第56話 サハギン
「いやぁ……絶景絶景」
俺は近くの岩に腰かけ、目の前の景色を見て思わずそう呟く。
見つめる先には月光によって煌めく広大な海。
深い蒼色の世界には、規則的な波の音だけが静かに響いている。
ウルムを目指して4日目。
日が沈むまで出来る限り進み続けた結果、俺は4日目の夜にしてようやく海が見渡せる地点まで到達していた。
海からは仄かな潮の香り、規則的な波の音といった部分まで再現されており、ここがゲームの世界だと思わず忘れてしまいそうになる。
いつもならテントを設置した時点ですぐにログアウトするのだが、今日はなんとなくその景色を眺めながら俺は掲示板やwikiなどを見て情報を集めていく。
ふむふむ、どうやら徐々にだがクレアシオン以外の街の情報も上がっているらしい。
プレイヤーの態度が改善されて情報が出てきたのか、それとも単に調べた結果出てきたのは分からないけどな。
他にもスキルについてや、絶景スポットなど様々なスレッドが立っていたので、書き込めそうなところには多少情報を書き込んでみる。
あんまし慣れてないことだから手間取ったが、ウルムへの道のりや目の前の海の景色を載せたりしていると思いのほか時間が経っていた。
……そろそろ落ちるか。
そう思い立つとテントの中へと潜り、俺は意識を落としていった―――――
「よっし、今日も頑張りますか!」
5日目。
店長の言葉が正しければ、今日中にはウルムの街につくはずだ。
意気揚々と進んでいったフィールドは、海が近づくことにより少しずつ様変わりしていく。
流れる風には潮の香りが含まれ、現れるモンスターも水生類のような物が混じって来ていた。
なんて考え事をしていれば、斜め前方にモンスターを見つける。
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【ウォリアーサハギン】Lv13
半魚人の戦士。
サハギン族の中でも近接戦闘に特化したサハギン。
水中では無類の強さを発揮する。
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【シャーマンサハギン】Lv15
半魚人のシャーマン。
サハギン族の中でも魔術に秀でたサハギン。
水を操ることに長けている。
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『サハギン』
RPGの定番ともいえるモンスターの出現に俺は心を躍らせる。
現れたのは5匹のサハギンのうち、ウォリアー4匹、シャーマン1匹。
全員サハギンの象徴ともいえる三又槍を構え、俺を襲う気満々だ。
俺とサハギンの距離は15メートル。
互いに一歩踏み出せば武器が届く範囲だ。
「シャァアアア!!」
耳障りなサハギンの叫び声と共に俺は一気に地面を蹴り上げ前へ飛び出す。
狙うはシャーマンサハギン。
鑑定を見た限り、魔法を使うサハギンだろう。
遠距離から攻撃されるというのは、それだけ相手の有利になるので早めに潰しておくべきだと判断した俺は一直線にシャーマンサハギンの元へと飛び込んだ。
キンッ!!
最短距離による自分が出来る最速の突き。
だが、それは今目の前にいるウォリアーサハギンの三又槍によって防がれる。
「ちっ」
舌打ちしつつ、素早く棍を戻し距離を取る。
現状一人で相手取っている以上、囲まれるのは最もマズイ。
囲まれないよう距離を取りつつ動いて行かねば、容易く死に戻りコースだ。
そうして距離を取っている間にシャーマンサハギンの魔法が完成する。
「シャァアアアア!!」
………いや何言ってるか分かんないから。
思わずそう突っ込んでしまったが、バスケットボールほどの水の玉が結構なスピードで飛んできた。
「うおっ!?」
慌てて体を逸らし、水の玉を避けたところで今度はウォリアーサハギンたちが突っ込んでくる。
数の有利を生かした連携攻撃はさすがに防ぎきれないので、俺は回避を選択し棍で受け止めるのを最小限にしつつサハギンの攻撃を捌き続ける。
キンッ!!
キン、キンッ!!
甲高い金属音を奏でながら、交差する三又槍と棍。
それでも時折飛んでくる水の玉を避けたりしていれば、躱せないときもあるわけで。
徐々にだがダメージを受け始め、俺は防戦一方。
躱すよりも受け止めることが増えていく中、俺は頭をフル回転して状況を打破すべく思考を巡らす。
一番手っ取り早いのは数を減らすことなのだが、こいつらめんどくさいことにダメージを受けると別の奴と入れ替わるため、誰かを集中して撃破するという手段が取れない。
シャーマンサハギンも離れた安全圏から魔法をガンガン打ってきやがる。
ああ、めんどくさい!!
内心で悪態をつきつつ、俺は仕方なく切り札を一つ使うことにする。
「ウインドブースト」
そう呟くと体がふっと軽くなる。
『ウインドブースト』
風魔法Lv7になって覚えた魔法。
消費MPが30と負担がかなり大きいが、使用者のAGLの20%上昇させるステータスアップ系の魔法だ。
ネルヴィのアドバイスで再び使い始めた風魔法だが、この魔法を覚えてからはネルヴィにスピードにも辛うじてついて行くことが出来るため非常に便利な魔法である。
上昇したAGLはサハギンの攻撃を躱すのに少し余裕を与え、俺は強引に1匹のサハギンを吹き飛ばし包囲網から脱出する。
脱出する際に一撃を浴びたが、なんとかHPが4割のところでHPの減少は止まり俺は回復ポーションを取り出すと一気に飲み干した。
回復していくHPは7割を超え、俺はサハギン達を見据える。
一応、包囲網からは脱出できたが5対1という不利な状況は変わっていない。
さてと、どうやって倒すか……
俺は再び思考を働かせ、サハギンの群れを倒す手段を考えるのだった―――――――




