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竜の棲む国  作者: 佐倉櫻
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第七話:入団テスト

 竜鱗騎士団の見守る中、私の翼竜騎士団の入団テストは開始された。

 入団テストを開始する際、竜鱗騎士団の副団長らしき人物(顔を覚えていないが多分そうだと思われる)がアゲイトにコソコソと耳打ち(おそらくベリルの事だろう)していたがアゲイトはひらひらと手を振って何か話していた。

 入団テストは翼竜騎士団から2名審判員が選定され、武器は自由。

 ルールは相手に参ったといわせる事が条件となった。

 私は先ほど使用していた棍を手に取ると10歩ほど離れてアゲイトに向き合う。

 アゲイトも私に合わせてか竜鱗騎士の一人から棍を借りて手に取った。

 翼竜騎士の一人がアゲイトの佩いていた剣を受け取ろうとしたが、アゲイトはそれを拒否した。

 そして、私を見て一言。

「安心しろ。こいつは抜かねぇよ」

 そう言って笑った。こいつまだ本気を出さないつもりだな?

「勝手にしろ」

 私は棍を脇に構えた。

 それを見てアゲイトも棍を半身に構える。

 アゲイトの方が力もリーチも上。

 となると正面からやりあったところで勝ち目は無きに等しい。

 黒岩流は遠くは戦国時代に起源があるという。……嘘くさいが。

 無敵の流派というのが信念だ。例えば刀であれば接近戦では無敵だが槍を相手にはその3倍の技量が必要とされると言われている。

 だが、その槍も遠くから射られる弓には敵わない。そして弓は接近されればもろい。ならばどうやってその頂点に立つのか考えられたのが流派の始まり……らしい。

 何が言いたいのか、というと一見アゲイトに分があるように見えるが奴は無敵ではない。という事だ。

 二人の審判が左右に立ち私とアゲイトに目配せをした。

「では、これよりマイカ・スギイシの翼竜騎士団、入団テスト試合を開始します」

 握っていた棍を強く握りなおす。

「始め!」

 試合開始の掛け声とともにアゲイトが無造作に間合いを詰めて来た。やはり相当の自信があるようだ。

 2度、3度と繰り出される突きを間合いを詰められないように後ずさりながらかわす。

 と、真っ直ぐに突き出された棍がそのまま、かわした方向へとなぎ払われる。

 咄嗟に手にした棍ですり上げてかわすがそのまま間合いを詰められた。

「もらった」

 低い声。わずかにゆがんだ口元が映る。

 すり上げた棍はまたもや軌道を変え、私めがけて打ち下ろされた。が、届くより一瞬早く私の棍が打ち下ろされる棍に沿って下ろされ、その軌道を変えアゲイトの棍を打ち抑える。

 ついでに上体を低く身構え、足払いもかけてみたがこれはあっさりかわされた。ちぇ。

 だが、アゲイトを下がらせる事で間合いは広く取れた。

 身を起こして構えなおす。

 見ればアゲイトもまた棍を構えなおしていたが、先ほどとは違いその表情からは慢心が消えていた。

 そうこなくては。思わず口の端が緩む。

 双方構えたまま数秒にらみ合ったが、先に動いたのはやはりアゲイトだった。

 先ほどよりも早い打ち。だが目で追えない程ではない。

 次々と繰り出される棍を紙一重でかわす。

 おそらくアゲイトは棍はあまり使わないのだろう。動きが先ほど手合わせした騎士の型とほぼ同じだ。

 動きが分かればかわすのは容易い。容易いが、そこから反撃の隙を見出すのは難しい。

 さっきみたいに油断していれば棍をあしらう事も、そこから奇を突く事も出来るのだがそれをさせないための猛攻だろう。

 右に、左にとかわしつつ間合いを一定に保つ。

 アゲイトは棍に関しては熟練者とは言い難い。こうしているうちに反撃の隙も出てくるだろう。

 左……上。左下。右。

 次は右下。

 予想通りの軌道を描いてアゲイトの棍が振り下ろされる。

 かわす事に専念していたおかげでアゲイトの次の手がほぼ予測できるようになってきた。そろそろか?

 早めに仕掛けないとこちらの息が上がってきている。

 やはりなまってるな。これしきのことで息が上がるなど。

 2度ほど息を吸い込み呼吸を整える。

 左上から打ち下ろされた棍をかわしつつ棍を端に持ち変える。

 左から右になぎ払われる棍をかわして一呼吸。

 次は右上!

 アゲイトが棍を振り上げたその瞬間を狙って手にした棍をアゲイトの脛めがけて薙ぐ。

 この手も読まれていたのか、後ろに飛んでかわされた。構わずそのまま左下から右上にかけて振り上げる。

 振り上げた棍はアゲイトの右頬をかすめた。

 残念。またもやはずされた。

 しかしアゲイトを下がらせる事には成功。

 また、仕切りなおしだ。

 しかし先ほどの猛攻が効いているのか、アゲイトも息が上がっているように見える。

 そろそろ賭けに出たほうがいいかもしれない。

 こちらから行こうとした一瞬早く、アゲイトの棍が繰り出される。

 畳み掛けるように次から次へと繰り出される棍は型など無く、ただ振り回しているようにも見える。

 だが、さっきより数段早い。

 しかも次の手が読めない。かわすのが精一杯だ。

 先ほどの猛攻で相当体力を削いでいるはずだがまだ棍を振り回す力があるらしい。

 こちらはたいした攻撃もしてないのに、じりじりと体力が落ちているのが分かる。うらやましい限りだ。

 油断を誘い隙を突くのも失敗。空振りさせて体力を削ぐのも効果なし。

 ふと、負けた時何を要求されるのか……などといった考えが頭をよぎった。

 まずい、と思ったときには棍はすぐ目の前に迫っていた。

 避けるのは間に合わない!

 咄嗟に手にした棍で受ける、が、その棍ごとはじき飛ばされた。

「くっ……!」

 多少威力を流したはずだがそれでも棍を持つ手がしびれた。

 すぐに体勢を立て直すがアゲイトは直ぐに次の手を繰り出していた。

 一か八か―――

 重心を低く身構え、軽く踏み込み棍を構える。

 アゲイトの繰り出した棍は手にした棍を弾き飛ばした。

 アゲイトの口元がわずかにつりあがる。

 が、そのアゲイトのふところはがら空きだ。

 その一瞬を突いて懐に潜り込み、襟を取る。

 金色の目が間抜けに見開いて見えた。

「――せいやっ!」

 掛け声と共にアゲイトを投げ飛ばす。

 やはり先ほどの猛攻と足払いし続けたかいあってか、アゲイトの重心は上のほうにあったし、相当足にもきていたのだろう。びっくりするくらい派手に飛んでくれた。

 西洋人は受身が取れない。と、師範が自慢気に話していたが本当かもしれない。

 アゲイトは受身を取ることすらできすに地に横たわっていた。

 なんだか騒がしかった外野も妙に静かだ。

 が、気を抜く事はできない。勝負はまだ着いていない。

 警戒しながら近づくと(こちらも結構足に来てるので素早い行動は無理だった)アゲイトは呆気に取られているような表情でこちらを見た。

 戦意は喪失しているように見える。

 仰向けに倒れているアゲイトの頭側に回るとゆっくりアゲイトの右腕を取る。

「マイカお前――」

 アゲイトが何か言いかけたが無視してそのまま右腕をアゲイトの右脇に潜り込ませ、上半身をやや起き上がらせた状態でアゲイトの肩口あたりに膝を密着させる。

 そしてそのまま肩を固める。……俗に言うか肩固め、あるいは腕三角絞めと呼ばれる関節技だ。

「ふんっ!」

「あででででっ!」

 そんなに痛くは無いだろう。大げさな。

「ちょ、ちょっと待て」

「待たん!」

 試合中に何言ってやがる。逃げられないように全体重をかけて絞める。

「普通試合でここまでするか?!」

「私の戦闘スタイルに文句言わないと言っただろうが。それに試合は続行中だ」

 足はあまり力が入らないが試合中棍をあまり振っていないおかげで腕の筋力はまだ余裕がある。

 アゲイトが変にもがくおかげで、もがけばもがく程より確実に絞められる。

 ぎゅっぎゅっぎゅ。

「ま、待て、まて……ま……」

 ぎゅ、ぎゅ……ん?

 急にアゲイトの抵抗が止む。というか力が抜ける。あれ?

 見れば、アゲイトはぐったりとして気を失っているように見え……てちょっとまて!

「おい?」

 絞めていた手を離すが、やはりピクリとも動かない。

 がくがくと揺さぶってみたが起きる気配も無い。落ちたか?

「せめて『参った』と宣言してから落ちろーー!」

 遠くで審判の制止の声が聞こえた。

「ま、まて。待ってくれ。まだこいつは『参った』の宣言を――」

 冗談じゃない。うやむやにされてたまるか。

 アゲイトの頬を打てみるがやはり起きない。

 こ、このやろう…。

「起きろーーー!」

 しかし、アゲイトが起きる気配は無く、広場には正午を告げる鐘の音が空しく響いた。



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