一二人の円卓の騎士達 下
海上貿易の要衝ハルトリャス海峡の支配権を巡って、『帝国』とクリスタニア王国が睨み合った時の事だった。帝国は世界的勢力の最後の一つで、魔族が貴族となって人間である平民を統治している国だった。
聖教機構、万魔殿、クリスタニア王国、帝国、この四つの勢力のパワーバランスの元、現在の世界は維持されていた。そして、このハルトリャス海峡の支配権を得れば、海上交易によりもたらされる莫大な富が得られる。
クリスタニア王国の一二勇将は最初支配権でなく通行権を得ようと下手に出た。一二勇将は、帝国へ代価を払って通行権を得るだけで十分だと判断したのだ。勿論払った代価とは比べものにならないほどの利益が得られる。現在帝国が支配しているハルトリャス海峡を、何も戦争を吹っかけて支配権ごと奪い取る必要は無い。ここは大国としての面子なんか捨ててしまって下手に出て、帝国に媚びて、まあ、値切れるだけ値切って通行権を得よう。
これが、貴族達の怒りを買った。大国と呼ばれるクリスタニア王国が、下手に出ているなど、彼らには耐えられなかったのだ。自分達はほとんど何もしなかった癖に、プライドだけは一人前で、威張っていたから、余計に耐えられなかった。花を捨てて実を取る一二勇将のやり口が、彼らには国辱であるように感じられた。
それで彼らは一致団結して、国王の説得にかかるのである。
クレーマンス七世も己の支配する国を大国大国と呼ばれて、少し有頂天であった。そこに貴族達からこれは屈辱的だのこれは国王の面子への冒涜だの、色々な単語を集団で次々に吹き込まれては、たまらない。
「戦争を!」貴族は口々に言った。「あんな国辱的なやり方ではなく、正々堂々とハルトリャス海峡を勝ち取るのです! 我が国の軍隊の強さを、素晴らしさを、帝国に見せつけてやるのです! 魔族共に思い知らせるのです! 我らの国こそが世界最強である事を、世界に知らしめるのです!」
――国王はすっかりその気になってしまった。
「な」国王に呼び出され、話を聞かされたグレゴワールは仰天した。「戦争、ですと!?」
「そうです」クレーマンス七世はきっぱりと言い切った。「我が国こそ最強だと、帝国の魔族共に思い知らせてやるのです!」
「いけません!」グレゴワールは血相を変えていさめた。「戦争はいけません! 陛下、どうかお考え直し下さい! この戦争は、負けます!」
「負ける……?」クレーマンス七世は見る間に不機嫌になった。「グレゴワール、貴方はまだ戦いもしない内に敗北主義を唱えるのですか?」
アナベラが叫んだ。
「違います! これは無駄な戦争です、無駄な戦争は絶対にやっては――陛下、どうかお止め下さい!」
「うるさい!」クレーマンス七世は一蹴した。「敗北主義者の言う事なんか聞きません!」
もう駄目だ。グレゴワール達は目の前が一瞬暗くなった。戦争は起こる。そして負ける。クレーマンス七世の性格は誰よりも彼ら一二勇将が理解している。調子に一度乗ると、とことん暴走してしまう。もう、こうなったら、いかに戦後処理を上手くやるか、それだけだ。それでも彼らは念のためにオリエルに聞いてみた。戦の達人である彼に。
「オリエル。 勝てそうか?」クロードは、聞いたものの、もう答えは知っていた。
「……兵が気の毒だ。 無理だ、勝てんよ。 向こうの方が地理に圧倒的に詳しい、何しろ現在も実効支配しているのだからな。 それに……」オリエルは言いかけて口を閉ざした。
「クセルクセス」マダム・マクレーンが眉をひそめて言った。「帝国海軍提督にしてジュナイナ・ガルダイア太守。 現枢密司主席エリシャの実弟。 そして、天才的な戦争指揮官。 オリエル、貴方を別に悪く言うつもりは無いのだけれど、貴方の才覚は勿論知っているのだけれど、こればかりは、ねぇ……」
「とにかく戦後のために動くしかない」滅多に喋らない『沈黙の聖人』ゲッタが喋った。彼は情報統制、軍事目的の暗号開発などを行っていた。彼は他の国々の暗号文を解読機械無しに一べつしただけで解読してしまったほどの演算能力を持っていた。「敗戦した後が問題だ、恐らくこの機を逃さず聖教機構が動くだろうから。 それをいかにして回避するか、だ」
「……最悪の場合は俺が動こう」イヴァンが言うと、皆が静かに頷いた。
そして、第一次ハルトリャス海戦は始まった。そして一日も経たずに終わった。
クリスタニア王国の、見事なまでの惨敗だった。オリエルが指揮をとっていれば結果は違ったかも知れないが、生憎彼は敗北主義者扱いを受けていて、総司令官は大貴族のオーランド海軍提督だった。クリスタニア王国軍は大量の捕虜が出して、その中にオリエルらも入っていた。
――だが、戦が始まる前にアナベラ達が既に帝国と密約を結んでいた。それはクリスタニア王国側が賠償金を支払う代わりに通行権を得る、と言うシンプルなものだった。後は捕虜の返還をいつにするかなどと言う細かい微調整があるだけだ。
更に一二勇将の読みは的中する。聖教機構がこの瞬間を狙って動いたのだ。一気に攻勢に出て、クリスタニア王国領土へと攻め込もうとした。第二次ベタニア戦争である。だが、同時に聖教機構内で分裂が起きたため、それどころでは無くなってしまった。たっぷりとクリスタニア王国からワイロの洗礼を受けた聖教機構幹部が、背信行為と言う腐り果てた行いをありがたい事にやってくれたのである。イヴァンが出るまでも無かった。聖教機構は内部分裂を治めるために戦争どころでは無くなってしまい、クリスタニア王国軍と軽い小競り合いがあったものの、すぐに撤退してしまった。だが、それで諦める聖教機構では無い。軍事制裁が加えられない代わりに、徹底的な経済制裁を行ったのである。しかしクリスタニア王国はものともしなかった。この国は強力な軍事力だけでなく、今や確固たる経済力をも有していたのである。
「聖教機構に経済制裁を加えられても、だ」ユースタスはにやりと口角をつり上げる。「そんなものは予測済みだ。 天気予報よりも分かり切っている事だ。 金とコネと力こそが国を、組織を動かすのだから。 即座に緊急金融特措法を施行した、何、この国の経済に損害は何一つ与えさせん!」
『私が聖教機構幹部会議を盗み聞きしたのもあるんですけれどね!』とマルバスは自慢そうに胸を張った。イヴァンは、今なら胸を張ってもちっともおかしくはないな、と静かに笑いたいのをこらえて、思った。
――イヴァンは帝国の、否、世界屈指の貿易港にして国際商業都市ジュナイナ・ガルダイアへ出向いた。そこにクリスタニア王国海軍の捕虜達が囚われているのである。大量に。
ジュナイナ・ガルダイアは美しい街だった。海の青さと街並みが鮮やかなコントラストを成していて、国際貿易都市だけあって色々な国の色々な人間が街を闊歩していた。
彼は捕虜収容所に向かった。上手く潜入してオリエルと会えれば良いのだが、と思っていた。しかし、きっと警備は厳重で捕虜は厳しい暮らしをさせられているだろうから、会うのは難しいろうとも覚悟していた。
……彼は捕虜収容所が最初どこだか真剣に分からなくて、何度もジュナイナ・ガルダイアの地図と目の前の光景を重ね合わせた。必死に住所を確認した。間違っていない。間違いなくここだ。その事実に打ちのめされた途端に、彼は脱力してしまってぽかーんと口を開けた。
遊んでいるのである。
帝国の幼い子供と、クリスタニア王国海軍海兵が、ボールを追いかけて。
(……捕虜だよな?)
イヴァンはこんな親善交流のためにあの戦争をやったのだろうかと訳が判らなくなった。
(捕虜と言うのは普通厳しい暮らしをさせられて、故郷を必死に思い出しては自分を慰めているものじゃないのか? 遊ぶのか? 敵国だった国の子供達とボールを追いかけて遊ぶのか? 捕虜とはそんなものなのか?)
彼は歩いていって捕虜収容所と小さく書かれたプレートの下の門をくぐり、中に入ったが、誰にもとがめられなかった。
中に入って、彼はますますあ然とした。肥えているのである。海兵が皆揃って肥えているのである。そして娼婦らしき女や、芸人と思しき男、楽器を抱えた楽団、その他色々の、捕虜収容所にあるまじき帝国の民間人とすれ違い、真面目に自分の正気を疑うしか無くなった。
(娼婦? 芸人? 楽団? ここはどこだ、俺は誰だ!? ――お、俺はイヴァン・アセンだ。 殺し屋のイヴァン・アセンだ。 落ち着け、俺はイヴァン・アセンだ。 だ、だがここは一体どこなんだ!?)
「おうイヴァン!」聞き慣れた馬鹿でかい声がその時響いた。
「……」
彼は声のした方を見て、いよいよくらげのように骨抜きのふにゃふにゃにされてしまった。
オリエル(しっかり肥えている)が異国的美女の肩に手を回しつつ、開け放たれたドアの向こうの部屋の中にいた。
何だか、イヴァンは一切合切が馬鹿馬鹿しくなってしまった……。
「……お前達は何をやっているんだ」
「いやあ、最初は虐待されるものだとばかり思っていたんだが。 ご覧の通り天国なもので誰も逃げだそうと言う気分になれん。 美女も多いしな、がっはっはっはっは!」
しかし確か、この男は今では結婚していたはずである。だとしたらこれは浮気である。不倫である。この場にお堅いグレゴワールがいたら、即座に激高し、猛雷烈火のごとく、どしゃまく怒鳴りつけていただろう。
「……帰る」
イヴァンはそれだけ言って、返事も聞かずにくるりときびすを返すと、その場から立ち去った。
それから数日後、彼はクリスタニア王国のオリエル夫人の邸宅を訪れていた。彼が捕虜収容所で見た光景をそのまま話すと、オリエル夫人の形相が変わった。
そして停戦条約が正式に結ばれて、捕虜は全員返還される事になり、名残惜しそうに帰ってきたオリエルを待っていたものは、怒り狂った細君のビンタの嵐であった。
――クリスタニア王国軍の兵士が捕虜として囚われて、ジュナイナ・ガルダイアに連行された日の事であった。
オリエルはクセルクセスに呼び出されて、何だろうと思いつつ、ジュナイナ・ガルダイア政庁に連れて行かれた。その部屋に一歩足を踏み入れたオリエルは目がくらむかと思った。絢爛豪華な調度品の数々、天井にはきらびやかなシャンデリア。それらに囲まれたど真ん中に、ブロンドの長い髪の美しく若い男がいた。だが、男のまとう雰囲気は老練なそれである。魔族は基本的に人間よりもはるかに長生きする。ならばこの男こそが、クセルクセスなのだろう。
オリエルはびしりと背筋を正して、言った。彼は上級将校の姿に相応しく、威風堂々としていた。
「私に何の御用でしょうかな?」
「――一二勇将とやらに一度会ってみたかったのですよ」クセルクセスはややごう慢な口調で言った。「ただの人間の癖に頑張っている、そんな話を聞きましてね」
「確かにただの人間かも知れません。 ――本来ならばこの戦争は起こらなかった。 それが我々の判断でした。 勝てる戦争しか戦争はやってはならんのですから」
「ほう」とわずかに上体を前のめりにした、クセルクセスは興味をそそられたようだ。「勝てる戦争しかあなた方はやらなかったのですか」
「一つだけ。 第一次ベタニア戦争だけは別です」オリエルはきっぱりと言った。「あれは勝たねばならぬ戦争でした。 あれに勝てるか否かがクリスタニア王国の将来の命運を左右したのですから。 ……ですが我々はもう勝てる戦争しかやりません。 勝てる戦いでなければ、よしんば無理やりに勝てたとしても、貴重な戦力を失い国力は削がれ、何も良い事はありませんから」
「それがあなた方の国が急速に強大化した理由ですか」クセルクセスは納得したらしい。
「それだけではありません。 一一人の仲間がいたからこそ、です」オリエルはその一人一人を思い出しつつ、言った。「一人では無理でした。 誰かが欠けていれば恐らくクリスタニア王国は今のようにはならなかったでしょう。 だが一一人のあの仲間達がいれば、怖いものなど何もありません。 やりたい事をやり、足りない部分は補い合い、やりすぎた部分は削って、私達はここまで来たのです」
「……ふうむ」クセルクセスは軽くうなった。「一人の天才ではなく一二人の凡人と言う事ですか」
「凡人かも知れませんが、誰もが覚悟を腹にくくっています。 その覚悟は、命よりも重いものなのです」
「……それが愛国心と言うものですか?」
オリエルは少し考えたが、すぐに否定した。
「いいえ、愛国心などと言う言い訳ではありません。 楽しいからです。 純粋に楽しかったからこそ、我々はここまで来られたのです。 『この楽しさを失うくらいならば』――それが我々の覚悟です。 命がけの覚悟です。 ワイロでもらう大金よりも、死ぬまで保証された高位よりも、ただアイツらとこの楽しい義務を果たしたい。 それだけです」
「ほほう」クセルクセスはご機嫌だった。「……実は、オリエル殿、貴方は大変に優秀な軍事指揮官だと言う話を聞きましてね。 それがどれほどのものか、知りたいと思ったのですよ。 ここに」とクセルクセスは机の上に置かれた立体映像投射機のスイッチを押した。ハルトリャス海峡の映像が浮かぶ。「先ほどのハルトリャス海戦の模擬戦争プログラムがあります。 貴方がいかように用兵を巧みとするか、見せてはくれませんか」
「良いでしょう」とオリエルは頷いた。
それで二人はヘッドマウントディスプレイを頭にかぶり、『戦争ゲーム』を始めた。
……最初は余裕そのものであったクセルクセスの顔が、段々と険しくなっていく。そしてついに血相が変わった。
それはハルトリャス海峡の海流が、丁度、海の干満時と重なって、変わり始めた時であった。同時に、それまで帝国海軍に押されていたクリスタニア王国海軍が、一転して逆襲してきたのだ。それに反撃しようとした帝国海軍だったが、クリスタニア王国軍の劣勢に伴い深く攻め入っていた事と海流が変わっていたため、反撃には不利な状況に立たされてしまった。クリスタニア王国海軍の快進撃に、帝国海軍の軍艦は次々と撃破されていく。そして帝国海軍の退路の先には、いつ出現したのか、クリスタニア王国海軍、それも本隊が――!
「う、うう!」クセルクセスは呻いて、ヘッドマウントディスプレイを外し、机に叩きつけた。彼は自分が優秀な軍事指揮官だと自覚していたし、それは事実であった。だが、彼がハルトリャス海戦で勝てたのはただの幸運だったと認めざるを得なかった。「何と言う男だ! 海流の変化すらも読んでいたのか!」
「……徹底的に」とオリエルはそのディスプレイを外してから言った。「私は調べます。 敵地の地理を知り尽くし、敵について調べつくし、それから最善と思われる作戦を練り、実行します」
「……」クセルクセスの顔に、もはやごう慢な色と言うのは一切無かった。「なるほど、あなた方は本当に素晴らしい……! どうやら我々は対立的にではなく、友好的に共存しなければならないようだ」
「我々もそれを望んでいます」とオリエルは言って、「どうぞ停戦条約の締結にご協力を。 それはあなた方にとっても何ら不利にはなりません」と付け足した。
「……なるほど」クセルクセスは香水の匂いをかいで落ち着いた後、「……枢密司の姉に伝えておきましょう。 あなた方『一二勇将』がいるクリスタニアと全面衝突した場合は、こちら側も相当な損害を受ける、と」
そしてクセルクセスは右手を差し出した。オリエルはそれを右手でしっかりと握った。
イヴァンはたっぷり一〇分は固まっていた。向こうも固まっていた。
硬直が解けた後、とんでもない現場に出くわしてしまったとイヴァンは恐れた――クレーマンス七世の不倫現場に。侍医のいない医療室のベッドの上で、女とけしからん行為をやっていたのだ。王妃アンリエッタがいるにも関わらずのこの所業である。これは、大問題になる。
一二勇将が慕っている名君クレーマンス七世は、ご覧の通りの好色漢でもあった。
「う、あ、あ……そ、そうだ! 何が欲しいのですか!?」すぐさまクレーマンス七世は買収行為に出た。「権力ですか金ですか地位ですか!?」
イヴァンは別にそんなもの、あまり欲しくない。もらっても困るからだ。
「……いえ、結構です」
「ぐ、グレゴワールにだけは!」国王はがたがた震えながら言った。そんなに震えるくらいなら不倫をやるなとイヴァンは心底思った。「グレゴワールにだけは言わないで下さい!」
「……」イヴァンは何と言えば良いのか困っている。
「欲しいものは何でもあげます、だから――!」国王は恐慌状態になっている。パニックになるくらいなら不倫なんかするなとイヴァンは心底思った。
「……逃げた方が賢いですよ」とイヴァンは哀れになって言った。「俺がここへ来たのは、グレゴワールが書類で指を切ってしまったので、絆創膏を貰うためですから――」
その時だった。イヴァンは殺気に、背後の紛れもない殺気に、ぎょっとして振り返った。
「……陛下」
恐らくイヴァンが戻るのが遅かったため、自分で貰いに来たのだろう。それとも噂をしたので影が差したのか。グレゴワールが額に青筋を浮かべて、わなわなと震えつつ、そこに立っていた。もう悪魔も|(少なくともマルバスなら)裸足で脱兎のように逃げ出すだろう、鬼のような形相をして。
「ヒイイイイイッ!」クレーマンス七世はジャンピング土下座を繰り出した。「出来心です、出来心なんです! ど、どうか勘弁して――」
だが、鬼は咆吼をあげる。
「貴方はぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!」イヴァンは思わず耳をふさいだ。音声の、これは暴力だ。オリエルの大声なんか、これに比べたら小鳥のさえずりだ。頭がぐわんぐわんと揺れ、鼓膜が消し飛ぶかのような気がした。「これで二三回目ではありませんかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
女が真っ先に逃げ出した。だが国王は逃げ遅れた。
「うわあああああッ、堪忍して下さい!」
「身ごもられているアンリエッタ様にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!! 申し訳ないと思わないのですかぁあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
半泣きの国王と怒髪天のグレゴワールを見て、誰が大国クリスタニア王国の国王とその宰相だと思っただろう。上下の立場が逆転して逆転して、おまけに反ひねりしていた。
「アンリエッタ様にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!! 謝罪をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! 謝罪なさって下さいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」
「謝ります、謝りますから! お願いだから怒鳴らないで!」
グレゴワールはまるで警察官が犯人を拘束連行するかのように、国王を無理やりに連れて行った。イヴァンはこっそりと後ろを付いて行った。国王が最悪、失禁するのではと危ぶんだためである。
「……ハァ」
事情を聞いた王妃アンリエッタは、ため息をついて、土下座する国王を見、まだ怒っているグレゴワールを見、それから言った。
彼女は貴族の出身だったが、一二勇将の味方をしてくれて、一二勇将をねたむ貴族達の不満をいつもなだめてくれていた。グレゴワール達が王の不倫癖を必死に治そうとしていたからである。正直、イヴァンはこんな浮気猿にはもったいないくらいの賢妃だと思っていた。
「私、グレゴワールと結婚したかったわ」
「何でだぁ!?」国王は怒鳴った。「何でだ、アンリ!」
「だって浮気しないもの」
「赦さんぞ!」国王は不倫した癖に独占欲を出して叫ぶ、「浮気は赦さんぞ!」
「二三回も浮気した貴方にだけは言われたくないわよ!」
犬も食わぬ夫婦喧嘩が始まった。だが、国王の方が不利であった。何しろ王妃にはグレゴワールが味方しているのだから。
イヴァンはこっそりとその光景を見て、思わず嘆息してしまった。情けない。何て情けない。だが、同時に国王を身近に感じた。憎めない、酷く人間くさい人なのだな、と思った。
……王太子アルベールには、はっきり言って王の素質が無かった。
グレゴワールやアンデルセン達が必死に幼い頃から教育しようとしたが、生まれつき愚昧で頑迷なのは全く変わらず、自尊心だけは一人前だった。貴族にちやほやされるのが大好きで、威張り散らすのが趣味のような少年だった。それでもグレゴワールは切々と語り、教化しようとした。国王の義務を果たさねばならない事。その義務はとても重たいものであると言う事。だが王太子はふんぞり返って話を聞こうとせず、終いにはうるさがって、己を崇める貴族と遊びに行ってしまうようになった。国王も王妃もそれを悲しがったが、王太子はどこ吹く風だった。
その姿を見て、イヴァンは昔殺したサー・バーナード・ウィクリフを思い出す。あれもこのような男だった。このような、自分がちやほやされなければ生きていけない弱い人間だった。人間の『強さ』を持たない人間だった。覚悟の無い人間だった。イヴァンはこの国の未来に不安を感じる。この少年が大人になって、クリスタニア王国の国王になる時が必ず来る。そうなったらこの国はどうなるのか――?イヴァンは不吉な考えを無理やり頭から追い払う。そして、それでもリンゴの木に水をやろうと決心するのだった。
――「見たか?」
「見ました!」
「お前もか!」
「……俺もだ」
「春が来たな、鉄血宰相に!」
――最近の一二勇将の一番の話題は、グレゴワールとその新任秘書エマだった。男女の仲なのかどうかは分からないが、何と言うのか、一緒にいる姿を見ると微笑ましさのあまりに見ている側が悶えてしまうのだ。
「何あれ可愛いわぁ!」とマダム・マクレーンがマルバスにストーキングさせた結果、二人は清い交際をしている事が判明した。年の差はあるものの、双方同意の上なのだから何ら問題は無い。マダム・マクレーンはニヤニヤが止まらなくなってしまった。
「……」ゲッタは喋らない。だが、彼は仕事の合間に結婚式のスピーチ原稿を真剣に執筆していた。その時彼はやはりニヤニヤしていた。
グレゴワールは人に暴力を振るうような男ではない。だが、彼はある日アルトゥールをぶん殴った。アルトゥールにしてみれば良い迷惑だった、本当にただの親切心から精力剤をグレゴワールに渡しただけなのに。
「ひ、酷いじゃないか! 何で殴るんだ!」
「黙れ!」一喝したのだが、グレゴワールは顔を真っ赤にしている。それを見たら、もうイヴァンですらニヤニヤが止まらなくなってしまった。
……いつの間に集まったのか、一二勇将の面々が周囲にいて、好き勝手にお節介な世話焼きをやろうとしていた。
「犯罪だな。 道徳的大犯罪だ。 やいこの犯罪者め、逮捕だ逮捕!」クロードがニヤニヤして言う。
「黙れ!」グレゴワールは怒鳴った。
「グレゴワール、いかに女性を落とすかと言う問題に対しての対応策は――」アナベラがいつものごとく生真面目に、縁結びをしようとする。
「黙れ!!」
「いいかグレゴワール、夫婦と言うものはだな」オリエルが己は夫婦仲が悪い癖に偉ぶって諭そうとした。
「黙れ!!!」
「法律上、結婚には何ら差し支えも」ランディーが応援しようとした。
「黙れ!!!!」
「ああ、出産の時は任せて下さい、必ず元気な赤ん坊を」Dr.シザーハンドが自分の胸を叩いた。
「黙れ!!!!!」
「結婚式の費用が足りんかったら喜んで無利息無利子で融資するぞ!」ユースタスが言い出す。
「いい加減にしろ!!!!!!」
それでも、一二勇将の面々は怒鳴ってばかりのグレゴワールに、とにかくニヤニヤが止まらなかった。
しかしエマの方はどうなのだろう。貴族とも呼べない小貴族の出の彼女の、かなり年の離れた男と付き合いたがる心裏を、一二勇将は知りたくなった。グレゴワールに限って若い娘をたぶらかしたなんて事は絶対に無いが、それでも気になる。なので、グレゴワールを除く面々がくじ引きをして、当たったマダム・マクレーンが突撃する事になった。
「ねぇ」と廊下の片隅で、彼女はエマにさりげなく出会ったふりをして話しかけた。「貴方、どうしてグレゴワールの事が好きになったのぅ?」
ぼっとエマの顔が一瞬で朱に染まった。マダム・マクレーンは慌てて、にやけそうになったので扇で口元を隠した。
「そ、それは! それは! ……それは、その」嫌だわ可愛い!マダム・マクレーンはすっかりこの若い女が気に入ってしまった。「この王宮は、陰謀と策略がうごめく魔窟じゃないですか。 貴族と平民が激しく、でも意味もなく争っているじゃないですか。 でも、あの人は、そう言う垣根を壊して、自分の信じる道を歩いている。 たとえそれが苦難の道でも、恐れる事なく歩いている。 あの人は凄く強いから。 だ、だから、その……」
賢い女だわ、と彼女は思った。美人でしかも賢い女だ。グレゴワールにぴったりだと思った。
「……『恋に上下の隔てなし』。 頑張りなさいよぅ、グレゴワールは照れ隠しで怒鳴るからぁ。 全くあの男は罪な男ねぇ。 罪な男過ぎて今まで気付かなかったわぁ。 おほほほほほほ……」
マダム・マクレーンは上機嫌で立ち去った。
王宮ではありとあらゆる噂が流れ飛ぶ。どんな秘密でも、ここでは隠し事にならない。貴族が威張り散らし、一二勇将に従う官僚としばしば対立する、その狭間で、ありとあらゆる情報が、混沌の海となって王宮の隅々まで満たしていた。
勿論、その中に、グレゴワールとエマの小さな幸せの噂も、誰が言い出したかも知れずに流れ始めた。
「なあグレゴワール」と一二勇将を代表してアンデルセンが話しかけた。「お前は堅物だが男の中の男だ。 彼女を幸せにしてやるんだぞ?」
「黙れ!」とグレゴワールは怒鳴ったが、誰も気圧されたりなどしなかった。顔が真っ赤な彼を、一体誰が恐れるだろうか。グレゴワールの仲間達は期待した。その期待はとても甘酸っぱいもので、考えるだけで胸が幸福感で満たされてしまうようなものだった。
イヴァンはある日クリスタニアンの街を歩いていたら、宝石店から一緒に出てくる二人を見てしまった。これはまさか。いやいや間違いない。イヴァンは後で冷やかしてやろうと思った。きっとまたグレゴワールは必死に怒鳴るだろう。だがちっとも恐ろしくなんか無い。散々冷やかして冷やかして、そして祝福してやろうじゃないか!と彼は思った。
――その次の日からエマが行方不明になろうとは、だから誰にも予想出来なかった。
いつまで経っても出勤して来ない上に電話にも出ないので、体調を崩したのだろうかとグレゴワールは彼女の自宅を訪れた。彼女の自宅は郊外の少し人気のない場所にあった。着いて早々、彼はぞっとした、家のドアが施錠されていなかったのだ。嫌な予感がしてグレゴワールは家の中に踏み込んで、絶句した。家中が嵐に遭ったような有様になっていたから。
肝心のエマの姿はどこにも無かった。
クロードが警察官を総動員して捜索に当たらせた。マルバスが必死で情報を集めた。これは紛れもない誘拐だった。婚約指輪を注文したばかりの若い女が、こつ然と消え失せるはずが無い。だが、彼らの必死の捜査にも関わらず、何一つ朗報は無かった。
グレゴワールは数日で一気に老けた。Dr.シザーハンドが無理やり彼を医療室に放り込んで休みを取らせ、国王がこっそり見舞いに来たくらい老けた。国王は沈痛な顔で、
「この度は何と言えば良いのか……グレゴワール。 さぞ辛いでしょう……しばらく休みを取りなさい」
「……いいえ、陛下。 私はそれでも仕事をします。 義務を果たします」
グレゴワールは、そう言って、完成されたばかりのプラチナの指輪を握りしめた。指輪は二個あった。二人が選んだ誓いの言葉が内側に書かれていて、永遠に変わらぬ愛の象徴のダイヤがはめ込まれていた。シンプルだけれど洗練されたデザインの、それを、何よりも大事そうに。
……万魔殿と激突したり、聖教機構と睨み合ったりしつつ、クリスタニア王国は順調に発展を遂げていた。
ある日、王妃アンリエッタが若くして亡くなった。いつものように就寝して、そして二度と起きてこなかった。脳出血だった。葬儀が悲しみの中行われた。一二勇将は王妃を亡くした事で二つの大きな問題に突き当たった。一つは貴族の不満をなだめてくれる人がいなくなった事。もう一つはアルベール王太子のいさめ役がいなくなってしまった事である。
クレーマンス七世は、王妃がこの世からいなくなった途端に、あれほど酷かった浮気癖をぴたりと止めてしまった。
「どうされたのです?」Dr.シザーハンドは思わず訊ねた。「もう誰も浮気をしても責めないのに、何故ですか?」
「……」クレーマンス七世は目を細めて、ぽつりと言った。「結局私は、彼女の注意を引きたくて、子供のような真似をずうっとしていたのですよ」
「……」Dr.シザーハンドは、王妃と夫婦喧嘩してばかりいたクレーマンス七世の本音を聞いた気がした。切なく、哀しい本音だった。もうあの人はこの世にいない。その絶望的な空白感を、彼は良く知っていた。彼はその空白感に耐えられず、恋人を食べてしまったのだから。他の一二勇将も、黙っていた。イヴァンは思った。浮気が原因の喧嘩ばかりしていたけれど、彼らは紛れもなく夫婦だったのだろう、と。
そこに、『ただ今戻りましたー』と呑気にマルバスが戻ってきた。
「? どこに行っていたのぅ?」マダム・マクレーンが訊ねると、この悪魔は、
『異界ですよ』と答えた。『アンリエッタ様を異界までお連れしてきました。 あそこなら、アンリエッタ様ものんびりと過ごせるでしょうから』
「異界とはどんな場所なのですか?」クレーマンス七世が王座から身を乗り出した。
『穏やかな良い場所ですよー、地獄とは違って何の責め苦も無いですし。 死人や悪魔が沢山いますから、退屈もしませんし』
「……そう、ですか」クレーマンス七世は王座に身を預けて、言った。「私もいつかそちらへ行けるでしょうか?」
悪魔はお任せ下さいと胸を張る。ちょっと空気を読めていない。後でマダム・マクレーンにお仕置きされるだろうな、とイヴァンは思った。
『いつでもお連れできますよ! ただし普通の人間だと、二度と戻れませんがね』
重しだった王妃がいなくなってしまったために、貴族の不満がとうとう爆発した。一二勇将の活躍とは裏腹に、冷遇されてきた彼らは、一二勇将を皆殺しにするべく一致団結して反乱を起こす。クリスタニアン暴動と後に呼ばれる蜂起である。
しかし、彼らの行動はマルバスにより筒抜けであった。街のあちこちで手先に命じて破壊行為をやらせ、傭兵を雇って、王宮に侵入させたものの、すぐさまクリスタニア王国軍によって鎮圧されてしまった。首謀者のロウラン卿は捕らえられ、即座に国外追放された。
ロウラン卿の館は家宅捜索を受けた。警察の中でもエリートの、国家捜査官達は館に地下牢がある事に気付く。そこに閉じこめられていた人間がいたものだから、彼らは驚いた。その人間はこの数年行方知れずだったエマと、その子供と思しき小さな少年だった。
「何だと!?」
クロードは部下からの報告に仰天した。そして激怒した。
「ロウラン卿め、焚刑にしてもまだ許せん! よくもまあやってくれたな! ――それで、彼女達は無事なのか!?」
「……」部下の無言の返答に、クロードは全てを悟った。
「……そうだな、普通の人間が地下牢に閉じこめられて数年、おまけに子供まで……無事で済むはずが無い、のだな……Dr.シザーハンドに診察させよう」
「……」Dr.シザーハンドはエマを診察した。エマはまるで白痴になってしまったかのようだった。子供の手だけは絶対に離さずに握りしめて、だが、焦点の合わない目でぼうっと宙を見つめていた。衰弱しきっていて、何を問いかけても反応しなかった。唯一、少年が、
「おかあさん」と言うと、その頭を撫でて、優しい子守歌を歌い出すのだった。
Dr.シザーハンドは明るくて賢かったかつての彼女を思い出すと同時に、自殺すら彼女は許されなかったのだと悟り、あまりの世界の残酷さに絶句した。こんな有様にされた彼女を見れば、グレゴワールがいかにショックを受けるか分からない。そのためにDr.シザーハンドは勝手な独断だと思ったが、絶対安静の面会謝絶だと言って、病院の中に匿った。睡眠薬を投与してエマを寝かせると、Dr.シザーハンドは少年の診察に移った。少年は憎悪と敵意の塊のような目をして、Dr.シザーハンドらをにらんでいた。エマの顔立ちをそのまま受け継いだような、少年だった。
「坊や。 名前は何て言うのかな?」
Dr.シザーハンドは一生懸命優しい声音を出した。だってぼろぼろの衣服を着せられて、不自然に痩せていて、生傷だらけの少年なのだ。
「……ギー。 ギー・ド・クロワズノワ」
「じゃあギー坊や、体に痛い所や変な所は無いかい?」
「こっちのめ」と少年は片目に手を当てた。「アイツになぐられてから、あんまりみえないの」
「!」彼は、これほど人を憎んだ事は無かった。ロウラン卿をまるで親の敵のように感じた。こんな小さな少年にまで何と言う事をしたのだ!「……そう、か。 他に痛い所は無いかい?」
「おじさんはなにがしたいの?」少年はまるで信じていない声で言う。「ママのところにかえして。 ぼくがまもらなきゃ、ママはひどいことをされるの」
「もう誰も君と君のママに酷い事はしないよ。 誰も、だ」
「しんじられない」
「……そうだろうね」彼は、少年の頭を撫でようとして、だが、少年がびくりと震えた姿に、ロウラン卿が何を少年にしたのか、してきたのか、理解した。彼は優しく少年の頭を撫でる。「でも、ここにいる人はみんな、君の事を大事にしてくれるよ」
少年をシャワーで洗って、睡眠薬を飲ませてエマの隣で寝かせ終わると、いつからいたのか、イヴァンが病室の片隅に立っていた。
「見たか」Dr.シザーハンドはロウラン卿への激しい憎悪を全く隠さずに言った。「この子まで何をされたか、貴方も」
「……見た。 ……反吐が出るな。 殺してくる。 出来るだけ無惨に、残酷に、苦痛を感じさせつつ、殺してくる。 こんなに殺人したいと思ったのは初めてだ」
イヴァンはぞっとするような声で言う。彼はギー坊やと、己の幼い頃を重ねていた。彼もまた、そう言う目に遭ってきた人間なのだ。Dr.シザーハンドは薄笑いを浮かべた。
「私はランディーでもクロードでも無いからね。 貴方の発言を何も聞かなかった事にする」
「……ああ。 分かった」頷いて、イヴァンは病室から出て行った。
翌日、Dr.シザーハンドはグレゴワールに詰め寄られた。彼はクロードからエマ発見の報告を受けたのだ。
「何故だ、何故会わせてくれない!?」
「……」言えない。だが、もう、無言であると言う事で全てを語ってしまっている。
「頼む! 会わせてくれ!」
「……」
「それほど酷いのか……!」グレゴワールが、Dr.シザーハンドにすがりつつ膝を折った。Dr.シザーハンドはまだグレゴワールに貴方はガンですと告知した方が気楽だとすら思った。その場合なら、グレゴワールはさっさと己の体を切り刻んでガンを摘出してくれと言うだろう。
彼は自分の苦痛には強いが、他人の苦痛には弱いのだ。
「……彼女は、もう、認識出来ていません。 この世界を認識出来ていません。 彼女の心は壊されて、その破片が子供を通じて動いているだけなのです」
「……」
「……それでも会いに行きますか」
「ああ」
グレゴワールはゆっくりと、頷いた。
「……」エマはベッドの中で子守歌を歌っている。少年はエマの手を握りしめて、ベッドの隣の椅子に腰掛けている。病室に彼らが入ると、少年は彼らを見て言った。
「なんでなぐらないの? なんでおいしいものをたべさせてくれるの? ぼくをだましているんでしょ? どうせもうすぐひどいことをするんだ」
「しないよ。 絶対にしない。 君はもう理不尽な暴力に怯えなくても良いんだ」
Dr.シザーハンドは断言したが、
「しんじない」少年は言った。「ぜったいに、しんじない」
「……」グレゴワールは唇をかみ締めていたが、エマに近付くと、その薬指にプラチナの指輪をはめた。彼女が痩せてしまっているのでぶかぶかだった。
「おじさん、これ、なに?」少年は訊ねる。
「指輪だ」
「きれいだね」と少年はそれを物珍しそうに見た。
「……坊や。 ギー坊や。 もっと早く坊やのママを我々が助け出していれば良かったのだ。 本当に、済まなかった」
グレゴワールは、そう言って、膝を折って少年と視線を合わせた。
「そうだよ」少年は憎々しげに言う。「ママは、こうなっちゃうまえは、いつもグレゴワールってひとがたすけにきてくれるよ、っていつもいっていたんだよ。 でも、いつまでたってもこなかった。 だからママはおかしくなっちゃったんだ!」
「……」
「ママをかえせ!」少年は叫んだ。聞く者の心を貫くかのように。「ぼくのママをかえせ!」
「……ギー」優しい声がして、その場にいた誰もがはっとした。エマの目の焦点が合っていた。「グレゴワールさんがね、助けに来てくれるよ。 必ず来てくれる。 あの人はそう言う人だから。 凄い人なんだよ。 だからもう少しの辛抱。 もう少しの……」
「エマ!」グレゴワールは反射的に彼女に飛びついて、空いている手を握りしめていた。「私だ、分かるか!? 私だ!」
「……!」エマの顔に希望に溢れた笑みが浮かぶ。「やっぱり来てくれた……! グレゴワールさん、あのね、私――貴方の、子供を」
それが最期の言葉になった。エマは意識を失い、Dr.シザーハンドが手を尽くしたがそのまま亡くなった。
「私の所へおいで」葬儀が終わった日、グレゴワールは少年に言った。「お前は私の息子だ」
「……」少年は、小さく頷いた。
このギー坊やは、アルベール王太子の真逆を行く少年だった。何より賢い。驚くほど賢い。そして勇敢で情愛に厚い。とにかく優秀なのだ。一二勇将はギー坊やを溺愛した。ゲッタなどこっそりあめ玉を食べさせて、それが原因で虫歯にしてしまい、他の面々から怒鳴られたくらいだった。ギー坊やは一二勇将の持つ知識や経験を教え込まれ、そしてそれを何倍にもして返した。鍛えればそれだけ強くなる、育て甲斐のある少年だった。溺愛されて、ようやくギー坊やの顔に笑顔が戻った。
ギー坊やのすくすくと育つ姿を見ながら、イヴァンは何故かニヤニヤが止まらなくなってしまった。これは将来相当な大物になるぞ、と予感した。だが、同時に彼は哀しさを感じる。本来ならばここにエマの姿もあったはずなのだ。……喪ったものは戻らないと知りつつも、イヴァンは、もしも、と思ってしまうのだった。
……ギー坊やはもう坊やと呼ばれる年ではなくなった。大人になった。政治家の道を歩んでいる。しかしそれでも一二勇将の間では可愛い可愛い『ギー坊や』であった。
――それは正にバトル・ロワイヤルであった。
机が吹っ飛び、椅子が投げられ、罵声と怒号が交錯した。
「ワシがやる!」
「お前はすっこんでいろ! 私がやるのだ!」
「黙れモヤシが! 私が一番相応しい!」
「男なんかろくでもない、私がやるのよぅ!」
「毒婦は黙っていて下さい! 私が!」
「はっはっはっはっ、貴様らを全員逮捕させてその隙に私がやる!」
「私がやる。 やると言ったらやる。 必ずやる。 大事な事なので三回言った!」
「ハゲは黙っていろ!」
「うるさいメタボ親父が!」
「引っ込んでいろクソジジイ!」
「その臭い口を永久に封じてやろうか、あぁ!?」
「……お前達、おやつを巡って争う子供か」
イヴァンは思わず呟いてしまった。一二勇将のこの情けない争いの発端は、ギー坊やにあった。何とギー坊やがこの度、結婚式と、披露宴代わりの食事会をやる事になったのだ。そこで祝辞を誰が読むかと言う事で、この争い、下らないバトル・ロワイヤルが始まってしまったのだ。
結局、誰もひかない上に白熱したものだから、国王が仲裁に入らなければならず、くじ引きで選ぶように国王は苦笑いして命令した。
「やった!」と叫んだのはクロードだった。「見ていろギー坊や、最高の祝辞を読むぞ!」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
他の一二勇将の恨み言も全く気にせず、クロードは意気揚々と準備を始めた。
食事会の会場は、楽しいざわめきと華やかな雰囲気に包まれていた。何故か大きな犬が一匹いて、側には若い男が付き添っていた。ギー坊やの友人で、チャーリーと言うのだそうだ。その犬は賢そうな犬だった。吠えもせず、きちんとお座りして、きらきらとした瞳で周囲を見ている。
「おうギー坊や、あの犬は何だ?」オリエルが何気なく訊ねると、ギー坊やは忌々しそうに、
「彼女の飼い犬です、彼女が出席させると言って聞かなくて……御不快に感じられたらすみません」
「いや、別に大丈夫だ。 賢そうな犬じゃあないか」ユースタスが言う。だがギー坊やは相変わらず、
「俺と犬とどっちが大事なんだと問い詰めたら、何のためらいもなく犬だと言われました……」
『そりゃ男は裏切りますが犬は裏切りませんからねウギャー!』マダム・マクレーンに尻をつねられたマルバスが飛び上がった。
「まあ嫌な女だこと。 それでも愛しているの、ギー坊やぁ?」
マダム・マクレーンに哀しい笑みを見せて、ギー坊やは、
「……俺は一生彼女に頭が上がらないでしょう」
事件は食事会の始まる直前に起こった。会場の入り口で係が招待状をあらためていた時に、あの犬がいきなり恐ろしい咆吼を上げて、招待客の一人に襲いかかったのだ。当然招待客は悲鳴を上げて、だが犬により押し倒された。
「お、お前何やってんだ!?」泡を食って犬の隣にいた若い男が止めようとしたが、招待客に近付くなり、何を考えたのか彼も一緒になって暴行を加え始めた。当然、大騒ぎになった。
「何の騒ぎですか?」とギーが顔を出す、そして絶叫した。「アンドレア!!! お前達俺の友達に何て事をしているんだ!」
「コイツはお前のダチじゃねえ!」若い男はアンドレアをやっと組み伏せて、怒鳴った。そのアンドレアの懐からごつい拳銃が、消音器付きのそれがごとりと落ちた。招待客が、あっと息を一斉に呑んだ。「コイツは恐らく殺し屋だぜ!」
警察が呼ばれて、後で全ての事情が分かったのだが、一二勇将を恨んでいる相手から刺客が差し向けられて、本物のアンドレアを気絶させて招待状を奪い、変装して会場にもぐり込もうとしたのだった。
「警察沙汰なら任せておけ」とクロードが警察車両に同乗して、行ってしまった。食事会の祝辞は中止になってしまったが、誰も(刺客を除く)身体を傷付けられたものはいなかった。招待客は賞賛の目で犬を見た。イヴァンも何て賢い犬だろうと感嘆した。ギー坊やの相手の女が招待したがったのも納得が行く。名犬だ。
犬はきちんとお座りをして、ぱたぱたと尻尾を振っている。いかにも誇らしげである。
しかしギー坊やだけが、相変わらず、まるで仇でも見るような目で犬を見ている。彼は自分がこの犬に劣っているのかと思うと、惨めになってしまうのだった。
――国王が絶対的権力を持っていたクリスタニア王国の、統治体制を変えようとクレーマンス七世自身が言い出した。
「息子ははっきり言って暗君です。 あんな馬鹿息子にこの国の最高権力を委ねたら、この国は滅亡の始まりを奏でてしまう。 何とかしてそれを回避しないと――」
それで彼が提案したのが、立憲君主制であった。グレゴワール達は国王の勅命に従い、新しい憲法の制定に乗り出した。これに大反対だったのがアルベール王太子以下貴族達だった。当然その動きを、一二勇将は監視するのを忘れなかった。マルバスが暗躍し、ゲッタが機密情報を死守した。
『大変です! あ、そ、その前にトイレに!』
「漏らして良いからここでお話しなさい!」
貴族達が何と万魔殿と組んだらしいと言う、とんでもない情報がマルバスにより伝えられた。一二勇将は苦々しい顔をした。万魔殿と組んで、貴族はきっと新憲法制定を邪魔するだろう。正真正銘の馬鹿だとイヴァンは思った。万魔殿が何の代価も無しにこの国に介入するはずが無いのだ。恐らく万魔殿は貴族を操り、この国をぐちゃぐちゃにするつもりだろう。だがそれに貴族は気付いていない。目先の事しか考えていない。足元の水たまりに夢中になっていて、その先にある奈落に気付いていない。
こうなったら出来るだけ早く新憲法を定めよう。国王の承認を受けて、誰にも妨げられはしない絶対的なものにしてしまおう。一二勇将が全力で急いでいる中、最悪の事態が突如として起こった。
――国王クレーマンス七世、崩御。
この情報は瞬く間に世界中に広まった。
人には絶対に死んではならない時がある。クレーマンス七世の場合は、正にこの時だった。新憲法が生まれ形を成す、この時にだけは彼は死んではならなかった。死神を殺してでも生きなければならなかった。だが――この世界はどこまでも残酷で、救いようがなかった。
――冷たい国王の頬に指先を触れて、グレゴワールは思った。約束。私が果たすべき約束。どうしてそれを最後まで見届けて下さらなかったのです。どうして。大事な人を失う絶望と言う感情を、彼はもう一度味わっていた。
イヴァンらはグレゴワールの後ろ姿に、かける言葉が見つからなかった。グレゴワールがどれだけクレーマンス七世に忠義を立てていたか見て知っていたし、どれだけ人間としてクレーマンス七世を好いていたかも感じて知っていた。親友のような、戦友のような、互いに相手こそが己の一番の理解者だと胸を張って言えるような関係であった事も。
グレゴワールは一二勇将やギー坊やに言った、今すぐ亡命する準備をしろ、と。
「万魔殿が背後に付いている貴族達は、アルベール王太子が国王に戴冠したが最後、我々を迫害するだろう。 今すぐに大事な者を亡命させるのだ」
彼らは初めて保身に走った。家族や友達、親戚を亡命させる準備に走った。だが、彼ら自身は逃げなかった。
「この国のために殉死するのも、悪くない」ゲッタが内心をぶちまけた。「我々はこの国のために生きてきた。 だから最期はこの国の所為で死にたい」
イヴァンは、この国、と言うよりも、この仲間、と言った方がより正確だろうと思った。この仲間と楽しい事がやれなくなるならば、死んだも同然だ。
盛大な葬儀が催され、国民の涙と共にクレーマンス七世は葬られた。
一二勇将とギー坊やは、不安を隠しきれないでいた。アルベール王太子や貴族はまだ良い。まだ目的がはっきりしている。だが、その背後で動く万魔殿の意図が読めない。何をするつもりなのか。何が起こるのか。全く分からなかった。
アルベール王太子は戴冠して、アルベール二世になった。
彼が国王になって一番先に出した勅命が――『一二勇将』の解散・罷免であった。一二勇将が就いていたポストには、それまで冷遇されていた貴族達が収まった。アルベール二世の即位を、『きっと彼も父王の遺志を継ぐだろう』と無邪気に祝福していた国民は、これに震かんした。これは、ただの政権交代ではない。革命に近い。
そして、真っ先に軍人であったオリエル元元帥と殺し屋であったイヴァンが国家反逆罪で逮捕されて、政治犯収容所に放り込まれた。誰の目から見てもそれは無実の罪、えん罪だった。もう他の一二勇将もいずれは同じ運命を辿るのは明らかだった。
グレゴワール達は、それまでどこまでも一緒にいると言っていたギー坊やを逃げ延びさせるために、最後の力を振り絞った。ギー坊やは彼らの子供だった。彼らの知識と経験を吸収して育った一本の若木だった。ギー坊やは彼らの最後の希望だった。自分達は死んでも良い。だが、この青年を死なせるなど冗談ではない。何より若いギー坊やには未来があった。その未来を枯れさせる事など、到底彼らにとっては耐え難かった。聖教機構に、亡命させてくれないかと話を持ちかけた。しかし聖教機構の方は曖昧な返事しかしなかった。グレゴワール達はそれでも諦めずに、今度は帝国に頼もうとした。
だが、それどころでは無くされた。
帝国からの使者がクリスタニア王国に、亡王の弔問と新王の祝福にやって来たのである。勿論、帝国の好意と偉大であった前国王への哀意を代表してやって来たのだ。なのにアルベール二世はこの使者を捕まえて、処刑すると言い出した。グレゴワール達は血相を変えた。そんな事をすれば戦争になる。これが宣戦布告の使者ならばまだしも、平和目的で送られてきた使者を殺せば、間違いなく帝国は激怒し、戦争を起こしてクリスタニア王国を叩き潰そうとする。グレゴワール達は止めさせようとして、それを待っていたアルベール二世により、反逆罪で全員捕らえられた。この暴君はこうして当初の目的――一二勇将全員の投獄――を果たしたのに、結局使者を殺してしまった。ここに来てようやくグレゴワール達にもアルベール二世達の企んでいる事が認識できた。
無意味な戦争を、起こすつもりなのだ。帝国と、クリスタニア王国の。
恐らく万魔殿が味方すると言ったのだろう、だがそれを真に受けてこんな愚行をするとは!
明日の運命をも知れぬ立場となったグレゴワール達は、この国の衰退を、滅びを、予感した。
「……『人はみな草のごとく、その栄華はみな草の花に似ている。 草は枯れ、花は散る。 しかし、主の御言葉はとこしえに残る』」
イヴァンはあの時のグレゴワールの言葉を思い出していた。ここに囚われてから彼は、その言葉を繰り返してばかりいた。まるで自分に言い含めるように。これが彼らの運命なのだと納得したいかのように。
『シクシクシクシク』マルバスが泣きに泣きながら姿を見せた。『貴方だけでも逃げて下さいよ! 貴方なら出来るでしょう!? 逃げて下さいよ、お願いしますから!』
イヴァンは困った笑顔で答えた、「……もうアイツらと運命を共にする覚悟は出来ている」
マルバスは、もう涙腺が壊れてしまったかのように泣き続ける。
『……うう、ひっぐ、シクシクシク……必ずあなた方を異界へとお連れします、異界は穏やかな場所、こんな思いをしなくても良い場所です』
「……それよりギー坊やはどうだ?」
悪魔はいっそう激しく号泣した。『戦争に、出る事を、選択しました! あの子は! あの子は貴方達を釈放させる代わりに、自ら帝国との戦争に出る事を――!』
「……それは嘘だな、黒い方便だ」イヴァンは胸が苦しくなるのを感じた。「釈放は嘘だ。 あの暴君がとてもそんな程度で俺達を釈放するはずが無い。 だがギー坊やは承知するしか無かったのだろう。 ……あの子は、たった一人の、俺達の子供だから」
イヴァンは悲しみと愛おしさを噛みしめた。彼が護身術について教えてやった、あの幼かったギー坊やは、立派に大人になったのだ。彼らは立派にギー坊やを育て上げたのだ。
マルバスはいったん泣きやんで、言った。
『……。 帝国は怒髪天です、部下を無惨に殺されたクセルクセスが特にもうぶち切れています。 恐らくハルトリャス海峡で軍事衝突するでしょう。 万魔殿が援軍を出すと言っていますが、本当かどうか』
「……いくら万魔殿と組んでいてもだ。 勝てないだろう。 だってこれは、無駄な戦争なのだから。 そうか、この国の絶頂期は終わったのだな……」
イヴァンはこの国の滅びを確信した。この国の崩壊を直感した。今まで尽くしてきた彼らの信義を、忠義を踏みにじり、愚昧な暴君が統治する国が、存えるはずが無い。
『ただ一つ……朗報と言うべきか、まだ分からない事があります』マルバスが首を傾げて、『聖教機構の動向が分かりません。 ギー坊やを迎えに行くか行かないかで、今、聖教機構幹部は思いっきり揉めているんです。 どちらかと言えば迎えに行こうと言う方が強そうなのですが……まだ、完全一致とまでは行っていません』
「……そうか、聖教機構が……。 動いてくれる事を今の俺達は、ただ、願うしかないな。 ……ギー坊やは本当に賢くて強い子だ。 坊やは、俺達のようにここで死んではならない。 坊やはきっと、俺達の誰よりも偉大な人間になるだろうから」
マルバスは体をまるめて声も無く泣いた。
『この世界は残酷すぎる! 国のために骨身を削り心血を注いできた貴方達が! こんな目に遭うなんて!』
「……それもまた運命だ」イヴァンは言って、ぽん、とマルバスの肩に手を置いた。「これが運命ならば、それを俺は甘受しよう。 異界まで道案内を頼んだぞ」
『――』
マルバスは、こくり、と頷いた。
ある日の朝、一二勇将は全員釈放されて、だが、牢獄の出口で彼らを待ち受けていたのは銃口の群れだった。
ああ、やっぱり。誰もが朝の爽やかな日差しに照らされてそう思う中、グレゴワールは、穏やかな顔で一二勇将を振り返って、言った。これが彼の最期の言葉になった。
「今まで、楽しかったか?」
誰もが頷いた。イヴァンもそうしてから思った。楽しかった。そしてこれからも楽しいだろう。だって一人じゃないのだ。孤独では無いのだ。マルバスは言った、必ずお連れします、と。だとしたら別に怖がる必要もない。恐れる必要もない。全てを受け容れて、ここでいったん終わりにしよう。けれどこれで完全なお終いではないのだ。まだまだ、世界は続いていく。
だって、まだ、ギー坊やが生きているじゃないか。
――そして無数の銃声が響いて、一二勇将の物語は終わる。
『彼らの墓はクレーマンス七世の慕廟を取り巻くようにある。 ユースタスの後を継いだメディチ家の当主が金で貴族を黙らせてそこへ埋葬させたのだ。 彼らは死後も主君に仕えている。 生前と変わらず、あの一二人は円卓を囲んでいる。 そしてグレゴワールはいつものように、浮気癖の酷い国王を怒鳴りつけ、嘆く王妃を慰めているだろう。 オリエルは大声でデリカシーの無い発言をし、アナベラは相変わらず鋭く、ユースタスは吝嗇漢、アルトゥールは発明にいそしみ、ランディーは法律を制定し、シザーハンドはいかに皆に健康的な生活を送らせるかで頭を悩ませ、クロードはかつらを武器にして活躍し、マダム・マクレーンは男に毒を盛り、ゲッタは喋る事を忘れ、アンデルセンは目立たぬよう地道に仕事をし、そしてイヴァンは取っ組み合いの大喧嘩をする彼らを黙って引っぺがしているだろう。
………………。
彼らは偉大であった。 彼らは高貴であった。 それは彼らがただ主君に最期まで忠実であったからだけでなく、彼らが『クリスタニア王国』と言う成果を上げたからだけでも無い。 彼らが一人の若者を最期に必死の思いで生かしたからだ。 その若者は「一二勇将の申し子」である。 一二勇将から生まれ、一二勇将の知識や経験を吸収し、そして一二勇将を超えた存在となる。 彼の名はギー・ド・クロワズノワ。 今や誰もがその名を知り、聖教機構に君臨する「聖王」その人である』
「政治家と倫理 ――一二勇将の生涯―― サミュエル・グラッジ著」
END
そしてIONシリーズ本編へ。




