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竜の棲む国  作者: 佐倉櫻
19/31

第十七話:竜姫祭前日

沢山の拍手、そして感想有難う御座います!参考にさせて頂きます。


今回も続き物です。短めに切ってあります。

一話一話の分量を短めにして更新速度を上げたい所ですが…。


 ニュージェイドの街へ出かけてから4日経った。明日は「竜姫祭」。

 祭り当日の見回りコースや担当地区が今朝、訓練開始時に発表された。

 当日は翼竜5匹が上空待機、竜鱗騎士団より1番隊および各隊より2名づつが選出され、街の各ポイントで待機。

 見回りは通常道理翼竜より2名竜鱗より3名の5人チームで行うが平常より倍の数が投入されることになった。私も見回りに配属されている。

 なぜこんなにも厳重な警護が必要なのか分からないが、今年は暴動が起きる可能性がある、という噂だ。ちなみにその噂はモルダから聞いたものだが。本当かな?

 そして、門前では街の人たちと城からの補助もあり、難民達にも物資の配給が行われる事になった。

 ついでに、当日の夜は城でもちょっとした夜会が行われるらしく、城の中でも貴族らしき人たちを見かけることが多くなった。何でも遠くから来ている貴族はこの城に数日滞在するらしい。そして私の事もちょっとした噂になっているらしく、訓練中ちらちらと見学に来る人も見かける様になった。

 見に来ると言ってもアゲイトに挨拶した後、私のほうをちらちらと見ながら何か話してそそくさと去っていくため、見られていることに気づいたのは今日になって隊長に「あぁ、またですね」とか言われてからだったが。

「また、って何がですか?」

「見学ですよ。と言っても貴方を見に、と言うのが目的でしょうが」

 隊長の視線の先を追うと、そこにはアゲイトと話をしている身なりの良さそうな人物が。

 遠目でよく分からないが、壮年の男性がたしかにアゲイトと話をしながらこちらをちらちらと見ている。そんなに珍しいのか。この髪は。珍獣にでもなった気分だ。

 クサビは……と言えば興味なさ気に訓練コースを見ている。

 先日やっと私を認めてくれたのか振り落とす事が無くなり、一度乗れてしまえば操縦方法も馬とほぼ同じだったため、走ったり止まったりある程度は乗りこなせるようになってきた。なので今日から障害物の訓練を始めるわけだが……まぁクサビのこの雰囲気なら大丈夫だろう。見学ごときで気を散らす心配は無さそうだ。

 ちなみに、今日の午後からは街の巡回に私も参加させてもらえることになった。

 やっと一人前と認めてもらえた気がして私としては大いに楽しみな訳だが心配事も一つ。いや、正確には二つ。

 心配性なベリルがそれを聞いて同行すると言い出した事。

 さすがに隊長も居るのだから迷子にはならないし、私も単独行動は絶対にしないと約束してやっと納得してくれたが……いや、さすがにこの忙しい時に後をつけてきたりなどはしないだろう。誓約書まで書かされたのだからな。

 もうひとつはアゲイト。あの馬鹿までもが同行するとか言い出した事。

 その場で速攻却下し、ついでに殴っておいたので大丈夫……だよな?

 先日の一件以来、どうもベリルに監視されているような気がして仕方ない。確証は無いのだが。気にしすぎだろうか?

 だが、訓練が終了すると普段屋敷で食事すると言っていたベリルが食堂まで同行してくれるようになった。ついでにアゲイトまで同行するようになり食堂ではちょっとした有名人になってしまった。

 こっそりメネットさんに「あんたも大変だねぇ」などと耳打ちされる事もしばしばだ。同情してくれるのは有難いのだが、その声音に面白がっているような節があるような……まぁ、他人の不幸は蜜の味。とか何とか陰険メガネが言っていたから、物見高い連中には面白い見物なのかもしれない。私としては男二人に監視されるより、女の子に監視されるほうが良いんだけどなぁ。せっかく食堂に行ってもローゼやモルダと落ち着いて話も出来やしない。

 あぁ、まただ。

 やっとその貴族が去ったかと思えばまた別な貴族がやってきて、また私のほうをちらちらと見ている。そしてアゲイトと少し話をして去っていった。

 なんとなくアゲイトがいらいらしているようにも見える。まぁこう次々とやってこられてはいらいらするのも分からなくはないが。

「ではマイカさん、次はこちらの障害を飛んであちらの障害を越えてみてください」

 と、いかん。訓練中だったな。

「はい」

 気を引き締め手綱を握り直し、障害を飛ぶ姿をイメージする。よし、出来る。

 その障害は30センチ程度の高さに設定されたバー。これくらいの高さならエルペタでも大丈夫なはずだ。クサビも怖がっている様子は無い。

 バーを睨み、クサビの腹を蹴る。加速し、バーの手前で軽く手綱を引いて腰を浮かす。跳ぶ。

 第一の障害は難なくクリア。クサビの首を叩いてほめてやる。次はあっちのバー。

 体制を整え障害に向かう。と、その時女の声がした。視界の端にエルバイト公とアゲイト、そしてアゲイトの腕に手を絡ませている女性の姿が目に入る。誰だ?

 仲の良さそうな雰囲気。ドレスを着た女。

 と、いかん。よそ見している場合じゃない。

 障害の手前で仕切りなおし、再び戻って跳びなおす。

「どうしました?」

「いえ……何でもありません。もう一回行きます」

 今度は集中を切らさないように障害を越える。踏み切る時と着地のタイミングが馬と若干違うのに慣れないが、馬よりも機動性に優れている。と言うのは確かなようで、障害を越えたあとも意外と安定している。

 ふと、アゲイトを見る。……居ない。

 ……まぁいいか。

 どうせ女好きの奴の事だ。さっきの女性とどこかに行ったのだろう。

 それに、昼になればのこのことやって来るだろう。

 その後も正午近くまでエルペタの訓練をして、終了間際に隊長から見回りの手順や注意点などをレクチャーしてもらい、訓練を終了した。

 正午の鐘が鳴ったが、アゲイトが戻ってくることは無かった。











 食堂は騎士団の連中や城の使用人でごったがえしていた。

 入った途端、食堂は少しだけ会話が小さくなり、注目を集めているようだったがもう慣れた。

 初日などは一斉に静まり返り、ものすごい注目を集めてしまったがそれに比べれば全然マシだ。

 アゲイトなどは注目を浴びるのには慣れているらしく、まったく気にとめた様子も無くめずらしそうに食堂の様子を見ていたし(ほとんど利用した事が無かったらしい)、ベリルは一瞬躊躇した様な気がしたが、何事も無かったかの様に振舞っていた。

 つくづくこの二人は普通の人間とは違う神経を持っている気がしてならない。

 トレイを手に、今日の献立を見た。

 今日は配膳所にモルダの姿が見える。

「マイカ、いらっしゃい。……今日は殿下の姿が見えないわね?」

「あぁ……訓練中に何処かへ行ってしまった」

「ふ〜〜ん……まぁ、今は忙しいからかしらね。で、どう? 腕輪は編みあがりそう?」

「いや、あと少しなんだが最後の所が良く分からなくて」

「そう、今日は部屋に来れるの?」

 そう、あれから毎晩少しづつだが例の腕輪を編んでいる。時々モルダやローゼに教えてもらいながら、だが。

 腕輪ひとつ編むのにこんなに時間がかかるとは思わなかった。モルダなどはすでに10個近く編み上げていると言うのに。

「今日はこれから見回りなんだ。だから、また夜に行ってもいいかな?」

「いいわよ。夕食を片付け終わるまでに食堂に来て頂戴」

「わかった」

 簡単な約束だけ取り付け、料理をトレイに乗せベリルの元に戻る。ちなみに今日の献立は私は川魚のソテー。ベリルは鶏肉の煮込み料理。

 いいかげん白いごはんと味噌汁が恋しいのだが、それとなくベリルにごはんとか無いのか? と聞いてみたが、残念ながら無いようだ。この国には白米文化は無いらしい。でも、パンがあるということは麦はあるのだろう。麦って米と同じに炊いても食べられたよな? 今度試してみようか……

 食堂は混雑しているにもかかわらず私とベリルの周りには人気が少ない。……慣れたけど。

 さて、さっさと食事を済ませて見回りの準備をしなくては。と言ってもクサビは鞍を置いたまま厩舎に戻してきたから準備と言っても何も無いのだが。

「マイカ、分かっていると思いますがくれぐれも単独行動はしないように」

「わかってるって」

 ベリルが心配そうに言う。今朝からこれで5回目だ。そんなに信用無いのか?

 ……信用無いから監視されてるのか。間諜とかの誤解は解けたはずなんだが。

「……やはり見回りの配属は『竜姫祭』が終わってからにしませんか?」

「嫌だ!」

 このやり取りも何回目だろう。最初はエルペタにまだ乗れないから、と納得していたが(見回りは全員エルペタに騎乗する為)もう乗れるのだからいい加減参加させてほしい。

 入団してからというもの、午前中はエルペタの騎乗訓練。午後は手の空いている団員に引き続き騎乗訓練を見てもらうか、執務室で近隣諸国と自国(ディアマンタイト王国)の歴史と情勢の勉強。

 まさかこの年になって歴史とか勉強するはめになるとは思わなかったが、たしかにこの国の事も世界の事もまったく知らないのだから必要だとは思う。だが、グラフも一覧表も年表も無い、異世界の言葉のみの本で勉強とか苦痛すぎる。

 習うより慣れろ。が信条の私としては予備知識より実践こそが有難いのだが。

 でも、こいつはあの陰険メガネと同じで、取り扱い説明書や携帯とかの契約書などは端から端まできっちり読む派なんだろう。……頭が痛い。

 ベリルの小言を聞き流しつつ魚に手をつける。

 食堂のメイン料理は、肉、魚、鳥とあるが魚は仕入れの数が少ないらしく(保存が利かないので確実に捌ける量しか仕入れないらしい。仕入れも大変なんだとか)いつも直ぐに売切れてしまう為、実際口にできる事は少ない。

 贅沢を言えば秋刀魚の塩焼きやアジの開きや塩鮭が食べたいのだが…。あと白いご飯。

 だが、これはこれで美味しい。ご飯があればもっといいのに。

「マイカ! 聞いているのですか?」

「……聞いてるってば」

 言いつつ、もう一口……と手を伸ばしかけた時、背後に人影が。

「あ〜〜〜、腹減った」

 うんざりした口調で、当然の様に私の左に座る赤毛の大男。

「おや、居らしたのですか」

 右側から冷ややかな声。

 左側の男はその声の主を金色の目で一睨みした。……なんだ、この空気。

 ベリルはアゲイトに睨まれても涼しい顔で食事を続けている。

 ……やっぱりこの二人って仲悪いんだろうなぁ。性格も合わなさそうだし。なのに何でベリルはアゲイトの左遷に追いて来たんだろう?

 と、左で物音と気配。振り返れば赤毛の男はあろう事か、私の食事に手をかけていた。

「ちょ! それは私の!」

「いいじゃねぇか。もう一回取って来い」

「はぁ?!」

 訳が分からん。何? この暴挙。

 呆気に取られている私を尻目に平然と魚をたいらげ始めた。……信じられん。

「殿下! いぎたない真似はおよしなさい!」

 さすがにベリルが諌めるが、アゲイトはそれを無視した。

「ほら、いって来い」

 むむむ……何で私が……。納得がいかないがこれくらいの事で怒る気にもなれない。しぶしぶ席を立ち、新たに食事を取りに行く。……納得いかん。自分で取って来ればいいだろうに。

 トレイを手に、新たに魚を注文するがあいにく売り切れていた。……納得いかん。配膳口でアゲイトを睨むが、アゲイトは何やらベリルと話しているらしく、こちらには気が付いていない。

 モルダに本当に魚は無いのか確認したが、やはり無いらしく、変わりにパンプディングをおまけしてくれた。その心遣いに感謝しつつ、子牛のパン粉焼きとパンを取って席に戻る。

 アゲイトは私から奪った魚をすでに食べ終え、ベリルは食事の手を止め、何やら考えているらしかった。何かあったのかな?

 二人の顔色を伺うが、アゲイトは何時もと変わった様子は無く、ベリルもまた、多少不機嫌そうではあったが……んん?

「何か……あったのか?」

「あん? 大した事じゃ無ぇよ。そうだ、お前今日の巡回勤務は無しになったから」

「は?!」

 本当に何でもない事の様にそう言い放つアゲイト。……ちょっとまて。

「無しって、何で?!」

 思わずアゲイトに掴みかかりそうになる。

「まぁ落ち着けって。その代わり……っちゃ何だが、お前は今日から3日間俺の警護に回ってもらう」

「はぁ?」

 ますます訳が分からん。

 アゲイトは気まずそうに頭を掻いた。

「あ〜〜〜、その、何だ。……お前も知ってると思うが今この城には明日の夜に開かれる夜会の出席者が滞在している」

 ふむ。練習中に見学に来ていた人たちの事だな。

「その王都から来た連中がお前に興味深々でな。早い話がお前のお披露目っつーか……」

 これはつまり早い話が見世物になれ、って事か?

 そんなに珍しいか? この髪が。そんなに見たい物か?

「……それで?」

「いちいち今朝みたいに練習中に来られるのも面倒臭いだろ?」

 なんとなく腑に落ちない。何だろう、この違和感。

「本当にそれだけか?」

 アゲイトに詰め寄るが表情は変わらない。何時もと同じ何処かおどけているかのような余裕の表情。

「当然、下心はある」

 堂々と言い放たれ、脱力した。

「殿下!」

「当ったり前だろ!」

 頭上でなにやら剣呑な空気が流れているが、とりあえず放置する。仲裁に入る気力など無い。

 分からん。私にはこの男が一番不可解だ。

 とりあえず面倒臭がりで女好きの堕落した人格である事は確かだと思うのだが、何故か、それだけではないと思っていたのだが……買いかぶりすぎか?

 はぁ……護衛、か。

 そんな物やった事無いが、要はこの男の傍に居れば良いんだよな? そして、もし、この男に危害を加える、あるいは危害が加わる状況になった場合、それを阻止すれば良いのだろう。つまりはボディーガードだな。

 ボディーガードと言うと、つい黒服に黒いサングラスの屈強な男性を思い浮かべてしまうのだが……待てよ? 見世物にされると思うから嫌気がさすのであって、これはある意味、私がそれなりに認められている。という事なんじゃないか?

 もし実力も無い、信用してもいない。と判断されているのであれば、こんな任務、例え見世物だとしても任されるはずは無い。ならば、しっかりとこの任務を遂行する事が出来れば私も認められることになるのではないだろうか?

 頭上で交わされる、やや意味不明なやり取りを聞き流し、とりあえず食事を進める。

 そうだな、この状況は前向きに捉えたほうが良いだろう。たしかにアゲイトの言うとおり、練習中に見学に来られても他の団員も迷惑だろう。

 めずらしいと言われた所で、見慣れれば物珍しい目で見られることも少なくなるだろう。ならば早いうちに見慣れてもらったほうが、私も煩わしい事は無くなる。

 しかし、この男の女好きは最早病気なんじゃないだろうか?

 城の女中に手を付け、城下町では遊び歩き、如何わしい店にまで出入りして、尚且つ私にまで手を出そうとしている。……病気だな。しかも重度の。大体、今まで一度だってモテたためしの無い私に手を出そうと思う時点で悪食にも程があろうと言う物だ。

 食事を進め、メインディッシュの子牛を食べ終えて、パンプディングに差し掛かっても頭上のやり取りは喧々囂々と続いていた。周りの人たちも呆れた目でこちらを見ている。

 干し葡萄の入ったそれを木さじで掬って口に運ぶ。上に掛けられた蜂蜜が、干し葡萄の酸味と相まって程よい甘さをかもし出している。……パイよりもこっちの方が好きかも知れない。

 舌鼓を打ちながら頭上の喧騒に耳を傾ける。

 ……にしても、「ヘタレ神官」てどう言う意味だろう?








 食事を終え、トレイを下げ場まで持っていくと(本来はそのままその場に措いておけば、係りのものが片付けてくれるのだが、なんとなく食堂に迷惑を掛けているだろう手前、自分の分くらいは自分で下げる事にしている)食堂の端でローゼやモルダと同じくらいの年頃、服装の少女がなんとなく見覚えの有る(おそらくは騎士団の誰かだと思われる)男に、恥じらいながら何やら渡している。

 それを受け取った男もまんざらではなさそうな雰囲気。……何だ? このむず痒くなる光景は。

 と、頭上に重圧。

「あ〜〜、ありゃ『竜姫祭』のお誘い。だな」

 アゲイトが私の頭に肘掛けて説明してくれる。

「重い! ……なんだ? そのお誘いってのは」

 アゲイトは私の頭を幼子にするようによしよし、と撫でながら答えてくれる。が、退く気は無いらしい。

「明日が『竜姫祭』ってのは知ってるな? 本来は明日手渡すはずの腕輪だが、一日早く意中の相手に手渡して、『明日は一緒にお祭りにいきましょうね』って約束を取り付ける事だ」

「ふ〜〜ん……」

 竜姫祭か……あれ? たしか祭り当日は騎士団も衛兵も総動員されるんじゃ……

「っつー事なんだが……おい、ベリル。第二分隊に夜会警備も追加してやれ。……俺が働いてるのにいちゃこらしやがって。ザマーミロだ」

「お前がいつ働いてるんだ」

 本当、こいつ性格腐ってるな。

「俺はいつでも真面目に働いてるぞ?」

「それは存じませんでした。是非、今からその働いている姿とやらを拝見させて頂けませんか?」

 さらに背後から暗く、冷たい言葉。

「……何時も見てるだろ」

「真面目に働いているお姿を一度でも拝見した記憶など御座いませんが?」

「……だ、そうだが?」

「……ちっ」

 アゲイトは軽く舌打ちしてベリルを睨みつけた。

「……そういや、お前。今日はやけに大人しいな?」

 アゲイトが気を取り直したように(相変わらず私の頭に肘掛ながら)私の様子を伺う。

「うむ。最近気付いたのだが、どうもお前は私の嫌がる様を見て喜んでいる様なのでな。ならば騒がなければ良いだろうと……」

「ふ〜〜ん……」

 アゲイトが、やや、つまらなさそうな表情を見せる。

 よし、この反応で大丈夫みたいだ。いちいち騒がなければ、この男も私に構わなくなるだろう。

「大体、お前の女好きは病的な物だからな。気にしないことにした。犬にでもじゃれ付かれているのだと思えばどうという事はない」

 ふふん。私だって少しくらいは学習する。

「んじゃぁ……もっとじゃれついても良いんだな?」

 何? と思った瞬間背後から抱きすくめられる。

 耳元に吐息。頬に柔らかい少々癖の有る赤毛が触れる。

「殿下っ!」

「ぎゃーーーーー!」

 思わず肩に触れたアゲイトの顎を両手で思いっきりのけぞらせる。

「痛たたたた!」

 なんか、今、ぐきって感触が……緩んだ腕をすり抜けて振り返る。アゲイトは首の後ろ当たりを押さえていた。

 ……え〜〜と……いきなり護衛失格……かな?

 恐る恐る、ベリルを見る。

 ベリルは何時も以上に冷ややかな視線でアゲイトを見ていた。が、私に気付くと、不自然に感じるほどにこやかな笑みを浮かべた。

「マイカ、犬にじゃれ付かれる。と言っても、しつけの悪い犬であれば噛まれる事もあります。そういった者には近寄らない様にしなさい」

「え〜〜と……」

 犬……の話だよな? なんか怖いんだけど。

「ベリル! てめっ……」

「犬、の話。ですよ? 殿下。……おや、どうかなさいましたか? 顔色が優れないようですが」

 ベリルはわざわざ「犬」の部分を強調してそう言った。

「あ〜〜、そうかよ!」

 ふて腐れた様子のアゲイト。

 が、ベリルはそれを取り繕う様子は無い。

「さ、殿下、マイカ。執務室に行きますよ。……今日こそ貯まっている政務を片付けて頂かなければ、明日の式典は代理を立てて頂く事になりますからね!」

 ……そんなに貯まってるのか。そういえばここ数日、ベリルは訓練は点呼だけ済ませると、そのまま執務室に直行していたな。

 ふて腐れたまま渋るアゲイトを急かして、食堂を後にした。





携帯版にも拍手ボタン付けました。よろしければ拍手、感想お願いします。こちらもパソコン版の拍手と同じ使用で2枚目より筆者の稚拙なイラストを載せております。イメージ崩したくない方は見ないほうが良いかも…。

もし、イラストをお気に召して頂ける様でしたら近々2枚目もアップ予定です。


さて、拍手返信です。

>喜ぶ度に植物が〜


アゲイト「…知りたいか?知らないほうが幸せな事もあるぞ。悪いことは言わん、やめとけ……」(脱力)



…だ、そうです。


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