二つにされた、というところまでは知っているが」

「いや、かろうじて真っ二つじゃないっす、パレスと違って。パレスと違って!」

「死に方なんぞどうでもいい。そこからどうなったか、だ。それを全て、包み隠さず、余すことなく教えろ」

「いや凄ぇな圧が」


 といった具合である。

 角度を変えて眺め回すのはまだいいが、普通に手を突っ込んでくるのはだいぶ怖い。


 先程までは、俺といい勝負の生気のない目をしていたのだが。

 今はその目を好奇心に爛々と輝かせていた。


 ともあれ必要な事なので、俺がこれまでの経緯を語っていると。


「……ちょっと待て。君の言い方だと、まるでその魔剣・・が意思を持っているようだが」

「はい、そうっすよ?」

『はいはーい! 私、魔剣ファム・ファタール! 気軽にファムって呼んでね!』

「ファ……け、剣が、喋ったあ!?」


 またも気持ちのいい驚きっぷり。

 いや、逆に今まで気がついてなかったのかこの人。


「じゃあ、コイツの声は何だと思ってたんです?」

「いや、大した腹話術だなと。しかし空想の女友達を演じるというのはかなり痛々しいから、あえて触れなかった」

「俺そこまで残念な奴に見えてた!?」


 そしてそこから、先輩の興味は一気にファムへと移る。


「そんなことはどうでもいい、よく見せろ! 口はあるか? 当然ないな。他の人間にこの声は聞こえないんだな? ならやはり、魂の声ということになる。しかし魔剣とは言え、剣に魂が宿っているなんて聞いたことがない! ははははは、どういう仕組みなんだ。面白い、面白すぎるぞ君たち!」

『ちょ、この人凄い圧が凄い! 助けてイオンー!』


 などというドタバタ劇を、しばし繰り広げた後。



「――で、どうしたらいいですかね?」


 ようやく、「魔王を倒したいんだけど幽霊が強くなる方法ありますか?」という疑問に辿り着いた。


「知らん」

「えぇー……」


 しかし、開口一番それだ。

 こっちのことは聞くだけ聞いて見返りなしとか、たまったもんじゃない。


「仕方なかろう、君の例が特殊すぎる。そもそも幽霊というのは、普通もっとぼんやりした影のような存在だ。君のようにしっかり自分を保てる者は少ないし、歩いたり喋ったり、まして『強くなりたい』なんて願うことはない」

「へぇー……でも、だったら死霊術師って何するんすか? てっきり、幽霊を使って戦う人だと思ってたんですけど」

「戦えと言われても無理だな。幽霊は現世の物に影響を与えられない、これは常識だぞ」

『うんうん』

「だから、そんなもん知るわけねぇっすよ……」


 では実際、先輩が死霊術師として何をしているかと言うと。


「まぁ、主に死者との対話だな。我が家に伝わる魔法を使って、幽霊に力――いや、自我を少し取り戻させる。その間に、遺言やら情報やらを遺してもらうわけだ」

「それ、俺にやったらどうなります?」

「何も変わらんだろうな。そこまではっきりと自分を保てているんだ、いきなり強くなんてなるはずがない」


 思いつきで訊ねてみたが、それは先輩に一蹴された。

 まぁ、俺に思いつくことを先輩が思いつかないわけないか。


『そっかー……じゃあやっぱり、イオンが強くなる方法はないのかな?』

「ふむ……まぁ、私から言えることがあるとすれば……」

「『すれば?』」


 と、先輩の意味深な発言に、俺もファムも期待を胸に続きを待つ。


「幽霊の強さを決めるのは、膂力でも魔力でもない。『魂の在り方』だ」

「魂の、在り方……!」

『なんか、それっぽい……!』


 おお……なんか、すごく、カッコよさげな……!


「……で、具体的にはどうすれば?」

「知らん。今のは我が家の家訓みたいなものでな。言葉だけが伝わって、真意は伝わっていない」

『わー、絵に描いたような有名無実ー』


 カッコよさげなだけだった。


「まぁ、なんだ。とりあえず今日はこの辺にしておいてやろう。というか眠い」


 先輩はそう言うと、それは大きな欠伸をかました。

 いや女性としてどうなんだ、その顔を人に晒すのは。


『もう夜中も夜中だしねー。また明日にしてあげたら、イオン?』

「ま、そこに関しちゃ文句は言えねぇわな。押しかけてるのはこっちだし」

「全くもってそのとおりだ、私は寝る。話はまた明日聞いてやるから安心しろ。眠るなら、屋敷内の空き部屋を適当に使って構わん」


 ……やっぱりこの先輩、意外に優しいな。もっとヤバい人かと思ってた。

 ただ、


「せっかくですけど、俺たち眠れないんで。適当に暇つぶししてます」

「ほう、そうなのか。なら好きにしたまえ。ではな」


 最後にそう言い残して、先輩はさっさと部屋を出て行った。


「……さて、今日はどうすっかな」


 取り残された俺は、しばしその場で考える。


 眠れない体。最初は便利だと思っていたが、なかなかに辛い。

 夜がこんなに長いものだとは、全く知らなかった。


『先輩の寝姿でも覗きに行く?』

「お前、俺のことなんだと思って……いや、いいや答えなくて」


 どうせ変態とかクズとか言うんだろ。ぐうの音も出ません。


『じゃあ、しりとりでもする? いつもみたいに』

「いや、さすがに飽きたわ」


 暇を持て余した結果、それは既に何度かやっている。

 この短期間で語彙力が急激に増えるわけもないから、いつも似たような展開になってグダグダに終わる。


「……たまには、素振りでもするか」

『ホント!?』


 俺の呟きに、ファムは嬉しそうに声を上げた。

 彼女もやっぱり剣だから、振ってもらえると嬉しいらしい。


 あの日――預言者を助けた時以来、剣は振っていなかった。

 あの、生々しい感覚を思い出すのが嫌で。

 しかし――


「まぁ、戦うって決めたわけだし。無意味かもだけど、何もしないよりは、な」

『うん、それがいいよ!』


 たとえ強くなる手段がなくとも、戦うと決めたことは変わらない。

 俺は部屋の扉をすり抜けると、屋敷を歩き庭へと向かった。


 庭に出て夜空を見上げる。

 ノームが明るい夜だ。こうして落ち着いて見ると、この館の姿も、幻想的と言えなくもない。


 青白く光る庭の芝生を踏みしめ、俺はファムを鞘から抜き放った。

 漆黒の刀身は、月明かりによく映える。


「ふー……はっ!」


 俺は呼吸を整えると、無心に素振りを始めた。

 ファムの刀身が空を切る感覚が、心地よく手に馴染む。


 数は数えない。夜は長い。

 好きなだけ、ただ無心に、夜が明けるまで、剣を振り続けよう。


 よく澄んだ夜の空気に、風を切る小気味良い音が、何度も、何度も響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ