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海の防人達  作者: 月夜野出雲
第3章 防人達の宴
13/35

防人達の宴・もう一つの宴

今回もフィクションです。

○横浜海上防災基地・観艦式数日前:(ヒト)(キュウ)(フタ)(マル)



 もうすぐ三年に一度の『観艦式』があるそうです。

 午後に補給艦の、摩周2等海佐さんが御挨拶に見えていて、お土産もいただきました。チョコチップクッキーだったのですが、敷島さんや鶴見さんも美味しいと絶賛していました。

 横浜に寄っていただく度にこうしてお土産をいただくのですが、どうしてこんなに美味しい料理が作れるのか、いつも疑問に思うのです。


 疑問と言えばもう一つ。


 それは私の視線の先・・・大さん橋に停泊している船、っと、自衛隊さんは“艦”でしたね。

 私から見ると、ターミナル建屋の上の方に艦橋が見えているのですが、それだけでも大きいと思えますが、どんな方なのか?というのが疑問なんです。

 摩周2等海佐さんのお話では、海上自衛隊で最大の『いずも型』だそうで、敷島さんのようなヘリコプターの運用を主目的に作られたそうです。

 ですが、ヘリコプター5機同時離発着可能とか、エレベーターで格納出来るとか、なんとなく米海軍の“あの艦型”が頭に浮かびます。

 私はまだ見ていないのですが、敷島さんの話では自衛隊の大隅さんと同じような艦型らしいです。

 大隅1等海佐さんで思い出したのですが以前、私が何気なく“あの艦型”を大隅1等海佐さんに言ってしまったところ、


「我々海上自衛隊にそのような艦型は存在しません。私は“輸送艦”で日向は“護衛艦”です。お間違えなきようご理解願います。」


 と、口調はいつも通りでしたが、不快感を全開にされてしまいました。大隅1等海佐さん、あの時は本当にごめんなさい。



 と、色々と思っていると、私に向かって見慣れない方が近付いてきます。敷島さんたちはパトロールで出ているので、私しかいません。どなたでしょうか?

 ちょっと薄暗いので判りにくいですが、制服を着た方ですね。



 「申し訳ありませんが、そちらで止まっていただけますか。所属と御名前を確認させて下さい。」



 「大変失礼いたしました。(わたくし)海上自衛隊・第一護衛隊群・第一護衛隊・横須加基地所属の出雲2等海佐と申します。御挨拶に伺ったのですがよろしいでしょうか?」



 えっ?あの大さん橋の『いずも型』の『いずも』さん!?

 どうしよう、いつもだったらこういう時は敷島さんにお願い(まる投げ)してるんですが・・・。と、とりあえず粗相がないようにしないと・・・って私、作業服だった!



 「あ、あの、少々お待ちいただけますか?すぐ着替えますので!」



 「いえ、お気になさらずに、そのままで大丈夫です。公式の場ではありませんから。」



 とは言っても、出雲2等海佐さんは制服なのに・・・って言っても、待たせる訳にもいかないし・・・こういう時、敷島さんどうしてたっけ?

 もう、仕方ない!失礼を承知で来てもらおう!で、ちゃんと謝ろう。そうしよう、うん。



 「分かりました。ではそちらから乗船して下さい。」



 「乗船許可ありがとうございます。」



 あっ、お茶菓子とか何もない!チョコとか飴位しかないよ!どうしよう冷や汗出てきちゃった・・・。



○横浜海上防災基地『いず』船内



 出雲2等海佐さんに乗っていただいたのですが、先導して部屋に入ってもらおうと振り返ると、紺の作業服姿になっていたんです。

 一体、いつの間に?と思いつつ、着替えの手間が省けたと安堵したんです。



 「えっと、インスタントのコーヒーしか用意出来ないで、申し訳ありません。普段こういう接遇は、敷島が担当していまして、お茶菓子も用意できず・・・その・・・」



 「大丈夫ですよ、私も普段はインスタントのコーヒーですから。いただきます、伊豆さん。」



 あれ・・・なんか忘れてる?なんだろ?大切な事だったような?

そう言えば出雲2等海佐さん、私の名前何で知ってるんだろ?自己紹介して・・・自己しょ・・・


 「あっ!!」



 「どうされたんですか?伊豆さん?」



 どうしよう、何で気づかなかったんだろう!私のバカ!何やってるんだろ?敷島さんに怒られちゃう!



 「出雲2等海佐さん、も、申し訳ありませんでした!じ、自己紹介遅れました!私はか、か、海上保安庁・第三管区海上保安本部・横浜海上保安部所属の伊豆三等海上保安監です!」



 あ~も~何やってるんだろ私・・・出雲2等海佐さんも呆れちゃってるよ、きっと・・・



 「伊豆三等海上保安監、少し落ち着きましょう。慌てても良いことはありませんから。まず深呼吸してみては?」



 「はい!スー・・・ハー・・・スー・・・ハー・・・」



 少し落ち着けてきた・・・かな?

 情けないなぁ・・・それに比べて出雲2等海佐さん、落ち着いてるなぁ。私より美人だし、きれいで長い黒髪だし、胸も・・・って私ぺったんこじゃないですよ!カップはし・・・って誰に言い訳してるんだろぉ・・・

 でも・・・色々敗北してるなぁ・・・



 「伊豆三等海上保安監?大丈夫・・・ですか?具合が悪いなら出直しますが?」



 出雲2等海佐さんに心配かけちゃった!えっと・・・



 「昨日ちょっと忙しかっただけなので。いつもの事ですし。もう大丈夫ですから。すみませんでした。そ、そう言えば、どうして私の名前、判ったんですか?」



 「船首に御名前が書いてあったので、すぐ判りましたよ。」



 「そ、そうでしたね?あははは・・・」



 うわぁ、私マヌケだ・・・そうだよね・・・あそこから歩いてきてたら見えるよね。そうだよね。



 「伊豆三等海上保安監、質問があるのですがよろしいでしょうか?」



 「出雲2等海佐さん、私の事は伊豆でかまいませんよ。それでどんな事でしょうか?」



 どうしよう?防衛とか安全保障とかの話になったら・・・どうやってごまかそう?



 「では私の事も出雲と呼んで下さい。それで基本的な事で申し訳ないのですが、番号の前に『PL』とあったのですが何の略称でしょうか?」



 良かったぁ、簡単なことで。



 「それは『Patrol Vessel Large』のPとLです。Vesselは船の事です。ちなみに敷島はPLHですが、Largeの後ろに『with Helicopter』がつきます。」



 「と言うことは、敷島さんは私と同じ、ヘリコプター搭載型と言うことですか?」



 「敷島は全長150mで、ヘリは2機搭載出来ます。出雲さんは5機以上搭載出来ると伺っているので、サイズが違うかと。」



 「なるほど、鞍馬海将に似ているのでしょうね。ちなみに鞍馬海将と私は同じ『DDH・ヘリコプター搭載護衛艦』なんです。」



 意外に似てるんだなぁうち(海上保安庁)と海上自衛隊さんて。



 「鞍馬海将さんなら何度かお見かけしたことがありますが、確かに、うちの敷島と鞍馬海将さんは似てますね。」



 「同じヘリコプター搭載型として、明日にでも御挨拶しなければですね。」



 「でしたら、敷島に伝えておきます。時間はこの位の時間ですか?緊急でなければいると思いますから。私は代わりにパトロールが入ってますので、明日はお会いできませんね。」



 こればっかりは仕方ないです。任務が優先ですから。



 「そうですか、伊豆さん助かります。時間は日没後から1900までに伺うと伝えて下さい。」



 メモしておかないとね。日没後~1900、出雲2等海佐さんが敷島さんに面会希望っと



 「では、伝えておきますね、出雲さん。」



 「ありがとうございます、伊豆さん。ではそろそろ私は失礼させていただきます。」



 「えっ?もう帰っちゃうんですか?お忙しいなら仕方ないですけど。お時間あるなら、私は大丈夫ですよ?」



 やっぱり忙しいのかな?でも、こんな機会あんまりないし、もうちょっと話したいんだけどなぁ。



 「いえ、あんまり長居したら失礼だと思いまして。」



 「失礼なんて。出雲さんがよろしければ、そちらのお話も聞かせてもらっても良いですか?今、市販のチョコでよかったら用意しますので。」



 あそこの2番目の棚にまだ開けてないのがあったはず?と菓子鉢は・・・あっ、あのお皿で代用しよっと!



 「では・・・お言葉に甘えさせていただきます。もし緊急とか就寝とかでお時間が、って言うことでしたら言って下さい。」



 「それは私もです、出雲さん。遠慮なく言って下さいね。」



○横浜海上防災基地『いず』船内・(フタ)(マル)(マル)(ロク)



 「確かに台風は嫌いですよ!近付く予報が出ただけで休み返上ですから・・・」



 「私もです。ただでさえ、私は大きいですからね。皆さんにぶつからないかとか、緊張しますね。」



 出雲さんて、お話してみるとノリが良いというか、会話しやすいと言うか、卓球のラリーみたいに続いてるんです。就役したてとは思えません。私の方がお姉さんのはずなのになぁ・・・

 っと、誰か帰ってきたみたい。誰だろう?



 「伊豆さ~ん、たっだいまぁ!大さん橋の“空母”みたいなおっきな自衛隊さんの船、電灯艦飾だっけ?すっごい綺麗だったよ~・・・って、お客様?」



 ワアァ~!!や、山百合!何してくれちゃってるのぉ~!!

 お、お客様で御本人を前にしてぇ~!!しかも一番言っちゃいけないワードをストレートに言っちゃってるぅ~!!

 うわぁ、出雲さん立ち上がっちゃったぁ・・・どうしよう・・・ケンカになっちゃうかもぉ!敷島さぁん!早く帰ってきてぇ~!!



 「初めまして、私は海上自衛隊・第一護衛隊群・第一護衛隊・横須加基地所属の護衛艦、出雲2等海佐と言います。よろしくお願いします。」



 えっ?10度の敬礼・・・してる・・・



 「あ、え?・・・あ!わ、わ、私は海上保安庁・第三管区海上保安本部・横浜海上保安部所属の山百合二等海上保安正です!た、た、た、大変失礼しました!・・・あれ?出雲さんって聞いたことあるような・・・?」



 あっ、山百合わかってない!早く言わないと!



 「山百合!さっき言ってた、電灯艦飾されてる御本人だよ!聞いたんじゃなくって見たからだよ!それから“空母”じゃなくて“ヘリコプター搭載護衛艦”だから、そこもちゃんと謝って!」



 「あ、あの伊豆さん、私はそこまで気にしていないので。山百合二等海上保安正も悪気があっての発言では無いようですし。」



 「出雲2等海佐さん、空母って言ってごめんなさい。こちらに来てるの知らないで、大変失礼しました。」



 「山百合二等海上保安正、よろしかったら3人でお話しませんか?伊豆さんもよろしいでしょうか?」



 出雲さんて・・・良い()だなぁ・・・



 「本当ですか?やった!出雲2等海佐さん、隣良いですか?」



 「ええ、構いませんよ?あ、それと私の事は出雲と呼んで下さい。」



 「じゃぁ、私も山百合って呼んで下さい!それにしてもお綺麗ですね。髪も黒のストレート。お手入れ大変じゃないですか?」



 山百合・・・馴染むの早すぎだよ・・・それより・・・



 「山百合、ちょっといい?出雲さん、私からも先ほどの山百合の発言、謝らせて下さい。大変申し訳ありませんでした。」



 「伊豆さん、大丈夫ですよ。艦艇公開中に何度も言われてましたから。それに就役したてですから、仕事も覚えなきゃですし細かいことは気にしていられません。」



 「お気遣いありがとうございます、出雲さん。以前、私が大隅1等海佐さんにうっかり言ってしまった時、機嫌を損ねてしまいまして・・・」



 あの後、敷島さんにもこっぴどく叱られたっけ。



 「大隅1佐は輸送艦ですからね。あ、一応知ってると思いますが、お二方、大隅1佐を筆頭に下北2佐、国東(くにさき)2佐、岩代3佐に”空母”もそうですが“護衛艦”も言わないように気をつけて下さい。LSTグループは輸送艦であることに誇りを持っていますから。」



 これ、皆にちゃんと伝えとかないとだ。メモしておこう。



 「出雲さん、助言ありがとうございます。皆に伝えて、トラブルにならないようにしておきます。」



 「伊豆さ~ん、もう良いですか?」



 全く、山百合ったら!・・・はぁ・・・



 「仕方ないわね。もう大丈夫よ。」



 「わーい、やったー!出雲さん、どんなシャンプーとか使ってるの?」



 「基地内の売店で売ってるものですね。特にこだわりとかは無いので。」



 もう完全に山百合のペースだ。こうなると、口はさめないんだよな。私も話したいんだけどぉ・・・



○横浜海上防災基地『いず』甲板・(フタ)(フタ)(マル)(マル)



 あ~あ、結局少ししかおしゃべり出来なかったよ・・・明日はパトロールだし。それにしても良い人だったなぁ。あの凛とした感じなんて、敷島さんに似てて格好良かったし。

 私にあの雰囲気は出せないだろうな・・・あ、そろそろ敷島さん帰ってくるみたい。

 出雲さんの事、話しとかないと。山百合の件は・・・出雲さんも怒ってなかったし、可哀想だから黙っておこっと。

 さて、お出迎えに行かないとだね。

 今回は実在する艦・船艇の名前ばっかりですが、あくまでもフィクションとしてお楽しみ下さい。

 また海上保安庁サイドの階級や描写についてのツッコミ、甘んじてお受けします。

 あ、もちろん海自側についてもツッコミ、お受けします。

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