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因果応報

 ある所に詐欺師がいた。

 その詐欺師は他人からお金を巻き上げるのに躊躇が一切なかった。お金持ちだけではなく、貧乏な人でも、少しの金でもあるものなら、容赦なく騙し取っていた。



 初めて嘘を言ったのは小学校の頃。事の起こりは単純で、彼が瓶を割ってしまったのだ。

 普段、温厚な先生も怒っていた。

 

 「誰が割ったの?」と先生が訊ねた。

 

 誰も手を挙げなかった。皆、詐欺師が割ったのは知ってた。だから、今か今かと詐欺師の挙手を待っていた。

 

 そんな中、彼はニヤリと笑って、手を挙げた。

 

 「あなたが割ったんですか?」

 

 さぁ、「はい」と言え。そうすれば、この静寂は終わると誰もが思った。他の生徒も変に静かな教室が嫌だったのだ。

 

 「あいつがやりました」

 

 詐欺師は白々しく言った。彼が目を付けたのは、クラスの中でも一番大人しく、オドオドしている女子だった。

 

 「あなたが割ったの?」と先生は少し怒気を含んだ口調でその子に訊ねた。

 

 その子は少し驚いたような様子で詐欺師を見た。

 

 「なぁ、みんな。あいつが割ったんだよなぁ」

 

 クラス全体を見て言った。有無を言わさぬ口調で、鬼のような形相だった。みんな口々に「そうだ、彼女がやった」と言った。女子は泣きそうな顔になった。詐欺師は自信満々の笑みだった。


 最初はか細い声で反論していたが、ついに屈服し、「はい。そうです」と認めた。

 

 女子は先生に連れて行かれた。クラスの中には静寂が戻った。しかし、皆の心の中には、罪悪感が渦巻いていた。

 

 後に、詐欺師に付いたあだ名が「嘘つき」。今後の彼を一言で表したようだった。

 

 

 

 

 

 詐欺師となった彼が大切にしてたのは二つのことだった。

 

 一つ目は誰にでも優しくだ。詐欺をする人以外にも、優しくしておくことで他人からの心象を上げておくのだ。もし、それが家族や知り合いだったら、大きなプラスになるに違いない。

 二つ目は肯定した後、自身の経験を追加することだ。「確かにそうですよね」の後に「自分も○○でした」と言った方が具体的になり、相手は「あぁ、この人は自分と一緒だな」と思うのである。

 

 詐欺師は自身が学んできた技術を使って、今日もお金を騙し取ろうとしていた。

 

 

 

 今日はオレオレ詐欺。溜め込んできた電話番号に電話を掛ける。

 

 「僕だよ。僕。わかるでしょ」

 「誰だい。全く悪戯電話かい」

 「どうしてもお金を振りこんで欲しいんだ。本当に少しでいい。一万でいいから」

 「本当にそれだけでいいのかい。それならいいよ」

 「ありがとう。ただ、ちょっと口座を変えちゃってさ。新しい口座に振り込んでほしいんだ」

 「なら、口座番号だけ教えてちょうだい」

 「114だよ」

 「わかったよ。振り込んでおくね。たまには顔出しなさいよ」

 

 そして、電話を切る。上手いこといった。今日は始めからツイている。と詐欺師は思った。

 

 「おーい、こっちは一件取ったぞ。一万」

 「マジかよ。こっちは三件で五千円だぞ」

 「ハッキンググループはどうだ?」

 「こっちは仮想通貨の個人の投資家から奪おうとしてるけど、なかなかセキュリティが硬い」

 「とりあえず、昼までに各々三万を目標に頑張ろう」

 「了解」

 

 という感じで詐欺師グループの午前は終わった。

 

 

 昼飯はいつもの焼肉。コスパ的にも優れている。詐欺師の仲間は結構、大食いな奴が多く、七人で活動しているチームの中の五人は大食いだ。食べ放題にでもいかないと食費がかさむ。

 

 「タン八人前です」

 

 店員が来て、肉を置いていった。これを平らげるのは至難の業だろうと思われる肉の山をペロリと一人の男が平らげる。

 

 「さらにカルビ追加で」

 

 店員が青い顔をしてる。そろそろ、赤字が出る頃だった。でも、他の面面を見ると、食べたりないという声が聞こえそうだ。

 

 詐欺師は店員に言う。

 

 「十人前お願いします」

 

 今日も食べ放題でお得に昼食を取り、午後になる。

 

 

 さて、午後は次に何をするかという会議だ。

 現在、詐欺師のグループはハッキングと振り込め詐欺ともうかります詐欺の三つで成っている。

 詐欺師の男が作ったグループだったが、意外とハッカーも多くいる。七人のメンバーの内、四人がハッカーで、三人が詐欺師だ。

 

 「やっぱり、仮想通貨は駄目だったんじゃないかな。無差別だったとはいえ、五万しか取れてない。取引を自動化するツールだけ作っておいて、後は普通の取引で儲けた方がいいんじゃないかな」

 「そうかな。実際には五万だけど、もっと利益は出せるだろう。ここで安全策に走るのは違うだろ」

 「ネットでの犯罪は足がつきやすいから、注意してね」

 「でも、振り込め詐欺の収益額は安定してるけど、年々減ってるね」

 「仕方ない。最近は対策されているのが普通だ。逆に詐欺班は頑張ってると思うよ」

 「だけど、もっと増やす方法を考えないと」

 「お互いの利益のために」

 

 そう言って詐欺師たちは頭を捻って考え始める。

 

 三時間後、会議は終わった。

 

 

 

 

 

 さて、そんな一日を過ごしていたが、詐欺師の元に一本の電話が入る。非通知設定になっていたが、声を聴いたら、わかった。唯一の家族である母親からだった。

 

 「最近、どう。仕事は大丈夫」

 「大丈夫だよ。母さん。最近のプロジェクトは上手くいってるから」

 「そう。ちょっと困ったことになって助けて欲しいんだけど」

 「俺でよかったら助けになるよ」

 

 その後、母親から聞いた話は衝撃的なものだった。

 

 「重い病気にかかっちゃって手術費に二千万必要なんだって。今日、お医者さんから聞いてびっくりしちゃって」


 無論、詐欺師の家族は昔から貧乏だった。確かに母親には数万しかないはずだ。しかし、詐欺師も即座に数百万というと足踏みしてしまう金額だった。


 チームの共有財産が確か現在、七億五千万ちょっと。ただし、個人の口座には五百万ちょっとしかない。書類を書けば、共有の口座から生活用品や嗜好品、飯代もすべて出せるから、個人の口座にはあまり金を入れてない。しかも、もうすぐ【納税】がくる。

 【納税】というのはこのチーム独自のルールで、チームの共有口座に三百万を年に一度、振り込まなければいけない。

 そうしたら、もう二百万ちょっとだ。どうしたらいい。

 

 「来月の十日までに口座に直接振り込めばいいんだけど、大丈夫かい」

 

 唯一の肉親である母親に今、死なせる訳にはいかない。

 

 「二千万。なんとか作ってくるから待ってて」

 

 詐欺師は母親にそう言って、電話を切った。






 詐欺師は仲間たちに相談はしなかった。詐欺師は「仕事」で個人資産を増やしていった。仲間の共有資産は仲間と共に築きあげたお金の山だ。自分ひとりのために崩すわけにはいかない。

 来月の十日というと後、一カ月ぐらいしかない。少なくとも一千八百万ぐらいは欲しい。


 詐欺師は本当に急いだ。母親を助けるために、少々無理をした。仲間たちもその変貌ように驚いてはいたが、別に特段、特別扱いなどはせず、普段通りの生活が続いた。


 一週間が経った時点で、個人資産は八百万を超えた。実際増やしたのは二百万ちょっと。詐欺師は心の隅で驚いてた。一週間程度でここまで金が稼げるとは思っていなかったからだ。このままの調子でいくぞと心に誓った詐欺師はもっと仕事に精を出した。


 二週間目でデイトレードを始めた。仮想通貨の少額取引を繰り返し、一度の利益で数十円、数百円のちっぽけな利益を積み重ねていった。


 「仮想通貨の取引なら自動化できるから、自動取引用のプログラム作ろうか」


 ある時、仲間のハッカーが言った。


 「報酬は利益の五割でいいよ」

 「あぁ、作ってほしい」

 

 詐欺師は「ただし」と続ける。

 

 「俺の口座に利益額を入れて欲しい。来月の十五日に利益の五割を渡すから」

 「一時的にってことか。後から入れるって誓約書書くならいいぜ」


 詐欺師はすぐに約束報酬として、利益の五割を払う誓約書を書き、手渡した。


 「了解。作っとくわ」


 男のプログラムは正確だった。正しい所で機械が自動で判断して、取引していた。詐欺師は任せられると思ったのか。本来の役割である「詐欺」に戻っていく。



 そうして、二週間が経つ。

 利益は脅威の七百万のプラス。これによって、資産は一千五百万を超えた。全体を通して、一千万近くのプラス。


 ものすごいスピードだ。


 さらに、三週間目。仲間のハッカーに頼み込んで、ウェブサイトを作ってもらった。ウェブサイトには広告だけを貼れるようにしておいた。


 「広告を一スペース、五万で出せます」


 というウェブサイトだ。こんなもの下らない。と思うだろう。だが、SNSの拡散力はすごい。


 フォロワーが数万人いる詐欺師の本垢で呟いたら、RT数が半端ない。さらにハッカーに乗っとってもらい、有名人の垢で呟いた結果、SNSで話題になり、広告の申し込みがさらに増えた。これは面白いとSNSなどで評判になり、さらに広告の申し込みが来る。中には一スペースだと足りないと言って、数十スペースを買っていく会社もあった。


 このウェブサイトの一週間の収益結果として数百万の利益が入った。

 

 このウェブサイト作成の誓約は、一週間後からの広告料等の一切の権利を譲るというものだ。乗っ取りの方は「何もいらない」って言ったので、誓約書は書いてない。

 

 個人資産は数千万を超えた。


 さて、そろそろ振り込むか。


 詐欺師は言われた通りの口座に振り込んだ。


 三月十日までは後三日という所だった。危なかったと詐欺師は思った。












 「嘘つき」はこの時、まだ知らなかった。因果応報という言葉を。



 数日後、詐欺師は母親に電話をした。


 「母さん。手術はどうだった」


 しかし、返答は思ってもみないものだった。


 「手術って何のこと? 私はまだピンピンしてるわよ」


 その瞬間、彼は気づいた。




 自分が騙されていたことに。


 詐欺師は項垂れた。そして、因果応報という言葉を知った。


 誰かのセリフに「殴られていいのは殴られる痛みを知っている奴だけだ」とかいうのがあった気がする。

 「嘘をついていいのは嘘をつかれる苦しみと辛さを知っている奴だけだ」とでも変えましょうか。否、詐欺師は毟り取ってきたのだから、「毟り取られる」か。兎も角、彼は資産の大半を失った。


 詐欺師は自分がやってきたことの悪さを知り、警察に自首しましたとさ。めでたし。めでたし。

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