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『ほな部屋を真っ暗にして
布団の中で休みよし。
視えへんと思うけどワシが呪かけとぅから
そのままそこで寝たら飛べるゎ。
それと基哉。
ええか?明日香の魂が連れて行ってくれるから
お前はしっかりついていくんやで。』
九郎丸に言われるまま横になる。
目をつむるとかなり緊張してきた…けど
『今度はワシもおるから心配せんでええ。』
頭の中に聞こえる声、最初の時と一緒。
低くて心の底から安心できる声。
悔しいけど、その声に救われてる自分がいる。
『頭の中で意識を飛ばすイメージしてみるんや。』
私は黙ってうなずくと、そのまま意識を集中させた。
背中に風を感じる。
体が抜けて意識だけが空を飛んでる、変な感じ。
隣に基哉さんと九郎丸もいる。
もうかなり高いところまできて、
街並みが流れるように過ぎ去っていく。
ちょっとでも気を抜くと、沈んじゃいそう。
落ちそうになる度に九郎丸が手を引っ張ってくれて、何とか飛べてる状態。
そうしてしばらく飛んでいると、見覚えのある町についた。
基哉さんの記憶の中で視た景色とあまり変わらない。
駅。改札。バス停。パン屋…
あ、赤い屋根!
うん、ここだ。この家だ。
でも、そこに女の子とお母さんの姿はなかった。
あの時見たいに
胸が苦しくなって、切なくなって。
あ、れ…私。泣いてる…?
基哉さんに共鳴してるのかな?
そんなに、ここに帰りたかったんだ。
8年って長すぎるよね…
基哉さんは、あれ…?
さっきまで隣にいたはずの基哉さんがいない…
九郎丸はにやりと笑ってぽそっとつぶやいた。
『よし、終わったな。明日香、たぶん基哉はもう大丈夫や。』
大丈夫ってなにが? え、終わった…って?
じゃあ、基哉さん成仏できたの?
私、ここに連れてきただけなんですけどぉおおおおお?!
『そうや。お前はここに連れて来るだけで良かってん。
ここまで来たらあいつの身内が
あいつを守ってくれるから、後始末はそいつらにまかせればええしな。
こっから先が大事やねん。
まずは、ゴミ掃除の仕上げせんとな…』
「えっ?なにゴミ掃除って…?
そんなの聞いてないんだけど…???」
九郎丸は、ぽかんと口をあけた私に視線をやると、
すぐに私の首筋を睨みつけた。
『お前、公園のところの道の角で、
基哉についとった糸くずみたいなん取ったやろ?
あれな、あの界隈に巣食ってる魔物の手やで。
そこらじゅう触手のばして、手あたり次第引っ張っとるんよ。
お前は基哉のゴミをとってやっただけ思っとるけどな、
お前が知らずに基哉からその手の一部を祓ってやったから
基哉はちょっと自由になってここへ帰れたんや。
でもな、それで済みとちゃうねん。
祓われた触手の主さんはせっかくの贄を剥ぎ取られたんよ。
怒ってない訳ないやろぉ~?
視てみぃ。視えんか?
お前のその首筋にしっかりと絡んでるぞ。
ここへ来るとき、気ぃ抜いたら暗いとこに沈みそうなったやったろ?
あれはしっかり絡みついとる魔物のお誘いやでwww
気ぃ付かへんかったんかwww
お前が基哉からそいつを引っぺがした時から、
触手のターゲットは基哉からお前に切り替わっていたんよ。
視えへん触手がしっかり絡んで影響でとったやろ
基哉もお前から離れへんかったんは
元凶の元から離れられるのはお前にしがみ付いとる間だけやったからや。
まぁ、ここまで基哉を引っ張ってこれたら大丈夫。
ここはあの場所から遠い基哉のホームタウンやし、守りも固い。
基哉を無理やり触手から切り離したったら、
そら触手の主さんは猛り狂うわな
頭痛を基哉のせいにしとった辺り、
相当な鈍ちんやとは思っとったけどwww
そろそろおいでになる
元凶の主さんの霊気くらいはわかるんちゃうか?』
なっ…なんですとおぉぉおおぉおおおおおおおおおおおおおお(゜Д゜;)
そういえば、さっきから下に沈みそうになってるし、
首筋に鈍い痛みはある。
忘れかけていた頭痛。
静かに私に降りかかってくる…
首筋から高いのか低いのかわからない声が
耳鳴りと一緒に聞こえてくる
【生意気な小娘が。 なぜ、わらわの邪魔をする?】
【そなたもわらわの欲しい物を奪うのかえ? そこの鴉と同じなのかえ?】
し、知らないわよぉWWWWWWWWWWWWWWWW
「九郎丸!! どうするの? 私 どうしたらいいの?」
パニック状態に陥る私。
ダメだ…耳鳴りと頭痛がひどい
ゆっくり意識が深い暗闇におちていく…
気が付くと暗い湖のほとりにいた。
もう長い事ここにいる気がする…。
見上げても空は見えない。
うっそうとした森の木々が
日の光も、月の明りも
全て覆い隠してしまった。
寂しい場所にいる。
今が昼なのか夜なのかもわからない
纏わりつく重たく湿った空気
かろうじて見える
湖の淵。ここは何処なんだろう?
…寒い…
それに、さっきから悲しくて涙が止まらないの。
「寂しい……。」
このまま湖の中に入ったら楽に行ける…
あの人に会える…
あの人がいる…
手を伸ばせばきっと私を連れて行ってくれる…。
…あの人って…誰…?
『おいっ!!流されるな!!』
大きな声が響く。
暗い空が割れるように眩い光が差し込んだ…。
眩しい…
あれ…私、どうしてたんだろう?
涙が止まらないのは、いったい何故なんだろう…?
涙をふきながら光を見上げると
羽を広げた九郎丸がいた。
九郎丸の羽も目も金色に変わっている…。
『流され過ぎじゃ、あほぅ!!
しかし、よぅここまで深いとこ来れたな。
お前にしては上出来 お疲れさん。
…後は任せろ。』
九郎丸が叫ぶ
『光りの法衣まとう者、汝の進むべき道を指し示さん。』
九郎丸はそういうと金色の羽を羽ばたかせた。
よくわからないが、暗く立ち込めていた空気が一掃され、
辺りが心地よいに風が吹いた…気がする…。
身体が暖かくなって
知らないうちに
私はまた意識がなくなっていた。
目が覚めると
いつも通りの私のベットの中。
身体が重い…。
九郎丸が傍らにいて笑っていた…。
『よう!!お疲れやったな。
はよ水飲め。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
全身に広がる倦怠感
それでもゆっくり起き上がって、
寝る前に用意しておいたコップ一杯のミネラルウォーターを飲む。
すると身体は不思議なぐらい、楽になった…。
頭痛も寒気も耳鳴りもない…。
辺りを見渡すと何の変わり映えもしない
私の部屋。
でも、基哉さんは?基哉さんがいない
『ああ、基哉やったら逝きよった。
ええ顔しとってんでぇ~
明日香に、よろしゅうやって!
彼岸辺りにまた改めて挨拶しに来るゆうとってん。
一件落着やな。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ちょっと待って これで一件落着な訳ないだろう…(。-`ω-)
九郎丸って、もしかして…
…知ってた?ずっとあの女の人憑いて来てたの?」
『当たり前やん。
正確にいうと女と男どっちもおってんで
お前が無意識に女の記憶に引っ張られてん。
ワシがおったから 帰れたんやろぉ。
記憶の中の痛みで死んでしまう奴もおるんやで。
無事に帰れたんはワシおかげじゃ。
ワシに感謝せいよ。
まあ初めてにしては
上出来やけど、点数つけたら30点ってとこやなぁ(*´ω`*)
最初に出てきたあの女は
昔 よう決壊して災害あった あの湖に
人柱として 無理くり生贄にされて殺された哀れな魂の成れの果てや。
水の中から 助けて欲しゅうて
手あたり次第 手を伸ばして
そこらの魂を 捕まえても 引きずり込んでも
あの池から出られへんかったんやろなぁ。
だって捕まえた魂は恋人とちゃうかったから。
女の恋人だった男は
女の後追い自殺してもうたから裏目に出たんやな。
自殺したら行く場所ちゃうねんで。
そらもうゴテゴテ 二人して仲良く別々の場所で地縛霊なって
会えれんまま どっちも終いに魔物になってんな。
女は基哉だけちゃう 他にもたくさん引っ張り込んだんや。
哀れな魂をな。
けど、いくら取り込んでも 取り込んでも
満たされんまま
自分が何者か なんで魂を求めとんかわからんようになってん
あのままやったら まだ 被害者出てしまうとこやった。
お前が基哉引き剥がしたら
お前が恋人と引き剥がした奴らと同じやと思たんやろな。
怒り狂ってお前に恨みの矛先向けて
まあワシが機転利かせて 事前に男の魂を説得してお前に乗せておいたから
二人して恋人に会えて浄化しょった、っちゅう訳じゃ(*´ω`*)』
「えぇっ~(;’∀’)⁉ 男の人って?
そんなの聞いてないよぉっ!!
ひどくない?頭痛の原因 男の人乗っけていたから?
見殺しにしたようなもんじゃないの
九郎丸 私を殺す気か?ねえ手段間違えてない?」
『あほう!!
ワシがお前を簡単に死なすか ボケぇ
お前も見ていたやろ 宝珠の神さん直々に
お願いされとんの
面倒みぃ 言われとるのに
自分死んでみぃな
ワシ向う500年は懲罰で天界の雑用戻りやで。
勘弁してやぁ。』
【なっ…なんだと(。-`ω-)!!】
「九郎丸、最初からわかっていたんなら
私じゃなくても 良かった訳でしょう?
なんで、自分が視てあげないの~?
1人で出来ないくらい もしかして、へたれなの? ”(-“"-)"」
『はぁ~ん?
あほか、もともとワシはすごいんじゃ
ワシなら基哉も含めて3人3秒で成仏させたるゎ。
お前の修業を任されとんねん。
忍耐強く、お前が出来るの 待っとんのやろ。
基哉にも最初からワシがお願いしとんねや。
むしろお前はお前の不甲斐なさを悔み、
ワシと基哉の忍耐強さに感謝せい。』
「なにそれ!? (-“-) 頼んだ覚えないわよ!!
むっちゃむかつくわぁ~。
もう、九郎丸とは口きかないからね( `―´)」
ちょっと、かっこいいかもって思った自分が腹立たしい<(`^´)>
もう、九郎丸なんて知らないもんねwww
ムカムカ(。-`ω-)
ベットの上枕元に置いていたお気に入りのクマさん
思いっきり九郎丸に投げつけて
高まった感情をぶつけた。
「ばか九郎丸 大っ嫌いwwwあっちいってよwww(-“-)」
『おわっ!! なにすんねん(。-`ω-)』
九郎丸 華麗に飛んで、ひらりと身をかわし
クマさんを避けた。
そして一言
『あぁ~ん?なんやそれ そんなん当たるかボケ。』
にんまり笑って
『お前がへたれ過ぎるのが悪いんやろが!!
くやしかったら 一人で飛べるようなれや、へボケ。』
思いっきり こめかみをぐりぐりされたよ(-_-;)
めっちゃ いたぁい(泣)
…なんで私がこんな目にあうんだwww(>_<)。
「神様 もう勘弁してくださぁい。」
こうして17歳 高2の夏休みは
波乱含みではじまった…。
おしまい。