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海の防人達  作者: 月夜野出雲
第2章 防人達の交流
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海鷲と若鷲・後編

「これフィクションですからね。」石見3等海佐

 ○房総半島沖南東68km『DDH186 とさ』パイロット控え室・(ヒト)(フタ)(ヨン)()



 「幽霊!?いるとは思えないぞ。この船、出来たてだぞ?誰かと見間違えたんじゃないのか?」



 チヌークの機長・クロス1尉がサヤマ3尉の話を聞いての開口一番である。

 しかし、SHの機長・マツヤ3佐は腕組みをしたまま、何かを考えている。思い当たることでもあるのだろうか?



 「もしかしたら・・・」



 「機長?何かあったんですか?」



 「マツヤ機長?ま・・・まさか・・・本当に何かあったんですか?」



 顔が青ざめるコヤガワとサヤマ。クロスも「まさか」といった顔してマツヤを見る。



 「あ・・・いや、幽霊じゃないんじゃないかな?と」



 「「知ってるんですか?!」」



 見事にハモるコヤガワとサヤマは、マツヤを凝視している。



 「知ってるって程じゃないんだが、昔から艦船には分身みたいな物が宿るって言うのは聞いたことがある。コヤガワ達が見たのはそういうのじゃないかな?」



 「分身ですか・・・でも、私が見たのは幹部でした。そんな事ってあり得るんでしょうか?」



 半分は納得できないといった口調で、コヤガワは自分の疑問を口に出した。確かに、自衛隊の艦艇に幹部自衛官の格好をした『分身』は出来すぎのような気もする。



 「そこまでは流石に解らないな。木を隠すなら森の中だろうが、理由は“その幹部”に聞いてみたらどうだ?」



 「そう・・・ですね。確かに聞いた方が早いですね」



 また見かけることがあったら聞いてみようと、コヤガワは思うのであった。



 「そう言えば、艦船を女性に例える事があったなぁ。英語の表現でも“彼女”だしな。」



 クロスはふと思い出したことを口に出す。



 「クロス1尉の言うとおりだな。でも日本で艦船を女性に例えるようになったのは、多分英語の・・・というかイギリスの影響だろう。明治時代より前は『丸』をつけていたが、あれは当時の男性につけるものだったからな。例えば『牛若丸』とかそうだろう?。」



 必ずしも世界中が、『艦船イコール女性名詞』というわけではない。各国によってまちまちで、男性名詞だったり中性名詞という国もある。



 「さてと、そろそろ百里が到着するんじゃないか?サヤマ、一応俺達も確認しておこう。」



 時計を確認したクロスはサヤマを促すと、そのまま飛行甲板に向かった。

 そして10分程すると百里救難団のヘリが到着し、交換作業が始まった。



 ○房総半島沖南東65km『DDG179 いわみ』士官室・(ヒト)()(サン)(マル)



 チヌークは修理が終わるとそのまま帰投し、百里救難団が現在合同訓練中である。

 よって、士官室には誰もいないはずであるが・・・



 コンコンコン



 「どうぞ、入ってもらえる?」



 紺色をした作業着姿の女性自衛官が入室を許可する。



 「失礼します。初めまして、石見3佐。挨拶が遅れましたが土佐3等海尉です。よろしくお願いいたします。」



 同じ色の作業着を着た土佐が入室し敬礼した。



 「土佐3尉の所でハプニングあったみたいね?無事行ったみたいだから大丈夫だったんだろうけど。どうぞ、座って。」



 土佐と入れ替わりに石見は立ちあがって、コーヒーのセットを取りに行った。



 「どうぞ、インスタントだけど。それとこれは、諏訪2尉からの差し入れよ。美味しいから食べてみて。」



 そう言ってコーヒーとラスクを差し出した石見は、角砂糖が入ったガラスの器のふたを開けてから座った。



 「ありがとうございます。早速いただきます。」



 土佐はコーヒーを一口飲むと、ラスクを手に取る。



 「そう言えば土佐3尉、なんで空自さん達の事、『若鷲』って言うのかしら?」



 石見はカップを手に取ると、椅子に深くかけ直す



 「えっ?いえ、私には判りかねます。ですが『若鷲』ですから、航空自衛隊の事ではなく、新人のパイロット達の事ではないでしょうか?」



 「そっか。なら、SH(対潜哨戒ヘリ)は海鷲ってとこかしら?・・・ん・・・さすがパンから手作りのラスクね。いくつ食べても美味しいわね。」



 大皿に山盛りになっていたラスクが、気がつくと残り半分位になっている。大半は石見が食べているのだが、いつの間に食べたのだろうか?



 「随分と食べるんですね、石見3佐は。失礼を承知でなんですが、燃費自体は公式性能(カタログスペック)では(とさ)の方が上と聞いてましたが、そこまで差がないと思ってました。どうしてそんなに食べられるんですか?」



 大皿と石見を交互に見つつ、半分呆れ気味に問いかけた。



 「それは土佐3尉、もしもの話だけど、万が一にもエンジン4基が故障して漂流したら?そんな時に発電用の燃料が切れたらアウトよ?USー2も離陸後に安定飛行になったら、搭乗員はすぐにお弁当食べるそうよ。万が一長期戦になったり、不時着にした場合に備えるんですって。」



 土佐は自分達艦魂と人を同じと、とらえて良いのか悩みつつ返答する。



 「確かに、4基全部の故障は0に近い数字とは言え、想定しておくべきとは思いますし、そんな時に発電機の燃料切れも危険です・・・しかし・・・それを置いておいてもです。それだけ食べているはずが見た目変わらないっていうのは・・・」



 この先を言うか言わないか悩む土佐。石見は土佐と話ながらも食べるのは止めない。



 「別に言ってもらっても良いわよ?」



 「では、お言葉に甘えて。はっきり言わせてもらいますが石見3佐、あなたは化け物ですか?その細身のどこに、こんなに沢山のラスクが入るんですか?おかしいです。私はまだお昼も残っている感じなので、もう入らないです。」



 土佐はコーヒーを飲み終えていて、ラスクにはもう手をつけていない。

 石見は少し考える素振りを見せてから、前のめりになって土佐を見つめる。

 少したじろぐ土佐。



 「それはね・・・」



 「そ、それは?」



 生唾を飲む土佐。なぜか石見からは、ただならぬ雰囲気が漂ってくるように感じる。



 「お菓子は別腹だから、かな?」



 石見の答えにガクッとなる土佐。何か特別な理由があるのかと思っていただけに、余計に力が抜ける。




 「別腹って・・・」



 「他の答えもあるよ?『化け物だから』とか、『特殊な胃腸(エンジン)だから』とか、それから・・・」



 「いえ石見3佐、ありがとうございました。もういいです。」



 呆れた土佐は右手を出して石見の話を遮る。

 『化け物だから』は別として、『特殊な胃腸(エンジン)だから』は、当てはまらない。なぜなら、『いわみ』のエンジンの電子改良型が『とさ』のエンジンであり、本体はほぼ変わらない。なので、そこまで異常に燃費は変わらないはずである。

 なので、土佐は石見が真面目に答える気がないと思い、話を打ち切ったのである。



 「石見3佐、そろそろ戻ります。“海鷲達”が戻ってくるようなので。」



 時計を確認した土佐は立ち上がる。



 「もう戻っちゃうの?なら後で夕飯一緒に食べよ?私の所、ミックスフライ定食なの。そっちは?」



 「こっちは確か・・・焼き魚の定食だったかと。」 



 ポンっと握った右手で開いた左手を叩く石見。



 「ならうちの定食、土佐3尉の分含めて3人前持ってそっちに行くから、私の分の焼き魚定食2人前押さえておいてくれるかな?」



 「はぁ!?何を・・・あ・・・し、失礼しました。持ってきてくれるのは嬉しいですが、石見3佐の分だけで4人前ですよ?ほんとに食べるんですか?ラスクもあんなに・・・って、空じゃないですか!信じられません!!」



 「あれぐらい普通じゃないかな?それより私も疑問なんだけど、土佐3尉は()()()の2人前で足りるの?」



 驚愕した顔の土佐。最早、衝撃的過ぎて言葉が出なくなって、金魚のように口をパクパクさせている。



 「どうしたの土佐3尉?大丈夫?」



 「すみません・・・少し頭痛がしてきました。風邪ではないので安心して下さい。定食2人前ですね?準備しておきます。それではお待ちしていますので、お越し下さい。」



 そういうと土佐は10度の敬礼をして退室した。



 土佐は通路に出ると、今後も石見とペアを組むのかと憂鬱に思いながら、頭痛薬と胃腸薬は常備しようと固く誓う。



 ちょうどその頃、海自機SH-60Kと空自機UH-60Jが『とさ』への着艦準備に入った。

 お腹を空かせた2()の鷲に食事を与える準備をするため、走り始めた土佐の姿が虚空に消えた。

 まるで雛鳥に餌をせがまれた親鳥が急いで巣に戻るように。

『とさ』、『いわみ』、『すわ』は架空の艦です。

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