後編
後編の人物紹介
先輩……祖母の先輩にして幽霊の同級生だった。幽霊騒動の前半の犠牲者。小学生の頃、幽霊になる前の少女をいじめていた一人。いじめていたことについて心底後悔していた。許されると思ってもいないけれど、彼女にひたすら謝り続けた。新聞部。
祖母……元新聞部。呪いについてまとめた彼女の新聞のお陰で助かった人は多い。家に帰ってきた孫の様子が気になり部屋に入り、高熱を出して魘される孫を見つけた。
少女の母……入院中の娘に未来への期待をもって病に立ち向かってほしいと学校の話をした。その事で娘が無理をしたので話さなければよかったと後悔した。新聞部の人(祖母)に娘の話をした。
基本、この小説の人たちは何かしら後悔しています。
「…………あの子は、もう、助からない。」
心ここに在らず、そんな表情をした老婆。
彼女の孫が帰宅してから一時間もたたないというのに一気に数十歳も老け込んだようだった。
彼女は中学生の頃、同じ部活の先輩を失っていた。
自分にかつての同級生の自殺と校舎の幽霊騒ぎの繋がりに関する推測を教え、幽霊に会うため夜の校舎に忍び込んだその先輩は次の日学校で倒れ、保健室で命を落とした。
彼女は倒れた先輩を保健室へ連れていき、その先輩が魘され命を落としたその瞬間を見ていた。
「ごめんなさい。」
魘されながらも、ひっきりなしに口からこぼれていく言葉だった。
魘される孫の姿はその時と酷似していた。
彼女はその先輩の死の後、新聞部員として幽霊に関する話をまとめることにした。
自殺した彼女に近づくため、彼女の母親にも話を聞いた。
「あの子はね、苦しみながら『学校に行きたい』って。」
その話と先輩から聞いた話をまとめ、校内新聞の一面に載せ、張り出した。
当時は死者が出ていたから重く見られたのだと彼女は理解した。
あの騒動。
大勢の死者が出たあれに馴染みがないから、あの話の真意は彼女の孫に伝わらなかった。
それでも、彼女はこう思うのだ。
「自分が、教えていれば」
と。
「せめて、中学生は呪い殺されることや、本来の《呪いの旧校舎》を教えておけば」
と。
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七不思議としてその中学で一番有名なのはやはり、《呪いの旧校舎》だ。
《旧校舎を害する者は不幸になる》
だが、本来は、
《夜の旧校舎に入ると幽霊少女を刺激し、呪い殺されてしまう》
であり、名前も《旧校舎の幽霊少女》だった。
少しずつ、柔らかな表現に変わっていく中での出来事から別物と言える話になったのだろう。
そもそも、幽霊少女の思いは未練というより怨念に近いものだった。
元から大分歪みかけていた思いだ。
彼女の思いは時が経るにつれ、歪んでいった。
始めの内は学校にいるだけで満足していた。
次第に一緒に勉強する¨友達¨がほしくなった。
だが、夜の学校にいる生徒たちに声をかけようと怯えられるだけ。
少しづつ、少しづつ、彼女の恨みは積もっていった。
彼女は聖人君子などではない。
『たとえ、自分が幽霊なのが原因だとしても、心は人間なのだから怯える必要はないのに。』
彼女の思うことはある意味当然だが、それは彼女から見ての事だ。
普通ならたとえ優しくても幽霊を怖がる方が当たり前であり、彼女の主張は身勝手なものだ。
だが、そんな事を指摘できる人はいなかった。
それ故に。
彼女は自分を拒む者に罰を与え始めた。
そのうち彼女は全てを恨むようになった。
自分を見た者全てを。
彼女を見る者がいたならば、彼女は静かにこう言った。
『見、た、な、』
その声に恐怖で足がすくみ動けなくなれば、翌朝その場所で死体となり見つかった。
逃げ出したとしても、次の日には高熱を出し、そのまま魘されながら死んでしまう。
夜に立ち入った生徒全てが死ぬ校舎は立ち入り禁止となり、新しい校舎が造られた。
《呪いの旧校舎》、いや、《旧校舎の幽霊少女》の伝説の始まりである。
旧校舎を取り壊そうと解体工事が始まると呪いは学校全体に広がった。
新校舎、校庭、体育館、武道場。
どこであっても夜間に立ち入った生徒全てが死んでいった。
『旧校舎を壊そうとしたからだ』
その意見は日に日に大きくなっていき、旧校舎の取り壊し計画は未来永劫禁止となり、二十年ごとの補修が行われることになった。
この頃だろう。
《旧校舎の幽霊少女》が《呪いの旧校舎》に変わっていったのは。
『旧校舎の取り壊しは幽霊の怒りを招く。』
どこからか広まった噂だ。
その噂は正しくは間違っている。
彼女は自分の住みかである旧校舎から離れることができなかった。
だが、その住みかが壊されそうになり、離れられるようになっていたのだった。
彼女は幽霊であり、地縛霊だ。
学校に縛られ、移動することもできない幽霊だ。
だから、呪いは¨学校¨という限られた場所でのみ広がる。
彼女は当たり前の学校生活を送る生徒たちが憎らしくなった。
恨めしくなった。
彼女の魂はどんどん闇に堕ちていった。
もはや、なぜ学校にいたかったかすら忘れ、人を恨み、呪うだけの存在に成り果てていた。
いつまでも彼女は呪い続ける。
いつまでも、いつまでも。
「見、た、な」