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海の防人達  作者: 月夜野出雲
第3章 防人達の宴
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防人達の宴・後編

「実在の艦も混じっているみたいですが、あくまでもフィクションで実在しないものとします」鞍馬海将

○海上自衛隊横須賀基地『くらま』艦内



 「大役お疲れ様でした、鞍馬海将。コーヒーです。」



 観艦式も終わり横須賀基地に戻ってきた各艦艇達。

 それぞれが役目を果たし疲れ切っているようだが、特にここにいる観閲部隊・観閲艦の鞍馬と受閲艦艇部隊・旗艦の愛宕、そしてここにはいない先導艦の村雨1佐、随伴艦の鳥海1佐、観閲付属部隊の金剛海将は、終わった安堵感と緊張からの解放感でグッタリとなっていた。



 「ありがとう、愛宕。悪かったわね、コーヒー入れさせちゃって。本当なら私が入れるべきだったんだろうけど。」



 申し訳なさそうな顔で受け取る鞍馬。辺りに漂う香りが、2人を労うように優しく癒していく。



 「いえ、お気になさらずに。来賓の応対でお疲れのようでしたから、私から言い出したんですし。」



 「総理でしょ、副総理でしょ、防衛大臣に御歴々の方々・・・2度目とは言え、緊張しない方がおかしいわよ。」



 コーヒーを少し飲むと机に突っ伏す鞍馬。

 愛宕は青いリボンのかかった小さな箱と浅い大きな皿を、鞍馬の顔のそばに「どうぞ」と置くと正面に座る。


 鞍馬は大きな皿に疑問を持ちつつ、体を起こしてリボンをほどく。中を見るとクッキーが入っているようだ。

 1つ取り出すと表に『ら』と書かれている。



 「もしかして、この皿に並べるの?」



 「はい、そうです。我々受閲艦艇部隊が1人1枚ずつ、摩周・大隅両名の指導の元で文字を入れました。」

 鞍馬は愛宕に聞きながら1枚ずつ皿に並べていく。

 そして完成した、21枚のクッキーの文字列。そこにはこう浮かび上がっていた。



 くらまかいしょう、観閲艦おつかれさまでした



 皿に目線を落としたままの鞍馬。それを見守る愛宕。

 やがて鞍馬は顔を下に向けると、肩を震わせる。



 「もったい・・・なさすぎて・・・食べられない・・・じゃない・・・」



 静かになった鞍馬だったが、やがて嗚咽を漏らす。その様子に、愛宕の目にも光るものが浮かび上がり、今にも零れ落ちそうになっている。



○横浜港大さん橋付近『いわみ』艦内



 「へぇ、摩周2佐達も粋なことするのね?大鷹1佐も参加したんでしょ?」



 「あぁ、私も摩周と大隅から話聞いた時はびっくりしたよ。って言っても私は料理が出来ないから、文字書くだけで勘弁してもらったんだけどな。」



 大鷹はこう言っているが、全く出来ないわけではない。ただ、ご飯や味噌汁にちょっとした炒め物位は出来るが、複雑だったり時間が掛かる物は彼女の性格上、出来ないと言っているだけである。



 「これで鞍馬海将も解放された・・・と、言っていいのかしら?ちょっと難しい所ね・・・。」



 「まぁ鞍馬海将、現役最後の大仕事だからな。素直に『お疲れ様』で良いんじゃないか?私だって、次は参加できるかもしれないが、その次が・・・な。私と角鷹(くまたか)がギリギリってところかな?」



 彼女達『はやぶさ型ミサイル艇』のグループは、2021(平成33)年度より順次退役が予定されている。そして後継艦、代替艦の計画も、今の所予定はされていない。



 「そう・・・でしたね。それで、その後は・・・やっぱり・・・」



 「ほぼ標的艦だろ?わかってると思うけど、無駄死にじゃないからな?大丈夫!華々しく散ってやるよ?ドッカーンてね。」



 両腕を大きく広げて、柔らかい笑みを浮かべる大鷹。石見は泣きそうになるのをこらえ、複雑そうに笑みを浮かべる。



 標的艦



 それは彼女達自衛艦艇にとって、避けられない艦種変更(未 来)である。

 標的艦に艦種変更した彼女達は、現役中の後輩達にとって大切な仕事を引き受けるのである。



 それは



 『ミサイルや魚雷等を撃ち込まれる事』



 変更後、最初で最後の、それもかなり重要な仕事。

 これが艦種を『標的艦』に変更された彼女達の仕事である。

 日本において、実弾を使用する新型の実験や、艦艇の訓練は貴重である。その時に的になるのが標的艦である。

 現有するミサイル等が有効に使えるかどうかの意味合いもある。

 さらに、自衛艦艇は解体するにも防衛上の機密が満載で、外に解体を頼むわけにもいかない。

 そして標的艦に対して実際に撃ち込む事によって、次世代艦艇の設計にも生かせるメリットもある。



 だから彼女達(標的艦)は重要なのである。



 そして・・・だからこその大鷹の発言であり・・・笑みなのである。



 「さて、そろそろ帰るよ。明日早いみたいだし。」



 「大鷹1佐、『帰るまでが観艦式』ですからね?お気をつけて。」



 石見は10度の敬礼より深く頭を下げ、大鷹を見送ろうとする。



 「石見いつもので良いから、恥ずかしいし。んじゃあ、またな!」



 制帽をかぶると挙手の敬礼をし、部屋から出て行った。

 大鷹が自分の艦に戻るまで、石見は頭を上げず、そのままの体勢でいた。



 こうしてそれぞれが、それぞれに観艦式を終えるのであった。

 実際の観艦式も無事終了。彼女達に「お疲れ様でした」と伝えたいですね。

 なお、『くまたか』の漢字表記は、『角鷹』と『熊鷹』の2種類あり、学術系の表記は『角鷹』との事だったので、こちらを採用しました。


2015/12/15 鞍馬海将のセリフを訂正

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