第22話 VSフォレストボア
突然の強襲と咆哮。
それらは俺たちの自由を奪うには十分の効果があった。
「ブルァアアァアアア!!」
動きの固まった集団など、フォレストボアにとってみれば格好の獲物だろう。こちらに向かって突進し始めるフォレストボア。
高さだけでも3mはあるだろうと思われる巨体で迫りくる姿は俺たちに圧倒的な恐怖を植え付ける。
「ひっ」
誰かも分からぬ悲鳴を受け、恐怖で竦んだ体を無理やり動かし始めた。
あんなものに突進されてぶつかればひとたまりもないからな。
すぐさま進路上から退避し、通り過ぎて行ったフォレストボアを尻目に俺たちは武器を構える。
「ケディア!あれ受け止められるか!?」
「無茶言うな!全身の骨が砕けるわ!」
だよなぁ……だって普通に巨木粉砕するしな。
人だったら間違いなく全身複雑骨折行きだ。
「そうか……よし、ケディア玉砕覚悟で受け止め続けるんだ!」
「出来るかぁあああああああああ!?」
なんだ、そんだけ元気なら出来るんじゃないのか?
まったく使えないやつだ……
「聞こえてるから!お前の本音全部声に出てるから!?」
「あ、やべ、聞こえてたか」
「俺は今、お前が親友なのか疑わしくなってきたわ……」
「おいおい、ひどいなケディア。俺と盾は親友だろう?」
「今、お前確実に盾って言ったよなお前!?」
なんてくだらない会話をしている間に全員先ほどまでの恐怖は薄れたようだ。
まあ、ガチガチで固まった体で戦ったところで勝負にならないからな。
俺とケディアの会話を聞いていたのか、ティナやミーニャも苦笑している。
さて、これからどうするか……だが。
「これって逃げられないのかな?」
ティナが若干上ずった声で聴いてくるが俺は静かに首を振る。
「無理だろうな、前に戦った時逃げたんだが結局追いつかれて街へ強制送還だ」
「そっか……」
俺の話を聞いて、悲しそうに猫耳をシュンと垂れさせるティナ。
「ってことは、こいつと戦うってことか?」
「それしかないだろうな」
ケディアの質問に肯定の意を示し、俺は買ったばかりの夜木の棍を構える。
「うっし、うだうだしてても仕方ねぇ!」
気合を入れたケディアは【挑発】をしてフォレストボアの注意をひきつける。
「ブルォオオオォオオオオ!!」
雄たけびをあげ、再び突進を始めるフォレストボア。
狙うはもちろん挑発をしたケディアだ。
ドドド!!と土煙を上げながら徐々に加速していく巨体と銀色の輝く大楯を掲げるケディア。
「来いやぁあああぁああああ!!!」
フォレストボアが叫ぶのに対し、負けじと吠えるケディア。
次の瞬間、両者が激突する。
「ぐっ」
助走距離が短いため、一番最初の突進よりは勢いが衰えてはいるがその巨体を生かした攻撃はいともたやすくケディアの防御を貫く。
耐えられたのは一瞬。
フォレストボアが次の一歩を踏み出せば、軽々とケディアは吹き飛ばされ木々に叩きつけられた。
「「ケディア!?」」
女性陣は悲鳴を上げ、ケディアの心配をする。
すぐさまミーニャが回復魔法の詠唱に入りケディアの傷を癒し始めた。
「大いなる女神よ、聖なる癒しの力で癒したまえ、ヒール!」
へぇ……あれが回復魔法か。
初めて見たが大きく減っていたケディアのHPバーが一瞬で半分以上に戻っていたのでその効果は推して知るべしだろう。
あれがあれば即死さえしなければ、ケディアが耐えてあいつを引き付けてくれるだろう。
俺はそれらを横目で見つつ、突進したフォレストボアの後を追いかけて攻撃の態勢に入る。
前回はまったく歯が立たなかった相手。
だが、あれから俺はヴィネルに鍛えられ、武器も新しくしたんだ。
今度は絶対に倒してやる。
そんな思いを胸に俺はフォレストボアへと肉薄し……
「しっ!!」
助走をつけ、全体重を乗せた俺の渾身の突きはフォレストボアの胴……ではなく後ろ足。
その後ろ足の関節めがけて放った突きは、膝のあたりに食い込む。
「ブモォオオォオオオ!?」
悲鳴のような鳴き声を上げるフォレストボアに、俺は初めて攻撃が通ったことに嬉しさを噛み締めながらすぐさま離脱する。
俺の防御力じゃ、おそらく即死するからな。
用心深くいかなくては、すぐに殺られてしまう。
そのあとは一進一退の攻防。
ケディアが惹きつけ、背後から俺やティナ、ミーニャが攻撃するという流れでひたすらじわじわとダメージを与え続ける。
だが、黙ってやられるフォレストボアでもなく突進以外にも長い牙を振り回すなどして必死の抵抗を試みる。
己の武器、魔法、アイテムなどフルに使う総力戦。
少しでも相手の攻撃が当たれば、即死という常に死と隣り合わせになりながらも、俺はフォレストボアの脚を殴り続ける。
突き、薙ぎ払い、叩きつけ、フルスイング。
もはや技など最初の方だけ。
長引く戦いの中俺は大振りになりながらも棒を振り回す。
そうしてとうとう、フォレストボアのHPが残り1割ほどになる。
ここまでで体感時間は3時間相当。
全身が悲鳴を上げ、ゲームの中なのに息は上がっていた。
実際は1時間半ぐらいなのだが、それほど濃密な戦いだったのだろう。
「あと少しだぁああぁあああ!」
ケディアは声を張り上げ、俺たちに攻撃が行かないよう必死に【挑発】をし攻撃を防ぎ続けていた。
「ぐっ」
大きな牙を叩きつけるように振り下ろすフォレストボアの一撃を盾で受け止めるが元々の体格差や威力の違いで徐々にケディアは押しつぶされていく。
このままじゃ危ない……と誰もが思うが次の瞬間ケディアは叫ぶ。
「舐めんなぁあああぁあああ!!!」
押しつぶされそうな体を必死にねじり、盾を斜めに掲げ必殺の一撃を辛うじて横に反らす。
反らされた牙は大地へと直撃し……
バキッ!!
っと、大きな音を立てて大地が砕けた。
(あんなもん、よく耐え続けられるな……)
親友の頑張りに刺激を受け、俺も負けていられないと疲労で動きの鈍った体を叱咤し、無理やり動かす。
相手の残りのHPは僅か。
俺はここで勝負に出るため背後から一気に加速し、巨体へと接近する。
だが、ここで予想外の事態が起こる。
何度も背後から奇襲をかけ続けたせいか、フォレストボアは体をよじり頭を反転させると、フォレストボアへと接近する俺をその肉眼で捉えた。
(まずい!?)
そう思うがすでに相手との距離は数メートル。
今さら止まることなどできない。
「シャオ!」
ケディアが叫び声をあげるが、後ろ側にいるケディアが俺の間に割り込むことなどできはしない。
残り1m。
俺はそこで覚悟を決めた。
「うおぉおおおぉおおおお!!」
柄にもなく大声をあげながらこちらにめがけて巨大な牙を振り下ろすフォレストボアを睨み付ける。
このゲームに来て最初に受けた敗北。
今ここで叩き返してやる!!
ガツンっ!!!
甲高い金属音の様な音が森に響き渡り―――――――
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