コーヒーゼリーパフェはショートケーキであるか?
Aは今日、喫茶店でアルバイトをしていた。
お客さんがショートケーキを注文したので、Aは奥からケーキの容器を取り出した。
すると、ケーキはプリンになっていた。
Aがアルバイトをしている喫茶店のメニューにプリンはない。
Aはしばらくプリンと見つめ合っていた。
蛍光灯に照らされ、プリンはそのつるつるの表面を光らせている。
出した時に揺れたのか、カラメルソースが魅惑的に垂れていた。
プリンは己がプリンであることを全身で主張していた。
しかし、The proof of the pudding is in the eating――プリンの味は食べてみなければわからない、ということわざがAの脳裏に浮かんだ。
これはケーキであるかもしれない。
そう期待を込めて、スプーンで僅かに掬い、口に含んだ。
それはプリンであった。
「お待たせいたしましたー。ご注文のケーキです」
Aはプリンをケーキと言って出した。
英語でケーキは密度の高い固形の食べ物を指すこともある。
フィッシュケーキはかまぼこなのだ。
かまぼこに比べればプリンの方が多少はそれっぽい。
ケーキと言って出しても問題にはならないだろう。
しかしここで誤算があった。
客は"ショートケーキ"を注文したのだ。
ケーキ=プリンであることは先程証明がなされたが、ショートケーキ≠プリンである。
このままでは怒られてしまうだろう。
「ショートを足せばいいのではないか」
プリンはそうアドバイスした。
たしかに、プリン単体で既にケーキの部分を補完できている。
残るはショートだ。
Aはスプーンをつけ忘れたと言って厨房に戻った。
戻ったAは愕然としていた。
ショートは短い繊維のある、から転じて「砕けやすい」「もろい」という意味である。
元はビスケットのようなお菓子を指すそうだ。
日本製ショートケーキは意味が違う。
というより、ショートにさしたる意味が無かった。
「応急手当として砕けやすいものを足せばどうか」
Aは冷蔵庫を開けた。
ベーコン、トマト、色々入っていた。
砕けやすそうなものもあるが、プリンと合わなさそうである。
「それがいいだろう」
迷うAにプリンは救いの手を差し伸べた。
示す先には金属バット。
黒いぷるぷるがいっぱいに流し込まれている。
コーヒーゼリーだった。
試しにフォークで刺してみると簡単に崩れる。
なおかつ甘いとほろ苦いでシナジーがある。
Aはこれがショートであるとの判断を下した。
しかし問題がある。
コーヒーゼリーをプリンの上にぶちまけたのでは見た目が悪い。
Aが客ならば宣戦布告であると思うことだろう。
「パフェの器にでもゼリーを詰め、上にプリンを乗せるべきだ」
名案であった。
さっそくその通りにしてみると、なかなかに見栄えがする。
これならば立派にショートケーキだ。
Aはうきうきとショートケーキを運んでいこうとした。
「待たせた詫びに何かを追加しなければいけないだろう」
プリンは冷静であった。
たしかに、散々待たされた挙句ただのショートケーキを出されたのでは客も怒る。
こういう時はあらかじめ謝罪を形にすることで怒りを出しづらくすべきだ。
そうと決まれば善は急げである。
甘くて苦いショートケーキには何が合うだろうか。
レモンで酸味を加えようか。
昆布で旨味を加えようか。
マスタードで辛味を加えようか。
「ショートがやや多い。バランスを取るために甘いソフトクリームがよい」
プリンは舌が確かであった。
Aはそれに従いミルクの味をしっかり感じられる特製ソフトクリームをかけた。
今度こそ、お客さんに出す時が来た。
「大変長らくお待たせいたしました。こちらショートケーキ、ソフトクリームはサービスです」
果たして、反応は上々であった。
この客はその美味なショートケーキをSNSに投稿し、瞬く間にショートケーキを求めて訪ねてくる客が席を埋め尽くすようになった。
Aは店長に褒められ、プリンはその一生を気高く終えた。
これはAの努力の勝利であった。
しかし、プリンの助言はとてつもなく大きなものであった。
Aはプリンを――いや、ケーキを一生涯忘れることはないだろう。
1か月後、Aは不当表示で訴えられた。