第4話 訓練場への道のりは遠い
「はぁ……」
俺は死んだあと、最初の広場に戻っていた。
これが死に戻りかぁ……
特に痛みがあるわけではないが、何とも言えない気怠さを覚え俺は噴水に腰を掛ける。
メニューを開いてみると通常の項目の上に『デスペナルティについて』と赤く点滅しながら表示されている。
詳細を知るべくその部分をタッチするとデスペナルティによるデメリットが掲載されていた。
・死亡してから3時間はステータスがすべて半分になる。
・所持金は全額から2分の1、アイテムの一部消失。
主だったペナルティは上の2つだけだ。
ただし、エリアボスでの戦闘、またはプレイヤーのレベルが10以下の場合は所持金やアイテムは消えないらしい。
まあ、所持金が消えないのは嬉しいな。
ただでさえ少ない所持金がこれ以上減るとか考えたくもない。
それにしてもまさかレベルが3違うだけであそこまで違うのか。
一切の攻撃が通じる気配がしなかったがあれはボスだからなのだろうか?
いろいろと先ほどの戦闘を振り返りながら、これからどうするかも考える。
デスペナルティによるステータスダウンがある今フィールドで戦闘するなど単なる自殺行為にしかならないだろう。
何かいい方法は無いものか……と考えているとふと、あることに気づく。
「訓練場ってないのか?」
そもそも、このゲームはVR初のMMORPGである。
操作に慣れない人などもいるだろうから操作の練習が出来るところがあるはずだ。
俺はすぐさまマップを開いて訓練場らしきものを探していく。
マップには今俺がいる広場や冒険者ギルド、王城など様々な施設の名前が載っているが、目的の訓練場はなかなか見つからない。
5分ほどマップと端から端まで順に眺めていたが、もう無いのかと諦め始めたころ、街の南の城壁のそばについに探していた文字を見つける。
『ネルヴィ訓練場』
「あった!」
思わず叫んでガッツポーズをしてしまったが、まわりの人が何だ?と怪しげな人を見る目で俺を見てきたので、俺は若干恥ずかしく思いながらすぐさま噴水から立ち上がり、そそくさと広場から出ていった……
「どこなんだ、ここ……」
勢いよく飛び出した(羞恥もあったが)俺は現在街の路地裏で迷子になっていた。
マップを頼りに広場から訓練場へと向かっていたのだが、やたらと入り組んだ路地に阻まれなかなか目的地にたどり着かない。
マップがあるのだから辿り着くだろうと思っていたが、訓練場へと続く道を進むと、所々ゴミで埋まっていたり、大量の廃棄された家財道具などで塞がれていたりと思うように進めないのだ。
途中、今日は災難だなぁ……と思いつつも進むこと30分。
ようやく目的地であるネルヴィ訓練場が見えてきた。
外観は大きな看板以外特に変わったものは無い普通の建物だが、閑散とした周りの空気が少々不気味な雰囲気を感じさせる。
というか広場と違いここへ来る途中にも誰一人として人に会わなかったな……
若干この怪しい路地裏の訓練場へと足を進め、中へと入ってみる。
「こ、こんにちは~」
恐る恐る中へ入ると中には小さな受付があり、一人の女性が受付で寝そべっている。
「……こんにちは~」
もう一度、声をかけてみるがまったく反応してくれない受付の女性。
というか生きてるのか?この人……
「あの~……」
返答がないため受付に近づき女性を揺さぶって起こそうと試みるがまったく反応がない。
「すみません、起きてくれませんか~」
だいぶ声を掛けたが一向に起きない女性。
起きる気配が無いので、俺はいったん諦め暇つぶしに建物の中を見回してみる。
受付以外はこれといった目立つものがない、質素な空間だ。
小さなテーブルにいくつかの椅子、申し訳ない程度に観葉植物がいくつか置かれているだけで他には何もない。
そうして部屋を眺めていると……
「誰だ」
ビクッと俺は慌てて振り向くと、先ほど受付で寝そべっていた女性が起き上がってこちらを見ていた。
女性の身長は思ったよりも高く、170㎝ほどだろうか?
綺麗な黒髪に若干吊り上がった目がこちらを射抜くように見ている。
「誰だ?強盗か?だったら残念だがここには……」
「誰が強盗だぁあああああああああ!」
なんかいきなり強盗呼ばわりれため、思わず叫んでしまったが、あまりにも話の飛躍についていけない。
というかここ訓練場だろう、人が来たら普通訓練しに来たと考えるだろう。
「むっ、いきなり叫ぶとは非常識な」
「どっちが非常識だ!」
心外だと言わんばかりに顔を歪める女性に俺はめんどくさくなったので一気に用件を伝えることにする。
「ここ訓練場ですよね?棒の扱いを学びたくて来たんですけど」
「棒の扱いだと?」
「ええ」
俺が棒の扱いについて学びに来たというと女性は驚いた様子だったが、やがて肩を震わせながら女性は顔を俯かせる。
一体どうしたんだ?と思いながら俺はしばらく呆然としていると、急に女性が声を上げて笑い始めた。
「あはは、そうか、そうか訓練場の利用者か。それなら早く言えばよかったのだ」
伝える前に強盗呼ばわりされたんですよ!
俺がジトッとした目で女性を見つめると、女性は未だに笑いながら謝罪してきた。
「すまん、すまん。ここ数年訓練場を訪れるやつなんていなかったからな」
今なんかすごく衝撃的なことを聞かされたが、女性は気にもせず名乗りを上げてくる。
「強盗と勘違いして悪かったな、私はネルヴィ。この訓練場の教官だ」
この人が教官なのか。
俺は驚きつつも名乗り返す。
「俺はシャオ。最近棒の扱いを始めたばかりの初心者だ、よろしく頼む」
「シャオか、よろしく頼むよ。さて、訓練したいならさっそく始められるがどうする?」
もちろん、俺は今すぐ、と答える。
ここまで来たら俺は訓練のことで頭いっぱいだった。
「やる気は十分そうだな。なら、着いて来てくれ」
受付から出たネルヴィは受付横の扉を開け廊下の奥へと進んでいく。
こうして俺はようやく訓練を始めるのだった―――――