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海の防人達  作者: 月夜野出雲
第5章 年の瀬から年明け
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年の瀬・後編

岩代「今回は連続投稿なの。まだ見てない人は、前編から見てほしいのよね~。あ、それと今回もフィクションなのよ。よろしくねぇ~」

 場所が変わり、日が落ちてすっかり暗くなった、浜田地方総監部。

 天気は、雨が降ったり止んだりのぐずついた天気だ。

 今年は浜田地方総監部が、島根県に新設されて初めての年末。

 ここには、『DDH186 とさ』、『DDG179 いわみ』の他に『AOE429 なかうみ』といった大型艦達の姿も見える。

 また、呉が母港の第一輸送隊所属の『LST4004 いわしろ』の姿も見える。


 「あっ、ハマヤマ3曹!こっちです!お久しぶりですね!」


 陸自のハマヤマが乗っているコンパクトカーを見つけた、私服姿で傘をさす海上自衛官・ナガウラカイリが、手を大きく振って自分の位置を知らせる。

 隣には雨衣(あまい)を着た女性が立っている。肩には『3佐』階級章がついている。

 本来、陸・海・空自衛隊共通で自衛官は傘を持たず、3佐の女性の様に雨衣(あまい)を着ることが義務付けられている。

 しかし、彼女達がいるのは総監部の外であり、カイリに至ってはプライベートのため傘を差している。


 「お久しぶりです!ナガウラ3尉、岩代3佐!雨も降ってますしとりあえず乗って下さい。」


 助手席の窓を開けたハマヤマは、二人に乗るように促す。


 「お久しぶりね、坊や君。ところで、私はここから離れられないんだけど、良いのかしら?」


 車の中をのぞき込み、ハマヤマに聞く岩代。

 「大丈夫ですよ、どうぞ。」と助手席のドアを開き、乗るように促す。

 岩代は一歩後ろに下がり、ドアを大きく開けると、「お嬢ちゃん、ど~ぞ。」と右手で車内を指し示す。


 「えっ?えっ?あ、あの、えっ?」


 挙動不審になっているカイリの背中を、「ほらほら~。」と言いながら軽く押して、助手席のシートに誘導して座らせる岩代。


 「よ、よろしくお願いします!ハマヤマ3曹!」


 「閉めるわよ、お嬢ちゃん。」


 そう言うと岩代は、前のドアを閉め、後部ドアを開けて座る。


 「申し訳ありませんが、すぐそばですけど、シートベルト締めてもらえますか?岩代3佐を見られるお巡りさんに、万が一出会っちゃったら言い訳できないので。」


 後ろを向きながら岩代にシートベルト着用を促す。例え艦魂といえど、事故に遭えば怪我するかもしれないし、浜田基地の警備と南側には国道も通っているため、パトカーが通って見られる事も考えられるための措置である。


 余談ではあるが、シートベルトの全席着用はドライバーの義務であるし、重大事故にしないためにも、是非ドライバー以外も着用を心がけて頂きたいと思う。


 「シートベルト?えっと、車のシートベルトってどうやってつけるのかしら?大鷹1佐のは見たことしかないし、困ったわね?」


 『ミサイル艇PG826 おおたか』はシートベルトを装備しているが5点式であり、岩代は遊びに行った時に見ただけなので、車両の3点式シートベルトの付け方を知らなかった。


 「岩代3佐、左手側のベルトを・・・」


 「ハマヤマ3曹、私が3佐を手伝いますから。」


 運転席から後ろに身を乗り出そうとしたハマヤマを制し、カイリがシートベルトの着用を手伝う。

 やがて車は右にウインカーを出すと、基地正門の広くなっているところを利用してUターンし、少し広くなっているところに車を移動させハザードをつけて停車する。


 「ごめんなさいね、坊や君。もう外しても良いのかしら?シートベルトって私にはあわないみたいなのよ。」


 締め付けられる感覚に慣れないのか、ベルトが通っている所をしきりにさする。


 「もう大丈夫ですよ。」


 ルームミラー越しに岩代を見ながら答えるハマヤマ。

 すぐにベルトのバックルに手をかけ外す岩代。


 「ふう、苦しかったっと・・・ところで今更だけど、デートに行くのに私はお邪魔よね?」


 岩代の言葉に顔を真っ赤にするカイリとハマヤマ。


 「あ、あ、あ、あの!わかってて言ってますよね!?岩代3佐!」


 「わ、私の隊の何人かと、ナガウラ3尉の所の人達で、割子そば食べてですね、出雲大社に初詣に行くだけですよ!?」


 「面白いわね~、二人共!良い反応よ~、からかいがいがあるわね~。」


 岩代の言葉に、素早く反応する二人。


 「「か、からかわないで下さい!!」」


 「あらぁ、見事なハーモニーね?見事に息ピッタリよ?本当にデートじゃないのかしら?・・・っと、そう言えば、出雲大社って、出雲ちゃんのお膝元じゃなかったかしら?本人は横須賀だったわよねぇ?・・・ちょっと可哀想よね~。ネームシップは最初、横須賀なのよね~。せっかく近くに出来たのに・・・。」


 岩代は、横須賀で係留されている『DDH183 いずも』に思いを馳せる。


 「年明けに確か、横須賀に行く予定があった気がします。お土産にネコの地元キャラクターのグッズでもプレゼントしたら喜びそうですよ?」


 カイリはスマフォを操作して、「この黄色いネコですよ」とネットの画面を岩代に見せる。


 「あらぁ!まぁ、可愛いわねぇ~!ねぇお嬢ちゃん!私も何か欲しいんだけど!そうねぇ・・・キーホルダーが良いかも?土佐ちゃん達の分も良いかしら?土佐ちゃん、ああ見えて可愛い物好きだから。」


 スマフォの画面を食い入るように見ながら、カイリにお願いをする。


 「そうなんですか?それなら私、買ってきますね!」


 「それなら僕に出させて下さい。この前の演習の時に、岩代3佐にはお世話になりましたし。」


 何気なく提案したハマヤマだったが、カイリは複雑そうな顔をする。


 「えっと、私の方がお世話になってるし、陸自のハマヤマ3曹に出していただくのは、その、悪いわけではないんですが・・・」


 「旦那さんに出していただいたら?()()()()カイリ3等海尉?」


 悪びれた様子もなく言い放つ岩代は、ドアを開け降りようとする。


 「な!ななな何言い出すんですか!わ、私はナガウラです!い、岩代3佐だけお土産無しにしますよ!ハマヤマ3曹、も、もう行きましょう!現地の皆が心配しますから!」


 完全に動揺したカイリは、一刻も早く岩代の攻撃から逃れようと、回避行動をハマヤマに命令する。


 「りょ、了解しました!ナガウラ3尉!」


 どうやら、同じ気持ちだったらしいハマヤマは、降りた岩代が車から離れたか確認しようと、左を向こうとした時、前から運転席側に回り込む岩代を視界に捉えた。

 回り込んできた岩代は、ジェスチャーで窓ガラスを下げるように伝えてくる。

 窓ガラスを下げると、岩代は何かをハマヤマに耳打ちする。

 言われて顔を真っ赤にしたハマヤマをよそに、カイリのほうをのぞき込み、


 「頑張ってね!応援してるわよ~!」


 と、満面の笑みで言うと、歩道までリヤ側から小走りで回り込む。

 しばし呆然とした二人だったが、後部ドアを岩代にノックされ振り向くと、真剣な表情で挙手敬礼している岩代の姿があった。

 カイリは思わずハマヤマと顔を見合わせたあと、窓ガラスを下げ、岩代の方を見る。

 カイリが自分を見たのを確認した岩代は、「行ってらっしゃい、新婚さん!」と腹の底から力強く声を出した岩代。

 助手席の窓を閉め、前方を人差し指で差しながらハマヤマに指示を出している。

 岩代の耳には微かに「は、早く行って下さい!!」と聞こえ、その直後ハザードランプから右ウインカーに切り替わり、車がゆっくり進み出す。

 真剣な表情と挙手敬礼を崩さず、小さくなっていく車に向かって一言かけた



 「良いお年を迎えてね」

月夜野「このおそば美味しい・・・、ってすいませんでした!」


 完全に気を抜いていた月夜野、食べかけのそばを飲み込み頭を下げる。


月「と言うわけで、2015年最後のお話、いかがだったでしょうか?2016年もよろしくお願いいたします。」


 (わたくし)ナレーションからも、読者様へ本年中の御礼(おんれい)と、来年の御多幸を祈念させていただきます。

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