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海の防人達  作者: 月夜野出雲
第2章 防人達の交流
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海鷲と若鷲・前編

「この話はフィクションであり、そのように御理解頂くよう、ご協力願います」 土佐3等海尉

 「はい・・・近接8kt(ノット)・・・ヨーソロー・・・ヨーソロー・・・」



 いずも型護衛艦『DDH186 とさ』の甲板後部左舷より、対潜哨戒ヘリコプター『SHー60K』1機が、5番スポットに着艦しようと近づいてくる。

 天気は快晴に近く波は穏やかで、気温も晩秋とは思えない暖かさである。


 SH-60Kは5番スポットの真上に来ると、穏やかとはいえ波で上下する甲板に、タイミングを合わせながら慎重に降下していく。

 そしてそのタイミングを捉えたのか、前2輪に続いて後輪1輪も甲板に接地する。そしてそのままダンパーが縮み、着艦したことが見て取れた。


 ローターの回転が止まり搭乗員が降りたSH-60Kは、艦首側の第1昇降機(ヘリ用エレベーター)に乗せるべく、移動されていく。



 そして、そんな慌ただしい甲板の後方から、別の機影がかすかに見えてきた。輸送ヘリ『CH-47J チヌーク』のようで、明るい緑が目立つ迷彩塗装から、空自の所属機のようだ。

 このCHー47Jは陸自も所有しているが塗装はやや暗く、茶色がメインである。

 もしも、海自も所有していたならば、恐らくは『救難飛行艇 US-2』のような洋上迷彩(紺がメイン)になったであろうと思われる。



 ○房総半島沖南東68km『DDH186 とさ』甲板後部5番スポット・(ヒト)(マル)(サン)(マル)



 「お疲れ様です。第21航空隊第211飛行隊のコヤガワミソラ2尉です。お待ちしておりました。」



 後部艦橋に近いところに海自ヘリパイ・コヤガワが、海自式のコンパクトな挙手の敬礼で空自ヘリ・チヌークの搭乗員を出迎える。



 「出迎えありがとう。私は入間ヘリコプター空輸隊のクロス1尉です。機長をしております。隣はサヤマ3尉でコパイ(副操縦士)です。本日はよろしくお願いします。」



 「サヤマアキコ3尉です。本日はよろしくお願いいたします。」



 肘を横に張る挙手の敬礼で、空自のヘリパイ2人は自己紹介をした。

 そして挨拶もそこそこに、コヤガワの先導でパイロット控え室に移動する。

 その間、一緒に同乗した空自の整備員がチヌークを点検し、海自の甲板員によって給油を行っていく。これも今回の訓練の一環である。



 ○『とさ』艦内パイロット控え室



 先に入室していた、SH-60Kの機長・マツヤ3等海佐がクロスとサヤマを出迎え、マツヤとクロスで雑談が始まった。旧知の仲だったのか大分盛り上がっている。

 そしてコヤガワとサヤマも雑談を始める。



 「それにしても、チヌークって大きいですね。操縦できたら楽しそう。」



 「確かに楽しいですけど、人員輸送の時は普段に無い緊張感で、無事終わった時はクッタクタになっちゃってますね。」



 「あっそうか、チヌークってそれがありましたね。60Kは対潜戦の訓練とかもしますけど、私は人員輸送はまだやった事が無いですね。」



 相性が良かったのか、コヤガワとサヤマも話が盛り上がっている。

 しばらくすると内線電話が鳴り、コヤガワが出る。準備が整ったようで電話を切ると、その旨を2人に伝える。

 伝えられた2人は訓練準備の為、甲板に向かった。



 ○『とさ』パイロット控え室・(ヒト)(ヒト)(ヨン)(ハチ)



 訓練を行っていたクロスとサヤマが、予定より早く控え室に戻ってきた。

 1回目の発着艦は問題なかったのだが、2回目の訓練にはいる直前のアイドリング中、エンジン系統の警報が鳴り始めて中断となった。

 原因はセンサーの不具合と解り、交換すれば治ると整備員から連絡が来たのだが、チヌークのみのセンサーらしく、『とさ』には予備がなかった。

 午後から百里救難隊のUH-60Jが『とさ』と『DDG179 いわみ』で救難を想定した訓練の為、当該海域に向かっていたが、一度引き返し部品を積んでから『とさ』に向かう、と予定が変更された。



 「まさか『とさ』で休憩できるなんて思いませんでした。本来だったら救難隊と入れ違いで帰投予定でしたから。」



 「それにしても、サヤマさんは運がいいね。今日は金曜日だよ。」



 「金曜日・・・?えっと、どういう事でしょうか?何かありましたっけ、コヤガワ2尉?」



 やや困惑気味のサヤマ。コヤガワの言いたいことが伝わっていないようだ



 「まあまあ、食事はこっちで食べていくんでしょ?一緒に食堂行こうよ。」



 「あっ、はい!」



 ○『とさ』艦内食堂・(ヒト)(ヒト)()(ナナ)



 「金曜ってそう言う意味だったんですね。聞いたことはありましたけど、全然ピンときませんでした。」



 目の前の食事が盛られたプレートを前に、サヤマは納得出来たという顔をしていた。



 「この前のカレーフェスで2位だったんだよね。でも私は『とさ』が一番だと思う。食べ慣れてるのもあるけど、シェフ(給養員さん)の腕が良くってね、カレー以外も美味しいんだよ。なんで1位取れなかったか不思議だよ、ホント。さ食べよ、食べよ。いただきまーす。」



 「いただきます。・・・うわぁ、すっごく美味しいです!私も海自に入れば良かったかなぁ?毎週金曜の昼ですよね?基地のカレーも美味しいんですけど、これは・・・別次元というかなんというか・・・」



 ちなみに『とさ』の本日昼のメニューは、


 ・シーフードと牛筋の煮込みカレー

 ・サラダ(ゴマドレにプチトマトを添えて)

 ・白身魚のフライ

 ・りんご

 ・福神漬け、らっきょう漬け

 ・牛乳


 となっている。


 また話は前後するが、艦艇勤務の場合(特に潜水艦の場合は外が見えないため余計に)曜日の感覚が麻痺しやすい。

 そこで海自では陸上の基地も含めて、毎週金曜日にカレーを出して曜日感覚が失われないようにしている。

 元々は、旧海軍時代から土曜日の昼だったが、海上自衛隊の週休二日制になってからは金曜日に変更になっている。



 こうして和気藹々とした雰囲気の中、食事も終わりパイロット控え室に戻ろうとする二人。

 艦内の通路を歩いていると突然コヤガワが「あれっ?」と足を止める。



 「どうしたんですか?コヤガワ2尉?」



 「いえね・・・さっきそこの通路に、見慣れない人がいた気がしたんだけど・・・」



 「新しい方ですか?」



 首を横に振ったコヤガワは、考え込む。



 「新しく入った女の人は私が知る限りでも1ヶ月位前だったし、挨拶もしたのよ。さっきのSH(ー60K)にも乗ってなかったし・・・そもそも、何で冬服だったんだろう?」



 「常装ですか?ちょっと気になりますね?」



 常装冬服は黒いダブルの上着に女性の場合、同色のスカートもしくはスラックスとなっている。

 『とさ』は現在航行中であり、空自との訓練もあるため、全員作業着(幹部は紺、曹士は青)を着ているはずであった。

 なので余計に常装冬服は目立つ。



 「幹部・・・よね?挨拶しといた方が良いかな?」



 「なら、私も同行します。どんな方か気になりますし。」



 「そう?ごめんね、サヤマさん。」



 しかし・・・



 「あっれぇ?行き止まり・・・」



 サヤマの素っ頓狂な声が通路に響く。途中にいくつかドアがあったが施錠されており、通路も行き止まりとなっていた。



 「行き止まり・・・?おかしいなぁ。確かに見たんだけど・・・」



 「あ、あの・・・コヤガワ2尉?・・・確認ですが・・・まだお昼過ぎ・・・ですよね?今年の春にこの船、配備・・・されたばかりですよね?・・・ですよね?」



 「サヤマさん、言いたいことはわかるけど・・・、私も多分同じ事思ってるけど・・・怖いからそこから先は言わないで?お願いだから・・・ね?」



 言い知れぬ不安と恐怖感に包まれた二人。



 何もなかったと自分たちに言い聞かせるように、パイロット控え室に戻っていった。

 『とさ』『いわみ』は架空の艦です。

 また、土佐3等海佐が『3等海尉』になってますが、今編に限っては誤記ではありません。


 2015/10/08:脱字のため修正しました。

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