A面
――A――
「物心付いたときにはダンジョンにいた。中層居住区で働く娼婦たちがわたしの母で、誰とも知れぬ客の男がわたしの父だ。本当の母がどの娼婦かなんてわからないけど、歌や楽器を教えてくれて、言葉や歴史を教えてくれて、常識や法律を教えてくれたみんながわたしの母親だ。本当の父がなにをしている人なのかなんて知らないけれど、武器の手入れや扱いを教えてくれて、騎士の作法や信念を教えてくれて、盗賊の極意や無礼を教えてくれたみんながわたしの父親だ。
十を数える頃には、わたしもダンジョンに潜るようになった。武器は母の客が質草に置いていった上物で、防具はダンジョンの遺品を客が手入れしてくれた腕甲と脚半。父のひとりが教えてくれた知識を元に、中層付近のモンスターを倒して回った。
十二で中層を攻略して、十四で深層を攻略して、このまま母たちの護衛としてダンジョンで暮らすものだとばかり思っていた。
十六の誕生日が近づいたとき、たくさんの両親はわたしに外の世界を知るように告げた。楽しくなければ戻ってくればいいし、楽しければ外に住めばいい。でも、知らないのはもったいない。追い出されるのかと怖かったけれど、いつでも戻ってきていいという。だからみんなと話して、二十までは酸いも甘いも経験してみよう、ということになった。
だからわたしは、いろんな人にかかわれる冒険者になった」
「なんでだ!!?」
「ぇえ……そんなこと言われても」
僕の前できょとんと首を傾げる少女。真っ赤な髪に青い瞳、少しだけ日に焼けた健康的な肌。桃色の唇と可愛らしく整った顔立ち。平均的な背とくびれた腰と、大きすぎず小さすぎないプロポーション。悔しいけれどこの女、顔が良い。
机を叩きながら叫んだ僕に、彼女は少しも動じた様子がない。それもそのはず、ここは荒くれ者の冒険者たちが日々酒をかっ食らう組合酒場。彼女はその冒険者であるのだから。
「はぁ……どうしてこんなことになったんだ」
「えっと、元気出して?」
「君が学園で青春を送ってくれたらな」
「んー?」
本当なら、本当なら僕みたいなモブはこんなところでヒロインに対面できるはずがない。だというのに、やむを得ない事情でここにいる。だって見つけてしまったのだから仕方がないじゃないか。
訳もわからぬ表情で飲み物を口にする彼女は本当に可愛い。こんな可愛い女の子がいたら絶対恋愛する。確信がある。それも、腰に無骨な剣を下げていなかったら、だけど。
「これからどうなってしまうんだ……本当に」
頭を抱えて嘆いても、きっとなにも変わらない。
ただ走馬灯のように、今日までのことを思い出してしまう。
――/――
なんだかよくわからないうちに死んで、気がつけば異世界に生まれ変わっていた。中世風だが妙に近代的なシステムのある世界で、周りには魔法があった。それはもう喜んだけれど、僕に格好良い攻撃魔法の才能はなくて、できるようになるのは支援系ばかり。一応貴族に生まれたけれど、子爵家の次男なんていう中途半端な地位だった。身分は下から二番目、兄弟順は上から二番目。これは二番手として運命づけられているな、なんて悟ったのは、攻撃魔法の才能で三歳年下の妹に負けた、七歳のときだった。
将来は暢気で人が良いがお馬鹿な兄を支えようと決意して、眼鏡のお世話になる程度の勉強三昧。そんな僕の姿にえらく感動を覚えてくれたのんびり屋の両親は、僕を中高大一貫の王立学園に入れてくれた。それはもう嬉しかったし、期待に応えて見せようと思ったし、仄かな青春の香りに期待してもいた。
それも、学園の名前を聞いて、実際に校舎を見るまでの短い時間のことだった。
王立ウルティマ学園。騎士養成科、魔法研究科、淑女育成科、総合冒険科、商経営経済科、貴族運営科を有する王国最大規模の学園で、都市丸々学園関係という大規模マンモス学校だ。街道の端から全容を見渡す特徴的なキービジュアルは、男心を揮わせたものだ。
そう、キービジュアル、だ。特徴的な巨大学園。そこに蔓延る魔王の暗躍。やがて世界を巻き込む騒動に発展しながら、ヒロインは恋に青春に向き合って、やがて魔王を倒すという王道ストーリー。
僕は、そんなシミュレーションRPGの世界に、名も無きモブとして生まれたのだと、気がつかされた。
なにせこのゲーム、乙女ゲームと謳いながらバランスの良い戦闘システムのある、“男の子を攻略できる戦闘RPG”として有名だったものだから、前世でただでさえ雑食だった僕は、それはもうはまり込んだ。男の子を攻略するというのには、前世も男だった僕としては躊躇していたけれど、なにせヒロインの顔が良いから気にならなくなった。
オタクらしい記憶力で年号を覚えていたから、ヒロインと同じ年だと気がついたときは、それはもう胸が躍ったものだ。顔が良いヒロインを間近で見るのも楽しみだったけれど、それ以上に、好きだったストーリーをモブとして生でみられるのだから、これで喜ばないファンはいない。たぶん。
でも、そんなミーハー気分でいられたのも、高等部に進学するまでのことだった。
ヒロインは、数多くの創作主人公でありがちなように、大変な過去を持っている。
ダンジョンと呼ばれる、モンスターに対抗するための神の試練場に捨てられたヒロインは、娼婦と騎士に育てられる。やがて大きくなると外の世界に憧れるようになり、騎士の助けでダンジョンの外に出るのだ。けれど身分も定かでないヒロインにできることは少なく、組合酒場で日銭を稼ぎながらなんとか生きる日々を送る。そんなある日、酔った冒険者が彼女に乱暴しようとしたところ、防衛本能で魔法の力に目覚め、暴走。人を傷つける恐れがあるため、彼女は学園の理事長に引き取られ、様々な科を転々とできる総合冒険科で知識を身につけ力を制御しようと奮闘する。
……というのが、本来の彼女のプロローグだ。高校入学とともに、プレイヤーが選択した科で授業を受ける。そこに所属するヒーローとフラグを立てる。戦闘で絆を深める。プライベートで仲良くなる。そうやって絆を深めた相手と騒動を解決し、魔王を倒すことで世界に平和が訪れるのだ。
だが、いつまで経ってもヒロインが現れない。ヒロインの持つ光の魔力がなければ、魔王は倒せないのに。
僕はもう、それはもう焦った。焦りに焦って探しながら一年目を終えた。卒業の三年目までに、どうにかこうにかヒロインを探さなければと学園を飛び出し、放課後を駆使して漸く見つけたのが、二年目の始業式を控えた、春の日――つまり、今日だった。
彼女が魔力を覚醒させる酒場にびくびくしながら出向いてみれば、酒場スペースの方ではなく、普通に受付で依頼書を提出する、三次元になっても一目でわかる美少女顔。その場の勢いで飛び込んで、頼み縋って飲み物を奢って生い立ちを聞けばこの有様。
「ね、これおかわり頼んで良い?」
「ちょっと待ってくれ。整理が追いつかない」
「すみませーん、これもう一杯」
「待ってくれって言わなかったか???」
「大丈夫だよ? 二杯目は自分で払うから」
そういうことじゃない。そういうことじゃないんだが、もうそれでいいや。
甘い果物のドリンク。前世風で言うのならマンゴードリンクを飲んで笑顔になる彼女は、悔しいが、本当に悔しいが絵になる。顔が良いと得だ。
「確認するが、あなたはイリア、で良いんだよな?」
「うん。そうだよ。あなたは?」
「僕はウィル。ああいや、それは良いんだ」
名前は同じ。でも、どうやらスタート地点から、僕の知るストーリーとかけ離れているようだった。捨て子じゃない……かどうかは定かではないが、少なくとも物語で描かれたように、劣悪な環境で育ったのではないのだろう。厳しいながらも、たくさんの愛情に囲まれて生きたのだろう。
ではどうやって、ストーリーの軸に戻すか。それが問題だった。未だドリンクを楽しむ彼女を見る。顔が良い。じゃなくて! 僕はなんだ。変態か!?
「あの、キミ」
「ん? なんだ?」
「その……」
出会ったその瞬間から飄々としていた彼女が、なぜだかもじもじとしていた。照れているのだろうか? まさか僕に……いや、ないか。ないな。
「はっきりしてくれ。余裕がないんだ」
「うん、じゃあ……褒めてくれるのは嬉しいけれど、そんなに何度も言われると、恥ずかしい」
「――――――――――口に出てた?」
こくり、と頷く彼女。
ごくり、と生唾を飲む僕。
がらがらと、信頼が崩れるような音が聞こえた。たぶん。
「ごめんなさい」
「あっ、うん、いいよ」
ここからどうやって軌道修正しようというのだ、僕。これじゃあ完全に変態だ。初対面の女の子にちゃらちゃらした台詞を吐くナンパ男だ。僕の平凡な顔面偏差値じゃチャラ男系攻略対象にもなれない当て馬モブだ。詰んだ。
そうやって頭を抱えてうんうんと唸る僕に、大きな影が掛かる。頭を上げてみると、そこには酔っ払った表情の大男が、嫌らしい顔つきで立っていた。
これは、まさか!
「おいおい、こんなところで女侍らせて良いご身分じゃないか。オレにも分けてくれよ」
定番モブ!!
「へっへっへっ、けっこうな上玉じゃねぇか。なぁに、一晩で飽きたら返してやるよ」
まさか、僕が酒場で引き留めたから、遅れてイベントがやってきたのだろうか? まずい、まずいぞ。本当に魔力が暴走するかもわからないのに、こんなイベント困る。ここは僕の支援魔法で穏便に逃げよう。そして、僕が身を挺して魔力発現の手伝いをしよう。光の魔力だとわかれば、暴走しなくても入学できるかもしれないし!
「お断りします」
「はぁ?」
「ちょ、ちょっと!?」
僕の作戦タイムも空しく、彼女は男を一瞥もせずに断った。いくら冒険者をしているといっても、十六で外の世界に出たという彼女の話が本当なら、本格的に冒険者になってまだ一年というところだろう。この世界で生きる僕の常識から言わせて貰えば、冒険者一年目なんて駆け出しもいいところだ。
周囲を見れば、みんな気の毒そうに僕らをみるばかり。し、仕方ない。怖いけれど、仕方ない。ここは僕の支援魔法で、なんとか逃げよう。
「おいおい、賢い選択もわかんねーのか? 素直に従っていれば良いんだよ」
そう言って、男は腰から剣を抜く。鈍く光る本物の剣はおそろしく、詠唱を唱える唇が震えた。
「抜いたね」
そしてその剣が突きつけられる――よりも早く、いつの間にか立ち上がっていた彼女が、小さくそう、告げた。
「は? なに言――へぶッ!??」
蛇のようにしなるするどい裏拳が男の顎に突き刺さると、見上げるほどの巨体がきりもみ三回転半。大きな音を立てて地面に沈み、顔の直ぐ横に、墓標のように剣が付き立った。
その様子を観ていた周囲の人も、「やっぱりこうなった」「また賭けにならねぇ」「よそ者はこれだから」などと口々に呟きながら去っていく。
惨憺たる光景を生み出した当の本人はといえば、何食わぬ顔で座り直して、口直しと言わんばかりに三杯目のドリンクに口を付け、満足げに笑うばかり。
「くっ……やっぱりかわいい」
「――えっ」
「あ……いや、その、あの、えーと、えーと、そうだ!!」
目を見開く彼女を前に、僕は焦りから、唐突に妙案を思いついた。かの勢いならまだ、僕の変態発言も誤魔化せる。そんな打算があったことも否めないのだけれど。
「あなたに、仕事を依頼したい! 僕と学園に通ってくれないか!?」
乗り出して、手を掴んで、そう言った。
「えっと、うん、いいよ」
戸惑いながらも、こくんと頷いてくれた彼女。
思わず、天を仰いで雄叫びをあげた僕。
それが僕と彼女の出会いだった。
――/――
僕の衝動的な依頼はなんとかとおったものの、問題は山積みだった。まず、彼女に誰か攻略して貰わなければならないのだが、そのためには入学して貰う必要がある。しかし、今から入学しても一年生からスタートだ。学年が違うと、僕もフォローしきれない。
原作を生で見たいが為だけに総合冒険科に進んだ僕の選択は間違っていなかったようだけれど。とりあえず僕は一度彼女と別れ、数日後、色々と用意して、あの酒場――は怖いので、今度は組合近くの喫茶店で待ち合わせた。
「入学? それはもう渡りをつけたよ?」
「え? そうなのか?」
「学園に通ってくれって言ったでしょ? だから、冒険者で築いたコネで、二年に編入」
「すごい! あれでも、二年に来てくれって言ったっけ? ありがたいけど」
「理事長に聞いたんだけど、キミは二年生なんだよね? だから」
なるほど、依頼主に合わせてくれたということか。できる女だ。明らかに強そうな大男を三回転半トルネードさせていたし、相当できる冒険者だったのかもしれない。今更だけど。
「で? 何をすれば良いの? 護衛?」
「あー……なんというか、そうだな、男性と仲良くなって欲しいというか」
いや、あれ、なんだろう。僕ってこれを強要したら、すごく悪い奴じゃないか? 可愛い女の子に、男と仲良くなれって命令する。やばい、妹に殺されるぞ、これ。
「いや、その! なんていうか」
「……わたしが、娼婦の娘だから?」
「違う!!」
思わず彼女の手を握って叫んでしまう。一瞬、目を細めたイリアだったけど、直ぐにまたあのきょとんとした顔になった。
「あなたが協力してもいいと思える相手と、あるモンスターを倒して欲しいんだ!! 僕の妄想かもしれない。夢物語に聞こえるかもしれない。でも、僕の言う相手のうちの誰かと協力することでしか、倒せないモンスターなんだ!」
娼婦の娘だから、なんて、彼女の口から言わせた自分が恥ずかしい。罰として、居もしないモンスターを一人で信じてる妄想野郎と蔑まれることがあるかもしれない、そんな言葉を叫んだ。魔王、なんて突拍子もなさ過ぎることは、言えなかったけれど。
「あなたがきれいな子だから男を籠絡して欲しいなんて、そんなことは一切言わない」
「うん――うん、わかった。キミの言葉を信じるよ」
ああ、やっぱりこの子はヒロインだ。ヒロインなんだ。もちろん嘘を吐いたり、騙してやろうと思っていたりはしない。けれど、妄想にしか聞こえないようなこんな言葉を真っ向から受け止めて、信じてくれるようなひとなんていない。
暗い過去。辛い経験。苦い体験。色んな闇を抱くヒーローたちを救って寄り添える。そんな人間だから、彼女はヒロインなんだ。可愛いだけじゃ務まらない、まっとうで真摯な心根を持っているんだ。
僕なんかが彼女をフォローしようなんておこがましい。そんなふうに、自覚させられた。
「まず、どうすればいい?」
「あ、ああ。僕がリストアップする人と接触して、仲良くなって欲しい。別に、普通に友達とか、あるいは信頼関係を築いてくれたら何でも良いんだ」
なにせ、友情エンドでも魔王は倒せたはずだ。難易度上がるけど、そのときは僕の支援魔法でできる限りのことはしよう。
「わかった。キミは、見ていてくれるんでしょ?」
「もちろ――ん?」
あれでも、攻略対象と接するんだったら、僕って邪魔じゃない?
いや、しかし、ダンジョンからの冒険者生活。一般人との交流にフォローは必要なのかも。
「心配?」
「ああ、いや」
「大丈夫だよ。キミはわたしが守るから」
あ、はは。
依頼主が手の届かないところで害されないかって……これ、僕が心配されているのかー。
空しい気持ちになりながらも、リストアップは辞めない。本当に大丈夫なのか、ちょっと心配になってきたぞ、僕……。
――/――
なんだかんだで入学まではあっという間だった。
始業式には間に合わなかったが、授業初日には編入生として挨拶。どうやらコネを最大限に駆使してくれたようで、僕と同じクラスへの配属だった。
入学後にどうやって連絡を取り合おうかと不安だったけれど、これでその問題は解決。顔が良くて冒険者としても有能とかすごい。さすがヒロインだと手放しで褒めたい。
「さて、では早速、作戦会議を始めたい」
「おー」
ぱちぱち、と小さく手を叩いてくれる彼女の姿に癒やされる。白を基調としたブレザーに身を包んだイリアは、控えめに言って超絶美少女だった。こんな美少女と同じ教室にいるとか、僕はいったい生前いくら課金したのだろうか?
にこにこと楽しそうに僕の言葉を待つ彼女に、僕はリストアップした紙を渡した。攻略対象は、一つの科に一人。ただし、総合冒険科にはいない。ざっと並べると、こうなる。
騎士養成科。
騎士団長の息子で近衛騎士希望――アレン・アレス・マックール。
堅物武士系男子。
魔法研究科。
氷と炎の二極属性使い――クロウ・エステビオン。
腹黒クール眼鏡。
淑女育成科。
風の精霊術師――セド・オズ・ウィンディン。
天然ほんわか教師。
商経営経済科。
銃使いの錬金術師――エリック・ウル・タービス。
あざとい系後輩ショタ。
貴族運営科。
雷の魔剣士――ロジャー・ロスト・フォン・クラウノス。
俺様系第二王子。
「ブシ?」
「ああ、えっと、忠義に篤い騎士、みたいな」
「なるほど」
彼女はさすが冒険者というべきか。わからないところは聴く、という形を取る以外は特に質問もなく、じっくりと読み進める。何度か瞬きをして口ずさむと、うん、と頷いてリストを燃やした。
「って、ええ!?」
「大丈夫だよ。覚えたから」
「そ、そうか」
いや、言われてみれば、このリストアップはなんだと問い詰められたら困る。誰かに見つかる前に処分してくれるのはありがたいが、まさかこんなに思い切りが良いとは……。
少し、顔が良いとか言ってないでもうちょっとちゃんとイリアの能力について把握しておいた方が良いのかもしれない。
「彼らが、各分野のエキスパートなんだ」
「うん、まぁ、そうなるかな?」
「キミは?」
「僕? 僕は支援魔法が得意なだけさ」
「なるほど。総合冒険科のエキスパートはキミなんだね」
エキスパート。
ど、どうしよう。イリアにそんなふうに言われると、さすがに気恥ずかしい。だって考えても見ろ。美少女だぞ。自己肯定感満たされすぎる。努力していて良かった。
「それじゃあ、一人ずつ当たろうか?」
「あ、ああ、そうだな。あと、無理に恋愛関係になる必要はない。あれは一度忘れてくれ」
「うん、わかった」
「まぁ、あなたなら、“自分より強い男が良い”とでも言いそうだね」
「? それは――」
「いや、なんでもない。忘れてくれ。不躾だったな」
「――いいよ」
この調子なら、案外早く信頼関係を築けるかもしれない。そう思うとここまでの努力も報われることだろう。
このときは、そう、思っていた。
「……どうしてこうなった」
「なんでだろうね……?」
思っていた、んだが、どうしてこうなったのだろう。
思わずそう、僕はまた、今日までの日々を振り返る。