第17話 防具屋の主
ルカさんが渡してくれたメモを頼りに、俺たちは駄弁りながら大通りを歩いていると目指していた門の付近まであっという間にたどり着いてしまった。
「あ、あれじゃない?」
ティナが大通りの端っこを指さす。
指差した方向、フィールドへ続く門の真横にひっそりとその露店はあった。
ケディアがメモを確認し、間違いないのを確認すると俺たちは露店の方へと歩き出す。
露店は簡素な敷物の上にルカさんの時と同様、鎧や籠手などが並べられており、ちらっと流し見で簡単に鑑定してみたが、どれも昨日見た店の防具の性能を簡単に上回っていた。
これほどの防具を作れるβテスターは流石というべきなのだろうか。
まあ全部のβテスターがすごいというわけではないのだろうが、それでもるkさんやこの露店の主は一級品の腕を持つ職人なのだろう。
俺はこの防具を作った露店の主が気になり、顔を上げ露店の主を見て……固まった。
露店の主は異様だった。
黒い燕尾服を着こみ優雅な仕草でティーカップを持ちながら紅茶を飲んでいる。
黒い燕尾服を身に纏ったその姿だけを見たなら普通なのだろうが、残念ながら首より上の頭が普通じゃなかった。
「……うさぎ?」
ミーニャがぼそっと呟く。
頭から上。
まるでマスコットの着ぐるみの様なうさぎの頭が異様な存在感を醸し出している。
「やあ、いらっしゃい」
その露店の主……うさぎからはとても想像は出来ない、渋く、かつ年を感じさせない声が発せられる。
声や装いから見て男性だろうか?
「あの、ルカさんからの紹介でここに来たんですが……」
ケディアが少々顔を引きつりつつ、露店の主に話しかける。
普段誰とでも笑顔で話すケディアからすれば珍しい光景だ。
「ああ、君たちか。ルカから先ほど念話を貰ってね、彼らに見合う装備を用意してあげろってね」
笑ったような声を上げているのだろうが、顔はウサギの着ぐるみなのだ。
表情が分からず、俺たちは苦笑いで返す。
「さて、初めまして。私はラビット。見ての通りウサギの紳士さ」
ラビットは露店に座ったまま優雅に礼をしてくるので俺たちもルカさんの時と同じように自己紹介をした。
というか、ウサギの紳士ってなんだ。いや、優しい人なのは声や雰囲気で感じられるが、姿が異様過ぎて突っ込むに突っ込めない。顔がぬいぐるみで無表情だし、なんというか……不気味だ。誰もこの顔のことに触れないのだろうか?
「それでシャオ君だったかな、装備を新調するのは」
「はい」
俺はラビットさんに新調する装備の要望を軽く聞かれたので、自分のプレイスタイルとメイン武器を伝える。
おかげで顔について聞く機会を逃してしまったが、俺の関心はラビットさんが取り出した装備にすぐ移ってしまった。
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【夜の羽衣】
防具(胴)
暗き森で育った蚕が作り出す黒い繭から紡いだ糸で作られた羽衣。
糸自体が黒いため、隠蔽時などに大きな力を発揮する。
DEF:+20
付与効果:隠蔽能力の上昇【中】
品質 9
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【毒蛇の皮手袋】
防具(手)
ポイズンスネークの皮を用いて作った皮手袋。
丁寧に下処理がされているため、滑りにくくかつ丈夫。
DEF:+7 DEX:+3
品質 7
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【毒蛇の靴】
防具(足)
ポイズンスネークの皮を用いて作った靴。
毒に耐性のあるポイズンスネークの素材を用いたため、
毒沼を歩いても大丈夫!
ただし元々の皮が薄いため防御性能は低い。
DEF:+4 AGL:+2
品質 7
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「おお……」
俺は一つ一つ手に取って鑑定した後、思わずため息をついてしまった。
明らかに店先に並んでいる装備とは格が違う。
素人の俺でも分かってしまうほど、渡された装備は素晴らしいものだった。
ラビットは相変わらず顔の表情が分からないが、気のせいか嬉しそうにしている気がする。
「俺にも見せてくれ」
ケディアにそう言われたので俺は手にした装備を手渡す。
しばらくにこにこしながら装備を見ていたケディアだが、鑑定をして装備の性能を見てから次第に顔が蒼くなってきていた。
「なっ、なっ……なんじゃこりゃああああ!?」
呆然としたケディアが突然叫びだす。
「シャオ、これは買いだ!というかこれ以上の装備とか出回ってない!」
「ちょ、おいッ!?」
急に血相を変えて俺に詰め寄るケディア。
後ろではティアやミーニャも装備を鑑定したのか驚愕の表情をしている。
数分かけて俺はケディアを落ち着かせ、再び話を元に戻す。
「買えって簡単に言うけどな……どうみても予算オーバーだろこれ」
そう、先ほどルカさんの店ではそれなりの資金はあったが、今の手持ちは2万。手と足なら買えないこともないだろうが胴は明らかに買えないだろう。
それを聞いてケディアも納得したのか微妙そうな顔で頷きラビットに尋ねる。
「結局これいくらなんだ?」
「胴が40000c、手と足は15000cといったところかね」
訂正。
手と足ですら片方しか買えなかった。
さすがにどれも買うことが出来ないので、俺はラビットさんに予算内に収まるよう頼んで別の装備を出してもらう。
「予算がそれくらいとなると……これぐらいしかないかな」
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【魔力布の羽衣】
防具(胴)
魔力を込めて編んだ布を用いて作られた羽衣。
羽衣自体が魔力を持つため、使用者に魔力増加の恩恵を与える。
DEF:+12 MP:+10
品質 7
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【魔力布の手袋】
防具(手)
魔力込めて編んだ布を用いて作られた手袋。
きめ細やかに編みこまれているため、手触りもよく滑りにくいので作業しやすい。ただし、汚れに弱い。
DEF:+4 DEX:+2 MP:+3
品質 5
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【骨の靴】
防具(足)
魔物の骨をベースとし革で補強した靴。
骨を削っているため軽く、しなやかな革で補強された靴は
使用者の歩き旅を快適にしてくれる。
DEF:+5
品質 4
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そういって取り出されたのは先ほどとは違う3つの装備。
「これら3つで18000cかな」
18000か。
ギリギリ予算内に収まるし、先ほどの装備とはいかなくても十分の性能だ。
それにこれ以上ほかの3人に買い物を付き合ってもらうのも悪いしな。
最初に見た装備に惹かれはするが残念ながら今の俺では買えそうにもない。
また今度、1からお金を集めて買いにくればいいだろう。
「分かった、じゃあこの3つを頼む」
俺は18000c取出しラビットさんに渡す。
「ちゃんと代金は受け取ったよ、はい、これでこの装備は君のものだ」
そういって受け取った装備をさっそく装備し俺はラビットさんにお礼を言う。
「いやいや、最近はお店で買ってくれる人が少なくてね。久しぶりのお客さんだから嬉しかったよ」
それはたぶんラビットさんの顔のせいじゃ……と言いかけたがそれは呑み込んでおいた。
なによりあの顔についてあまり触れたくない。
だって、なんか怖いし。
そんなわけでようやく俺は装備をある程度整えることが出来たので俺たちはそのまま門を出て森へと向かうことにする。
「またおいで」
後ろからラビットさんに見送られ、俺たちは門の外へと足を進めるのだった―――――――