茶会(中編)
このお話は創作ですので、ご了承の上でお楽しみ下さい。
「ソーナー探知!本艦内医務室ドア前!・・対潜戦闘用意!」
一気に緊迫する医務室内。潜水艦の攻撃から、岩代と中海の自身をまもる術は、デコイと回避行動位である。そして、そんな彼女らの前に立つ、対潜戦闘に強い土佐。
○某国沖40km・『DDH186 とさ』艦内医務室・1527i
静寂に包まれる医務室。
軽く開けられたら扉から、女性自衛官が顔を覗かせる。『紺』の作業着を着ている彼女、階級は『1佐』である。
「わ、私です。土佐3佐、私ですよ。お、お久しぶりです。こ、この前の演習では・・・・」
「申し訳ありませんが、ご招待した覚えはありません。ですが、『とさ』に乗艦された以上、わたしのやり方で、1佐を歓迎いたしますがよろしいでしょうか?」
かなりイライラしているようで、言葉にもトゲがあるがそれ以上に、いつの間にか気をつけの姿勢をとっているのだが、目つきはかなり鋭くなっている。
「土佐ちゃん、そんなにイライラしていると眉間にシワが残っちゃうわよ?ほらぁ、お茶でも飲んで落ちつきましょうよ。ね?ね?これから一緒に演習もするそうだし、仲良く・・・ね?」
岩代は、土佐が飲んでいた湯呑みにお茶を継ぎ足し、押し付けた。
土佐は渋々湯呑みを受け取るが、1佐を睨みつけたままで飲もうとはしない。
「あ・・・あの・・・」
会話の切れ間を探っていた中海は、おずおずと会話に入ってきた。
「どうしたの?中海ちゃん。」
「はい、失礼とは思いますが、私は・・・その・・・こちらの1佐さんを存じ上げていないのですが・・・」
「はい、わ、私は・・・」
医務室内に入った黄龍が自己紹介しようとした。
「潜水艦『そうりゅう型・12番艦』で『SS512 こうりゅう』です。それで、ご挨拶とは?黄龍1佐?」
黄龍1佐の言葉に被せるように、先程よりも威圧的になる土佐。張り詰めすぎて一触即発寸前である。
「こ、今回の・・・え、演習で、い、一緒にさせていただくので、その挨拶にと・・・。」
「そうだったんですか。それにしても、あなたがわたしに直接乗り込んでくるとは思いませんでした。てっきり、私に対しての“御挨拶”と言ったら、魚雷発射管に注水でもするのかと思っていました。SHー60K(対潜哨戒ヘリ)、2機で追いかけて差し上げましょうか。追いかけっこはお得意ではありませんでしたか?黄龍1佐。」
「SH!!、や、やめて下さい、土佐3佐!い、岩代3佐!たたた、助けて下さいぃ!!」
素早く岩代3佐の後ろに隠れる黄龍1佐。岩代は背中に黄龍がいるという状況の中、湧き上がるゾワゾワするような感覚を振り払うように、土佐と対峙する事にした。場の悪さに『何とかしなければ』と言う思いからでもある。
「土佐ちゃん?そろそろいい加減にしましょうか?黄龍1佐さんも怯えてるし、中海ちゃんなんか完全に存在が空気よ?これが土佐ちゃん流の歓迎方法なら、たいしたものよねぇ。」
「私の仕事は対潜哨戒も含まれています。それに、潜水艦に対して警戒するのは当たり前です。」
「でも、味方よ。同じ自衛艦旗を掲げてるのよ?」
「私にとっては標的です。」
土佐と岩代の言葉の応酬が続く中、どうして良いかわからずオロオロする中海と、考えこむ黄龍。
「ひ、1つ確認します。と、土佐3佐・・・あ、あの時、なぜ『教練対潜戦闘』と言ったのでしょうか?」
『しまった』と書いてあるような顔をする土佐。岩代と中海は疑問を浮かべている。
「え・・・?『教練』って・・・?聞こえた?中海ちゃん。」
首を横に振る中海1曹。岩代と中海には聞こえてはいなかったようだ。なぜなら・・・
「と、土佐3佐は、『教練』だけ声を抑えていました。私の耳では聞こえましたが、お二方に聞き取りは難しかったと思います。」
「土佐ちゃん、もしかして“黄龍1佐さん”が来るの、わかってたのかしら?」
「・・・はい、本艦より東・約10マイル(16km)程より、追跡はしていました。ただ黄龍1佐と断定が出来ていませんでした。」
「でも黄龍1佐だと、どこかで断定出来たのかしら?確認だけど。」
「・・・はい」
ここまで聞き終えると、岩代は唇に指をあて記憶を探るような素振りを見せる。
「えっと・・・とりあえず、クッキー食べませんか、黄龍1佐?土佐3佐も一緒に・・・どうでしょうか?」
黄龍にクッキーを差し出すと、土佐にもう一度勧める中海。
「もしかして土佐ちゃんって、黄龍1佐さんのこと、好きなのかしら?」
再び訪れる沈黙。黄龍はクッキーを食べようとしたまま、中海はお茶を湯呑みにお茶を入れようとしたまま、土佐は立ちすくんだまま、それぞれの時間が止まっている。
『とさ』『いわしろ』『なかうみ』『SS512 こうりゅう』は架空の艦です。
※2015/10/26 土佐のVLAに関する台詞を削除。並びに他の台詞の一部修正