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海の防人達  作者: 月夜野出雲
第5章 年の瀬から年明け
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仕事始め・前編

「あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。」


 2016年1月3日 月夜野出雲

○浜田地方総監部 『DDH186 とさ』ヘリ格納庫・1720


 「岩代3佐、石見3佐、本当に私でよろしいのでしょうか?やはり私には、石見3佐の方が適任のような気がします。ここまで準備が進んでいるのに今更だとは自分でも思いますが。」


 岩代と石見を前に何かを渋る土佐。彼女にしては珍しい光景である。その背後ではテーブルや料理の準備が中海や曳舟達によって進められている。

 これからここで行われるのは『新年会』。

 石見と岩代で進められていたのだが、両名のサプライズで主催を土佐にしてしまったのである。土佐にこの事が伝えられたのは1700。

 それから岩代が説得(という名の目隠し)している間に、石見が指揮をとり中海達に準備を進めさせていた。

 そして、冒頭のセリフにいたるのである。


 「土佐ちゃん、自覚してるのかしら?あなた、今年から第五護衛隊に配属なのよ?石見ちゃんを従えるのよ?それに石見ちゃんの妹の羽黒ちゃんも、新設の第十護衛隊としてここにに来るのよ?石見ちゃんの為にも、もうちょっと堂々としましょうよ!?そのための訓練と思って、ね?」


 「そうよ、土佐3佐?あなたにしっかりしてもらわないと、羽黒になんて言われるか・・・」


 土佐の目を見つめる岩代と、その横で雨が降る直前の雲でもかかっているかのように暗い表情の石見。

 その様子に、石見と羽黒の関係が気にはなる土佐だったが、今は新年会を取り仕切ることに意識を集中する事にした。


 「とりあえず、難しい事はないのよ?乾杯の挨拶をす~っ・・・ごく短く言って、乾杯終わったら、みんなが楽しんでるか気を配ればいいのよ?大丈夫!土佐ちゃんなら、いつも通りで平気よ?」


 土佐の肩を叩いて、励ます岩代。そして未だに、意識がどこかに飛んでいる石見。

 そろそろSHでも飛ばして、石見の意識を迎えに行った方がと思い始めたとき、中海が近づいてきて現状報告を始める。

 「石見3佐、間もなく準備が終わります。皆さんも、もうすぐ集合完了ですし、このまま予定通り5分後の1730に開始できますよ。」


 「・・・え?あ、了解しました、中海1曹。会の方もよろしくお願いしますね。」


 中海の報告に意識が帰港したらしく、やっといつもの石見らしくなった。


 「了解です!っと、そうそう、土佐3佐。頑張って気楽にいきましょう!それじゃまた後で!」


 それだけ言うと、中海は会場に戻っていった。


○同所 1730


 「皆様、新年会にお集まりいただき、ありがとうございます。昨年は観艦式などの喜ばしい事、また残念な事ですが、陸上自衛隊などではありますが災害出動などもあり、自衛隊全体で大変忙しい年でありました。今年は喜ばしい事で忙しくなるよう祈念したいと思います。それでは皆様の御安航を・・・乾杯!」


 「「「乾杯!」」」


 安堵した表情で壇上から降りた土佐は、会場を見回す。すると、曳舟がお椀を持って土佐に近づいてきた。


 「お雑煮です!中海1曹の力作ですよ!」


 と、箸と一緒に渡してきた。

 蓋を開けると、横須賀で食べたものとは少し違うことに気づく土佐。


 「土佐3佐これって、こっちのお雑煮なのよ。色々入ってるでしょう?私の名前の由来、島根県石見地方のお雑煮を、中海1曹が調べて作ってくれたのよ!」


 と嬉しそうな顔で、土佐に雑煮の説明をする石見。

 今回、中海が作ったお雑煮の中身は、

 ・丸の煮た餅

 ・白蒲鉾(カマボコ)

 ・黒豆

 ・錦糸卵

 ・三ツ葉(家庭によっては、ほうれん草や小松菜)

 ・岩のり

 ・かつお節

 となっている。


 「・・・美味しいです。お餅も美味しいんですが、黒豆も甘くて美味しいですし、かつお節の風味も良いですし・・・お出汁も美味しいです。」


 出汁を少しすすって味わいを楽しんでいる土佐のそばで、岩代がそれを聞きつけて中海に報告をする。


 「ですってよ、中海ちゃん!土佐ちゃんがべた褒めしているわよ!」


 「ありがとうございます!土佐3佐!お代わり用意してますから、一杯食べ・・・ああぁー!石見3佐!!あの大皿料理、全部食べちゃったんですかぁ!!キャアー!隣のも食べちゃったんですかぁ!!まだ30分もたってないのにぃ!!」


 悪びれる事もなく、また箸を止めることもなく3皿目に突入しようとする石見。


 「だって中海1曹の料理美味しくて、お箸が止まらないのよ、ねぇ岩代3佐?」


 「本当よねぇ、石見ちゃん。あっ中海ちゃん、このお皿の料理お代わりあるのかしら?本当に美味しいわよねぇ~!」


 左手で炒め物でも入っていたらしい大皿を掲げて、お代わりをオーダーする岩代。


 「ひ、曳舟さん達、き、緊急事態です!合戦準備です!弾薬(料理)足りません!何人か手伝って下さい!このままだと補給が間に合いません!土佐3佐!厨房お借りします!」


 そう叫ぶように言うと、土佐の厨房に走っていく中海と曳舟が3人。

 補給が間に合わないのは、補給艦『なかうみ』のプライドにかけて許すことができず、慌てて追加を作りに行った。


○同所 『とさ』飛行甲板・2115


 お祭り騒ぎも会場の撤収も終わり、静けさを取り戻す。

 土佐は飛行甲板にでると、海を眺める。

 日本海の押し寄せる波を見ながら、頭の中で白瀬から言われた3つの意見が重くのしかかっている。

 これまでは、『いずも型』の末妹として姉たちのサポートに回っていたが、浜田基地が数年遅れで稼働を始め、今年から正式に自衛艦隊の再編が行われ、『第五護衛隊群第五護衛隊』に石見と共に組み込まれることが正式に決定したのである。

 それは、重大事案が発生すれば、自分に直接司令部が来る事を意味し、自分が事案の中枢になることも意味する。

 そして、新設される『第五護衛隊群第十護衛隊』も羽黒達とともにやって来ることになる。

 そうなれば、普段から土佐が中心となり、浜田基地に所属する艦魂たちをまとめなければならない。

 鞍馬や日向、姉である出雲達がしてきている仕事を、自分が背負うことに不安を感じる土佐。


 「・・・もって・・・部隊団結の核心となることを誓います。・・・ですか。重い・・・ですね。」


 幹部自衛官の宣誓の一部をつぶやく土佐。

 土佐の心は、目の前の日本海の様に穏やかではなく、北からの風のように冷たくなっていく。

岩代「あらぁ!月夜野ちゃん、あけましておめでとう!」


石見「あけましておめでとう、月夜野さん!」


月「あけましておめでとうです。岩代さん、石見さん。」


岩代・石見「「ところで、料理が足りないのよ(ね~)!」」


月「まだ、食べ足りないんですか!!」

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